休み明けの仕事〜午後〜

 昼ご飯を水原さんと食べた後、トイレに向かった俺は、そこで八城さんが誰かと話しているのが聞こえてきた。


「この前、秋本に告白されたってほんとなの?」

「うん」

「ちょっとそれ、なんの罰ゲームなの。八城さん可愛そう」

「ちょっ、そんな事言っちゃダメじゃないかな。告白するのって勇気いる事なんだし!」

「でも、どんまいだよね〜八城さんも。あんな根暗そうなやつに告白されるとか。私ならどんだけ告白されようが嬉しくないな」

「ちょっと、それは言い過ぎだよ」

「でも、ほんとの事じゃん? 実際嬉しくなかったでしょ?」

「それは、まぁ……そうだけどさ」

「それで、秋本はどんな感じの告白だったの?」

「確か、入社した時から八城さんの事好きでした! 付き合ってください! って感じだったかな?」

「それでなんて返事したの?」

「全然タイプじゃないの、ごめんなさい。って感じだったかな?」

「ずばっと言っちゃってるじゃん」

「う、うん」

「まぁ、八城さんが好きなのは野田くんだもんね。ただ野田くんに近づくために、野田くんと仲良い秋本とも話さなくちゃいけなくなってさ。友達でもなんでもないのにさ。ほんと、どんまい!」

「そうなんだけどね……でも」


「なるほどな……ちゃんと理由あったじゃん」


 小さい声でぼそっと呟いた俺はそこまで話を聞いてその場を後にした。

 元々俺の勘違いからこーなってしまった訳で、好きでもなんでもないやつから告白されたところで嬉しいと思う訳ないか。

 俺はただ野田と仲良くなりたいがために嫌々話されてただけって事だな。納得だわ。俺みたいなやつと話してても楽しくないだろうしな。


 自分の席に着き、しばらくぼーっとしていると、八城さんに話しかけられた。


「ねぇ、秋本くん。今日野田くんと飲みに行こうって話になったんだけど、くる?」


 八城さんに話しかけられたため、一瞬びっくりしたが、なんとか表に出すことはなかった。


「……すいません。今日は遠慮しておきます」


 緊張のせいか敬語で話してしまった。

 ……本来の俺って女性相手だとこんな感じだったんだなと、妙に納得していた。

 水原さんとかは歳下だから、妹と接する感覚で上手く話せていたのだろうか?


「そっか〜。なら、野田くんと2人っきりで飲みに行こっかな」


 八城さんは頰を赤くしながら嬉しそうに話していた。

 その姿を見て、八城さんが好きなのは本当に野田だったんだなという事を確認出来、本当に俺は邪魔な存在だったんだとわかった途端、無性に腹が立ち、冷たい反応をした。


「好きにしたらどうですかね?」

「ちょっと、その言い方はないんじゃないかな?」

「いや、最初っから2人っきりで行きたいって顔に書いてあるし、俺には関係ないですし。それに、こっちはこっぴどく振られてるんですから、よく普通に誘えましたね」

「なにそれ! 私が秋本くんを振ろうが関係ないでしょ! 飲みに行くことと何が関係あるっていうの!」

「関係なら大ありじゃないんですかね? 八城さんは俺の事どう考えても友達とすら思ってませんよね? そんなやつ誘った所で酒が不味くなるだけじゃないんですか? 大方、野田が秋本も誘ったらどうかな? って提案したんだとは思うけど」

「そ、それは、そうだけど……でも、なんでそんな言い方するの? もう少し言い方ってものがあるんじゃないかな?」

「……すみません。言い過ぎました」

「私もごめんね」


 その後はお互い無言だった。さいわい、周りに誰も聞いてる人がいなくてホッとした。


「おー、秋本。今日八城と一緒に飲みいかね? って話になったんだが、秋本もくるよな?」

「俺は行かない。2人で楽しんでこい」

「ちょっ、つれないなぁ〜。行こうぜ」

「遠慮しておく」

「そっか。なら今度飲もうぜ」

「おう」

「そんじゃ八城。今日会社終わってから飲むか」

「うん! 楽しみにしてる!」

「そんじゃ」


 そのやり取りを聞いただけで、やはり俺の事など眼中にない事がわかった。

 いや、眼中にないどころか友達ですらなかったし、嫌われてるんだった。

 ははっ、笑えねぇ。まぁでも、この恋はもう実る事なんてありえないんだし、ここで終わりにした方がいいな。




 そんな状態で午後の仕事に移ったが、比較的落ち着いて仕事をする事が出来ている。


「秋本さん。直して持ってきました」

「了解。一応俺の方でも確認するが、とりあえずお疲れさん」

「はい! それで次は何をやればいいんですか?」

「次はこれかな」


 そう言って俺が水原さんに渡したのは10枚くらいの書類だった。

 まぁこのくらいなら今日中にできるだろ、と思い渡した。まぁできなくても、そんな急ぎのやつでもないし、大丈夫だろ。


「頑張ります!」

「おう。頑張れ」

「はい!」


 水原さんが自分の席に戻るのを確認して、また俺はパソコンとにらめっこする。

 集中しすぎて、気づけば夕方の4時だった。

 ここまで集中力が続いたのは初めてかもしれん。仕事もだいぶ終わったし、そろそろ帰る準備でもするかな。

 準備をしていると水原さんに声をかけられた。


「秋本さん! ちょっと待ってください。一緒に帰りましょうよ」

「わかった。待ってるよ」

「ありがとうございます!」

「おう」


 待つ事数分、水原さんが慌てた様子でこちらにきたので、少しだけ笑ってしまう。


「ちょっと、なんで笑ってるんですか!」

「そんな急ぐ必要ないのに、慌てる姿みて、可愛いなぁって」

「かっ、可愛いですか?」

「おう。なんか妹みたいで可愛いかな」

「妹みたいかぁ〜。秋本さんは私のこと女って認識してますか?」

「そりゃ〜どっからどう見ても女だろ」

「なら、今度から妹みたいに思うの禁止です!」

「たまたま今のは妹みたいだったってだけで、いつもはちゃんと女だって認識してるからな?」

「そ、そうですか。は、早く帰りましょう!」


 水原さんは急に顔を赤くしたと思ったら、俺の腕を急に引っ張った。


「ちょっ、急に腕を引っ張るなよ! バランス崩しちゃうじゃん」

「ご、ごめんなさい」

「……いいけどよ。気をつけてくれよな? 腕取れるかと思ったじゃねーか」

「なら今度は普通に腕組みますね?」

「いや、なんでだよ。そういうのは恋人同士でするもんだろ?」

「それはそうですけど」


 目に見えて落ち込んでいるが、こればっかりはどうしようもできない。


「なら、手を握るのはダメですか?」

「……はぁ。いいよ。今回だけな?」

「ありがとうございます!それでは」


 その掛け声とともに、俺と水原さんは手を繋いだ。まぁ恋人繋ぎではないためギリギリセーフだろ。


「俺なんかと手繋いだ所で嬉しくもなんともないだろ?」

「そ、そんなことありません! 好きな人と手を繋いでるんですから」


 後半は何言ってるかわからなかったが、嫌じゃないみたいで良かった。

 その後は仕事の話とか、色々話しながら歩いた。


「それじゃ、私こっちなのでまた明日です!」


 水原さんはそう言って繋いでいた手を名残惜しそうに離していた。


「おう。気をつけて帰れよ」

「はい!ありがとうございます」


 家に帰った俺は嫌な事があったのにもかかわらず、とても清々しい気分だった。



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