第2話 魔法学園

ガヤガヤガヤガヤ

わーわーわーわー

1-Bと書かれたその教室は学級崩壊と言うに相応しい荒れっぷりであった。


「はいはーい!みんなちゅーもーく!」

ざわっ

教室に入ってきた春賀の声にざわついていたクラスは一気に静まり、隣にいる彼女に全視線が向けられる。

「なんだ、あの綺麗な子」

「新入生か?」

「でも新入生が来るなんて話、1度も、、、」

「それにしても何でこんな時期に!?」

「いやーそれにしてもまじで可愛いわ」

ザワザワと玲奈を観察しながらクラスの者はコメントをもらす。

頬を赤めて見る女の子もいれば、男子の反応を鬱陶しく思い嫉妬する子、その顔を見て衝撃を受ける子、様々いる。

そして最後列には「あ。さっきの子だ」と言わんばかりに頬杖をついて笑みを浮かべる金髪の少年。

その隣に無表情で見つめる黒髪の男の子。

玲奈はそれ全てを感じながら無表情で立っている。

「今日からこのクラスで皆と一緒に勉強する橘 玲奈ちゃんだ。みんな仲良くするよーに」

「へえー、玲奈ちゃんていうんだー」

「名前も可愛いー」

ざわつく男子の中、前から4列目に座る薄紫色の髪をもつ美少女は戸惑いを隠せない目をしている。

「玲奈ちゃんからも何か一言」

ボソッと耳打ちする春賀に促され一言

「宜しくお願いします」と玲奈は頭を下げた。

ヒューーヒューーーー

「宜しくーーー」

「宜しくーーー」

「なあなあ、何の魔法使えんの!?」

「能力何!?能力」

「はいはい、落ち着いてー。それはみんな後で本人に聞いてねー」

「えーーーケチーーー」

「教えろよーーハルーー」

ブーブーと男子からブーイングが飛ぶが春賀は無視すると

「じゃあ玲奈ちゃんはこの列の最後尾の席ね」

と窓側の列、最後尾の席を指さした。

「はい、、、」

そう言うと玲奈は座席までの少しの斜面をの上っていく。

「ええー、遠いーー」

「いいなー奏斗ーー!!」

「え?え?」

「玲奈ちゃーん!こっちにおいでよーー!こっちも空いてるよーー」

(ここもうるさいな、、、。でも、まとまりを感じる。やっぱりハル、先生の影響かな?)

無言で自分の席への歩みを進めながら振り返り春賀を見ると、大丈夫と言わんばかりの笑顔を向けていた。


「よろしくね。私、梅宮桃花」

「私は岡崎奈々子」

「!」

上っていく途中、桃色の髪をもつ可愛らしい女の子と黒髪ロングでおかっぱの女の子が玲奈に声をかけた。

(あっ、、、)


【思ったこと、そのまま口にしたら良いんだよ】


「こちらこそ、よろしく」

たどたどしくだが、その言葉が嬉しくて優しく言葉を返す。

(笑った、、、)

(笑った、、、)

(やばい、、、可愛い)

その少しの笑顔だけで桃花と言う少女だけでなく、それを見ていた男子達の頬が赤く染まる。

「へえー、そんな顔もするんだ」

「、、、、、。」

最後尾では楽しそうに見つめるレンと、少し眉間にシワを寄せ、机に足を置いている翔の姿があった。


「玲奈、、、、」

「!」

「玲奈、、、?」

5列目にさしかかかったとき、薄紫色の髪の少女が戸惑った目で玲奈に声をかけた。

玲奈は無表情でその少女を見やると席に向かい歩きだす。


「やぁ」

そうして最後尾についた瞬間、通路を挟んで隣の席に座るレンが翔越しに声をかける。

玲奈はそれよりも自分を睨む翔の存在に目が向いていた。


「こ、こんにちは。はじめまして」

自分の席の横側に座る優しそうな少年・奏斗がオドオドしながらもピリピリした空気を払うように声をかける。

「、、、こん、にちは」


ガタと席に座るのを見計らうとパンパンと手を叩き、春賀が授業開始の合図を出す。

「じゃあ授業はじめまーす」

「教科書21Pを開いてー!玲奈ちゃんはまだ教科書ないから高畑君見せてあげて!」

「は、はい!ど、どうぞ」

「、、、ありがとう」

(いいなぁ、、奏斗のヤツ)

