5章8節:混戦6

 あいつら傭兵経験でもあるのか? と、ディードがクロード達と話し抱いた感想であった。


 傭兵は今日は敵でも、決着がつかなかった場合後日味方として一緒に戦う。なんて事はよくある。そのせいか利害が一致した場合、何か特別な理由がなければ協力的になる奴ばかりだ。


 ゴーレムを切り伏せ、周囲を今一度確認する。クロードがゴーレムの大半を倒し、森に入っていったおかげで、周囲にはゴーレムの瓦礫が至る所に散らばっている。

 そしてこの間も奴には襲われていない。となると、確実に仕留めるため此方の消耗を待っていると見える。


「おっと」


 リリーシャスを見失い、次の標的をアリス達に変えようとしていた暴走体の注意をひくため、ナイフを投擲し攻撃する。

 ソレは奴の背中に入る小さなヒビに命中し、金属音と共に回転しながら宙を待った。命中箇所から塵が落ち、目線がディードを捉える。

 彼の思惑通り標的が変更され、振り向きざまに魔矢を放たれた。

 難なく避けると、近づいてきたゴーレムを斬り伏せ走り始める。


「スラ。お嬢ちゃんがそっち行ったらギャスと一緒に此方来い」


 クロードに渡された通信機を一旦切り、ギャスに通信を飛ばす。


『えっと、どう動けばいいかって聞いてるギャ』


 通信機からギャスの声と共に、戦闘音が聞こえて来る。


「そうだな。誘き出すから、グール倒した後、少しの間あの暴走してる奴の注意を引いて欲しい」


 そう言うと、飛来してきた魔矢をゴーレムを使い強引に防ぐ。


『分かった。けど無茶する気じゃないよね? って書いてるギャ』

「無茶しなきゃ野朗は出てこねぇし、この場で仕留めらんねぇ。どう注意引くかはスラに任せるから、宜しくな」


 そう言い終わると、盾にし立ったまま停止したゴーレムを蹴る。ソレはゆっくりと倒れた。


「来いよ」


 暴走体との間に40枚の壁を生成し、「アバズレ」と続け挑発する。

 この挑発に意味があったかは定かではないが、奴は思惑通り彼に向け弓を引き絞る。

 放たれた魔矢は壁を全て無効化し、半歩捻ったディードの左肩を貫いた。


「っぐ!」


──さて。


 ハルバードを消しながら、大げさにその場に膝をつき魔矢が刺さった左肩を抑える。暴走体は声なく笑うと、ゆっくりと次射を準備し始める。

 ディードは奴との間に50枚の壁を張り、周囲に目線を送る。すると、複数の爆弾が投げ込まれ、急いで周囲を2重の壁で覆う。


「やっとか」


 爆発が起き、壁が破壊され煙が舞い上がった。

 次の瞬間、魔矢が放たれ、同時にグールがゴーレムの影から姿を現しディードに後方から近づく。


「スラ!」


 放たれた魔矢が壁を無効化し、破壊し始め残り2枚と言う所で壁に弾かれ消え去る。それを見た暴走体は驚き叫び、その叫び声が響きグールの足音をかき消す。

 彼はナイフを投げ、ディードが居るであろう箇所を飛び越え着地すると、新たなナイフを持ち突き出しながら前に出る。


「掴め!!」


 その声と共にグールは水の腕に首を捕まれ、持ち上げられてしまう。


「な、に!?」


 苦し紛れにナイフを投擲するが壁に阻まれ地面に落下した。


「っは、やっと捕まえた。この"手"は知らなかったろ」


 首筋から水の手が生え、不敵に笑うディードの姿が現れる。


「離せっ!!」


 彼は何かを確認すると、立ち上がりながらハルバードを生成しグールを更に持ち上げる。

 数瞬後、グールの腹部に魔矢が突き刺さり、少量の血が流れる。


「嫌だね」


 そう言いながら、ハルバードで奴の残っている手を斬り裂いた。


「そーらもう一発!」


 更に放たれた魔矢は、ディードの頭を狙ったものであった。

 その射線上に奴の頭をあわせ、彼は最小の動きで避ける。結果、奴の頭を貫き腕をかき消して地面に突き刺さった。


「肉壁、ご苦労」


 彼が望んでいた通り水の手は離れ、力なく地面に倒れこみ奴は動かなくなる。


「っはー! やっと倒せ──」


 空に目線を向けると、居るはずの敵の姿がなかった。

 と、いきなりディードの視界がブレ、何かに弾き飛ばされた。と理解したのは半壊の民家の壁を破壊し倒れ込んだ時のことだった。


「がぁ・・・・・・ハァ・・・・・・コロ、ス」


 掠れる視界で捉えたのは身体に結晶が付着し、剥がれた箇所の身体が更に異形の物へと変わっていた暴走体の姿であった。

 腕の1つが弓と結びつきボウガンのような形状へと変化していた。そして、3本だった腕が4本となり、新たな腕は剣のような形状となっており、雰囲気も常軌を逸している。だが、それと同時に幾つかの箇所でひび割れが発生していた。


