2, 方法 of the 密室

偽ストーカー事件から約3ヶ月後。





ここ、新登高校1年F組では、今日も話し声がこだまする。


「なぁ、府堂。」

「どうした、江舞。

なんか良いことでもあったか?」

「別に。」

HRホームルームが終わった教室には二人以外見当たらない。

ほとんどの生徒が部活動に参加してるためだろう。


「絶対なんかあっただろ。」

確かに府堂の言うとおり、江舞の顔は普段よりも明るい。

「いや、確かにあったけどね。」

「教えろよぉ。」

「いいよ。

えっとね、」


「ちょっと待ったー。」

不意に教室のドアが開き、日向が入ってきた。

「その話、私にも聞かせて。」

突如入ってきた日向に、江舞は困惑の表情を、府堂は喜びの表情を浮かべた。

「いいよな、江舞。」

「 あぁ。」

一瞬の間を置いて、江舞が答える。

そして、少し笑みをこぼしながら続ける。


「その代わり、最近駅前にできた喫茶店で1番高いケーキ、おごってくれよな。」

意外に江舞は女子っぽい一面があるらしい。


こうして、府堂は謎を解くことになった。











「あぁー、美味しい!」

「ったく、なんで俺がお前におごらなきゃならないんだよ。」

「話を聞きたい、っていったからな。」

どうやら、おごりの件でもめているらしい。もっとも、いつも見かける光景だが。

「うん、美味しぃ!」

日向も、府堂におごってもらってまんざらでもない様子だ。


「さぁて、じゃあ帰るか。」

江舞が、鞄を持ちその場を立ち去ろうとする。

それをすかさず府堂が止めた。

「おい、そのまま帰る気か?」

「うん。」

「話をしてくれるから、俺はおごったんだよ。」

「知ってるよ、冗談冗談。」

普段とは違って、珍しく江舞がペースを握っている。


「じゃあ、話そっか。

と言ってもそんなに長くならないよ。



この間、父さんが会社仲間と旅行に行って体験した奇妙な出来事なんだけどさ。


1日目は普通にチェックインして風呂入って寝ただけで終わっちゃったらしい。

で、2日目はまず、近くの山に登って、なんかいい景色を見に行ったんだって。いいよな。」

「それだけか?」

思ったより中身のない話に、府堂は少し苛立ちを見せた。

「俺はそれを聞くためにお前におごったわけじゃないからな。」

どうやら、話の内容よりかは、それで、おごらされたことに怒ってるらしい。

「まぁまぁ落ち着けって。

まだまだこれからだって。」

そういうと、江舞は真剣な顔つきで話を続けた。

「で、その日の夜。

父さんたちは宿に戻った後に施設の敷地内をあちこち見て回ってたら、なんか不思議な建物があったんだって。

見た目は物置っぽくて、父さんたちも始めは物置だと思ったらしい。

でも、その後に起きた事件でそれは違うな、って思ったらしいよ。」

府堂と日向が身を乗り出して聞く。

「「どんな事件??」」

「それを今から説明するから、待って。

で、その物置みたいな建物には、内開きのドアが1つと、反対側に小窓が1つあったんだって。

それで、気になった父さんたちは小窓から中を覗いたんだって。そしたら中には貴重そうな絵が壁に一枚飾ってあったらしいよ。」

「もしかして、その絵が盗まれたの?!」

日向が周りの目を気にせず、テーブルに体を乗り出して江舞に詰め寄った。

「うーん。ちょっと違うかな。」

「じゃあ、おしいってわけ?」

「まぁね。

で、そのとき、宿のスタッフの人がちょうど近くに来て『中見ますか?』て、言われたらしいの。それで、父さんたちは入ったんだって。」

「中には何が?」

「さっきいった、絵しかなかったって。

で、その不思議な事件って言うのが…」

「それが盗まれたのね…。俺には理解できないな。」

刑事志望の、府堂がまっとうな意見を述べる。

「俺に理解できないのはその後だよ。

しかも、盗まれたのとはちょっと違うし。

翌日の朝、父さんたちはその物置っぽい建物に行ったんだって。

でも、ドアが開かなかったから窓から中を覗いたらしい。そしたら、ドアに何か張り付いてるのが見えて、頑張ってドアの下の方を見ようとしたらしいの。そしたら…」

江舞が話を止める。府堂と日向も動きを止める。

彼らの周りの時が止まっているみたいだ。









つまり、それが邪魔でドアが開かないようになってた。

そして、。」

「っ…!」

驚きで、日向と府堂は言葉を失った。


「え、ってことはその絵を盗った人は中に突っ張り棒をつけてドアを開けさせなくしてから出たってこと?」

「たぶんそうなる。

でも…」

「そんなの無理だよ。

だって外から突っ張り棒を部屋の壁と壁の間に、動かないように張るなんて不可能だし。」

「そう。

しかも、その後父さんたちは宿の人を呼んだらしいんだけど、鍵を開けてもやっぱりドアは開かなかったって。」

「つまり、それだけ突っ張り棒は強く張ってたの?」

「あぁ、そうらしいよ。」

府堂と日向の質問に、江舞がテンポよく答えていく。

