第18話

 それから数日後。僕は学校の廊下を歩いていた。

 正直なところ、まったく先が見えなかった。いつになったら全額ぜんがくまることやら。僕でさえ、停滞ていたいしているこの状況はかなりきつい。みんな口には出さないが、いつ不満が爆発してもおかしくない状態だった。

 PKプレイヤーキラーや、初心者狩りをしたらもっと効率いいのだろうか。そんなことさえ思ってしまっていた。

 僕は、自分の教室へと向かっていた。放課後、担任に職員室へ呼び出された。最近、あまり授業に集中していないと怒られた。確かに、自分でも授業中につい居眠りをしたりが多くなっている気がする。できる限り資金を貯めようと、みんながゲームをやめた後も一人で戦っていた。その疲れが、授業に出てしまっていたからだ。

 停滞している状況に加え、しかられたことで僕はかなり落ち込んでいた。どうすればこの状況を打開だかいできるのだ?

 隣の教室の前を通ったとき、一人の少年の姿が見えた。少年は下校するところのようで、背中にはランドセルをしょっている。そして、手にはサンポウドーPSを持っていた。 僕は、その教室へと入っていた。そして、その少年に話しかける。

「それって、なにやってるの?」

「うおっ?……なんだ、キョウ君か」

 突然、声を掛けられて少年は、あやうくサンポウドーPSを落とすところだった。

「だいたい、そんな色のサンポウドーPSあったっけ?」

 その少年は、奥村健おくむらけんだ。僕とは、去年同じクラスだった。今年は残念ながら別々になってしまったのだ。

「あぁ、これ?名古屋なごや限定、しゃちほこカラーだからね」

「名古屋限定?そんなのあるんだね。ゲームはなにやってるの?」

 奥村が見せてくれた画面は、ビースト・オブ・ザ・ゴッドだった。詳しく話を聞くと、どうやらビースト・オブ・ザ・ゴッドのためにサンポウドーPS本体を買ったらしい。しかし、通常の色ではつまらないからと、名古屋限定バージョンを手に入れたそうだ。

 奥村は、もうすぐ初心者マークが取れるらしい。僕は、奥村もチームに引き入れることにした。

 教室では、タカが僕の帰りを待っていてくれた。

「おうっ!奥村もチームに入ってくれるって」

「えっ?ケンちゃんもビースト・オブ・ザ・ゴッドやってたの?」

 タカも奥村とは友達だ。僕とタカ、奥村の三人で遊ぶこともあった。タカは奥村のことを、ケンちゃんと呼ぶ。

「最近、始めたんだって。もうすぐ初心者マークが外れるらしいからさ。それと、サンポウドーPSは金だったよ。名古屋限定、しゃちほこカラーだって」

しゃちほこ?なんか、ケンちゃんらしいね」

「うん。奥村、前もなんか金色のゲーム機持ってたよね?」

「あぁ!持ってた、持ってた。ケンちゃんの神獣しんじゅうがなんだか聞いた?」

「いや、聞いてないけど」

「ケンちゃん、意外とベタだから……ドラゴンっぽいよね」

「確かに。奥村ならドラゴン選びそうだね」

 僕らはそんな話をしながら、下校したのだった。

 奥村が、チームに合流した。プレイヤー名はKEN。奥村の神獣は、やはりドラゴンだった。真っ白な巨大な蛇のような体。頭には鹿のような角が二本生えていて、口元には長いひげがある。手足はわしのようで、するどい爪が生えていた。タカが、白龍はくりゅうだと教えてくれた。

 僕は奥村を同じチームにさそったはいいが、資金集めのことなどはまったく説明していなかった。

 説明をして、驚いた。奥村は、マリオネットを持っていた。奥村が始めた時期は最近だ。マリオネットプレゼントの対象プレイヤーに選ばれたようだ。

 奥村は、マリオネットを手放してもいいと言い出した。

「本当にいいの?これって、レアアイテムで百万するんだよ?」

「それに、ネットオークションで十万ぐらいで売れるかも知れないんだぜ?」

「いいよ。それに、ネットオークションは違法いほうなんでしょ。これで、みんなが助かるなら使ってよ」

 奥村はそう言ってくれたのだった。僕らは、その行為に甘えることにした。奥村にはいくら感謝かんしゃしても感謝しきれないほどだ。

 オンラインゲームでこんなにも、人と人とのつながりを感じることができるとは思わなかった。

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