⑭「AIよ怪物なり ―正義の怪物―」 作:翔鷹/ShowP

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885707726


 「あらすじ」

2050年――――

 AIが人類を超えた世界。

 人間の使い道がなくなっていき、今まで人間がしていた仕事のほとんどがAIに奪われて いった。

 便利になる反面、働く場所を失った人々は、収入が入らなくなり、餓死していった。  ほとんどの仕事が奪われた今、残された仕事は、ほんの一握りしかなかった。

 その仕事にしがみつき、懸命に働く日々。

過労死する人も少なくなかった。

そこに『自由』はなかった。

 匿籍高校の2-Aに転校してきた緑音 崚雅。

 彼は無口な少年だった。

 そんな新たな転校生と楽しい日常を過ごしていくのであった。

 なんていう、幸せな光景は訪れてくれなかった。

待っていたのは、悲劇の物語だった。

 転校生が来た次の日のこと。

 第一の犠牲者が現れた。

 それからは、毎日のようにクラスメイトが殺されていった。

 殺されたクラスメイトたちは、心臓を奪われていた。

 全てのことをなんなくこなすAIですらも、犯人をみつけることはできなかった。

 そんな中、疑われ始めたのは転校生だった。

 連続虐殺事件の前日に転校してきた。

 ただそれだけが理由で。

 いじめが始まった。転校生に対するいじめだ。

「それだけで疑うのはおかしい。」と学級長は訴える。

学級は2つへと別れていった。

 この事件の犯人は、転校生ではないか。そう訴えて、転校生をいじめる「赤の翼」。  何も証拠がないのに、犯人は転校生だと決めつけるのは間違っている。そう訴えて、「 赤の翼」に対抗する「白の翼」。

 そこから始まる転校生についての口論。

 それに拍車をかける学級長の親友の死。

それでくだした結論も崩れ落ちる。

 『これ以上の犠牲者を出したくない。』

 この気持ちは、交わることなく一人歩きしていく。

 ついにみつけた犯人は、クラスメイトだった。

分からないと思われていた事件の真相。

 あばかれる歴史。

 空白の11万年間の意味。

 とある噂話の答え。

 人類が犯したミス。

 そして、そう遠くない未来の光景。

 この世界には、すでにバットエンドしか残されていなかった。

 それでも戦うしかなかった。

 親友、恋人、級友を奪った罪は重いものだから。

 たとえ、それが世界のためであろうとも。

 許せなかった。

 少数を犠牲にして、多数を守る。

 いつだって、それは常識だった。合理的な判断だ。

 自己中心的な考え方かもしれない。

 でも、守りたい物があった。守りたい人がいた。守りたい景色があった。

 だから、何度でも立ち上がってみせよう。

 1%以下でもいい。その可能性が0.1%ある限り、まだやれるから。

 この世界に、絶対はないから。

 狂気の恋は儚く散り、

 虐殺と疑念の果てには失うものしかなかった。

 疑念が疑念を呼び続け、

 12回目の世界は終わりを告げる。

 いつもいつも同じだった。

 過程は違えど、エンドロールは変わらない。

 怪物が待ち望んだエンドロールは来ない。

 でも、いつか来ると信じて――――

 12回目の世界の終焉の物語の記録が明かされる。



 「読んだエピソード」

 「プロローグ」から「エピローグ」まで



 「表現」

 ⑴擬音語・擬態語

・「パンチも……モグモグ……食べるから……モグモグ……大丈夫……モグモグ。」(1.2


・「♪」スマホから音が聞こえた。横になっていた体を起こしてスマホを取る。(2.4


 前者は少々コミカルであるとはいえ、まだ小説に馴染んだ表記です。しかし後者は……、着信音などの擬音語・擬態語を記号で表現するのは抵抗がありました。もしこの作品がケータイ小説や(よりくだけた)ライトノベルを目指しているのなら異論はありませんが、タグやあらすじにはそう書かれていなかったので、指摘します。