「おいおい、マジ、かよ・・・・・・」


 壁を生成しようとするがうまくいかない。薄れゆく意識の中、死を覚悟する。

 暴走体に水魔法による横撃が襲い、よろめきながら視線を向けるとギャスが顔に張り付き視界を奪う。


「ディードさん大丈夫ですか!?」


 リザ之助の声が聞こえ、彼の身体が抱きかかえられる。


「たす、かっ」


 彼は最後まで言うことなく気絶する。


「プッチさん、ディードさんを確保しました」


 リザ之助は通信を飛ばしながら走り始める。


「わ、わかった、ギャー!?」


 ギャスは掴まれ、投げ飛ばされた。そして、ボウガンを向け発射されるが直前で氷魔法の攻撃により狙いがずれる。


「助かったギャー!」


 そう言いながら、ゴーレムの瓦礫の裏に居たスラの所に急いで飛んでいき、背中にのせると逃げるように飛び始める。


「で、でで、どうするの!? これ!? 私達」


 暴走体は次の標的をギャス達に決め、魔矢を放ちながら追い始める。撃たれたそれは器用にゴーレム瓦礫や民家を盾に使いながら飛ばれ、地面やそれらに突き刺さっていく。


「完全に狙われてるんだけどぉー!!!」


 「黙って」と書き、スラは球体状の水魔法をばらまき始める。そして、奴が射程範囲に入ると、細長く形状が変化し殺到し始める。

 その殆どが無効化され、弾かれるが幾つかヒビが入った箇所に浅く刺さった。

 「プッチちゃん、今から書く事を伝えて」と書き、デカイ1発を暴走体に食らわせた。



「まさか、一時的とは言え荷物まで全部押し付けられるとは思いもしませんでしたわ」


 1人の少女を脇で抱え、とても重いカバンを背負ったリリーシャスが、近づいてくるゴーレムを片っ端から砲撃で破壊しながら低空飛行していた。

 怖がっているのか少女目には涙が貯まっており、非常に戦いにくい状況になっていた。


『・・・・・・ん、分かった。クロード。ちょっとサクラの相手頼める?』

『いいよ。けど、村の子は大丈夫?』

『リザさんがそっち行くだろうし、平気でしょ。7位も居るしゴーレムには遅れはとらないだろうし』

『了解。あ、リリー。メガネがないアレシアさんの死体を確認したよ。ミラは何処にいるか分からない』

「分かりましたわ。となると。・・・・・・それはそれとしてアリスさんはどうするつもりで?」

『ちょっと、12位たたっ斬るだけ』

「たたっ斬るって・・・・・・アレを?」


 死角から迫っていたゴーレムに砲門を向け、トリガーを引き破壊する。


『そう。今、妹ちゃんが逃げながら探り入れてるから倒しきる』

『ちょっと待ってくれるかな。彼女、元に戻したいんだけど先に試したい事やってもいいかな』

『アレシアが、もう無理、って言ってた』

『・・・・・・分かった。アリスさん。申し訳ないけど頼むよ』

『任せて』


 リリーシャスは強気だと思いながら、砲門を近づき腕を振りかぶっていたゴーレムに向けた時の事だった。ソレは急に活動を停止し、崩れ去ったのだ。


「あら・・・・・・?」

『どうかしたかい?』

「ゴーレムの活動が停止しましたわ。シャローネさん、クロードさん何かしましたでしょうか?」

『知ら、ない!』

『僕も知らないかな』


 となると、該当者は1人しかいない。


「了解しました。アリスさん援護は?」

『邪魔』



「邪魔、って。流石、1位は、言う事が、違う」


 投擲されたナイフを木の裏に隠れ、防ぐと飛んできた方向に振動させた魔矢を飛ばし順次爆発させていく。

 だが、手応えは一切なかった。

 シャローネは適当に弓を引き、深呼吸をする。


 このまま中距離戦の化かし合いは、埒が明かない事は理解出来ていた。

 理由としては、魔力は愚か気配すら一切感じず、視認するか"風魔法の感知範囲に入る"まで一切気がつけない点。このせいで、援護で行っている雑な攻撃しか出来ない。

 1言で言うと「やりにくい」という言葉しか浮かばない。彼女にとってホームグラウンドとも呼べる森の中の戦闘が、逆に仇となるとは思っていなかった。


「強いな。初撃以外中々寄らせてもらえない」


 逆にシャローネの相手をしているギアナは、なぜ此方の位置が完全に分からないのに、此処まで戦えるのかという疑問が生まれていた。

 誘いで使っている魔法も全て看破される始末。この中距離戦での戦闘では、埒が明かない事はシャローネ同様彼も理解していた。


「で、クレイド。アドルファスの野朗は死んだんだな?」

『死んだね。で、どうしようか』

「そうさなぁ。ちと癪だが、本来の目的通りに動こうや。俺っちもそっちに行く」

『いや、兄貴はそのままそいつ抑えててよ。援護が面倒ってもんじゃないからさ』

「そうかぁ? 分かったそうするさね」



「だって本当だからね」


 放たれたアリスの居合とサクラの斬撃が相殺され、火花が飛び散る。隙を見てアリスは彼女を蹴り落とした。


「んな!?」

「任せたよ。クロード」


 彼女はそう言い残すと移動し、サクラは体勢を整え追おうとするが下から攻撃が迫り、体を回転しながら斬り払うと、そのまま地面に着地する。


「・・・・・・あん?」

「此処から先は僕がお相手するよ」

「あーあー、はいはい。邪魔すんなよ! 君さぁ!!!」


 縮地で一気に距離を縮め斬撃を放つが難なく防がれ、驚くも流れる動作で居合を放つもそれをも防がれる。そして、彼女の顔に突きが迫り、避ける様に距離を取ると、サクラは見下すような目で彼を見る。


「ははぁ~ん。なるほど、君ぃ、加護持ちかぁ。へぇ、ふぅん。ほぉ? あははは!」


 小馬鹿にしたような態度をとり、笑う。


「ごめんねぇアリス。私、先にコイツ殺したいなぁって、思ってさぁ。・・・・・・ホントさぁ、君ら見てると反吐が出る」

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