4章10節:急襲

 翌朝、ディードは日が顔を出す前に起き燻製の様子を見に燻製窯を開ける。

 良い感じに出来上がっており、魔力でナイフを作り、肉を1口分切り出し口に放り込む。


「ん~、こんなもんだな」


 肉を取り出し袋に詰めていく。

 骨を吐き出すと、民家を後にする。

 昨夜リザ之助が火を起し、調理を行っていた場所に向かうと、彼も起床しており朝食の準備を始めていた。


「あ、ディードさんおはようございます」

「おはよう。アリスは?」

「今はあの子が寝てる民家で寝てます」


 「そうか」と答えながら、火の前に腰掛ける。

 その後、2人で朝食をとり、今後の動きの相談をしていると、アリスがあくびをしながら歩いてくる。


「お、あの子はどんな感じだ?」

「今は寝てる。いい夢は見てないみたいだけどね」


 つまり、うなされていると言う事だろう。予想出来る内容としては暴走体がこの村を襲った内容辺りか。

 すると微かに爆発音が聞こえ、目線を聞こえた方角に向けると、1筋の煙が上がっていた。


「リザ助、出発の準備しろ。アリスはあの子起こしてこい」


 ディードから指示が出て、各々動き始める。

 彼は自信とあの魔眼所持者の少女が眠る民家を囲むように壁を生成していき、周囲の警戒を始める。

 すると、2度目の爆発音が聞こえてくる。音は大きなり、立ち昇った煙も先ほどより大幅に近くなっていた。


「おいおいおい、近づいて来てんじゃねぇか!」

「此方は準備出来ました」


 リザ之助は荷物を入れたカバンを背負いながらそう言った。


「分かった。後は・・・・・・」


 ディードは民家の方に目線を向けるとちょうどあの子を背負ったアリスが民家から出てくる姿が目に入る。

 少女の頭には下からギャス、スラの順で乗っており眠たげな表情を浮かべていた。


「よし、此処から離れ──」


 突然、何かの攻撃を受け、爆発があった反対方向の壁の一部が破壊され、消し飛んだ。その箇所を目線を向けつつ、生成していくと1人の男性が何かを投げ込む姿が映る。


「こなくそ!」



 壁の中で爆発があり、その様子を村の外から見る1人の男が居た。


『兄貴、どう?』


 兄貴と呼ばれた男の頭で男性の声が響く。


「あの程度じゃだめだな。報告にあった通り踏み込まなきゃ仕留めらんねぇなぁ」


 煙の中から、無傷で出てくる一行の姿が映る。


「サクラちゃぁ~ん。もうひと当て行ってみようか~。立ち止まればよし、それでも逃げるってんなら好きにやっていい」

『分かった。ちゃぁんと逃げてよねぇ。ア~リ~ス~』

『それは困る。俺がアレをわざわざ"連れて来た"意味があまりない』


 サクラが放った攻撃が奴らの壁の一部を消し飛ばし、足を止める姿が見えた。男は笑みを零すとサクラに攻撃を辞めるよう言い渡す。


『あぁもう! なぁんで逃げないのさぁ!』

『向こうも馬鹿じゃないって事でしょ。兄貴、僕達はどうする?』

「あぁ? そうさなぁ。こちとらの思惑はなんとなく透けてんだろうし、サクラちゃんに至っては存在が悟られてそうだが・・・・・・予定通り俺っちは一旦潜伏する。クレイドは出来うる限り俺っち好みの戦場に操作してくれ。アドルファスは勝手にうまくやんな」

『わかっている』

「いい返事だ。後、サクラちゃん。君はどちらにしろ、もうすぐ戦闘にでてもらうつもりだから」

『本当?』


 上ずった声でそう返ってくる。


「あぁ、本当だとも。ただ、ちょくちょく俺っち達の指示にしたがって貰うが」

『はぁ・・・・・・』


 今度は露骨に嫌そうなため息が聞こえ鼻で笑う。

「ま、ほとんど好きにやらせるから、そのつもりでいてくんな」


──俺っち達が居る事は分かる。にも関わらず表の戦闘には参加しない。怪しむよな。不思議だよな。何考えてるか分からねぇよな。そして直前で聞いたあの情報。くはは、どう動いてくれるかお手並み拝見といこうか。それを眺めて、戦って楽しんで任務は遂行する。


