第7話 100万円のゲロ


さびれた街に品物のない露天商がポツリ。

前を通ると声をかけてきた。


「壺…」


よく聞こえなかったので、立ち止まって聞いてみた。


「ゲロ吐いたら1万円…」


露天商の男はそう言って、大きな壺を差し出した。何を言ってるのかわからないが、1万円という言葉に私の耳は反応した。


というのも、私は訳あって100万円の借金を今日中に返さなければいけなかったのだ。


「お金がもらえるのかい?」


そう聞くと


「この壺に吐いたら1万円あげるよ」


と、たしかに男はそう言った。

その壺は中を覗くと真っ暗で何も見えなかったが、少し変な匂いがした。


本当に1万円がもらえるのならと思い、私は喉に指を入れ、吐こうとした。


苦しいながらも意外とあっさりゲロは出た。

ゲロは壺に入って、中から嫌な匂いがただよった。


「はい、どうぞ。」


露天商の男はそう言って約束の1万円をそっと手渡した。


「もう一回できるかい?」


こんなうまい話はない。もっと欲しくなってそう聞いた。


「もちろん。何度でもしてくれて結構だ。」


私はそこから30回ほど吐いた。最後の方は2、3滴のしずくが出るだけで、胃からものがなくなっていくのが分かった。

しかし、それと同時に私の手の中で札束が分厚くなっていく…。


まだいける。。


そこから、10回吐いて脱水症状を起こした。

しかし、借金の返済にはまだあと半分以上の金が必要だ。水を飲んで休憩し、飲んだ水をまた吐いた。

そして、5リットルほどの水をキャッチアンドリリースすることで、私はついに100万円を手にした。


すると、ちょうどいいところに借金取りが来た。


「元金利息あわせて100万円。今日中に返してもらおうか。」


返済は無理だと考えてか、彼らは武器のようなものをたくさん持っていた。

しかし、私にはその100万円がある。


「いいとも、これを受け取りな。」


100万円を差し出すと、借金取りは目を見開いて驚き、


「見直したぜ、にいちゃん!飯おごってやるよ!」


と私に言った。吐きすぎてお腹が減ったのと、借金を返済した喜びから、柄にもなくおごってもらうことにした。


「何でも頼んでいいぜ。」


中華料理屋に連れてもらうと、彼らはそう言った。お腹がすいていたので、微塵も遠慮せず、メニューの半分以上の商品を注文した。


はじめに餃子が届いた。

羽根がついていて、焼き目は綺麗なきつね色。中に肉汁が詰まっているのが透けて見える。ひたすらうまそうだった。


はしを持って一口で2つほど口に運んだ。

その餃子は噛み砕かれ飲み込まれると、

その直後、皿に帰ってきた。


オエッ


まずかったわけではないのに、餃子を吐き出してしまった。私は焦って水を飲んだ。


オエッ


私は水を吐き出した。

テーブルにはびちゃびちゃのぐちゃぐちゃの餃子が散乱し、私はものを飲み込むことができなくなったことに気付いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る