 ⑵ら抜き言葉

 ・なぜかは知らないが、暖は全裸でしか寝れないのだ。(2.11


 ら抜き言葉ですね。「小説にて、ら抜き言葉はタブー」ということはありません。むしろチャラチャラした高校生が「きちんと寝られたの?」なんて言うのはナンセンスです。「きちんと寝れた?」が相応しいでしょう。これは、しかしながら会話文に使用されます。この文の場合は地の文です。

 ただ、ここでまたややこしいことに、この文は一人称にて書かれていますから、口語(半ば会話文)が混じっていても文句は言えません。

 このことから、一人称の地の文でのら抜き言葉は賛否両論ありそうです。個人的にはこんなところで突っ込まれると嫌なので、使わないことにしますが、ここは個人の意識が生きてくる部分でしょう。ひとつの意見としてお受け取りください。


 ⑶ルビ

 難読漢字(特に人名)にはルビを振ってほしいです。「結衣」くらいならまだ分かりますが、「鑒」や「花楓」はなんと読むのでしょう? また「黎」も、"れい"でいいのかな? と不安になります。


 ⑷現実の固有名詞

・「2‐A」と書かれたラインのグループを開いた。(2.3


 ライン!? 初めてみた時は大変に驚きました。現代小説ならまだしも、今から約30年後の未来世界を描くSFなのですから。

 後述しますが、こうした現実(現代)に誕生・浸透した固有名詞を出してしまうと、肝心のSF的世界観の印象が薄くなってしまいます。というのも、未来にもそれが残っている確率が相当低いからです。栄枯盛衰や盛者必衰などといった言葉が表すように、「いま流行りの事柄」は必ず衰退する時が来ます。パソコンも昔はマウスなどはなく、全てプログラムを打ち込んで操作していましたし、そもそもスマホだって、長い間通信機器としてもてはやされた携帯電話の進化版として生まれたガラケーの、これまた進化版です。ハードウェアが変わって、ソフトウェアが変わっていかない訳がありません。とにかく言いたいのは、「現実にある固有名詞は世界観を狂わせる」ということです。

 この回避方法として、自分でその世界に代替品を作ってしまうというものがあります。例えばゲーム「cytusⅡ」では、現実のツイッターのようなSNS、「iM」があります。ただ名前を変えればいい、ということでもありませんが、極論するとそうしてもある程度の効果は見込めます。是非ご検討を。



 「視点の使い方」


 ⑴キャラを明示する

・俺は学級長なのだから。

 俺がしっかりしないとダメだから。(2.3

・「♪」ラインだ。なんなのよ。こんな時に。(2.5

・俺は刻誠と一緒にご反を食べていた。刻誠は俺の親友だ。(2.9


 俺って誰!? 当然のように登場する「俺」。しかし、その名前が明かされるまもなく次のエピソードへと移っていきました。

 が、おそらく、この部分が作者様のこだわった視点の部分なのだと思います。

 1人に焦点を当てていき、小分けにされた独自の情報が徐々に明らかにされていく……。とくに第4章なんかは、その最たる例ですね。

 ここで思ったのですが、もしやこの小説、「群像劇」ではないのでしょうか? タグに無かったので分かりませんでしたが、書く手法はそれに似ています。

 ならば、一つ一つのエピソードに最低でも一つ名前を入れていただくと、読者としては助かります。後半のエピソードと照らし合わせて行けば、確かに名前が無くとも誰が何をしているかは分かります。が、何十人も人物がいる中で、この書き方は混乱をきたしかねません。群像劇のように異なる視点から様々な事象を描いていくという手法はかなり面白かったので、ここは視点に関しては唯一残念な点であります。




