008:『日記』

 それでは、前に少し話した【デジタルカメラ】について少し話しておくとしよう。

 デジタルカメラの話とは言ったが、なにもデジタルカメラがどの様な構造で、とかを話すつもりは無い。

 そもそも、俺はデジタルカメラについてほとんどと言っていいほど無知である。

 今回は、デジタルカメラがどうとかではなく、俺、黒峰くろみね 灯夜とうやが、何故いつもポケットにデジタルカメラを忍ばせているのか。何故、忍ばせるようになったのかについて話すとしよう。


 これはまだ誰にも話していない事。何となく、言いたく無いのだ。

 これを知ったら皆はどう反応するだろうか。

 悲しむ、憐あわれむ、不憫に思う、無情、喜ぶ、それとも...利用する。


 そんな事を考えていたら他人に話す事を躊躇ちゅうちょしてしまった。

 これを知った人も、出来る事ならば他言無用ということを了承願いたい。(後々面倒だから)


 それでは話すとしよう。


 結論から言うと、俺は記憶障害なのだ。いつからそうなったのか、生まれつきなのか、途中からそうなったのか、俺にはそれすら分からない。

 まず、あの日あの男と出会う前の記憶が俺には無いのだから、いつから記憶障害なのかなんて分かるはずが無い


 記憶障害とは言っても、あの日以前の記憶が無いという事だけを指して言っているわけではなく、あの日以降も、俺は毎日記憶障害と出くわしている。

 まず、初めにここから話すとしよう。


 記憶障害が引き金となったのかは分からないが、俺は記憶力がとてつもなく良いのだ。話しが矛盾しているが、実際に、真実が矛盾してしまっているのだからしょうがない。

 記憶力と言っても頭に思い浮かべる様な、映像としての記憶力が良いのではなく、【文字】としての記憶力が良い。俺の記憶というのは、皆が思い浮かべる映像とかではなく、文字。

 文章で記憶してしまっているのだから面倒なのだ。


 それのどこが記憶障害なんだ、記憶力良いじゃないかと思った事だろう。しかし、俺は記憶を文字としてしか記憶出来ない。それも記憶障害の一種の様なものなのだろうと俺は思う。

 どういう事かと言うと、例えば10分前にコップで水を飲んだとしよう。

 普通の人ならば、その行為を思い出すのに映像を思い浮かべ、記憶を思い出す事と思う。

 しかし、俺の場合はこうだ。

 台所に向かう→流しの前に立つ→コップを手に取る→コップは透明で寸胴型、重さはさほどない→蛇口の栓をひねる→水をコップに注ぐ→コップに水が溜まる→蛇口の栓を元に戻す→水を飲む。

 となる。少し話しを端折はしょりはしたが、大体はこんな感じだ。詳しく話すと、蛇口が何色で、とか、流しが少し汚れている、とか、どの様に汚れている、とか、まぁ面倒なのだ。

 しかも、朝起きた時から寝る時までの間を、先の説明の様に、鮮明に、文字として記憶している。


 でも、映像として全く思い出せないと言う事では無い。

 文字と化した記憶を紙に書留る、それを読み直す。その行為によって、俺は映像として思い出せるのだ。

 だから、他の人よりも思い出すまでの過程がいくつか多い事にはなるが、他の人の一日の記憶と比べると、かなり記憶量が多いのだ。

 従って、俺は思い出すのが面倒だが記憶力が優れている、となる。


 じゃあ、何故デジタルカメラが必要なの? と、思っただろうがもう少し待ってもらいたい。

 まず、俺は寝る前に今日の出来事を日記に書留る。

 俺は、一度寝て起きると昨日の記憶が飛んでしまう。

 映像としてだけでは無く、文字としてでも記憶してはいられなくなるのだ。(経験則)

 記憶が飛ぶとは言っても、飛ぶのは寝る前のその日一日の事だけで、日記に書留、思い出した記憶はそのまましっかり記憶している。

 だから、俺は一日の出来事を必然的に日記を書く事になる。

 ここでようやくデジタルカメラが登場する。(待ってました)

 いや、誰も待ってなどいないかもしれないが。


 何故デジタルカメラが必要かというと、盗撮目的などと、いやらしい事では無く、毎日日記に記憶を書留る時、例えば、その日公園に行ったとして、その公園について書くのにブランコがいくつあって、砂場がここにあって、とか詳しく書き記すのは簡単では無い。

 そこで、補足についてはデジタルカメラで撮影して日記に貼り付けている。


 全ての記憶を日記に書き留めているのだから、この日記は俺の【全て】といっていいのだろう。


 全てとは言ったが、俺には、全てなど無い。

 俺には夜が無いのだから。

 夜が無い以上、俺の全ては何処にも無く、俺は半分しか存在しない事になるのだ。


 これからどうなるのか、色々と考えてみるが、いくら考えてもしょうがない。

 俺は、これからの事も記すのだろう...この日記に。黒峰くろみね 灯夜とうやの半身として。



 

 「灯夜殿」


 「何だ景?」


 「私については、いつ日記に書いて下さるおつもりだ?」


 「そうだな...いつか書くよ」


 そういえば、景の事は日記に書かなくても忘れていない。これは何故なのだ...


 「灯夜!! 私の事も書いてよー」


 「そういえば、お前の過去については聞いた事が無かったな。いつか教えてくれ」


 「まずねー私は高校二年生でー名前はー」(ブツブツ)


 「ちょっと待った!! 後でだ!! 今は書けない!! 後にしろ!!」


 こいつらが、あれやこれやと五月蝿いので、今日はこのへんで終わりにしよう。


 では、またいつか。


 ......


 「灯夜お腹空いたー」


 「さっき食っただろう」


 「灯夜殿、私も小腹が...」


 「お前ら!! もう寝ろ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る