◇第4話「きょうのどうぶつふれんず」



 ジャパニーズマウンテンモンキーの朝は早い。


 早寝早起きの鏡な彼は、就寝後10時間で朝日が登れば起き上がる。

 水を飲み軽くストレッチ。

 そして先ずは天井の金網にぶら下がり、そこで腕立て伏せを始める。


 金網はあくまで外に出さないため、そして空気穴ぐらいにしか役には立たないけれども、案外頑丈なおかげで彼のトレーニングには良く使われる。

 後、一体形成された取手があるのだけど、そこに足を引っかけて逆さにスクワットを始めるのにも重宝しているみたいだ。

 いやいや、スクワットだけじゃないか。その状態で腹筋まで始め、


「てめぇ!!人のこと昔のテレビ番組の珍獣みたいにいちいち行動を実況するんじゃねーぞぉ!?!」


 おっと、聴いてたか。こりゃ失礼!


「いやぁ〜君、自分が珍獣なのに気づいていないとは知らなかったよ」


「だとコラァ!?!?」


 ほらぁ〜、すぐウキャー!って言いながらドアに突撃する〜?

 そういうとこだぞ珍獣君や。



「悪かったね、君のことを一週間監禁するだなんてさ。

 なにせ、怪我のせいで二次感染起きてたからね。

 暴れまわって動き回って死なれても目覚めが悪いのさ」


「きくぁいがねりゅにょかよ……モグモグ……」


 喋ってバナナ食べるのは行儀が悪いぞ君?


「人間は寝ると何もしてない、と思ってるようだけど、人間だって寝てる間に体は色々しているじゃないか?

 記憶の整理、身体の修復……機械だってそういうのは必要さ」


「けっ!!一生寝てりゃあ良かったんだ!」


「それ、20年も寝てた私に言うかね?」


 あぁ?と言われて、ふと私もあることに気づく。


「…………そういえば、一週間食事やら体調のチェックやらで顔突き合わせて、お互い何も話してない気がする」


「あ…………そっか、俺お前のことどう素手で壊すかしか考えてなかったわ」


 ちなみにコイツ、ここの所近づくや否やコブラツイストやガチパンチで攻撃して来る恐ろしいマウンテンモンキーで、腕が実は壊れて今スペアに交換している。

 猛獣でもここまでしないぞ?


「君ねー、暴力はなんでも解決出来るけれども、最終手段にしか使っちゃいけない、っていうクレバーな常識が通じない国から来た訳なのかい?」


「うるせぇよ、お前ら機械はやれ「話し合いは無意味だ」とか言って攻撃してきたくせに、今度は暴力はやめてって言うのかよ?」


「あいにく、君らの敵にはなりたくないけど味方だとも言いたくない、関わりたくないって言うのが私のスタンスでね?」


「ハァ〜〜〜〜〜〜???

 なんだそれぇ??今更そんなこと言うのかよぉ??」


 おぉ、たしかに君のいいたいことは分かるよ?


「今更、ね。今までの陣営の対応見てれば当然のセリフか。

 おっと、自己紹介がまだだったけど、私はクリシス。

 かつて人間の手足となって戦争を管理すると言うストレスフルなお仕事だったもんでね、もう人間ともそれを管理しようとか考える後継機君にもうんざりして今は関わりたく無いと思ってる機械さ」


「じゃあなんで俺を監禁してんだよ」


「それもそうか!」


 じゃあ鍵開けてあげよう。


「……は?」


「まぁ、こんだけいれば二次感染したウィルスも抜けてるだろうしね。

 じゃ、とっとと人間の生息域にでも帰りたまえ珍獣君や」


 そんなわけでバイバイ。

 私はちょっと出かけるよ。


「…………はぁ!?!?!」


    ***


「おい待てよ!!どこ行くつもりだ!?」


「それこっちが聞きたいんだけど。

 なんでついてくるのかな?」


 その執着心はヒグマ並みか君は。実際君どっからスコップやら武器やら拾ってきたんだ、危険度がヒグマ以上だぞ。


「機械は信用できねぇ!!

