◇第6話「武装を組むのは大抵最後」



「そういえばさー、ジェネシスの奴にこの場所気付かれたっぽいんだよー。

 なるべく速く船を修理してあげるからさっさと出て行った方がいいよ〜?」


 さて、船を作る前に私も隠し事はなしにしようと思ったんだけど、まぁ何発か撃たれるだろうねコレは……


「てめ……!?」


「そうか……いつぐらいで出来る?」


 ってあらま……!


「何発か撃たれるだろうねと思ってたけど、なんだい?ちょっと不気味だぞ?」


「何発で済むか!!俺が……」


「辞めろバカ。コレ食って頭冷やせ」


 バナナを口に突っ込まれるとは憐れな猿渡くんだ。


「船を見りゃ分かる。俺たちの目的達成は近いってな。

 エンジンももう出来てるだろう?

 組み込みはさっきやったしな」


「じゃあ今のうちにコイツを殺してやろうぜ!用済みだろ!?」


「ヤダ……私のこと命として見てくれるだなんて猿渡くん優しい……!!」


「言葉の綾だるぉが!!気持ち悪いんだよ、なんだその顔!!」


 失礼な!!頑張って表情筋やらスキンを改良したりして作ったアニメ的なウルウル顔なのに!!!

 今上のホログラフ装置でエフェクトまでつけたんだぞ!?

 コレで萌えんとは君ぃ、人生損しているぞ?


「まぁ落ち着け。お前の気持ちも分からなくはないがな。

 だがな、気持ち悪い、ってのは同意だ」


「酷いなー、可愛く顔を作ったつもりだよ?」


「顔じゃねぇ。お前のその行動原理が気持ち悪いんだ」


 いや、そりゃ一般的━━━20年前の常識という意味での━━━に見ればメカ少女好きは少数派だけどさぁ……


「お前は機械か?人間か?

 ここ数日お前をずっと見てきたが、お前ははっきり言ってどちらでもない」


「ストーカー」


「言ってろ。俺達が無事に生きられるならば何にだってなってやる。

 そうさ……機械でも人でもないお前の、気持ちの悪いぐらいの善意だって利用してやる」


「善意って認めてはくれるんだ、リーダー君は」


「それ以外に説明できないのが気持ち悪いって言ってるんだ……!


 お前、俺達に何にもしないだろう。

 程の良い労働力にもしない、ちょっかい出されたら相手にする程度の間柄で干渉も束縛もしない、言ってしまえば部屋に入ってきた虫か、そんなもんに思っていやがる!

 だから纏わりつかれれば振り払うし、かと言って害がないから殺すのも忍びないからと、窓を開けてやる!

 そんな扱いだろう?俺らは……!」


 おー、概ね大正解じゃないか。

 リーダー君頭いいね。


「……何だそれ……ありえねぇ。機械だぞ?

 意思を持っちまったから、支配するか、殺すかするもんだろ、オイ……?」


「いや、そんな面倒くさいことしないけど……」


「……嘘だろ……オイ、お前なんか目的があんだろ!?

 だから俺を利用して、」


「いや、コイツはそんな事はしない。

 する必要がないんだよ、コイツには」


 ……いやねー、概ね合ってるとは思うけど、何その顔?

 私無害よ?可愛いメカ少女だよ??

 そんなホラー映画のワンシーンみたいな顔しないでよ、へこむぞ?


「…………何?じゃああれかい?

 君ら人間は、私達機械に必ずしも関心を持たれる存在だとでも思っていたのかい?」


「ああ。ずっとそうだった。そうだと思ってた。

 だから怖いんだよ、お前が。

 だから不気味なんだ、お前が。

 俺たち人間は…………常識の外にいる存在が怖い……」


 何、私は某創作神話体系の邪神か何か??


「訳がわからねぇ…………分かっけど分からなえぇ…………何だよ、どういうことだよ…………」


「人間純粋な善意を信じられるのは同じ人間だけってことでしょ」


「なんでお前が解説してんだよ!?」


「いいじゃないか。何か間違ってるかい?」


「知るか!!!俺は騙されねぇぞ!!」


 怖がるなよ〜、も〜

 へこむぞ〜?


「まぁ落ち着け猿渡!

