3章

3章序説:暗殺現場

 ある貴族のお屋敷。主は人当たりも良く、黒い噂も聞かない良い人だった。

 幾人もの人々を救い、魔族を救い、幾つのも村を救ってきた。

 だが今宵お屋敷は静かに、手早くそして確実に、暗殺者の手で使用人や警護の者が殺されていっていた。主が異変に気がついた時には既に遅く、暗殺者の魔の手は主の元に届こうとしていた。


「・・・・・・何処の者だ」


 寝室に現れたソレを睨みながら主は後ずさりをする。

 問いかけに答えることはなく、ふらふらと歩を進ませていく。彼の者手に握られているナイフには血が付着しておりカーペットに雫が滴り落ちる。


「答えぬか」


 右腕を突き出し、炎の弾と風の弾を作り出す。

 次の瞬間、それらは彼の者に殺到するが直撃する寸前に姿を消し主は目を見開く。


「あ・・・・・・がっ!」


 そして、気がついた時には首が掻き切られていた。言葉を満足に発せないまま、掻き切られた首を抑えながらその場に倒れこむ。

 流れる血がカーペットを染め、体は何かによって痺れ思うように動かない。

 力を振り絞り見上げるようにして後ろに目線を向けると暗殺者の姿があった。


「ホッホ、もう終わったのか」


 老人の声がし、暗殺者が掠れた声で喋りはじめる。


「まだだ、娘を殺していない」

「大変だの。だが、小娘なぞ捨て置け、次の仕事だ」

「次の仕事・・・・・・? フレミング共ではダメなのか?」


 疑問を持ったのか問いかけるような口調で返事をし、主に止めを刺す。


「わしじゃあやつらは扱いにくい。先日も勝手に何処ぞの馬の骨を殺しておったし、そもそもがじゃ。別ルートで仕事をしておる。あの問題児と一緒にな」

「・・・・・・嫌な組み合わせだな。そいつらの仕事は?」

「そうじゃろう? あやつらは今暴走者が出たとか情報が来ての。そやつのコアを狙っておる」

「暴走者・・・・・・暴走したコアは能力が微量だが上がるとかだったか?」


 ナイフの血を拭い、ナイフケースにしまう。


「そうじゃ。まぁ、それ以上に聞いた内容じゃと狙っておる神器が強いらしいの。っと、話を戻すがお主にも話が通っておろう? 前魔王の腹違いの息子の話」

「見つかった。とか言う奴か。俺には関係ないと思うが?」

「そうとも言えなくなった。と言った感じじゃ。先日部隊を送り込んだが壊滅。また部隊を送り込むのも良いが兵の浪費は好ましくない。そこでお主じゃ」


 窓から月明かりが差し込み、年を食った杖を持ったグレムリンの姿が現れる。


「断るつもりは毛頭ないが、今の仕事はいいのか?」

「元々我々の領分ではない。だが、報酬を積まれ仕方なく、が今の仕事。積まれた報酬分はした。よって我々は手を引く。つまり問題ない分けじゃ。まだ質問はあるか?」

「はぁ、いつも言っているだろう。一個人"だけ"の依頼の場合は写真をくれ。関係ない奴を殺したくない」


 と言うと1枚の写真が放り投げられる。


「そいつを殺せ。詳しい事は追って連絡するアドルファス」


 そう言われ、アドルファスと呼ばれた者は写真を拾い上げこう呟く。


「こいつか・・・・・・いけ好かない顔だ」


 魔法で写真に火をつけるとその場に投げ捨てる。


「もう覚えたのか?」

「当然だ」

「ならば、返して欲しかったのぅ・・・・・・まぁよい。期待しておるぞ」

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