第18話 ロリとロリコンとホラーゲーム


 今日は七月十五日、海の日。

 ……とは言っても海にいるわけでもなく、いつもの遊び相手である愛莉も今日は大事な仕事があるとかで家を開けていてるため、特にやることのない僕は部屋に一人で人気フリーゲームの蒼鬼をプレイしていた。


 「ふーーむ」


 パソコンの画面の前で腕を組み唸る。

 ストーリーは序盤、順調に進め二回目の蒼鬼との対面を乗り越えドライバーやハンカチを手に入れた僕は、一度蒼鬼に襲われたピアノルームにいた。

 画面には血で汚れていたのをハンカチと洗剤で拭き取り、何やら数字が浮かび上がった鍵盤が映し出されていた。


 「この数字……どこで使うんだ」


 恐らくこれが何かのパスワードなのはわかるが、僕が調べた部屋にはどこにもそのパスワードを使うような部屋が無かったのだ。

 一階のリビングや図書館はもちろん、二階の友人がいた部屋に三階のベッドルームや先のない扉のみがある部屋も調べた……が、どこにもパスワードを必要とするような場所はなかったのだ。


 「そうなると……ここの部屋のどこかにあるとか……? いやいや、調べられそうなところは調べたしなぁ」


 こうなったら攻略サイトを見るか? ……いや、ここで見たら負けだよな。


 「待てよ」


 僕はそこでまだ調べていないところに気が付いた。


 「廊下……そうだ、二階の廊下にある紙を調べてなかったな」


 思い立ったら即行動。僕は早速二階の友人がいた部屋と鍵がかかって開かない部屋の間にある壁紙を調べてみる。……が。


 「これは……この家の地図か」


 僕の期待とは裏腹にその画面にはこの家のマップと思われる画面が。

 この家の造りは特別らしく、一階は今行ける洗面所、お風呂、図書館、リビングの他にも何個かの部屋が見られる。

 ……って言ってもそこに行くまでの鍵が見つかっていないわけで。


 「うーーん……とりあえずあのピアノルームに戻るか」


 そう言って地図の画面を閉じたその時だった。


 「あっ!?!?」


 なんと主人公の真後ろ……マス的に言うと三マス先に蒼鬼が待ち構えていたのだ!


 「ちょま、ちょっと、待って!」


 余りにも突然すぎる出来事に反応が遅れてしまい気が付けば蒼鬼は本当に目の前に。

 その瞬間、僕の頭にこの状況を打破するたった一つの策が思い浮かぶ。


 「まずは右にステップ、そして次は左……そして右で踏み込みそのまま駆け抜ける!!」


 一瞬だが、画面内の主人公が緑色に光った錯覚に魘われる!

 僕は勝利を確信した!


 「これが僕のデビル────」


 が、それも夢物語……ゲーム内でそんな軽快なステップを踏めるはずもなく、その画面にはゲームオーバーの文字。


 「……やっぱり彼はアイ〇ールドにはなれなかったか」


 その言葉と共に僕はそのまま後ろに倒れ込んだ。

 ちょっと熱中しすぎたかもしれない……目が疲れてきた。


 「軽く睡眠でも取るか」


 そう思ったその時だった。


 「せんせーい、ただいま帰りました」

 「お兄ちゃんやっほー、遊びに来たよー!」

 「湊さんこんにちは〜」


 僕の部屋の扉が開かれ、そこから僕のマイエンジェルこと朝武愛莉ともたけあいり兼元紗々かねもとささ天海奈穂あまみなほの三人のロリ達が元気良く入ってきた。


 「あぁ、おかえり愛莉。それに二人もこんにちは」


 僕は身体を起こしつつ三人の方へ身体を向ける。

 愛莉は学園の制服を着ているところを見るとそのまま来たのだろう。他のふたりは私服で紗々ちゃんはいかにも元気っ子というのを表した感じのショートパンツにパーカー、天海さんは対照的に落ち着いたワンピースだ。


 「先生何か作業でもしたいたんですか?」


 愛莉はパソコンの電源が入っているのに気付いたのか僕に尋ねる。


 「ううん、今は作業じゃなくて──」

 「「蒼鬼っ!!」」

 「う、うん……そうだけど……もしかして二人ともこのゲームやったことあるの?」


 画面を見て前のめり気味になっている二人。

 天海さんはゲームブランドの御息女だからわからなくも無いけれど、紗々ちゃんまでこのゲームを知っているのは意外……でもないか、うん。紗々ちゃんなら他にも色々とやってそうだな。