 帰っていいって言われて素直に帰れるか!!」


「ふむ、それもそうか」


「つーか、お前、クリシスつったな!?

 なんでジェネシスの原型機様がそんな姿で歩き回ってんだ!

 そもそもジェネシスはアメリカだろ!」


「そうなんだよねぇ、そこが私も実はちょっと気になってる」


 私が機能を停止していた20年間。

 偶然先日目覚めた幸運は何故起きたのか、それが私にも分からない。

 この山猿男君の言う通り、なんで、と誰かに尋ねるべきなのだ。


「でもまぁ、それを解き明かすにも、先立つものは必要じゃ無いか」


「先立つもの?」


「私の体の材料。

 私は人間みたいに細胞が勝手に直すという機能は無いんだ、見た目は顔以外人間っぽいけどね」


「確かに顔が不気味だよな。

 目が無駄にでかいし、なんか一発で偽物って分かるから清々しいけどよ」


「殺すぞ☆」

(※本来は「やっぱ山猿には芸術は分からないか」と言おうとして本音が出ました)


「……お前、何?その顔気に入ってんのか?」


「当たり前だろ殺すぞ」

(※やっぱり「芸術的だろ?ああ、君には分からないか〜??」と煽ろうとしましたが先に正直な心が出てきました)


「……お前目がマジだぞ……人工物なのに目がマジなのが分かるぞ……?」


「分かって貰わなきゃ困るよ、私は本気だよ?

 この顔はね、尊敬するメカ少女絵師の美少女の顔を元に私が腕を奮って作った顔なんだ。

 邪神像にしないよう、少ない材料で失敗しないよう、機械に、AIにあるか分からないような魂を燃やして、削って、心の滾るまま、心のチンポジの赴くままに、2次元を3次元に落とし込んだ、今のところ最高傑作の造形なんだ。


 それを、

 不気味だとか、

 言う奴は、

 機械でも、

 人間でも、

 関係なく、

 皆等しく、

 殺す。


 いいね?」


 ずもももももももももも……!


「…………ぉ、おぅ…………」


「…………分かってくれて嬉しいよ♪」


 ほら〜、この笑顔見ろよ〜〜〜、可愛いヤッターだろぉ〜〜〜〜??

 そんな怯えんなよ珍獣君や〜〜〜〜♪


「……なんかその笑顔気持ち悪いぞ」


「うん、殺す☆」


     ***


 珍獣と28分43秒戯れて、私はふと気づく。


「おーい、山猿君ー!」


「誰が山猿だこの殺人未遂メカ人間モドキ!!」


「君以外にいるかもね!」


 ほら、あそこに見える煙を見なさいな。


「は……?なんだ、狼煙(のろし)か……??」


「原始的だねぇ。

 ただ、ああ言うのを見逃さないのは私らだけかい?」


「!」


 山猿君は、すぐに煙の方に走る。

 君のそう言う後先考えない所、好きだぜ?


 と言うわけで私も後を追ったのさ。


 ━━━━遠くで、嫌な動きを検知したしね。



 5分後、私達は中々悲惨な物を見た。


 燃える乗用車だった鉄塊に、泣きわめく子供達に焼け焦げた死体、


 そして、猟銃やら果ては手作り銃で武装した方々の群れ。


「なんてこった……!?」


「中規模な移動団、上野近くで1車事故で炎上、一人死亡って所かな?」


「呑気に言ってる場合かよ!?」


 叫んだところで、私達に相手は銃を向けてきた。


「誰だ!?」


「待て待て待ってくれ!!撃つな!!」


「?

 頭(カシラ)ぁ!!脇になんか変なのがいる!!」


 え?変なの?どこどこ??


「あ……〜〜ッ、お前のせいでめっちゃ警戒されてるじゃねーか!!」


「へ?なんで?

 こんな、プリティーで萌える可愛いメカ少女素体がなんで??」


「だからだろこのクソ野郎━━━━━━━━ッ!!!」


 私の身体は生殖器は無いけど女の子なんだよなぁ。


「で?なんなんだお前らは?

