⑦「ボク達とレイジーとメイドさん」 作:キロール


※あくまで私個人の感じた批評でございます。個人的な見解がありますので、参考程度に捉えていただければ、幸いです。



「ボク達とレイジーとメイドさん」(作:キロールさん以下、作者さん) 全エピソード読了




 スカイスチームという、空を飛ぶ巨大な人工の大地(飛行船)に住む主人公らが、魔術師レイジーとマリオン大佐という人間大の人形(機械兵)と出会い、化物が住まうという地上に降り立っていき、世界の謎に触れながら進んでいくストーリーは、ファンタジーというよりもSFに近いストーリー構成にも思えなくもありません。

 しかしながら、これをファンタジー、そしてスチームパンクというジャンルへと違和感無く落とし込んでいるのは、決して魔術師といった単発的な言葉に頼っているわけではなく、情景の描写が巧みである事に他ならないと思います。読んでいて、良い意味で煙たい空気と、対になるように顔を出す空の風景が伝わってきました。さらには、スチームパンクらしい【その世界らしくはない、一見浮いているキャラクター】を生み出し動かす事が上手い(その象徴がマリオン大佐だと思います)。作者さんからの【描きたいスチームパンク】というのがはっきりと伝わってくる作品だと思いました。

 誤字脱字は幾つか見受けられましたが、致命的に多いという訳ではなく、すぐに修正は可能かと思います。

 ストーリー面や設定面に関しても、特に違和感はありませんでした。ワクワク感は十分にありますし、世界の謎への興味も持てて素晴らしいです。

 指摘させていただける部分は、文章面においてですね。Web小説では自由な書き方が許されていますが、かなり個人的にではありますが、気になってしまった部分があったので、そちらを指摘させていただきたいと思います。


 以下、項目に分けて批評させていただきます。



(1)一人称視点としての機能について


 一人称視点において、最も難しいのは緊迫した場面の描き方です。

 三人称視点では、主人公の感情や行動と、場面の描写を切り離すことが可能です。地の文には殆ど登場人物の感情が入り込まないからですね。また読者側も三人称視点だと理解してくれる為に、僅かに事細かくペースが遅くなってしまう地の文でもあまり違和感を抱くこともありません。

 しかしながら、一人称視点では、地の文の多さは致命的にもなりかねない事があります。というのも、一人称視点の地の文は登場の感情に依存してしまいます。一人称視点であることを理解している読者は、場面の描写と登場人物の感情を切り離して読むことは(意識しなければ)できません。


 以下、プロローグの一部を引用させていただきます。




ボクは愛用の強化蒸気鎧に身を包み、駆ける。駆けて、駆けて、駆ける。時々、強化蒸気鎧の四肢から吹き上がる白煙が視界を邪魔するし、荷物運搬用のワット型だから走ると凄く揺れるけれど。でも、それ所じゃないんだ! 早くしないと間に合わない!


 焦るボクの視界に、目的の場所が漸く見えてきた。何体もの強化蒸気鎧……あれは、戦闘用のキュニョー型だ。真っ向から立ち向かえば、負けるのは目に見えている。けれど、それでもボクは行かなきゃいけない! 強化蒸気鎧やフラハティの部下達が取り囲んでいる二人を助けるために!




 この一行は【ライネの状況】と【ライネの緊迫した感情】を描いています。しかし、後半部分で緊迫しているはずだと言うのに、前半部分は意外と冷静に状況を説明している、という違和があります。

 また、二行目では【焦るボクの~】と明記されています。同プロローグでも、幾つか【ボク】と自身を明記する文章が見受けられますが、これも緊迫した場面に違和を持ち込む一因となっているかと思います。緊迫した場面では【自身を意識する】というのは、読者側からは【意外と主人公は冷静だ】と誤解されないからです。面白い小説を熱中して読んでいる際に、読んでいる時の自分の姿勢や、次のページを捲る自分の指や、あるいは自分の髪型を意識したりはしないのと同じですね。そういったことを意識する時は【ふと冷静になった時】や【ふとおかしいと感じた時】だけです。

 緊迫した場面で一人称視点の人物が【意外と冷静】と誤解されてしまえば、場面の雰囲気を伝える事に失敗してしまいます。情景と感情を繋ぎ合わせて書く、一人称視点では【自身】を表現する言葉を多く使わない事がポイントになります。

 たとえばですが……。




 愛用の強化蒸気鎧に身を包み、駆ける。駆けて、駆けて、駆けて、駆ける。早くしないと間に合わないのに、荷物運搬用のワット型だから走ると凄い揺れる! それに、強化蒸気鎧の四肢から吹き上がる白煙が、視界を塞いで邪魔くさい!