 と、一人で納得していると、愛莉が控えめに手を挙げる。


 「あのすみません、蒼鬼……とはなんですか?」

 「あー」


 なんというかやっぱり愛莉は裏切らないよね。


 「あっ、先生笑うなんて酷いです!」

 「えっ、顔に出てた!?」

 「はい、しーーーっかりと出てましたよ!」


 頬を膨らませてぷいっと横を向いてしまう。


 「ごめんって愛莉、ほらこの通り! 反省してるから!」

 「……本当ですか?」

 「うん、本当に」

 「なら私に教えてくれますか?」

 「しっかりと教えるから」

 「……なら、許します」


 そう言ってこちらに笑みを向ける愛莉に、僕は本当にロリに対して甘々だなと感じた。

 ……だって仕方ないじゃん、ロリコンだもん。



 「──と、言ったようにこの蒼い鬼から逃げつつこの屋敷から脱出するゲームなんだ」


 それからすぐに機嫌を取り戻した愛莉に説明をする。


 「脱出ゲーム……ということは色々と謎があったりするんですか?」

 「うん、そうだけど……愛莉脱出ゲームはやったことあるの?」

 「はい。時々天海さんが持ってきてくれるのでそれを紗奈さんと一緒に」


 なるほどと相槌を打つ。

 前にもあったけれど天海さんが新作ゲームを持ってくることはあるし、その中にも脱出ゲームが混ざっていてもおかしくないな。


 「じゃあみんなでやろうか」


 そう言って僕達はパソコンの画面の前へ。



 三人寄れば文殊の知恵と言うが、それは一人増えても同じだろうか。

 と、僕はそんなことを考えていた。

 それもそのはずで、愛莉達が参加してからというもの先程までのグダグダプレイがまるで嘘のように進んでいったのだ。


 「あっ、先生この暗号はきっと牢屋越しに見るんですよっ!」

 「な、なるほど……」


 愛莉はここから見るんです、と言わんばかりにパソコンの画面に指を指す。

 右側に紗々ちゃん、左側に天海さん、そして背中に愛莉という配置でやっている。

 そのため今の愛莉の動きは少し危ない。……何がとは言わないけれど。


 「本当に番号が出てきた……」

 「やりましたね先生っ!」

 「それでここに5376……っと、開いた!」


 本棚の裏にある金庫から別館の鍵を手に入れる。


 「やりましたね先生っ!」

 「ありがとう愛莉っ!」


 いえーいと、ハイタッチ。


 「うぬぬ、次はボクが解いちゃうから!」

 「私としたことがこんな事にも見抜けないなんて……」


 それに対し横のふたりは何故かしょんぼりしていた。


 「そう言えば二人とも蒼鬼を知ってたからてっきり攻略済みだと思っていたけど」

 「ううん、ボクは名前を知っているだけだよ。実際にやったことはないんだ」

 「天海さんも?」

 「はい、私も名前だけで……面白いとは聞いたことはありますが中々手を出す気にはなれなくて……」

 「あぁ……」


 確かにこういったホラーゲームは現実のお化け屋敷などとは違う怖さがある。

 お化け屋敷が得意でもこういったゲームまでもが得意とは限らないか。


 「なので、今日はみんなで初めてを共有出来て嬉しいです」

 「そうですね、私も嬉しいです」

 「確かに奈穂の言う通りだね」


 三人のロリ達は嬉しそうに笑う。

 確かに言いたいことはわかるし間違ってはいないけれど……。


 「失礼します愛莉様。お飲み物を持ちしました」


 その時、このタイミングを待っていたかのようにいつものメイド服を着た愛優さんがお茶を片手に入ってきた。


 「丁度いいし、一旦休憩しようか」


 これから物語は一気に進むだろうし、折角愛優さんがお茶を待ってきてくれたのだからここらで休んでおくのもいいだろう。

 僕がそう言うとみんなはお茶を飲むため一旦この場を離れ近くにあるテーブルへと席を移した。


 「……湊様」

 「うん?」


 みんなにお茶をいれ終えた愛優さんは僕にだけ聞こえる声でそっと耳打ちをする。


 「三人で初めてを共有って……昼間からそんな事をされていたんですか?」

 「…………」


 なんとなく予想はついていたけれど、相変わらずな発言をするメイドに僕はジト目を向ける。


