3章3節:買い物1

 最後に唯一の男性であり、彼女らの切り札。クロード・スカイ。例外処置が成されているため、順位はなし。

 彼の能力そのものは良くも悪くも平凡の一言。

 しかし、彼には切り札至らしめている能力がある。それは加護と呼ばれている代物だ。


 この能力は稀に発現し、所有者は20歳から25歳の間に自然と効果がなくなり、消滅するまでは恩恵を受けられる。その恩恵と言うのは発動条件は人によってそれぞれだが、効果は一律して身体能力の強化及び魔力の強化である。


「これも概要くらいしか知らないから踏み込んで説明出来ないんだけど、攻撃が当たりそうなのに当たらないって事なかった?」


 スラはこれまでの戦闘を思い出しながら「いっぱいあったよ」と答える。


「それ。自然と能力が上がってて気がついたら勝てるのか分からない。勝てる気がしないみたいな感じ。私も手合わせした事あるけど、普通にやったら勝てないだろうなっていなされ方された。と言うか本気でやっても勝てるか分からない。これなんてどうだろ?」


 特に大きいカバンを手に取り眺める。

 「いいんじゃない?」と書かれコレに決めると、レジに持っていく。


「2000バーツになるよ」


 店主にそう言われ、ちょうど2000バーツを支払った。


「まいど、旅人かい?」

「はい。そうですけど、どうかしたんですか?」


 アリスがそう言い、店主は何やら考えた後、1つの話をしてくれた。

 この付近の話ではなく、此処から西に向い、中立地帯を抜けさらに西に進んだ所の国境近くの魔物領で異変が起きているという。


 店主は念のためと地図を出し、大体の位置を指で指した。その場所は目的地より更に北西に向かった場所であった。

 噂ではそこの土地で意思疎通が困難の魔物を束ね、治めていた主が病で倒れた。いつも荒れている場所とはいえ更に荒れ酷い有様になっているとの事。


「だからよ、嬢ちゃん達気をつけてくれよ」

「情報ありがとうございます。では」


 お礼を言い店を出る。


「目的地の近場じゃないけど、気をつけないとね」


 そう言いながら、歩を進ませ始める。


 「そうだね」と返され、アリスはそうそう。と思い出したかのように続け、説明の最後を簡潔に伝える。


 クロードが扱う神装武具は光霊魔装こうれいまそう‐ティルフィング。

 人伝に聞いた事だが、彼は過去に自身の神装武具を1本破壊しているらしい。何があって破壊するような事になったかは定かではない。


「で、妹ちゃん達との戦闘で、って思ったけど違う?」


 と聞くが「壊した事なんてないよ」と書かれ「違うか」と落胆した声でアリスは返した。


「まぁいいや、食べ物早く買って帰ろう」


  改めて街を見渡すと、レンガで作られた建物が目立ち、子ども達が至る所で遊んでいたり、家の手伝いで汗を流していた。

 街を流れる川は綺麗で、太陽の光りが反射し輝いて見えた。


「・・・・・・今更だけどいい街だね」


 街を見渡しながら、話しかけるようにそういった。

 程なくして、対向から歩いてきた男性と肩がぶつかってしまう。


「あ、すいません」


 アリスは立ち止まり、振り向きながら謝罪を述べるが、男性の態度を見て瞬時に目が据わった。


「痛いわ~、そっちからぶつかっといて謝罪だけってそりゃないよねぇ?」


 小汚い服を着た男性はヘラヘラ笑い、ぶつかった肩を手で抑えながらそういった。それが合図だったのか、路地からぞろぞろと3名ほどの彼の仲間と思われる人物が現れ、彼女を囲む。