 「設定」

 ⑴言及のない設定

 まず、あらすじから。


 ・人間の使い道がなくなっていき、今まで人間がしていた仕事のほとんどがAIに奪われて いった。

 便利になる反面、働く場所を失った人々は、収入が入らなくなり、餓死していった。  ほとんどの仕事が奪われた今、残された仕事は、ほんの一握りしかなかった。


 こう書かれているのです。私は1人でドキドキしていました。「では、いったい2050年にはどんな仕事が残っているのだろう?」と。

 しかし、本文にはこの描写がありませんでした。確かに主題とは相容れない事柄ですが、構想はいい線にあるので、是非とも言及してもらいたかったとも思いました。

 基本的に、作った設定すべてを作品内に取り込むことは好ましくありませんが、こちらの設定はぜひとも取り入れるべきでしょう。リアリティ・説得力が違います。


 ⑵AI

・ただ、店の方にもAIを戻さないと、日常生活に被害がでるからだそうだ。(2.6


 AIを店に戻す……。この文が何を意味しているのかが確定できませんでした。一体、AIはどのような位置づけにあるのでしょう? 店に戻る前は、殺人犯の調査をしていたということですか? また、店に戻るというのは、AIが店主と捜査官を、つまり彼らは二役演じているということでしょうか? 現実的に考えれば、いくら汎用型のAIであるとしても、それが職業を超えて活動する、というのは非効率的ではありませんか?


・「まずは状況整理だな。……」

「問題は、なぜ『2‐A』が狙われているのか。なぜこれだけ探しても犯人が見つからないのか。だね。」

 また、こちらも引用します。あらすじには「AIが人類を超えた世界」と書かれています。ならば事件の真相はまだしも、状況の整理くらいはAIに任せた方が絶対に効果的尚且つ正確だとおもわれます。それ以外にも、例えば教師は何をしているのでしょうか。たしか担任もAIだったはずですが……。

 とはいえ、話し合いが無駄ということではありません。AIは情報の抽象化が苦手ですので、起きたことの整理をして、それを人間にパス→クラスメイトで話し合い、真相を探っていく。

 また、高校生の自主性と言いますか、彼らのなんでも自分でやろうとする気概のようなものが描写させているともみなせますので、ここはリアルな部分であり、強みと言っていいでしょう。


 ⑶SFらしさ

 2.1〇からのお出かけシーンといい、冒頭にあったクラスメイトのシーンといい、イマイチSFという印象がありません。AI・人工知能、それによる失業問題などは未来の風を吹かせていますが、やはりまだまだ足りません(既存のアニメや店の名前が出てくるので、こちらも"現代の鏡"のような印象をもたらしているのでしょう)。であれば、どうすれば良いか? この問題は他のSF作品や未来を予想した経済本などを参考にすれば良いでしょう。例えば、完全自動運転車であるとか、超伝導の考えを応用した超速列車とか、はたまたヘッドマウントディスプレイやヘットアップディスプレイとかシンギュラリティとか……。

 いろいろ追加できる要素はあります。こうした細かな設定をもう少し増やせば、今よりももっとSFチックな作品、世界観が生まれると思いますよ!


 ただ、まったくSF要素がなかったとも言えません。


 ・AIがいない世界とは、どういうものなのだろうか。今よりも、楽しいのだろうか?今よりも、自由なのだろうか?(3.18


 この文なんかは、AIと人間の関係性についてがよく現れていますし、


 ・外を見ると、道路には車が通るのが困難なほどにAIであふれかえっていた。


 この文も未来チックです。が、そういえば同作品の世界で言うAIって、どのようなものなんでしょう? AIは人工"知能"であり、ロボットではありませんから、実態が見えるとしたらなにかの体を借りているのでしょうか? こういった外見に関する説明がもう少し欲しかったですね。


 ⑷ラストに関して

 加えて、私の理解が至らなかった部分があります。それは物語の核心である「11万年の空白」と「複数の心臓を入れることによって世界をリセットする仕組み」についてです。11万年で11回の再起動が行われているということは、一万年に一回の割合で起きているんですよね(もしくは1万年きっかりに)。そして、ならこの11回目の世界は一体いつから始まったのでしょうか? 人類が文明を持った"その時"でしょうか? 11万年で11回の世界ということで、この繋がりが少々気になりました。

 また2つ目。主人公が行なう世界のリセット方法です。どうして心臓を複数個集めるとこうなるのか、極端に言えば「魔法によって」とかでもいいので、論理の解説があると助かります。とはいえそれ以前に、正義の怪物である「ボク」が望む世界とはどんな理想郷であるのかが気になりますが、これは恐らく笑顔の耐えない、天上のような場所で、代償を払えばそれに見合った見返りがもたらされる「平等」な世界でしょう(あとがきより推測)。彼が望む世界は、おそらくこの作品の最も伝えたかった要素なのでしょうから、こうして読者に想像させるのも悪くないですね!