(羨ましいぜ)

「、、、、、。」

「、、、、、。」

様々な思いが交錯する中、薄紫色の髪の少女と翔、そして黒髪のカールの少女が複雑な目で玲奈を見ていた。



キーーンコーーンカーーンコーーン

「じゃあ今日はここまで。明日までに400字のレポート書いてきてねー」

「はあ?明日ー?」

「ふざけんなよぉー」

「鬼畜ハルーー」

「はぁーーやっと終わったーーー」

教材を持って教室を出ていく春賀を見て、生徒達はブーイングをもらすー。

余程ハードな授業だったのか終わった瞬間みんなグッタリしている。

それを苦笑してから春賀は玲奈を見やり、優しく微笑むと教室を出ていった。

(頑張って、、ね)



「どうも、ありがとう」

「いえいえ、また困ったことがあったら何でも、、、、うわっ」

どーーーん!

奏斗の話を押して遮ると、男子たちが玲奈の周りを囲む。

「!」

「なあなあ、玲奈ちゃん!この後空いてる?」

「おい、テメエずりぃぞ」

「ホントだりぃってか疲れるよな、ハルの授業」

「おいおい、そんないっぺんに話しかけるなよ、困ってんじゃねえか」

「困ってんのか、これ」

確かに玲奈の顔は困っているというよりは無表情に近かった。

「ちょっちょっと皆落ち着こうよ、玲奈さんに失礼だよ」

「ああん?何だよ奏斗」

「いいよなー、お前はずっと玲奈ちゃんの横で授業受けてたんだもんな」

「えっ?ちょっと」

「90分も隣に座れて、しかも1つの教科書共有してさーー」

「もう!変な風に言わないでよぉ」

「変な風に?別にいってねえだろ。そのまんまの意味じゃねえか」

「何だよ、お前こそ変な風にとったんじゃねえか?」

「、、、、。」

「や、やめてよぉ」

「どうなんだよ?奏斗く、、」

「うるせえ!」

玲奈が耐えきれず席を立とうとした瞬間、翔の低く重い声が響いた。

シーーーーン

「すみません、翔さん」

玲奈を取り巻いていた男達は一斉に静まり返り謝る。

玲奈はその光景を見、無表情で翔へと視線を向ける。


「ほっんと!!翔くんの言う通りだわ。ガキねぇ、アンタたち!五月蝿いのよ!」

すると次は高い声が静まり返った教室に響く。複雑な目で玲奈を見ていたセミロングの黒髪カールの女の子がこちらに向かって歩いてくる。

「何だと!?」

「お嬢様かなんだか知らねえが偉そうにしてんじゃねえぞ!伊藤!!」

「悪かったわね、お嬢様で。あんた達とは元々の格が違うのよ」

「何いぃ?」

「喧嘩ふっかけてこないでくれる?それより聞くことがあるでしょう?」

「?」

「彼女が何の能力者かってこと」

「、、、、。」

「そういえば聞いてなかった!何の能力持ってんだよ!お前」

「、、、、。」

「別に隠すことねえだろ?教えてくれよ」

スッ

玲奈は立ち上がると教室を出ていこうと歩き始める。

「お、おい」

「なんだぁ?」

「何で何も言わねえんだ?」

「怒らせた?お前だろ」

「いや、俺じゃねえお前だ」

ぎゃあぎゃあ

騒ぐ後ろを他所に翔の座る椅子を通ろうとした瞬間、

「お前、やっぱり何者だ?言えねえ理由でもあんのか?」

翔は椅子から背中ごしに声をかける。声は酷く冷静だが目はとても笑ってはいなかった。

「そうよ!大体こんな時期に転入ってのもおかしいのよ。本当にあなた能力者なの?」

「、、、、。」

「固まってないで何か言いなさいよ!!!」

「ちょっ、ちょっと伊藤さん!」

ザワザワ

「、、、言いたくねえなら試すのが一番だ。やれ」

「は、はい!」

取り巻きのうちの1人が翔の合図で玲奈の前に立つ。

「わりぃな。玲奈ちゃん!心読ませてもらうぜ」

「、、、、。」

ザワザワ

