アル・アジフの原典 編

第1話~砂漠の果て~

 凍てついた暗夜の砂漠に風が吹きすさぶ。風は青白く光る砂丘を削り、群青色の星空へ砂塵を巻き上げる。白い月光に透かされた砂は、どこいくあてもなく、宙を漂っては消えていく。


 渇いた白砂の大地は、あらゆる豊かな生命を受けつけない。毒を持つ狡猾な蠍や、矮小な甲殻を持つ小虫が、かろうじて岩陰の隙間に潜んでいるだけだ。そんな虫たちも、じっと息を潜めて、険しい夜の寒さをしのいでいる。


 東の方角にある大きな砂丘の影から、人影が姿を現した。


 かなり大柄な人間の男だ。厚い外套を着込み、顔にも頑丈な布を覆っているが、顎の下には濃く伸びた髭がちらつく。


 フードの奥の双眸は静かな光を含み、目尻には深い皺が刻まれている。


 長年の旅路に慣れた歩きぶりをしている男は、舞い散る砂塵を物ともせず、悠然とした足取りで砂丘の稜線を渡っていく。


 多くの砂丘の峰が山脈のように連なり、そこから一歩でも足を滑らせたら、すり鉢の中に滑り落ちるだろう。


 そんな男の行く手を阻むように、激しく吹き荒れる烈風が砂嵐を生み出す。さらに退路を断とうとするかのように、砂に浮かんだ足跡をすぐさま風が散らしてしまう。


 それでも進む男の足に迷いはない。目指すべき場所を定め、確固たる意志を持って突き進んできた者だと分かる。


 そして男の視線の先には、巨大な王族の陵墓が、砂漠の中心でそびえ立っていた。

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