C^2 =β(S^2)-α(iT^2) デグリーの過去
ある日、10才のオレと5歳離れた妹が離れのばあちゃんの家で留守番していた時、仕事中の事故で両親を失ったんだ。
そしてその数週間後、続けてばあちゃんも病気で死んだ。
ばあちゃんが亡くなった次の日、午後市役所の人が来た。
「おじさんの質問に一つ答えてくれるかな?
君と妹さんはこれから、二人揃って違う家に引っ越さなくちゃいけないんだ。
そこで君たちに聞きたいんだけど、
身内のあの人達のところで大丈夫……かな?
それとも、しばらく集団生活をして、その間に里親を探してもらう?」
市役所のおじさんがそういう言い方をしたのは無理がない。
市役所のおじさんは昨日、オレの身内から、
オレ達の里親になってくれる人を探してくれたんだ。
オレの身内の大人達が昨晩集まって話し合い、
里親になってくれる人がみつかったらしい。
そして、今朝、オレと妹と市役所のおじさんと三人でその里親になってくれるって言う人達に会って来たんだ。
でも……。
「嫌! あたし、母さんと父さんじゃない人嫌!嫌!」
妹が恐がって泣き出してしまったんだ。
『お母さんやお父さんに会えるほうがいい!』
妹はその一点張りだった。
「う~ん、残念だけどね、それは出来ないんだ。
ごめんね」
「どうして出来ないの?」
妹はおじさんに聞き返したんだ。
「チルダ、父さんと母さんは
お仕事ですごく遠いところに行ってるの!」
オレは妹にそう言い聞かせた。
ドーラ人の習慣で、ドーラ人は家族が亡くなった時には
同居の家族だけで弔い、遺体を自然に還すんだ。
オレと妹は両親の職場の人と市役所のおじさんと一緒に
午前中、山に両親の遺体を還してきたばかりだった。
オレは妹と離れて一人のときに市役所のおじさんに質問して、
父さんと母さんが死んで、二度と戻って来ない事を知ってるんだ。
だけど、父さん母さんが必ず帰って来るって信じている
純粋無垢な妹に、その時のオレは話すことが出来なかったんだ。
オレと妹はそれから、市役所のおじさんの紹介で、
施設に預けられた。
施設の人達はみんな優しい人達で、最初は嫌がっていた妹も、
職員の人達と施設の子供達に少しずつ心を開くようになっていったんだ。
施設ではみんなで協力して行う年間行事もあって、
どれもとっても楽しかった。
春、夏、秋、冬、季節はあっという間に過ぎていき、
その中でオレも妹もたくさんの友達が出来た。
でも、仲良くなった友達は、里親の元に次々にもらわれていって、最後に入ったオレとチルダだけが残ったんだ。
そして、その後、一人の里親が現れて、オレと妹を
もらってくれたんだ。
その里親は……表向きは優しかったんだけど、
グラハムというギャングテロ組織のリーダーだったんだ。
オレと妹は、ギャング組織の中に入れられて、
戦闘訓練という名目で、
毎日毎日、歳の離れた先輩達から暴力や雑用など
辛い扱いを受け続けたんだ。
一年程たったある日の夜、オレは妹と一緒にギャング組織のアジトを脱走したんだ。
ギャング組織の建物の中は簡単に抜け出せたけど、
建物の外には高い壁と有刺鉄線が張り巡らされていたんだ。
入口もセキュリティのセンサーで閉まっていて、
とても抜けられそうじゃなかったんだ。
それでも注意深く辺りを探してみると、建物の入口のある向きとちょうど反対側の高い外壁の近くに一本の木が生えているのを見つけたんだ。
その木の枝の一部は外壁の有刺鉄線すれすれまで伸びていたんだ。
オレと妹は木を登って、有刺鉄線の手間まで這い上がったんだけど、そこから外にはどうしても後一歩届かなかったんだ。
無理をすれば、有刺鉄線に触れて死んでしまうかもしれない。
オレはどうすればいいのか。もちろん答えは一つだったし、
脱走を考えた時点でその覚悟はしていたんだ。
オレは妹を肩車して、妹を逃がすことが出来たんだ。
「デグリーは来ないの?」
「あたしは……今はまだ行けないんだ。
チルダ先に行って」
「いつ来るの?いつ?」
『ミシ、ミシミシ』
オレの重さで、もう枝は折れる一歩手前だった。
「ごめんチルダ、この手紙にあたし達が前に過ごした
施設の住所を書いているから、それを誰か親切な大人の人に渡して。じゃあね、チルダ……。
元気に頑張るんだよ」
「えっ!? ちょっとお姉ちゃぁぁぁん!」
・・・・・・
『うわぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁん』
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