第17話

 ―鉱山跡地の下層―


 しばらく、無言で採集が行われていき、メンバーたちは素材となる野草やつる草、鉱石、昆虫などを次々に採集していく。


 その間も皆がイェスタの教えに従い、メンバー全てが視界に入るように気にして、位置決めをして採集を進め、問題なく順調に進むように思えた――


 だが、やはりそのように上手くはいかず、存在が予想されていた小型凶竜モノニクスによって発見され、仲間を呼ぶ鳴き声を上げられてしまう。


「見つかったぞ! 南に五頭! あと、東から一〇頭来ている!」


 高台にいたレクが警告を発すると、一斉にメンバーたちが採集を止め、得物に手を掛ける。


 すでに、警告を発したレクがモノニクスを迎撃するため、イェスタたちの方へ向けて駆け寄ってきている最中であった。


「レクさんが来るまで、僕が前に出ます。援護頼みます」


「おし、ヴォルフに任せる。ヨランデはヴォルフが漏らした奴を近づけさせるなよ」


「はいはい。オラの仕事はきちんとしますよ」


「あと、ノエル! お前の仕事次第だからな。キッチリと訓練の成果見せろ」


「分かってますよ。この前みたいに焦ってないから、大丈夫。いけます」


 レクが到着するまで、ヴォルフが囮役として前線に出て、そこから溢れる分をヨランデが押しとどめ、イェスタとノエルが数を減らすというのは、訓練でも行った多数の凶竜による奇襲に対する布陣である。


 厳しく行われた訓練はメンバーたちに余裕を持たせ、前回とは違い、すぐさま自分たちのやるべきことを判断して動くことができていた。


 その中でイェスタも自分の仕事をこなすべく、担いできていた重弩を組み立て、背嚢バックから矢弾を取り出すと、義手を器用に使い装填していく。


 甲高いモノニクスの鳴き声が、鉱山跡地に響き渡る中、辺境の狩猟者フロンティア・ハンターのリベンジ戦が開始されることとなった。


 最前線に躍り出たヴォルフは、南から来た五頭のモノニクスに囲まれることになったが、レクとの練習のおかげか、以前よりも格段に攻撃をかわすことが上手くなっていたため、元々当たらなかったモノニクスの攻撃は、更に当たらなくなっていた。


 そんな、回避を続けるヴォルフの援護をするべく、ノエルが射線の被らない位置へ向けて動き始める。


「ヴォルフ! 援護入れるわ!」


「任せます!」


 最初の方の練習では、散々背中に射込まれたヴォルフであるが、最近では激しい乱戦の中でも、ノエルがしっかりと味方から射線を外した位置取りをして、効果的な援護を繰り出せるようになっているのを知っているので、振り返らずに攻撃を捌くことに集中していく。


 射撃位置についたノエルはヴォルフを襲うモノニクスの群れで、一頭だけ乱戦から外れたモノニクスに狙いをつけると、素早く矢を番えて放つ。


 放たれた矢は風切り音を伴いながら、目標となったモノニクスの頭部に突き立った。


 さすがに小型とはいえ凶竜であるため、一撃では落とせず、ノエルは間髪入れずに二射目を放つ。


 二本目の矢が見事にモノニクスの眼を貫通し、反対側にまで飛び出ると、貫かれたモノニクスはビクンと身体を振るわせて地に伏した。


「ふぅ、一匹排除完了。お次はアレね」


 ノエルはさも当然といった顔で、ヴォルフを襲うモノニクスから、次なる獲物を探し始める。


「まぁ、マシになったじゃねえか。それじゃあ、俺はあっちをやるとするか」


 ノエルの援護が機能するようになったことを見たイェスタが、東から突っ込んでくる一〇頭のモノニクスに向けて重弩の弾を撃ち出す。


 ズドンという大きな音と砲煙があがると、撃ち出された弾が先頭を走っていたモノニクスの頭部を直撃して吹き飛ばす。


 味方の頭部が吹き飛んで転がったのを見た、別のモノニクスたちの足が止まる。


「さぁ、お前らも吹き飛ばしてやるぜ」


 凶悪そうな顔で、舌なめずりしているイェスタは、素早く次弾を装填すると、二頭目に狙いをつける。


「イェスタさん、オラが前に出てあいつら足止めするからよろしく」


「ああ、行ってこい。後ろからあいつら全員をぶちのめしてやるさ。レクが来るまでにあいつら全部狩るぞ」

 

