⑤「Grief Of Persona」 作:涼風鈴鹿

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885692389


 ※個人的な見解が入っているため、参考程度に。また、話数が少ないため、伏線などを区別できないままに批評してしまうかもしれませんので、ご容赦いただけたらと思います。



(作:涼風鈴鹿さん以下、作者さん) 全エピソード読了



 第一話をまず読んで「お、癖のありそうな小説だな」と思いました。作者さんが、この作品の主軸を第一話で明確に示しているからですね。【英雄】というワードと、そのワードを軽々しく言ってみせる市民たち、そしてその環境に対する簡潔ながらも含みを持たせた描写で、第一話は構成されています。第一話が、読者への興味を引けているか、と問われればおそらく成功していると私は答えます(私自身が興味引かれましたからね)。この後、どういう風に話を広げるのだろうか、とワクワクしました。【英雄】を物語のアイテムではなく、主軸にするというのは面白い試みだと思います。

しかし、どれほど興味を引かれているのか、と問われれば、ちょっと物足りない、という風に答えるかもしれません。


 以下、第一話について批評させていただきます。


① とりあえず、行の始まりは空白を


 第一話の内容以前に、文学的なルールは守るべきだと思います。これは【しきたり】だから、という訳ではありません。単純に「読み辛い」と判断されてしまう要因の一つになってしまうからです。

たとえば、全ての文字が平仮名であったり、会話文を一切改行せずに構成したり、あるいは全ての文を改行しなかったり、といった小説は、どれほど文章が素晴らしくとも、普通に読み辛いです。これは【しきたり】だからというのではなく、これまで【しきたり】に従って作られてきた小説を、しっかりと読んできた読者の癖の影響が一因しています。

 そして、読み辛い文章と読者が判断してしまえば、文章は読まれなくなってしまいます。どれほど素晴らしい内容でも、です。当然ですが、敢えて文学的なルールを破る構成もあり、素晴らしい小説というのも世の中には多くありますが、ルールを破る際のデメリットは明確にございますので、ご留意を。


② 高杉戒の死について


 興味を引けているかどうか、という一点においてですが(つまり伏線などを全てふっとばした上で)、高杉と龍が対峙する描写全てが必要ないのではないか、と個人的には思いました。

 理由としましては、第一話は最終的には【市民たちが英雄という記号のみを讃えて、個人への配慮を一切しない】という構図で幕を閉じます。であるならば、死んでしまう高杉の人間性を全面に押し出した方が、構図は映えるだろうと思うからですね。

 高杉と龍の対峙、そして龍からの問いかけに高杉なりの見解(あるいは英雄たちなりの)を明示して、ある程度は高杉の人格と、その死の経緯についての説明となっていますが、如何せん、高杉の人格がぼんやりとしたまま(なんだか、良い人なんだろうなあ、という漠然とした印象)ただ死んだだけなので、少し中途半端な感が否めません。

 むしろ、最初から漣視点(三人称視点で、漣の場面)でスタートし、過去の高杉の人格を象徴する場面を描いてから、シャッターを開くシーンへと繋げた方が、偉大な人物の喪失とそれを気にもしない市民たちの不気味さが際立つのではないでしょうか。龍が話し、問いかける、というのも、漣の視点で描かれている部分である為、いきなり龍が話して問いかけるという方が良いかもしれません。


 ③ 市民、そして【英雄】の背景を描きすぎている


 第一話から抜粋させていただきます。最後の方の文章ですね。


友が死に、家族が死んでも、市民は英雄を恨まない。責めない。八つ当たりをしない。

全て悪いのは異形だから。だからその異形に復讐をしてくれる英雄を市民は讃える。

自分たちの恨みや憎しみ、悲しみを希望という形に変換し、英雄の意思を踏み躙り、英雄という存在を自分達色に染めていく。


英雄は恐れない。英雄は逃げない。英雄は弱気にならない。英雄は折れない。英雄は気丈だ。英雄は皆を助けてくれる。勇気をくれる。誰の死をも悼み苦しみ糧とし力とする。

これが市民の描いた英雄像。悪意なんて微塵もない、期待と希望に満ちた姿。

英雄達は、今日もまた、そんな英雄像を遂行する。だってこれが、この劇で自分たちに与えられた『役』なのだから……


 ここの文章は、少しだけ、世界観の説明をしすぎている部分かと思います。


【英雄】というワードが、この作品でどのように扱われているのか、そしてどのような結末を迎えるのか、というのは物語が進んでいく内にに明示していくべき部分です。この作品の主軸を明確にしていることは良いことですが、この作品が主軸をどうしていくのか、という方向性の殆どを明示してしまっています。つまり読者側からはある程度、予想が出来てしまうわけですね。それでは、物語の始まりとしては情報を出し過ぎのような気がします。読者に予想を喚起させるのは、起承転結の承あたりがベストですね。


 ましてや、独特な世界観と、ある一つのテーマに対しての作者さんの独自の見解を示す作品である以上、予想されてしまうというのは極力避けるべき部分ではあると思いますので、第一話から方向性を示しすぎるのは危ないかもしれません。



 文章については、問題は無いかと。特に、第二話からの描写は端的で、世界観や市民たちの思想の変化などを必要な分だけ明示し、後は漣の周辺のみに集中させるというのは素晴らしい構図です。

話数が少ないため、ストーリー面に関して言及は難しいですね。今後の展開に期待です。ということで、総評は難しいです。申し訳ありません。どのように作品に決着を付けるのか、楽しみですので、頑張ってください。



[以下、作者からの返信]


 こんなにも細かくて丁寧なご意見本当にありがとうございます。現在、次話を書いている最中でしたが、こちらのご意見を元に先に手直しをしたいと思います。

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