第十七章 秋生の告白

 この話は死んだ秋生と僕がメールでのやり取りをして、

 秋生を自身が語ったことである。


 それらを要約して、僕から分かりやすく説明しよう。


 そもそも秋生が自殺に至った原因は、3ちゃんネルの誹謗中傷の掲示板を見たクラスの女生徒を中心にシカト、陰口、悪い噂を流されるなどイジメに合っていた。

 特にショックだったのは、わりと好意を持っていた女生徒にまで「キモチ悪い、ヘンタイ、側にこないで!」と罵られたことである。――それで、もう秋生は学校へ登校できなくなってしまったのだ。

 その上、ネットに入るとマイページには大量のいたずらメール、観てもいないエロサイトからの高額請求メール、おまけに『のべるリスト』の作家たちの辛辣な批評や陰険な嫌がらせなど……どこにも身の置き所がなかった。

 

 何よりも、苦痛で耐えられなかったのは、ホームページの自分の小説を、何者かによって勝手に投稿サイトに転載していることだった。何度パスワードを変えても、すぐにパス抜きされて作品はどんどん盗用されてしまう。そのせいで、気が動揺して小説がまったく書けなくなってしまい……ついに秋生は「欝」状態に陥る。

 さらに、自分は誰かに命を狙われているのではないかという脅迫観念にも取りつかれて、誰にも相談することもできず、悶々とする内に……毎晩、自分が死ぬ夢をみるようになり、精神的に追い込まれて《自分は死ななければいけない》という強い思い〔希死念慮〕にかかってしまった。


 どうして、親友の僕に相談してくれなかったのか? という問いに対して、

「ツバサは部活と塾の勉強で忙しそうだったから……。高三は受験を控えた大事な時期だし、僕のネットトラブルに巻き込まれて、それに時間を割くのは申し訳ないと思っていたんだ。自分で何とかしようとやっている内に精神状態まで、おかしくなってしまった」

 ああ、死ぬ前に相談してくれればと、今さら悔やまれて仕方ない……。


 そして、自殺する前の日、マンションの児童公園で塾から帰る僕を秋生は待っていた。最後にツバサの顔が見たかったからと秋生はいう。

 あの日、僕とラーメン屋で少し話をして、マンションのエレベーターで別れた後、十二階の最上段の階段で飛び降りるチャンスを窺っていた秋生に、不思議なことが起こった――。

 意を決して、階段のフェンスに手をかけてよじ登ろうとしたら、急に意識が飛んで、崩れるように倒れた。……気が付いたら空中から、なんと自分の姿を見降ろしていたのだ。


 ――これはもしかしたら、幽体離脱か!? 

 そういえば、以前、ナッティーとゲームをやっていた時にもこんなことがあった。

 たぶん、一度、幽体離脱を体験した人間は霊魂が抜けやすくなっているのかもしれない。


 霊魂の状態で僕の所やお母さんにも挨拶にきたという。その時、秋生は思ったらしい――。もう、肉体を捨てて生まれ変わりたいと……。霊魂の自分はとても自由で清々しい気分だった。イノセンスというか、何ともいえないカタルシス効果を感じていた。


 いったん、肉体に戻った秋生は、階段のフェンスに跨がり自殺の準備をした《その時には不思議なくらい死ぬことが怖くなかった》飛び降りる前に、携帯のメール発信に時間指定をした。落ちると同時にメールがツバサに発信されるようにセットしておいた。

 ついに肉体を捨てた秋生は、十二階から落ちると同時に幽体離脱して、メールの電波に乗って、僕の携帯の中に入り込んだ。


 マンションから落下して死んだのは、魂のない秋生の肉体であった。


 ――そして秋生は、携帯から僕とナッティーの行動を見ていたというのだ。しかし、初めは僕と連絡の取りようがなくて、困っていたらしい。

 やっと霊力を上げて、生身の人間とコンタクトを取れるようになったのだ。


 何しろ、秋生は携帯に憑依ひょういした珍しい幽霊なのだから……。

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