「最終的には宿の人が体当たりしてドアを開けたんだって。」

「へぇー。

確かに不思議だな。」

「でしょ。」

「て言うか、怖いよ!」

「あ、そういうことはよくあるらしいよ。しかも、その盗まれた絵は気がついたらまたその建物に戻されてるらしいし。

だからその筋では少し有名なんだって。」

「ふーん。

俺はそれよりもどうしてそんな状況が作れたか気になるな。」

「俺もだよ。だから府堂に相談したんだよ。」


「…!」

府堂が急に何か閃いたような顔をした。

「どうした、もしかして分かったのか?」

江舞が問いかける。

「あぁ、

ただこれはお前にとってメリットしかないんだな。」

「?!」

よく分からない答えに江舞は首をかしげる。

「だから、

「…今さら?

ハハハッ。」

江舞が高らかに笑い声をあげる。

「…畜生。」

府堂が悔しそうに声を漏らした。


「まあまあ、そんなことよりこの謎を解いてよ、未来の名刑事さん。」

「分かったよ。」

意外に切り替えが早いのか、府堂が謎について考え始める。


ーー突っ張り棒で内開きのドアが開かない…。

てことは強く張られていたってことか。

うーん。となると建物の外から突っ張り棒を張るのは無理だな。でもそれじゃあどうやって…。


「あの、ちなみによく起こるっとことは宿の人の対応も慣れてたんですか?」

「え、あ、うん。

鍵を開けたけどドアは開かなかったから、またか、みたいな感じで父さんたちを離れさせて体当たりしたらしいですよ、ってあなた誰ですか?」

突然隣に座っていた少年が話に加わってきた。

「あ、僕のことは気にしないで下さい。

最近この隣町に引っ越してきた、ただの名探偵です。」

「名探偵??!」

府堂が呆れたような声をあげた。

「そんなの、小説の中での話だよ。

現実では事件を特のは警察さ。」

「じゃあ質問ですけどこの謎をあなたは解くことができましたか?

あなた、刑事を目指してるらしいじゃないですか。」

「いや…まだだ。」

府堂が悔しそうに声を絞り出す。

「ほら、

「!?」

「!!」

府堂は疑問交じりの驚きを、江舞が純粋な驚きを表した。

ちなみに、日向は府堂が考えている間に新しいのを頼んだのか、ケーキを食べていた。


「おい、本当にお前解けたのか?」

「はい、じゃあ解けなさそうな未来の刑事さんにヒントをあげましょう。

『常識や先入観があったら解けない。』

ま、そんなもんですかね。

では、僕はこれで。」

こう言うと彼はその場を立ち去って行った。


「今の子、なんだったんだろうね。

まぁ、気にしないで謎を解いてくれ、府堂。」

「あぁ、中学生くらいだったかな?

ま、いいや。」

そう言うと府堂はまた考え始めた。


ーーもしアイツの言ってることが正しいなら常識と先入観を捨てないといけないのか。

うーん。当たり前を捨てるのか。


「いやー、それにしてもどうやって突っ張り棒を張ったのかがやっぱり鍵だよな。」

「そうだよな。でもそれが…」


ーーいや、もしや…





「待って、江舞。

。」




「本当か?」

「あぁ。本当にその方法でできるか頭の中で考えたけど、やっぱりこれしかない。」

「お、竜、解けたの?

流石っ!」

誉められた府堂はなぜかうかない表情を浮かべていた。


「まぁ、まずこれは先入観を捨てないといけない。 

あの、名探偵が言ってた通りな。」

どうやら府堂が暗かったのは、彼のヒントによって気づかされたからしい。

「この事件の真相はいたって簡単だった。




。」



「どういうこと、府堂?」

「簡単だよ。

突っ張り棒は突っ張ってなかったんだよ。


ドアに張り付いてたんだよ、多分。

しかも軽くね。」

「でもそれじゃあ、鍵を開けたら開くじゃん。」

「これがまた先入観があっちゃダメなんだ。






宿。」


「え?!

父さんたちを対応した人は、本当はただの泥棒だったの?」

「いや、正確には違う。

その宿泊施設全体が仕組んだんだな。

確か、その宿はその事件で有名になってるんだろ。

てことは、逆に言えばその事件のおかげで有名になったんだよ。」

「なるほど!

つまり、その宿泊施設では絵が消える事件を度々起こして、より有名になるようにしてたのね。」

「そう。

おかしいと思ったのは、盗られて戻ってきた絵を何度も何度も同じ場所に飾ることだよ。

普通、盗られた戻ってきたら気味が悪くて捨てるだろう。」

「あぁ。

簡単に言うと、突っ張り棒をドアに貼り付けて、窓から客にその様子を見せた後に、あたかも鍵を開けてもドアが開かないように見せて、体当たりで開けたら絵が盗まれていた、ってことか。

確かに棒が張ってると考えたら不可能だな。」

「その通りだよ、江舞。

そして俺は悔しいよ。

あの名探偵が先に謎を解いたことがな。」

謎が解けてスッキリした気持ちと、名探偵に謎を解かれたモヤモヤが、

彼の中に入り交じっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る