第8話

 翌朝、僕はあやうく遅刻するところだった。理由は簡単だ。寝坊したのだ。

 昨夜、タカと別れてから、僕は一人で最初の街ファーストを歩きまわった。NPCたちは本当にいろいろなことを教えてくれた。戦闘方法、レベルが上がったときのポイントについて、スキルとはなにか、街の情報、街の周辺になにがあるか。

 ビースト・オブ・ザ・ゴッドでは、レベルが上がるとポイントがもらえるようだ。そのポイントを体力、知力、攻撃力、防御力、俊敏さ、飛行能力など――もちろん、これらもゲーム内で数値化されている――に自分で振り分けていく。

 ポイントの振り分け方によって、各神獣しんじゅうに個性が現れる。それだけではない。振り分けられた内容により、覚える技――この世界では『スキル』と呼ばれていた――も変わってくるのだ。これにより、神獣はプレイヤーの個性を反映した、世界に一体だけの神獣へと成長していく。

 あるNPCは――そのNPCはROCKロックといった――話しかけた僕に、ある依頼をしてきた。自分の神獣が毒におかされしまっているそうなのだ。それを治すのは、街から少し離れた場所に生えているグーフィーという草が必要らしい。他に頼める人がいないので、それを取ってきてほしいと。

 ゲームには、このようなクエストと呼ばれる依頼があるようだ。その依頼を受け、グーフィーを取りにいく際に、モンスターと戦闘になる。戦闘を繰り返すとレベルが上がり、神獣は成長する。クエストを完了するころにはより強くなっていて、また別のクエストを受け――という流れになっている。

 もちろん、クエストを受けるのは自由で強制ではない。クエストを受けずに淡々たんたんとモンスターと戦い、レベルを上げてもいいのだ。

 依頼を引き受けると、ROCKロックは神獣の体力の回復の仕方を教えてくれた。神獣は人間とは比べ物にならないぐらい、自然治癒力が優れている。ある程度の傷なら、その場に留まっていれば回復するというのだ。

 僕は早速、グーフィーという草を取りに出かけた。しかし、これがいけなかった。グーフィーが生えている場所は、街からかなり離れていた。モンスターと戦闘を繰り返し、街へ戻るのにたっぷり二時間はかかった。

 結局、僕は昨夜風呂にも入らず、ゲームで夜更かしをしてしまった。その結果、寝坊して遅刻ギリギリになってしまったというわけだ。

 先生とほぼ同時に教室に入ると、タカが待っていた。

「おっす!遅いなぁ、そんなにビースト・オブ・ザ・ゴッドやってたの?レベルいくつになった?」

「あぁ、レベル六。ROCKロックのクエストやってたからさ」

 話しながら周りを見渡すと、クラスメイトはぞろぞろと廊下へと向かっていた。

「今日ってなにかあったっけ?」

「学校集会があるんだって」

 学校集会ほどめんどくさいものはない。学校全体が集まるのでどうしても、時間は長くなる。それに大した話をするわけでもないのだ。僕とタカはしぶしぶ、その列に続いた。

 校庭に出ると、大半が整列をしていた。僕らも慌てて、それにならう。しばらくすると、集会が始まった。

 集会の内容は、やはり大したものではなかった。校長先生の話と、教頭先生の話。今後の学校行事について。そして、風邪が流行っているなどの注意事項。こんな集会やる意味があるんだろうか。

「最後に、生徒会長である藤原正宗ふじわらまさむね君のお話です」

 生徒会長が壇上に立つ。僕は思わず、あくびをしてしまった。ただでさえ寝不足のところに、眠くなるような話を聞かされていたのだ。あくびも仕方ないところだ。しかし、タイミングが悪かった。僕は生徒会長ににらまれたような気がした。

 生徒会長は、真面目が服を着て歩いているようだった。常に真剣な表情を浮かべている。全校生徒の前で話をするのに、ヘラヘラとしているわけにもいかないだろうが。僕は集会での生徒会長しか知らない。普段は笑ったりするのだろうか。 

 生徒会長の話は、学校にゲームを持ってきている人がいるので止めるようにということと、遅刻が多いので気をつけるようにとのことだった。

 僕は学校にサンポウドーPSを持ってきてはいない。が、遅刻に関しては危ういところだ。もしかしたら、みんなビースト・オブ・ザ・ゴッドのせいでゲームを持ってきたり、遅刻が多いのではなかろうか。

 集会も終わり、教室へ戻る。後はいつもと変わらなかった。ただ、早くゲームがしたくて、まったく授業に身が入らなかった。

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