「そりゃあ、きっと無理だ」


「ヨランデが前でキチンと仕事すれば、俺が決めてやるさ。任せとけ」


「本当か?」


「ああ、俺は嘘をつかないぞ」


 半信半疑の顔で、装備を担いで前に出ていったヨランデであったが、群がってきたモノニクスたちをキッチリと足止めしていると、後方からイェスタの放つ、正確な重弩の射撃によってモノニクスの頭が吹き飛ばされていった。


 イェスタが次々とモノニクスの頭を吹き飛ばしている間、ノエルも負けじとヴォルフを襲うモノニクスを射止めていく。


 さながら、野鹿狩りでもしているような容易さで、一五頭に及ぶモノニクスたちが次々と討ち取られて地面に転がっていった。


 そして、レクが現場に駆け付けた時には、イェスタが宣言したとおり、襲ってきていた一五頭のモノニクスはものの見事に撃退され、地に倒れ伏していた。


「ボクの、ボクの出番が――」


「遅かったな。もちっと急いで来ないと獲物は残してやれなかったぞ」


「イェスタ猟団長! 凄いです。モノニクスがあんなに簡単に全滅するだなんて……」


 駆け付けたレクが、味方のあげた戦果に茫然として立ち尽くしていた。


 前回の狩猟では、もっと数が多く時間もかかったが、今回はそれよりも短時間で多くの成果が出ていのだ。


 明らかに、前回の狩猟よりも各個人が機能して戦果をあげることができていた。


「遅かったわね。レクが来る前に片付けちゃったわよ。これで、レクはお役御免ね。フフン」


 足手まとい認定されてへこんでいたノエルも、今回、モノニクスを五頭を撃ち殺すことに成功して自慢げな顔をしていた。


「たかが、モノニクスじゃないか。狩れて当然だろ」


 レクにしてみても、メンバーたちがこれほど早くモノニクスが狩れるとは思ってもいなかった。


 そのため、自分が一番かっこよく見られる登場機会を模索していたとは、口が裂けても言えない状況であったのだ。


「レクの顔に『想定外』だと書いてあるように思えるのは、オラだけだろうか?」


「私にも見えるわ」


「まぁ、そう言ってやるな。俺もとしても、現状では上出来すぎる戦果だと思ってる。お前らも意外とやるもんだな。特にヴォルフは今回はよくやった」


 イェスタは隣に来ていたヴォルフの頭をワシャワシャと撫でまわす。


 モノニクスの襲撃に直ぐに反応し、後衛であるノエルとイェスタへ近づけさせないように、自ら前に出て敵の注意を引き付ける仕事をキッチリと果たし切ったからだ。


 おかげで、東の方はヨランデが対応でき、挟撃のリスクを大いに低減させたのと、ノエルからの援護を計算に入れた立ち回りまで見せていたのをイェスタは見逃していなかった。


(案外、こいつすげえ狩猟者ハンターになるんじゃねえか……。大型凶竜とも戦わせて経験を積ませ、攻撃を捌く方を伸ばせば、それだけでも猟団にとってかなりの力になるぞ)


イェスタは今回のモノニクスとの戦いにおいて、猟団の可能性に一筋の光明を見いだすことが出来るような気がしていた。


 こうして、鉱山跡地で行われた実地訓練は、モノニクス討伐狩猟数一五頭と、多くの狩猟道具の素材を手に入れることとなり大成功に終わった。


 だた、レク一人だけが帰り道にひたすら文句を言って歩いていた。

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