第38話 ライバル協定

 パーティ三昧の生活を卒業すると決めた俺は、康代の弁当を食うようになってから真面目に勉学に励むようになった。


 そんな俺たちを快く思わない本物の王子ルイは、スキをみて康代に話しかけに来る。俺は、ルイの思考を事前に読んで、がっちりガードしルイと康代が仲良く話すチャンスをブロックする。ルイは不満そうな顔で俺を睨みつけるがそんなことで怯む俺じゃない。


「ロバートには難しすぎるだろうから、二人でこの課題について勉強しよう」


「いやいや、ルイくん。そんな心配は無用だよ。僕もその課題に興味あるから一緒に勉強したいよ」


 康代は、苦笑いしている。


「ところで、康代とロバートの関係をちゃんと聞いてなかったけど本当にどういう関係なの」


「よくぞ、聞いてくれましたルイ王子。康代は婚約者なんだ」


「もう、ロバートったら誤解されるような言い方をして」


「僕は、康代とロバートが婚約していようが、まったく気にならないから心配ないよ」


「えっ? ルイも何を言い出すのよ。私はロバートのお父さん、リチャードと婚約してるの」


「なんだ、じゃロバート! 君と僕とは同じ立場じゃないか? 」


「ルイ! てめぇ、言いたいこと言いやがって。何が同じ立場だよ」


「そうだな。同じ立場ではないな。君の方が不利だ。父親の婚約者を狙ってるんだもんな。ハハハハ」


「お前、殴られたいのか? 」


「二人とも何バカなこと言ってるの。もう付き合ってられないわ。私、先に帰るわね」


 康代は怒って帰ってしまった。残された俺たち二人は、肩を落とした。


 よく考えると俺たち二人のライバルは親父だ。まずは康代と親父が別れないことにはチャンスも巡ってこない。


「ロバート、僕たちのライバルは君の父上だよね」


「ルイ、そういうことだ。親父は、中年のわりに見た目も若く、なかなかのモテ男なんだ。女の扱いも紳士的でデートの演出もかなり上手うまい。大人のリードに女はみなうっとりだ。ルイ、ここは一旦休戦して二人協力し合い、親父と康代の仲を割くというのはどうだ」


「ロバート、それはいいアイディアかもしれないな。君の父上を倒すまで二人は同士だ」



 俺は、ルイが気に食わなかったが仕方がない。まずはこいつと手を組んで親父との婚約を破棄させるのが先決だ。俺たちは、作戦を練ることにした。



◇ ◆ ◇


 まったく何を考えてるのよ。ロバートとお昼を食べるようになってからルイも執拗に話しかけて来る。


 ロバートは、大学生になり一人暮らしを始めてから生活も荒れていた。リチャードもすごく心配していた。私は時々、大学の構内で彼を見かけていたけど彼は気づいていない。いつも派手な女の子達を引き連れ、服装もどこか乱れ気味だった。見るたびに痩せていく彼は食事もまともに摂っていなかったのだろう。


 そんな時、ロバートはルイと勉強している私を見つけカフェにやってきた。私は彼が心配だった。私のお弁当を毎日喜んで食べてくれることは正直、嬉しい。和食が好きな私は、毎日ハンバーガーやサンドイッチを食べられない。本当は、リチャードにも毎日作ってあげたいが、仕事仲間とランチに行くことが多いので自分の分だけ作っていた。


「接待されるのも仕事のうちだから、外食するけど君の手料理が一番好きだよ」

 

 リチャードは、いつも優しく私の料理を褒めてくれる。彼は、私のために日本食のシェフを雇ってもいいんだよと言ってくれるが、料理が好きな私は自分で好きなように作るのが楽しかった。





 今日もロバートと一緒に構内の芝生でお弁当を食べる。お弁当を食べ終わるとロバートは一般教科の科目で理解できないところを私に質問する。私は家庭教師のように、優しく説明する。本当にどこにでもいる大学生たちと同じように勉強しているだけ。


 時々、ロバートの熱い視線にドキッとするけど、屈託のない笑顔は、リチャードと似ている。ノートに問題を書いて解いているとすぐ真横に彼の顔が近づいて来る。


「そうか、そうやって解くのか」


 その距離の近さになぜか焦ってしまう。ロバートは私の息子になるかもしれないのに、ドキドキしちゃうなんて、私はどうかしている。一人苦笑いしながら、飲みかけのコーラに手を伸ばし呼吸を整える。


「俺も喉乾いた」

 自分の飲み物を飲み干していたロバートは何食わぬ顔で私のコーラを奪って飲み出した。


「ちょっと、それ私のよ」


 手を伸ばした時、彼はコーラを持っていない右手で私の髪に指をなじませ、後頭部から大きな手のひらで動きを抑える。


 ニャッと口角をあげ……顔を近づけると、そのまま私の唇にそっと自分の唇を押し当て、キスをした。


「……」


 触れるだけの軽いキスなのに、身動きひとつできずに目をバチバチするだけの私。


「お前、やっぱ最高だな」


「ちょっと、何バカなことしてるのよ」


「何焦ってるんだよ。未来の母親にキスしたくらいで動揺すんなよ」


 私は、赤面しながらドキドキする心臓の音を悟られないようにするのが精一杯。


 ロバートのストレートな情熱に、心が溶かされそうで怖かった。

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