みんなが心配した面持ちで見つめる。

手を出し能力を発動しようとするその少年に無言で玲奈は向かい合った。

「「うるさい」、、、」

「何ぃ!?」

ブワッ

「ーっ!うわあああ」

聞き取れた言葉はその一言だけ。次に読み解こうとした瞬間、その少年は壁まで吹き飛ばされてしまった。

「ーっ!」

ザワ

驚きを隠せない。少女は表情も手も足も何も動かしてなどいないのだ。

「へえー、仁くんの魔法がここまで聞かないなんてねえ。初めてだよね」

皆が動揺隠せない中、レンだけはその光景を楽しそうに見ていた。

「すげええ」

取り巻き達は興奮を隠せない。

「ーっ!何今の魔法、、、あなた、、、」

「てめえ、一体何者だ!?」

何者と、伊藤と呼ばれた少女が言おうとした瞬間、椅子の背もたれを飛び越え翔が声を荒らげた。

「翔くん」

「ちょっと!みんなもうやめようよ!春賀先生も言ってたじゃない!仲良くしようって!こんなの良くないよ!」

「そ、そうだよ!やめようぜ!翔さん」

奏斗や仁、取り巻きたちが静止の声を上げるが翔はもはや聞く耳を持たない。

「あーあ。スイッチ入っちゃった」

「、、、何者かわからねえヤツをコソコソとここにおいとけるわけねえだろうが」

「そうよ!内通者かも知れないのよ!?」

「、、、、、。」

「、、、、俺が直々に相手してやる。」

「え?翔さんが直々に!?そりゃまずいっすよ!」

「玲奈ちゃん!早く能力を言って!翔さんを相手にするのは危険です!!」

「隠す必要はわからないけど、本当に危険だ!頼むよ!」

ザワザワ

「先生呼びに行った方がいいんじゃねえか?」

ザワザワ

「玲奈、、、」

薄紫色の髪の女の子は心配そうに見つめている。

「うるせえ。お前らは黙ってろ!言う気がないんならやるかやらねえかはっきりしろ」

「、、、、わかった」

「ーっ!!マジで言ってるのか!?」

「玲奈ちゃん!今からでも遅くないからやめるよう言って!」

「危険すぎるよ!玲奈ちゃん!!」

「翔くんも落ち着いて!やめようよ!こんなこと」

「、、、いいよ。それであなたの気が済むのなら」

ザワザワ

「ヒューー」

「余裕だな。1度俺を吹き飛ばしたぐらいで」

ザワザワ

(翔さんを?)

(吹き飛ばした!?)

「交渉成立だな。おい、お前」

「はい!」

「俺ら2人を広いところへテレポートさせろ」

「えっ、あっ、はい!で、では行きます!テレポート」

取り巻きの1人が2人に触れた瞬間、3人はそのまま光って消えた。

残された者達は呆然と立ち尽くす。

「ま、マジか、、、」

「な、何がなんだかサッパリわかんねえ」


「お!おい!運動場だぞ!運動場にテレポートしてる!」

窓側に立っていた取り巻きが窓の外から顔を出して声を放つ。

「ま、まじか」

「本気でやるつもりだぞ!」

「とりあえず運動場だ!!行くぞ!」

「お、おう!!」

ドダダダダダ


「わ、私達は、先生に」

桃花を含めた慌てる女子達を止めたのは他でもない薄紫の髪の少女。

「芹本さんっ!」

「心配しなくてもハルはこのことに気づいているはず。むしろこの事態を予想していたはずよ」

「えっ!?」

「それより私たちも運動場に向かうわよ」

「う、うん」

タタタタタ

そういうと教室に残っていた女子は運動場へと走って向かう。

(バカ玲奈、、、。よりにもよって1番やばいヤツを相手にするなんて、、、どうなるかわかってるの!?)




運動場にテレポートで飛んだ玲奈と翔は無表情で向かい合っていた。

運動場には強い強い風が吹き抜けていた。

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