「っち、前言撤退。妹ちゃんカバンの上に移って」


 そう言いながら刀の刃先が下側になるように持ち替え、右手で左手で持っている刀の柄に振れた。

 スラは言われた通りカバンの上に移動するとあくびをする。


「おいおい、つれねぇじゃないの」

「ダメッスよボス~こういう時は優しくリードしてあげないと」


 奴らはヘラヘラと笑い、そのうち1人が手を伸ばした瞬間だった。


「・・・・・・は?」


 間が抜けた声を出し、差し伸ばした腕はあらぬ方向へと折れ曲がっていた。そして、叫びながら腕を押さえその場にしゃがみ込む。


「俺の、俺の腕がっ! 俺──」

「五月蝿い」


 鞘でしゃがみ込んだ男の顔を殴ると、声にならない叫び声と共にその場に倒れ意識を失う。

 残りの男はその光景をただ見て呆然と突っ立ていた。

 アリスはため息と共に持ち替えていた刀を元に戻し彼らを避け、再び歩き初める。


「あっ、ま、待ちやがれ!!」


 ボスと呼ばれ、最初に肩をぶつけた男性が彼女を追いローブを掴もうとする。

 だが、掴んだはずのローブは手中にはなく、空を切るだけであった。彼女は、彼が認識して居た場所から右にずれた位置に存在していた。

 男は足を引っ掛けられ、転がるようにしてコケる。


「いてぇ・・・・・・く、そ」


 男は立ち上がろうとしたが、そのまま体勢を崩し再び地面とキスをする。

 右足に目線を送ると、切断された足と傷口から夥しい量の血が出ている光景が眼光に広がる。足を押さえ、叫び声を挙げた。

 すると、男の目の前に1つの小袋が落ちてくる。緩く縛られていた袋の口から薬草が溢れ出て来た。


「次は無いから」


 そう言い残すと、アリスは再び歩を進ませ始めた。

 後方から「ボス」と何度も呼ぶ声が聞こえ、ため息を付く。

 「対応慣れてるね」と書かれ、「1人で旅してたからね」と不機嫌そうに返した。



「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 森に1つの叫び声が轟き、木に留まっていた鳥が一斉に飛び立っていく。


「おい、ギャス。何やってんだよ」


 叫び声を聞きつけ、走って来たディードが見た光景は、誰かが仕掛けた罠にギャスが引っ掛かり、宙吊りになっている状態であった。


「わ、罠に引っかかった・・・・・・ギャ」

「んなこったぁ、見りゃ分かんだよ」


 指を鳴らすと、ロープが切れギャスは落下し地面に叩きつけられる。


「飛べばこんなもん引っ掛かんねぇだろ?」

「あいたた・・・・・・疲れるんだギャ。だからちょくちょく飛ばないようにしてるんだギャよ」


 立ち上がり、足に巻き付いているロープを解くと自信に回復魔法をかけていく。


「それより、何か収穫はあったギャか?」

「ん? あぁ、ケラの実があったくらいだな」

「入れ子の実だギャ!?」


 ケラの実とは、楕円系で縦に長く大きい物で10センチほどの果物である。甘く美味しいのだが、大きい種が中央にあり実の部分は少ない。実は切り込みを入れると皮のように種から剥がす事ができ、食べること自体は容易である。


 この実の最大の特徴は種の部分も食べられるという点である。

 食べ方は種を火の中に入れ、外が真っ黒になるまで焼き取り出した後、包丁で切る。すると、中身が柔らかくホクホクとなっており、後は調味料を振ってスプーンで掬って食べる事ができる。ブラックペッパーや塩を振りかけ食べるのが一般的である。ただし、冷め時間が経ちすぎると固くなり食べられなくなるので注意が必要となる。

 とある人形に似ている事から別名入れ子の実と呼ばれている。


「食いつきいいな、好きなのか?」

「大好物だギャ!」


 そういうと小さな羽が羽ばたき、しっぽが左右に振られ如何にも上機嫌と言った様子だった。


「奇遇だな。俺も好物だ。時に、お前の成果は?」

「散らばってるけどそこにあるギャよ」


 と言って指差した先に、数種類のキノコが地面に落ちていた。

 ディードは歩いて行きキノコを見定め、1つだけ拾い上げるとこう告げる。


「これ以外、全部毒キノコだったぞ」


 嘔吐、下痢、麻痺と言った種類の毒キノコで、命に直接関わる種類は見受けられなかった。

 ギャスは驚いた顔をし「嘘だギャ!?」と反論するが「嘘じゃねぇ」と言い手に持つキノコを上に放り投げた。

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