「今回の仕事は実に楽しくていい」



 足を止めた以後、謎の勢力からの攻撃は来なくなった。

 そして、爆発も3度目が起き、挙がった煙は目の鼻の先まで迫っていた。どうやら爆発の主と俺達をかち合わせたいらしい。

 向こうの対応を見る限り、かち合わせたい相手は制御出来るような奴じゃないだろう。

 ハルバードを生成し、スラを呼ぶと水の文字が書かれ始める。


 「多分、話にあった暴走してる人だよね。アレ。逃げると無理矢理挟撃みたいな形にされそうだし、此処で受けても隙見て攻撃されそうだし、先に第三勢力叩く?」と。


「いや、手の内が"まだ"分かる相手からだ。手間取ると結果は変わらんだろうしな」


 この動き、実力が低いとしても先に叩こうとすれば時間稼ぎをされるのは明白。それに正確な数も不明でおいそれと相手をするには危険であった。

 とはいえ、完全に無視するわけにもいかない。相当戦いにくい状況にはなるだろう。


 「分かった。プッチちゃん飛んで」とディードを指す矢印が書かれ、言われた通りに飛ぶ。彼の近くまで行くと飛び移り、肩に乗り彼の首すじにキスをした。

 キスをされた箇所に小さな魔法陣が浮かび上がる。


「さんきゅ、向こうは任せるぞ」


 スラは「わかってるよ。あなたも、気をつけて」と書いた後、再びギャスに飛び移る。


「んギャ! もっと優しくして欲しいギャ。で、どうするギャ?」

「俺とアリスでメインの戦闘をする。リザ助とギャスはスラに指示仰いでそいつ守れ」


 と、ディードはアリスの背中で震えているケイを指さしそう言った。


「えーっと、ケ、イ。降ろすよ」


 そうアリスが問いかけるも、しがみつき首を横に振る。


「ダメ。降ろす。戦えないからね」


 無理矢理降ろすと、しゃがみ頭を撫でながら微笑む。


「大丈夫、守るから」

「ちが、う。・・・・・・逃げ」

「平気、もう慣れてるから」


 そう言い残すと、立ち上がりディードの元に歩いて行く。


「兄さん、わかってると思うけど」

「まともに攻撃受けんなだろ? やなこって」


 今回の暴走者の神器、魔矢は魔法の無力化が付与されている。という話はもう聞いているし、生半可な枚数の壁では、その攻撃に無力。太刀打ち出来ないのは先刻承知の上だ。


 だが、無効化魔法で消費される魔力は何処から供給されるのか?

 推測される答えは魔矢自体の魔力を使用している。もしくは無効化魔法を"エンチャント"させたもの、の2つだ。


 前者ならば防衛する事に魔力がすり減り、無効化魔法と火力を共存させているが故に、威力が落ちるもしくは魔矢がいずれ消滅し防ぐことが可能。


 後者ならば、威力が落ちることはないが、エンチャントされた魔力が消滅した瞬間はただの魔矢となり防ぐことが可能。ただし、遠距離武器で行うエンチャントは魔力を生成、移転させ付与させる方法が使用されている。つまり、エンチャントが切れた瞬間でなければ壁で防ぐことが出来ない。

 

逆に言えばタイミングさえ見極めきれれば防ぐ事が可能という話でもあるが、転移魔力を余分にかつ転移間隔を短くすれば剥がれる前に再エンチャントが出来る。が、かなり高度な技術なため、出来るかどうかは技量次第と言った所。

 だがこれはあくまで"彼が持ち合わせている知識"での話である。

 別の魔力配分で魔矢が構成されている可能性もあり、無理にでも数度防衛しある程度見極めておく必要がある。とディードは考えていた。


「そう言うと思った。無理はしないでね」

「わーってる。スラを残して先に逝く分けにはいかんからな」


 村の外縁部で4度目の爆発が起き、煙の中から背中から羽が生え、3本腕があり、1本の角が生えフェイルノートを携えたミリーの姿が現れる。

 「さて」と呟きながら、正面の壁の枚数を急激に増やし始める。


──誰の掌の上かは知らんが、今はおとなしく踊ってやる。ただし。


「思惑通りに事が進むと思うなよ。この野郎」

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