 視界に、目的の場所が漸く見えてきた。何体もの強化蒸気鎧……あれは、戦闘用のキュニョー型だ。真っ向から立ち向かえば、負けるのは目に見えている。けれど、それでも行かなきゃいけない! 強化蒸気鎧やフラハティの部下達が取り囲んでいる二人を助けるために!




 最初の一行は、織り交ぜるように文章を前後(多少の言葉の付け足しはありますが)させて、後ろの一行は【ボク】を抜いただけですが、幾分か印象が変わるかもしれません。



(2)日記として描かれているということについて


(1)一人称の描き方について指摘させていただいておいて何ですが、第四話において、この作品が【ライネが書いた日記を読者が読む】という形式だと明記されます。ですので、三人称視点的な部分になることは否めないと思えますが、であるならば、第一話やプロローグの段階で、それを明記した方が良いかと思います。

 地の文における叙述は伏線等の演出として用いられる手法ですが、第四話に日記として明記されたことによる効果はあまり感じ取れませんでした。むしろ、ライネが書いた日記が今後、どのように物語に影響を与えられるのか、という物語の【先】に興味が向いてしまいました。

 もしも、第三話までの文章に影響を与える為の、第四話での日記であるという明示なのだとしたら、あまり良い効果は発揮できていないと思います。しかし、【この日記がどうなるのか?】という物語の【先】へと読者を引っ張るものならば、良い効果が発揮できていると思います。




(3)音の表現について


 銃声などの音を「ガガガガガッ!」という文字などで直接伝える文章が見受けられますが、用いる事はあまり良くないと考えています。文章の流れにもよりますが、読者は、そういった直接的な表現を前にすると、冷静になってしまいます。表現した音の文字だけが、頭の中に入ってしまうからですね。決して、音を再現は出来ませんし、イメージも単調になってしまいます。

 あくまで音の表現は【その音だけを読者に印象付けたい場面】で使用した方が良いです。それ以外は、むしろ背景や登場人物の心情と組み合わせて書いたほうが、より一層、緊迫感や躍動感を与える事ができると思います。




 総評



 ストーリー、設定、キャラクターについては大きく指摘するべき点は見受けられないように思えました。特にキャラクターに至っては、かなり世界観と合っているおり、魅力の一つとして大きな役割を果たせていると思います。作者さんが気にかけていた女性の一人称視点というのも、ライネの可愛らしさが十二分に現れているとも思いました。

 しかし、かなり個人的にではありますが、文章に問題点があるように感じました。動きの少ない情景描写は綺麗で、SF的ではなくファンタジー的な美しい世界とスチームパンクらしい蒸気の満ちた世界が構築できていますが、時折、語り部のライネが淡々と状況だけを説明してしまう部分が出てきてしまい、そのギャップに違和感を覚えてしまいました。

 個人的な意見ですが、一人称視点はいかにして読者を冷静にさせないかが重要なものだと思います。つまり、物語を俯瞰させないようにする、ということですね。そのため、語り部自身を俯瞰させてしまう【主語】や、語り部の感情が全く入らない状況の説明は、あまり多用しない方が良いかと思います。

 文章の部分にのみ指摘をさせていただきましたが、設定やストーリーの矛盾、キャラクターの魅力などと言った【ある一定の正解】が、文章に対しては明確には存在しません(日本語がおかしい、などといった部分を除いて)。個人的な意見ですので、参考程度に留めていただくことがよろしいかと思います。




[以下:作者からの返信]


お忙しい中、私の作品にお時間を割いて頂きありがとうございます。

ストーリー、設定、キャラクターについて、及第点らしいと分かった事は何よりの僥倖でした。

この点を直すと、物語の根幹が崩れる可能性がありますから。


そして、文章の問題点。

なるほど、一人称視点に私が感じていた違和感は、女性キャラだからでは無くて、私の認識不足から来る物だったのですね。


確かに、ライネに主語を多用させたり、淡々と状況を説明させてしまっている部分がありますね。それに、銃声についても、擬音を用いている事に、自分でも違和感めいたものを感じていたので、指摘を受けてすっきりしました。


日記については……正直、何処まで何を狙っていたのか覚えていないので(……) メモにも何も書いてないので、その時の勢いだと思います……。


とまれ、一人称は読者を冷静にさせないように心がける事を肝に銘じて、文章の改稿など行って言おうと思います。


ご指摘頂き、ありがとうございました!

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