2章2節:再びの接敵

 作戦と呼べる物かは怪しいが概要はこうだ。


 スラの予想だと、昨日の部隊といい今回魔物軍はまともな人材をほとんど送ってきてないと見ている。そして、昨日の部隊長であるゴブリンが引き続き指揮を取るとしたら、無闇に突撃させるようなヘマはしないはず。まず、部隊を分け、本隊と6人組の監視部隊の2つに。狼煙等で連絡を取りその都度行動を選ぶだろうと。


 この仮定から多少の差異はあれど、大雑把に考えられる状況としての可能性は5つある。


 1:此方と6人組が接敵しそれに魔物軍混ざり三つ巴

 2:1の状況から6人組が此方より優先的に魔物軍を狙った場合

 3:1の状況から6人組が両方を狙い部隊を裂く場合

 4:魔物軍は漁夫の利を狙っての潜伏

 5:6人組と先に魔物軍が接敵してしまい魔物軍がすぐに全滅してしまった場合


 そして、此方の状況として一番好ましいのは3。時点で1となる。逆に好ましくない状況は5。2と4は確実ではないが3もしくは1と似た状況に持っていける。

 この場合取るべき行動は5にならないようにする事。そして"奴らと戦闘"している事。


「よぉ・・・・・・昨日ぶりだな」


 街の外に集合している6人組の目の前に、見計らったようなタイミングでハルバートを携えたディードが現れた。

 奴らが来るルート予測は簡単だった。この街の"正規"の出入り口は北と南の2つ。そして、向こうはこれまでのディードとスラの"極力人間側の領土に向かおうとしない"行動から「人間側の領土に向かうのは嫌がる」と考える。南は人間側の領土に通じる道、北は魔物側の領土に通じる道。つまり北に向かって出てくる。


──"博打"は此処からだ。


「あら、諦めたと見てよろしくて?」


 金髪のいかにもお嬢様といった出で立ちの女性が浮き上がり、どんどん上昇し飛び始める。


「いいや、逆だ。俺は別に──」


 聞く耳を持たないとの意思表示か銀髪のエルフの女性が話の途中でも問答無用で魔矢を放つ。放たれた魔矢は分裂し、包囲するような軌道を描きながらディードの元に殺到した。

 それを皮切りに大剣と大槍を持った女性がそれぞれ左右から走って迫ってくる。


 後ろに下がりながら複数の半透明の壁を周囲に出現させ、魔矢を受けていく。奴は砂埃を嫌ってか、魔矢を爆散させず、難なく全て受けきることが出来た。

 直後、後方から気配を感じ、後ろを振り向こうと上半身をひねる。


 そこには長髪の女性が姿勢を低く、右肩を前に出し左手で剣の入れ物を、右手で持ち手の部分を持っていた。

 ディードはそれが何のための構えかわからない。だが、攻撃体勢だと言う事だけは理解出来ていた。


「壱之閃-」


 女性は独り言のように口を開き、彼は壁を攻撃が来ると思われる方向に複数枚発生させる。


「居合」


 と発せられた瞬間、発生させた壁全てが砕かれ破片が飛び散る。

 しかし、奴の姿勢は全くと言って変わっておらず、剣は"抜かれてはいない"。


「まじ、か・・・・・・」


 咄嗟にハルバートを振るうが、一瞬にして姿を見失いソレは空を切った。


「よっ!!」


 よろめきながらも、奴らに背を向けながら走り出す。すると、ズボンのポケットに違和感を覚えた。

 空中に陣取っている奴からの砲撃、エルフが放つ魔矢を魔力を"惜しみなく"使い壁を発生させ続け、全て確実に防いでいき森の中へと戻っていく。


「わたくしはこのままいつも通り空中から支援、索敵。レストさん、ミラさんはと連携して突っ込んでくださいまし。アリスさんとシャローネさんは御2方の援護を。クロードさんは待機でお願いしますわ。状況に応じて戦闘に参加を。それと動きが何やら妙ですわ。いつも一緒にいるスライムも見受けられませんし、十分に注意を」


 それぞれ了解と返事が来るとそれぞれ森の中に侵入していく。


「さて」


 リリーシャスは一度周囲を見渡す。だが、見受けられる範囲には特に異常は無かった。

 デヴァインに内蔵されている魔力探知を起動するも此方も特に異常なし。

 彼女は森を見下ろし、戦闘形跡がある箇所を見つめる。昨晩、クロードの言っていた「アリスさん、もしかしたら裏切るかも」という言葉も気になっているのだ。

 リリーシャスから見て先ほどの攻撃は、明らかに攻撃までに時間が空きすぎていた。

 そうじゃなくとも、あの戦闘スタイル、あの剣技の流派であの場面引くのはおかしい。と感じていた。


──問題は他に気がついていそうなのがシャローネさんぐらいって事ですわね。



「行ったギャね」


 街の民家の影からギャスと背中に乗るスラが姿を現す。


 「じゃぁ、予定通りに煽っていこうか」と水で文字が書かれる。

 この作戦、本来は囮役はスラとギャスがするはずだった。だがディードが断り、自ら囮役をかってでた。


 理由はいくつかあるが、恐らく耐え切れないというものが一番大きい。

 耐えられない。実はスラ達より耐えられる時間、可能性は高いものの魔力が回復しきっていないディードも確実とは言い切れなかった。これが博打部分の1つ。


 2つ目はうまく誘導出来るか否か。

 ゴブリン、オーク、コボルト、ガーゴイルで編成された装備が整った1団が現れる。

 しかし、昨日のゴブリンの隊長らしき魔物は見受けられなかった。


 「プッチちゃん」と水の文字が書かれ続いてこう書かれた。

 「分かりやすい嘘ついてたり猫被ってたり何か企んでそうなのどうのこうの言わないけど、あの人騙して裏切ったら容赦しないからね」と。


「な、何書いてる・・・・・・ギャ。良くわからないわよ。それより、早く行くわよ! ・・・・・・ギャ!」


 ギャスは飛び出し、兵士の1体の頭を蹴る。それに合わせスラは何体かの魔物の顔に水を掛け、北の出入り口の方へ即座に移動し兵士の方に振り向き見下すような目で見る。


 そして、ダメ押しのように「臭いから水浴びしてきたらどうですかー? あぁ、臭すぎて、汚すぎて水汚染しちゃうますねー。ごめんなさい」と水で書かれた。

 突然の自体で兵士達はきょとんとしていた。がちょっかいを掛けられた者、文字が読める者の顔が次第に赤くなっていく。


「ちょろいギャ。スラちゃん落ちないようにお願いギャ」


 「ほーい」と小さく書かれ身を翻し逃げはじめる。


「追いかけろー!! ぶち殺せー!!!」


 と、怒った連中が追いかけ始める。


「ま、待て! 二日酔いの隊長の命令じゃ──」


 その様子を見た何体かが止めようとするが、頭に血が登った彼らは止まらなかった。

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