 「構成(ストーリー)」

 ⑴分割の方法

 読んでいて疑問に思った点があります。どうして第2章の9までは小分けにして投稿していたのに、それ以降はいきなり「塊」として投稿しているのでしょうか?

 ほんと言いますと、1章分のエピソードが一つにまとまった形式は読むのに苦労しました。長いので、中断して読むのを再開する時にどこまで読んだかが分かりづらいのです。せめて、〇章“上”とか、〇章“中”など、三分割くらいにして頂きたいというのが個人的な感想です……。


 ⑵あらすじ

 加えて読むのに苦労したといえば、「あらすじ」です。「…続きを読む」をクリックすると、出てきたのは短編小説に匹敵するような文量のあらすじではないですか!文庫本の裏表紙に書かれているくらい……、とは言いませんが、それでもせめて1ページに収まりきるくらいのコンパクトさが最も興味を惹きます。なぜって、理由は単純。人の短期記憶は長文を全部覚えるだけの機能がありませんからね。人気作品のあらすじを参考にするといいかと思います。ただそのとき、削っていい部分と駄目な部分があることもお忘れなく。例えば「心臓を奪われる」とか、「空白の11万年」とかは、かなりのパワーワードですから、これらを核として構築していくのがいいでしょう。



 「個人的感想」

 まず思ったのは、この作品は「ミステリー」小説の部類に入るのではないかともいました。それほどまでに、終盤の殺し合いや個人個人の歪んだ心情などの印象が、SF要素よりも強かったからです。

 ということで、例えばタグには「ミステリーSF」とか、「サスペンスSF」などと入れてみてはいかがでしょうか? もしくは、思い切ってジャンルをミステリーにして、タグやあらすじに「未来学園ミステリー」と銘打ってみるのはどうでしょうか? 個人的な感覚ですが、SFって、かなり激戦区じゃないですか? ファンタジーや……、まあその他諸々のジャンルを鑑みても。でもってミステリーは、まだ比較的作品数が少ないのではないでしょうか(詳しいことはわかりませんが)。こういったものも、一つの戦略かと思います。けれど、SF以外にそういった要素が強いと思ったのは、事実です。


 そう、終盤の殺し合いといえば、あの魔法合戦。奇抜すぎる! 太古の時代に作られたAIが魔法を使えるのはまだ分かりますが、財閥の家系は代々魔法使いって……。あえて批評では触れませんでしたが。

 というか、そもそもこの魔法という語にぶつかった瞬間、私の中で何かが吹き飛びました。「もう、真面目に読むのではなく、ギャグ小説として読んでも良いですか?」って(笑)。いや、奇抜でした。ニンジャスレイヤーみたいな雰囲気が、シリアスムードに混じっていました。


 あ、話変わりますが、ひかるはいいキャラしてますねー、彼は。バットマンシリーズに登場するヴィラン、ジョーカーの子供時代を見ているようでしたよ。死にゆく時も、福袋と人間の喜びを関連付けて死んで行きましたね。ブラボーです。こういった特徴的なキャラが何人かいるだけで、物語は劇的に面白くなります。


 今回の作品、「AIよ怪物なり ―正義の怪物―」は、かなり癖のある作品でした。それはつまり、他の人の作品にはない“何か”があるということです。私が「読みにくかった」とか、「ここはこうした方が良い」と書いてあるところ、実際はかなりの強みになったりもします。だって、私にここで言及しようと思わせるくらいの力を持っていたのですもの。

 とにかく「唯一無二であること」はかなり大きな武器となりますので、ここに書いてあることを程よく折衷して、作品の修正や次回作に役立ててもらえたら、嬉しいです。

 では、以上で批評を終わります。ありがとうございました。

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