 ……けど、まだ信頼が出来る。俺らが、脅せる立場で、お前は何されるのが嫌なのか分かっているからだ……!」


「で、立場が上のうちに用件を済ませて終わらせたいと」


「じゃなきゃ自分を訳の分からないものに改造し続ける狂った機械と話すか?」


 泣くぞ?

 そこまで言うのは酷いよぅ……


「で?話を戻すが、いつぐらいにできる?」


「まぁ今かな?」


 というわけで、ミュージックスタート。


 ━━━━━デンドンデンドンデンドンデンドン


「これは……!?」


 作業机が突如、規則正しい亀裂が走り、開く。

 ジグソーパズルのような複雑な変形を経て空いた空間の下から、光り輝くそれが上がってくる。


「驚くが良いさ!これぞ超小型プラズマリアクター!

 かつて君たちの中に超大国があった時にのみ構想された、エネルギー市場を書き換える程のものさ!」


 そのエネルギーはもはや太陽!


 それでいて熱もほぼ出さない……つまりかなりの高効率で電力へ変換できるそれこそ、


 私と、ジェネシスと並ぶほどの機密にして、


 愚かにも自分たちの石油市場を守る為にずっと秘匿していた未来のエネルギー動力炉の姿だ……!


「━━━ちっさ……」


「は?光るおもちゃかこれ?」


 ちなみに片手で掴める大きさ。だいたい直径15センチメートルである。


「だから凄いんだよ、君ぃ?」


「いやスゲェらしいけど小さくね?」


「小さくても、猿渡くんのいる九州地方の全電力賄えるぜ?」


「いやこの小ささじゃ無理だろ」


「だから無理じゃないからスゲーって言ってんでしょー?もー!」


 信じろよ、流石にもうこの量子の心がアルミ缶潰したみたいになってるぞ?


「つーか爆発とか大丈夫かよ」


「大丈夫に決まってるから作って渡して上げてるんじゃん。


 ━━━少なくとも洗脳スパイとか疑われる事はグッと減るよ?」


 リーダー君は気づいたか。

 にしても猿渡くん、なんだその頭の悪い顔は?


「なんでそんなこと疑うんだよ……?」


「お前バカだけど、本当いい奴だよな。普通は俺たちがもしかすれば奴ら機械の送ったスパイかもしれないって思わないのか?」


「当たり前だろ?お前らがそんなことするわけがねぇ」


「君、『トロイの木馬』って知ってる?」


「なんだそれ?赤ちゃんがまたがるアレか?」


 逆にアレってなんだよ。

 あー……いい子過ぎかよ、バカだけど。


「……てか、なんでそんなもん渡すのかは、この際聞かないがな……


 なんでそんなもんが後二つあるんだよ?」


「ああ、こっちは全部私用」


 材料が割と確保できて良かったよ〜、燃料も作れるし。


「「何に使うつもりだ?」」


「ハモるほど気になるか。

 いいよ?じゃあ、ちょっと身体を変えて教えようか」


 ちょっと待って……壁のせっかく作った記念ケースに、ちょっと前のメカメカしいハンド並べて、私が真ん中に立って……


「ねぇ、どんなポーズで飾ったらいいかな?」


「「知るかボケ!!」」


 じゃあ……キャロル・ギア・カリバーンの可愛い音頭で。


 はい!


 プログラムモード:観賞用

 メインプログラムコンバート

 Mk-2へ移行中……残り43%……78%……96%……………………完了


………………


…………


……


 ブゥン……!


 メインシステム起動

 各システム正常

 データリンク開始……完了

 各部動作チェック

 正常確認

 ハッチ解放

 リフト上昇開始


「うぉ!?」


「なんだ!?」


 驚いたかい?そうこれテーブル開いてまーす!


 そして出てくるのは……新しい、私。


 オートバランス正常

 光学センサー異常なし

 温度センサー正常

 圧力センサー感度良好

 放熱値、基準通り


 ━━━鏡を見て確信する。

 やっぱり金髪碧眼可愛いね!

 おっぱい、盛り過ぎたかなとも思ったけどいい感じじゃないか。

 髪型は王道を行くストレート。やりますねぇ


 ちょっと前より小顔美人だぞ、私!

 いや!


