少女たち+熱帯魚=∞

日本におけるペット界の雄は間違いなく犬と猫である。温かい体温があって、触れ合えて、おなじ空間で家族のように生活できて、なおかつ餌とトイレの問題もコンビニに売られている商品で簡単に解決できる。これほどペットとしてうってつけの生物もあるまい。
しかし。
変温動物ゆえに体温がなく、そもそも水中にいるので触れることはほぼできず、飼い主とは互いに水槽のガラスで隔てられ、餌はまずコンビニには売られてないし、ウンチもオシッコも垂れ流し、掃除をしようものならだいたい床に水がこぼれる、そういうめんどうな生物――熱帯魚を好き好んで飼いたがる人間も、じつに多く存在する。
熱帯魚の飼育はそれほどにめんどうか? イエス。趣味は、と訊かれて、犬や猫を飼っていますとは、ふつう、言わない。だが、熱帯魚を飼っています、観賞魚飼育です、アクアリウムです、これは回答として成立する。趣味とは例外なくめんどうなものである。お金にならないしめんどうなのに、好き好んでやるから、趣味なのである。つまり、熱帯魚を飼うアクアリウムの維持というものは、「趣味」といえるほど、めんどうなものなのである。
だが、めんどうであるがゆえに、それを越える過程には、そして越えたさきには、アクアリウムをやらなかったら絶対に見えなかった景色が広がっている。

話は変わるが、日本人はむかしから女の子というものが大好きである。どれくらい好きかというと、男ばかりの職場だった浮世絵工房の職人たちを女性に置き換えてみた、という絵を江戸時代に歌川国貞が「今様見立士農工商職人」として制作するくらいである。

本作「アクアデイズ」では、華の女子高生たちが、アクアリウムという一個の小宇宙に魅せられ、熱帯魚を飼育している人――アクアリストの第一歩を踏みだす過程が、じつに瑞々しく描かれている。女の子たちが互いに影響を与えあい、アクアリウムの先輩として教える側も、初心者の独特で率直な観点に「オッ」と唸らされたりもする。そうして、ただ一方通行で「これはこうで……」と押しつけるのではなく、きちんとコミュニケーションをとり、変化しあいながら、より絆を深め、そして新たな出会いにより繋がりを広げていく。本作はアクアリウムの入門書でもありながら、女の子たちの群像劇でもある。
ひとくちに熱帯魚といっても、色とりどりの泳ぐ宝石、あるいは奇々怪々な小さな怪獣みたいなものなど、おどろくほど個性的な面々がつぎつぎ登場するが、迎え撃つ女の子たちのキャラクターもまた負けていない。熱帯魚雑誌に連載されていてもなんらおかしくはない。
まさに、女の子+熱帯魚の可能性は、無限大なのである。

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