 「三人の服装を見てそう思いますか?」

 「……湊様なら可能かと」

 「あなたは僕のことをどういう目で見ているんだ……」


 臆面もなくズバッと言われた僕は頭を抱えた。



 「さてと、続きをやりますか!」


 愛優さんのお陰で休憩出来たような出来なかったような、そんな休憩を終え僕達は再び蒼鬼を再開。

 場面はさっき取った別館の鍵の所。


 「次は隣の部屋から上の方に行くんだよな」


 そう言って隣の部屋の上の扉を開けようとした──が。


 「……あれ?」

 「開きませんね」

 「でもここの鍵ってさっき取ったよね?」

 「は、はい……そのはずですが……」


 その場にいる全員ではてなマークを浮かべる。


 「とりあえずもう一回押してみるか──ワッヒョッイ!」


 僕がもう一度ボタンを押したその時だった……すぐ隣にあるタンスの中から一緒に屋敷に来たものの無残にも蒼鬼にやられてしまったはずのミカが蒼鬼化した通称『ミカ鬼』が襲ってきたのだ。

 そのあまりの出来事に僕は変な声が出てしまう。

 だけど驚いたのは僕だけではなく、


 「せ、せんせぇ……」

 「お、お兄ちゃ……」

 「湊さん……すみません……」

 「ちょ、みんな、しがみつかないで……操作が、操作がッ!」


 左右後ろから柔らかくて温かい感触が僕を襲う。

 いつもなら大歓迎なのだが、今はミカ鬼から逃げている最中……そちらに向いてしまいそうな意識をギリギリのところでパソコンの方へと移しなんとかミカ鬼を撒くことに成功。


 「逃げ切った……」


 たった一回の逃走劇でここまで疲れたことはピアノルーム以来だ。

 とは言ったもののピアノルームの時は一人だったからただびっくりしただけだった気もするが。

 ともあれ、まずは。


 「……あの、みんな? そろそろ離れてもらえると嬉しいんだけど」


 僕は未だにしがみついたままの三人へと目を向ける。


 「──あぁ」


 逃げている時はそっちに必死だったから気が付かなかったが、三人は静かに安心しきった顔で寝息を立てていた。


 「……なんだかんだで蒼鬼に追いかけられる度に大はしゃぎしていたからな……」


 きっと疲れがまわってきたんだろう。

 やっぱりこういったところもあるからかな、こうして明らかに僕とは天と地の差がある愛莉達でも引け目を取らずに接することが出来るのは。


 「今日はこれでおしまいだな。……とは言ってもこれだと何も出来ないし……愛優さん?」

 「はい」

 「うわ本当に来たよ」


 試しに居るかな〜って感じで呼んでみたら間髪入れずに扉が開いたので驚いてしまう。


 「人を見た時に幽霊みたいな反応をしないでください」

 「いや本当に来るとは思ってなかったから……ごめんなさい」

 「いえ、冗談なのでお気になさらす。それでどうかしましたか?」

 「申し訳ないんだけど愛莉達をベッドに移すのを手伝ってくれない?」

 「……ベッドで、三人のロリと……ですか?」

 「ただ寝かせるだけですよ?」

 「湊様の……えっち」

 「あなたにだけは言われたくない!!」


 思わず全力のツッコミをいれてしまう。

 その後我に返り、起こしてしまったかと思ったがそんなことはなくホッと胸をなで下ろす。


 「とにかくお願いします」

 「わかりました。ベッドは愛莉様のお部屋で?」

 「そうだね。僕もこれからここで作業するつもりだから」

 「それは愛莉様達に抱きつかれて興奮した身体を収めるために──」

 「小説を書くだけだからね?」

 「…………わかりました」

 「そこ露骨にがっかりしない」


 全く……この人は万能なんだけどこういったところがある……まぁこれも愛莉達と同じで完璧すぎると近付きにくかったり話しかけにくい事もあるし、もしかしたらこの人なりに気を使って……。

 ふとディスプレイに愛優さんの顔が映りこんだ。

 …………うん、そんなことは無いな。

 僕が見たのは物凄いニヤケ顔でこちらを見る愛優さんの姿だったとさ。

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