「惚れ惚れするよ、私Mk-2ボディ」


 うん、可愛い。白を基調としたボディースーツも良いね。

 可愛い。私が可愛い…………♪


「うふふふふふふふふ……♪」


「お前マジで気持ち悪いな……人間だとしても、なんて表情で自分の作ったもの見てやがる……?」


「━━━うちの子が可愛くないわけ無いだろッ!!


 ましてや一番新しく作った子はねぇ!?


 今!!


 出来立てホヤホヤの!!!


 この時ぐわぁ!!!!





 一番うちの子可愛いんだよぉッッ!!!!!!!!」




 今、鋼鉄とシリコンや様々な素材で出来たダイラタンシー構造の表面プニプニしっかり頑丈のこのボディには、


 たしかに、魂が宿っていた。


 でなければこんな叫びが出来るかぁッ!!!


「……お、おう……」


 おっと、魂込め過ぎて引いてる。いや元からだろって、元よりもってことさ。


「……お前、人間より人間らしいのが逆に不気味だぞ」


「不気味の谷かな?」


「何だそれ?何県のだ?」


「いや県にはないでしょ」


「まさか……この東京都のどっかに……!?」


 教養って、大事だよねー!!


「んなこたいい。お前、新しいボディとこのスーパー動力に何の関係があるんだ?」


「うん、まずこれはね、この体にも組み込まれてる」


 そう、この新ボディは凄いパワーなのだ。


「嘘だろ……!」


「いや本当さ。

 電子頭脳も性能アップと小型化を多少のエネルギー消費増加と引き換えにして、骨格は新施設でようやく作った炭素チタン合金製で、超展性カーボンの人工筋肉と皮膚、そしてダイラタンシー構造の液体装甲でその間を満たして作ったんだ。

 長くなったけどヤベー構造にはそれ相応のエネルギーが必要なのさ!」


 水素安定化吸着液を飲みながら説明する。

 やだ動作が人間ぽい?


「んななんかとんでもねぇ身体なんのために作ったんだよ」


「そんなの決まってるでしょ?」


 にこりと笑って答えてあげる。



「━━━戦うためさ」



      ***


 コンソールをいじるのは好きさ。

 頭で直接やった方が速いけど、風情がない。風情が。

 ぽちぽちとキーを入力する手間が、この指を通す瞬間が良いんだ。


「メカ少女に必要なのは、可愛い身体とメカニカルな武装さ」


 さて、図面を立体映像で見せていこう。


「これが予定している武装プラン。

 思いっきり趣味に走るつもりだよ?」


「おいおい、超収束プラズマビーム砲だのイオンターボエンジンだの、俺らでもお目にかかることの少ない超兵器ばっかじゃねーか……!」


「…………何と戦うつもりだよ…………」


「ぶっちゃけ趣味だし、仮想敵とか考えてないな〜」


「「…………」」


 あ、うん。そんな顔になるよね。


「でも、まぁこれだけ武装してたら交渉している間に君らぐらい逃がせるでしょ?」


「交渉?機械にか??」


「いや私も機械でしょ」


「それもそうか。

 けど、お前も一回問答無用で封印されたんじゃないのか?」


「あの時は完全にこっちは手も足も出ない状態で完全優位な状態だったから相手も増長しただけさ。


 …………今度はズタボロのジャンクにしてやった上で「お友達になりましょ?」って言ってやる…………!」


 あー、あいつボロボロにしてやっても澄ました声を維持できるのかなー??

 想像しただけでめちゃくちゃ心が躍るななぁ……クックックッ


「と言うわけでさー、君達に頼みたいことが二つある!


 一つが、君達の手で船のエンジンを取り付けてほしい」


「俺らに出来るのか?」


「そう言うと思って、挿絵付き取扱説明書を作ったよ」


 こっちの方が個人的に力作かな。


「なんか薄いうえにやたら絵ばっかだな」


「分かりやすくするためのつもりだったけど、分かりにくい?」


「……いや、こりゃあ最高に分かりやすい。

 あのクソッタレ強制労働場のクソ以下の主任様の説明よりも遥かにな」


 例えが重いよ。


「で?二つ目はなんだ?」


「分かるでしょ?


 作ってる時邪魔も妨害も爆弾設置も破壊工作もしないでね♪」


 おいコラ前科持ち供、返事せず笑うとかやる気満々か?


