第51話 ソフィアの決断

 ローラの誕生日、俺たちは婚約した。ニュースは世界中に流れ、それを見たソフィアが泣きながら電話をしてきた。


「ロバート、ひどいわ。私はロバートにとって必要とされない存在だったのね」


「ソフィア、それは違う。ローラとの結婚は契約結婚なんだ。俺たちは愛し合って結婚するわけじゃない。家同士のために結婚するんだ。だから、結婚しても自由恋愛を認め合う約束をしてるんだ。ソフィアは俺にとって大切な存在だ。お前を愛してる。なぁ、わかってくれよ」


「本当に愛してるのは私なの? いつでも会いたい時に会うことが出来るの」


「あぁ、勿論さ。今までよりも自由にな。証明してやるよ。今夜逢えるか?」


 子猫を抱けば俺の錆び付いた心も少しは楽になるかもしれない。ローラと婚約しても嬉しさを感じない。昔はあれほど恋い焦がれていた奴なのに、今では汚い女に見える。ソフィアは違う。俺だけの子猫だ。


 その夜、久々に再会した俺はソフィアを何度も抱いた。康代を抱いて以来、ずっと女は避けてきたがもう我慢の限界だ。ソフィアの柔らかな胸にしゃぶりつき、欲望のままに何度も果てる。


 情事は男にとって快楽だ。少しの感情でも恋愛ごっこは成り立つ。横で眠るソフィアの顔を覗き込むとソフィアが微笑んでいる。


「ロバート、愛してるわ。一生離さないでね」


「あぁ」


 頷きながらここに眠るのがあいつならどんなに嬉しいだろうと考える。あの夜の満たされた心の満足感。康代の肌の温もりが急に蘇り、切なさすらこみ上げてくる。情事の後、愛する女とお気に入りの女の違いを思い知るとは思ってもみなかった。


 今更だが、ルイの言葉が頭に浮かんでくる。俺は、康代を困らせただけだったのか。愛さずにはいられなかったんだ。康代もあの夜の事は後悔していないだろう。俺たちは心から愛し合っていた。その思いは、今も変わらない。


 俺は、これから別の女と結婚するというのにソフィアに一生の愛を約束した。ルイの言う通り本当に最低な男だよな。





◇ ◆ ◇


 翌年、晴れやかな青空の下、俺はローラと契約通り永遠の愛を誓った。真っ白なウェディングドレスを着たローラが真っ赤なバージンロードを歩いてくる。誰もが羨む華やかな結婚式。俺たちの結婚式は注目され、ニュースとなり世界中に配信された。




◇ ◆ ◇


「オギャー」


「康代さん、おめでとう。男の子ですよ」


 元気な赤ちゃんの泣き声と看護師の声が分娩室で響いている。


 この日、……ひっそりと男の子を産み落とした。




 入院中、何気なくテレビのスイッチを入れるとワイドショーが放映されており、小さな画面に愛しい人の顔が映し出されている。


「ロバート」


 あなたの結婚式の日にあなたの子供が生まれるなんて。ごめんなさい。決して迷惑はかけないわ。あなたが父だとは絶対に言わない。私の愛は変わらない。そして、愛するあなたとの子は、私が守る。


 ワイドショーでは、笑顔のローラとむっつりした顔のロバートがアッブで映し出されていた。そんなテレビ中継にコメンテーターの中年女性が興奮して喋っている。


「ローラさんは綺麗ですね。怪我をして引退したとは言え一流ダンサーだけあってスタイル抜群。まるでスーパーモデルのようですね。日本でも彼女の人気は高いですし。それにしてもロバートさんは緊張しているのでしょうか。笑顔が少ないですね」


 好き勝手なコメントを言っている。笑っていないロバートであっても、ローラとの結婚式であるこの映像は、私の胸を押しつぶすには十分だった。


「さよなら、ロバート。愛しい人」




◇ ◆ ◇


「悪いが部屋は別々だ」


「あら、残念ね。まっ、今はロバートと同じ家に住めるだけで私は嬉しいわ」


 挙式を終え、新居となる俺の家へ戻って来た。



「この家のものは、好きに使っていいぞ」


「わかったわ。でも……ねぇ、ロバート。結婚したんだから、抱いてくれてもいいんじゃない。今夜は私の部屋に来てよ」


 俺は、ローラの誘惑に逆らいもせず抱いた。今の俺に感情なんて必要ない。


「ねぇ、ロバート。新婚旅行、私に企画させてくれない? 旅行の後はあなたのこと束縛しないわ。でも、旅行までは私の夫を演じて、私だけを愛してくれない」


「わかった。旅行まではお前の夫を演じてお前だけを抱いてやるよ」


「約束よ」


 

 ローラは俺の言葉を信じたようだが、俺は苦笑いを浮かべたぜ。

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