振り返ればあの時ヤれたかも:編集I ②

 前回の話では、編集Iさんが担当した作品タイトルに関して触れ、タイトルにどの程度意味を持たせているのか、編集Iさんの考え方の一端に触れました。


 今回は「タイトル斬りコン」で求められているタイトル「振り返ればあの時ヤれたかも」について考えていきます!


 何回も出していますが、内容は以下。



『振り返ればあの時ヤれたかも』

・十代の読者を対象としたタイムリープものエンタメ作品

・50000字以上の中編作品(未完の作品は選考対象外)

・縦軸を作らないと50000字は厳しい

・このお題に対してどのような話を展開するか考えた上で起承転結を上手く織り交ぜる


 では一つずつ詳しく!



●十代の読者を対象としたタイムリープものエンタメ作品


 タイムリープものです。難しんですよね、これ。

 構造の関係上、同じストーリーを繰り返さなきゃいけない訳ですから、何かしら読者を飽きさせないが必要になるためです。


 ターゲット層は10代ですが、男女は特に明言されていません。

 スニーカー文庫ですから基本的には男性向けを考えた方がようさそうですが、「スーパーカブ」という作品もありますし、自分が「面白くなる」と思う方を選択すれば良いと思います。エンタメ作品ですからね。


 タイムリープ系のギミックとしては、


①過去を変える事で未来も変わる

 説明不要。一番の王道パターン。


②過去も未来も変えられない

 未来(現状)が「過去へ行く」という行動ありきのパターン。

 同じ出来事を別視点から見る事で新事実を読者へと伝える方法が良く採られています。


③過去を変える事で未来が分岐する

 パラレルワールドの概念に近いです。

 過去にAという行動を取った未来αから過去に戻り、Bという行動をすると未来αとは別の未来βが新しく出来上がる、といったパターン


④細かい事象は変わるが、大筋の未来は変わらない。

 シュタゲを知ってる人は、”岡部がいくら頑張ってもまゆりを救えなかった”のをイメージして頂ければ。

 経緯は色々と変わっても、結局は決まった結末に収束するパターン。


 の4つに大別されるらしいです。


 しかし、タイムリープ物の作品は綺麗にどれかへと当てはめる事ができる訳ではありません。複合型とかも結構あります。

 例えば先述したシュタゲとかですと、α世界線とβ世界線という概念を用いる事で②以外を複合しているとも言える形に仕上がっています。


 では、この「タイムリープ」という設定とタイトル「振り返ればあの時ヤれたかも」を比べた際に、読者が想定する内容について考えてみましょう。


 タイトルを分解すると「振り返れば」「あの時」「ヤれたかも」の3節になりますが、タイムリープをどこに掛けるかで意味合いが多少変化していくでしょう。


・「振り返れば」

 恐らく物理的に”振り向く”のではなく、”過去を振り返る”という意味に捉える方が自然ですね。

 そのため、ここで言う”振り返れば”は『過去へとタイムリープする行動』そのものを指す場合ともう一つ、『「過去へとタイムリープした行動」を振り返ってみた回想』という二段構えの構造を取る事も可能です。意外性狙いで。


 この解釈の違いによって、結末はほぼ正反対のものとなります。


・「ヤれたかも」

 前者『過去へとタイムリープする行動』を”振り返った結果”だとすると、この「ヤれたかも」という”後悔をひっくり返すために行う行動”=「タイムリープ」であると位置づけられます。

 普通はこちらのイメージでしょう。しかし、その分他の人と内容が被りやすくなるとも言えます。

 ストーリー、キャラ、世界観。それらの要素で読者を魅せなければなりません。

 まあ、言ってしまえば普通に頑張って執筆する訳です。


 それに対して後者『「過去へとタイムリープした行動」を振り返ってみた回想』という構造を取ると、「ヤれたかも」という言葉はという事を意味します。

 つまり、『タイムリープしても目的を果たせなった』、という訳です。

 また、回想という構造上、人称は一人称単視点になるでしょう。

 

 こう書くとバッドエンドしかない、みたいな言い方になっていますが、決してそんな事はありません。

 例えば、タイムリープしてでもしたい事が殺人などの犯罪だったらどうでしょう。

 このように、叶わない方が良い目的の主人公を据えた物語にして、読者をあっと驚かせるようなどんでん返しを作りやすい構図は後者の方でしょう。



●50000字以上の中編作品(未完の作品は選考対象外)


 編集Iさんも『縦軸を作らないと50000字は厳しい』と仰っていますが、一発ネタで書こうとすると、絶対に中だるみする長さです。

 逆にイベントを盛り込みすぎると余裕で5万字はオーバーするでしょうが、その分着地点が筆者にも分からなくなり読者に何も伝わらない、といった悲しい結末になりかねません。


 WEB小説は大長編が多いと思っている方は大勢いらっしゃるかと思いますが、それは一部の大人気作がその人気に押されて終わらせない(終わらせられない)ようにしているからです。


 では、どう考えるか。


 編集Iさんの仰るように、『お題に対してどのような話を展開するか考えた上で起承転結を上手く織り交ぜる』のが一番かと。


 まあ、言うは易し、ですよね。


 しかし、物語を作り上げる上で必要なピースはある程度揃っています。


・タイトル:振り返ればあの時ヤれたかも

・ギミック:タイムリープ

・文字数:5万字


 上述したようにタイトルとギミックから、物語の構造を考える事は可能です。

 その構造から5万字を意識した構成を考えていくと、書きやすくなるのではないかと私は考えています。


 加えてオリジナリティを出すために必要なキャラクター、世界観などに負けず劣らず大切なのは「テーマ」でしょう。

 簡単に考えると、雰囲気としては”シリアス”にしたいのか、それとも”コメディ”にしたいのか、といったところから考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。

 また、読者に”どのような読後感を与えたいか”といった切り口から考えてみるのも良いと思います。


 このように、作品全体の印象というものから、「では、どういったテーマを添えれば想像した作品になるだろう」という思考経路は、普段の創作とは方向からのアプローチだと感じる方は多くいらっしゃるでしょう。

 なぜならば、多くのカクさんたちはが始めにあり、そこから読者に受けるには――といった順路を辿って執筆する事が多いからです。


 そういった意味において、今回の《タイトル斬り》コンテストは今までとは違った執筆方法になり、人によっては違和感や、いつもに比べて筆が進まないといった事も起こるかもしれません。


 私個人の感想としては、やはり、「作品の完成形を如何に具体的にイメージできるか」が重要だと思っています。


 貴方が読者だとしたら――。


 予想を裏切らない王道物語と、予想を超える奇抜な物語。

 どちらを読んでみたいのか。


 そんなところから考えてみるのは如何でしょうか。



 と、いうところで編集Iさんに関してはここまで!

 次回からは編集Hさんの「属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?」について考えていきます。

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