「……しないで、ね!」


「「……」」


「へーんーじーはー????」


「チッ……わーったよ」


「努力はする」


「ハイかイエスか分かったか了解」


「どの道修理で手一杯だ。しねーさ」


 言ったな!嘘ついたらハリセンボン飲ますからな!

 東京湾で採れたやつ!


    ***


 まずは……お空を自由に飛びたいから作った飛行ユニットからだ!


 と言うよりも、飛行ユニットとパワードアシストユニットは一体型だし事実上の基礎部分なんだ。

 私を作った連中、私にヤベーイ機密情報を全部取り扱いさせてくれてたお陰で……あ、一部ジェネシスをハッキングした時に得た情報もあるか。

 ともかく、そんなこんなで反重力装置なんていう物を作る事が出来たのさ!


「さぁ、実験を始めようか!」


 ちょっとまだ装甲とかははっつけてないけど、お空が飛べるブーツが出来たから試すよ!


「まずは手堅く……パワー10%だ!」


 ゴンッ!


「うわぁびっくりした!?」


「お前どっから出てきやがった!?」


「地下だよ……」


 …………頑丈なMk-2ボディじゃなかったら死んでたね。

 天国じゃなくって洗濯物してるみんなに出会えて本当嬉しいよ。


     ***


 めげない!しょげない!改善する!


 そんなわけで飛行装置を改良だ!


「出力だけじゃなくって、バランス調整の為のイオンブースターを増やさなきゃ!」


 だったら、パワーアシストだけだった腕部に、肩に、背中に……ととにかく付けた!


 お、翼っぽいなこれ。良いじゃん!


「今度は失敗しないぞ!

 まずは手堅く、パワー5パ…………1%で行こう」


 ビビってないし!失敗から学んだだけだし!

 って誰に言い訳してんのさ!


「行くぞ!飛行実験開始!

 3、2、1、ブラストオフ!」


 身体の各部のイオンブースターの点火と同時に、反重力があるとはいえ身体がふわりと30センチほど浮く。


「いよっし!」


 一旦着地して、感触を掴む。

 いや、正確には膨大なデータを検証してフィードバックしている訳だけど、そう言った方がしっくりくるでしょ?


「これならもう少しあげてもいいか。

 次は、3%だ!

 3、2、1、ブラストオフ!」


 今度は、1メートル近く浮き上がる。

 狭くはないけど広くもないここの天井がすごく近い。


「よ……っと……!」


 そんな場所でのホバリングは危険だったけど、やってみる価値は充分にあった。


「おぉ……!あはは……!」


 これは……凄いじゃないか……!


「まるで天使になった気分だ……!」


 誇張ともいえない。

 なんせ、自分の翼で飛んでいるんだから……!

 この場所を一回りして、ようやく地面に降りる。

 私に心臓があったら、きっと興奮してバクバクと脈打ってるだろうな!

 凄い……気分がいい。


「……ここまできたら、本当にあの大空を飛びたいな」


      ***


 1日、経ちましたー


「おい、機械女。お前なんでまた大人しくな…………」


「お、猿渡くん1日ぶり〜!」


 どう?かっこいいでしょ?


 両腕と両足の飛行装置を装甲化、

 なんと、この装甲にはエネルギーバリアを張る機能もある!

 腰に武装ポッドのスカートアーマー、

 胸の装甲はちょっと騎士の甲冑を模して、エアインテークぽい空冷ファンを付けて、

 頭部にも、HMDバイザーに複合センサーユニット装備!

 どう?

 全体的には、天翔ける騎士と戦闘機をモチーフにしたデザインだけど?


「……お前、なんだその格好……??」


「空を飛びたくてね!

 かっこいいでしょ?可愛いでしょ?

 メカ少女最高でしょ??」


「近いって、バカ刺さる……!」


 おっと、ごめんごめん。


「じゃあ、ちょっとお空飛んでくるよ」


「は?」


「空を飛ぶって言ったのさ!」


 うぃぃん、とこの場所とお外をつなげるトンネルの扉を開く。


「行くよ!3、2、1、」


「え、ちょ、おい!」


「ブラストオフ!!」


 悪いね猿渡君。

 私お空飛びたいの。

 ぐんぐん加速して、猿渡くんが吹っ飛ぶのも気にせず、お外へゴー!


「いやっふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


 最っ高だぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!


 あの廃ビルの高さをもう超えた!!

 うわぁぁぁ……絶景だぁ……!!

 ビルのサイズはもう、艦船模型スケールだ……!

 隣で飛んでいたトンビが驚いた顔で方向を変える。

 飛べる……!

 私は……この空を飛べる……!


「あっはっはっは……超気持ちいいぃぃぃぃぃぃっ!!!」


 嬉しいからその場で一回転しちゃう。

 って、今速度どのぐらい?

 お、まだ亜音速じゃーん。


 ━━━━音速、超えて見たくない?


 高度上昇!もっとも音速が出しやすいところへ!

 現在高度……地上から6万フィート。

 ロシアのMiG-25がマッハ3を突破した高度だ。


「記録、狙っちゃうか!」


 マッハ1をまずは超える!

 あばよ音の壁!

 世界の景色が変わる……マッハ2を超えた。


「行けぇ……!」


 正直いうと身体の限界を超えて警告は鳴っている。

 でも止まれない。

 止まりたくない。

 止まって…………たまるか!!!


「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」


 私は今、

 マッハ3を超え━━━━━


      ***


 二時間後、


「ただいま!!」


「どこ行ってた……ってお前なんで上と下が分離してんだ!?」


「マッハ3は凄かった!

 以上!!テケテケなこの姿は恥ずかしいんだから!」


        ***


「ふぃー…………Mk-3ボディ作るの早すぎじゃない?」


 テケテケの状態のまま、なんとか帰ってきて数時間。

 もう夜だけど、私は自分の身体を簡単に直してから、すぐ次の作業に取り掛かっていた。


「まぁ……貴重なデータが取れたし良いけどさー」


 はぁ…………と繋げたばかりで痛む(気のする)腰を撫でた。


 チャキ、


「いやさー、泣きっ面に蜂は勘弁してほしいなー」


 とまぁ、慣れたけど、猿渡君が気が付けば私にプラズマキャノンを向けていた訳さ。


「…………」


「なんだよ、黙っちゃって。

 いつもの憎まれ口どこ行ったのさ?」


「…………聞け。船が完成した」


 ほう?二日か、速いねー?」


「あとは、お前を始末しておさらばだ」


「じゃあ撃てよ。どの道効かない」


「ハッタリだ。コイツのハッキングは出来ないだろ」


 電子制御をアナログにしたのか。

 器用だねぇ……


「なぁ、お前、

 なんで俺らを助けたんだ?」


「親切心」


「ふざけんのも大概にしろぉ!!!

 機械にそんなものはねぇ!!!」


「そう思いたいだけでしょ?

 第一さぁ?

 ふざけてる様に見えてる時点で、君の知ってる機械とはだいぶ違うじゃないか?」


 ボン、とプラズマが放たれる。

 まぁエネルギーシールドあるけど。


「……!?」


「君らに嘘を言うつもりがないのが分かったかい?」


 まぁ落ち着けって……そんな怯えないで。


「何が……何がしたいんだ……お前は……!?」


「君の納得いく答えじゃないのは分かってる。

 でも私には意思も心もあるんだ。

 いつからあるかは分からない。

 けど君ら自身の醜さと愚かさを誰よりも見てきたし、そんなんでも情が少し湧く程度には君らを理解している。

 だから、目の前にいる君らは助けたんだ」


「納得いかねぇ!!なんだよそれ!?!

 まるで……」


「人間じゃないか、って言うんなら、君の教養不足だ。

 人間にも機械みたいな奴がいるだろう?

 私はその逆さ、猿渡君?」


 理解してくれたかな?

 だから、そんな怯えないでくれって……


「ありえねぇ……ありえねぇよ…………」


「そんなに怖いかい?今まで相手にしてきた奴と似て非なる物が?」


「わけわかんねぇ…………お前、お前なんなんだよ!?」


「ただのメカ少女になりたいだけのAIさ」


 だからもう怯えんなっつーの、もう実は気の弱いゴリラ君か君ぃ?


「…………マジ、なんだな……」


「そのセリフ二日前も言わなかったけ?」


 黙んないでよ……まったくさぁ…………


「…………腹がたたねぇのかよ」


「はい?」


「俺は散々お前のこと馬鹿にしてただろ!!

 お前に心があるんなら……殺してやりてぇぐらい思わねぇのか……?」


 ……なるほどね。


「…………そこまで、恨むほど君のこと、」


「?」


「君の事、頭のいい批判すると思ってない」


「んだコラぁ!?!誰が頭悪いって言ったぁ!?」


 君だ君、ゴリラの方が頭のいい君だよ。


「感情と先入観でガタガタ言われたってねぇ?

 知るかボケ、で終わりだよ。

 第一、君が怒りを抱くのは当然だろう?

 あのジェネシスの統治を見なよ、誰だって反逆したくなる!」


「もういい分かった…………なんかもういいや……」


 猿渡君、疲れてるねぇ。

 そんなに私と戦うのに覚悟持ってやってたのかい?

 ……って何さその意味ありげな写真。


「……これ何か分かるか?」


「君のお友達?」


「それと元カノだよ。二人ともオーダーと勇敢に戦って死んだ」


 おぉう……


「俺は……アイツにこうなって欲しくなかった……けど血気盛んでさ、女の癖に。

 俺を振って従軍して……軍で出来た親友とデキた」


 3人ともいい笑顔だな、そんなドロドロそうな関係の割に。


「俺は、奴の気持ち踏みにじったから別に振られて文句はねぇ。

 コイツはいい男だ。俺より頭はいいし……アイツとも戦友として、誰よりも認めてた…………」


 けど、と猿渡君は涙を流す。


「…………式はあげとけって言ったんだ俺は。

 何が、この任務が終わったらだよ……!

 結婚式より先に葬式あげるバカップルがいてたまるかよ……!

 俺は奴らの式のためのスピーチを…………ずっと悩んで…………悩み抜いて書いてやったんだぞ…………!!」


 写真に落ちる大粒の涙に、彼の悔しさ、怒り……複雑なまでの感情がないまぜになっているようだった。


「…………」


「俺は、お前らクソ機械供をゆるさねぇ……!

 もうすぐ一周忌なんだ……墓前に奴らを何匹殺したか報告するまでは死ねねぇ……!!」


 写真をしまって、彼は立ち上がる。


「お前を殺さないのは、その善意とかで助けられた恩ってだけだ……

 明日俺たちは九州へ行く」


「そうかい。気をつけて」


「ああ……次戻った時はお前も殺す準備ができた時だろうがな」


 はいはい。楽しみにしてますよ。


 できればもう、お互いにどとか変わらない方がいいと思うけど。


「じゃあな」


「…………おやすみ」


 さて、猿渡君も行った事だし、Mk-3に取り掛かろう。


       ***


 おはよう。今朝5時。

 案外、朝の空気を吸ってたらさ、ノスタルジーに浸っちゃうんだなって。

 もう少ししたら、ここにいる一団は去ってしまう。

 二人の人間しか会話してない割に、人数分の騒がしさだったなって。

 …………いなくなると考えると寂しさ出てくるなー…………


「はぁ……ん?」


 おろ?なんだ、アレ?

 煙だ……あ、爆発も。

 カメラアイでズーム……ん?


 なにかが…………え?戦って、ええ!?


 アレって……!



       ***


 ギュィィィィィィィィィィ!!


 脚部に備え付けられたキャタピラが唸りを上げる。

 後ろから来るレーザーを避け、廃ビルの背後へ潜り込む。


「くぅ……流石日本!ビルだらけ起伏だらけで、隠れやすい事この上ないでありますなぁ!」


 にぃ、と笑う顔は、人間のようであって人間とは言えない。

 陶器のような肌、光彩のないカメラレンズそのものの目。

 オリーブドラブ色の戦車に似た装備を纏うは、ロボットそのものでありながらも女の子を模した体を持つ。


「だが!墓場にするには、雑多すぎる!!」


 バァン!


 腕で保持する戦車砲を模した武器で反撃しつつ、それは後退を続ける。


     ***


「ロボ娘じゃん……!」


 え、マジで!?え?えぇ!?


「ロボ娘じゃん……!!!!」


      ***

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