 殺した方が得なのか、殺すまえに色々喋らせた方が得なのか、判断は早くしたいんだがな?」


 と、リーダー格らしき、意外と若い男が猟銃を構えて言う。


「待ってくれ!!俺は猿渡 山和(さわたり やまと)!!九州政府軍の兵士だ!!!こっちのクソ機械とは関係ねぇ!!」


「君ねー、今初めて私も名前を知ったけど、一応命の恩人に関係ないとか失礼じゃない??」


「機械に命救われるだなんて恥ずかし過ぎてもう一回死にてーわクソが!!」


「命は大切にしなさいよー、バックアップ出来ないんだから。

 私だって自分のデータのバックアップができるサーバー作りは大変だったんだよ??」


「機械が命の大切さ説くのかよ!」


「おいおい、漫才も良いがな、俺も後ろのも精度が悪い粗悪品ばかりなもんで、引き金が軽いんだ。

 とっととここにきた目的を言え」


 おいおい、じゃあ引き金に指掛けてこっちに銃むけるんじゃないよ、猿渡君に向けな。害獣なんだから。


「俺は、何があったか取り敢えず見るために煙を追ってきただけだ!こいつは勝手についてきただけだ!!」


「彼のことは信じてやってよ。私はただ、君らに群がる彼らに用があっただけさ」


 指を指す方向には、私が狙ってた相手がいる。


 半ばから崩れたビルの壁面に張り付く、軟体動物頭足網(イカとかタコ)みたいな機械の獣を。


「オーダー!?」


「車を出せ!!!それとアレだ!!!」


 あわてないあわてない、でも走らないのも無し。

 ほらほら、足並み崩さないで?

 相手は一糸乱れない動きの戦闘用ドローンだ!油断したら死ぬよ!


「クソッ!!スコップ以外も持ってきて正解だった!!」


 腰から丸い果物を取り出して、スコップで撃ってぶつける山猿君、じゃなくって猿渡君か。

 器用だねぇ、一瞬でグレネードのピンを抜くなんてさ。

 狙いも爆発タイミングも完璧だ。


 硬目標には効かないだろうけど。


 早速煙から飛び出してくる上にビームまで撃ってきたじゃないか。

 いやレーザーか?知らないけど。


「くそったれ!!おい、お前なんとかしろよ!?」


「それ私に言ってる?」


「お前以外にいるかよ、機械!!」


 まぁなんとかするつもりだけど……


「おい、伏せろ!!」


 へ?

 え、待って???

 なんで軽トラの荷台にガトリングがあるの???


「マジか!?」


 マジっぽいから伏せなさいよ、ああああああああ、ヤバいヤバいヤバいぃ!?!

 爆音!!!聴覚センサー壊れちゃうよもぉ〜!!!

 クッソ旧式な武器で最新鋭の私の聴覚センサーも壊れそうだし、あのタコメカももうすでにスクラップだ!


「…………猿渡君、なんか喋ってくれるかい?」


「あ!?なんだって!?」


「そっか!!君の方が先に参ったか!!」


 良かったー、聴覚センサー無事だー……


「おい!お前ら乗れ!!!

 ここを離れる!!」


「何処へ行く気だい!?」


「さぁな!とにかく、集られると厄介だ!」


 そりゃそうか。君らの弾丸も無限じゃない。


「じゃあ、秋葉原へ向かってくれ!!

 そこに私の住む場所がある!」


「ここまでくりゃ地獄も煉獄も一緒だな!!」


 好意に甘えて車に猿渡くんを乗せておく。


「彼が案内役だ!耳聞こえないけどね!」


「お前は!?」


「彼らに用があるんだ!」


 即決判断。即離脱。


 イイね、場数が違う人間の判断力はAIを軽く凌駕してくれる。


「それに比べて……」


 規則正しい間隔、秒刻みの着陸に、わかりやすい包囲網。


 プログラム通りは確かに強いさ?

 でもね、


「芸がないねぇ…………オットセイ以下かな?」


 私に言わせれば迂闊な陣形だし、そりゃあ数は圧倒的でこっちは丸腰でも、


 ついでにプラズマビーム砲を一斉発射されても、


 この出来立てホヤホヤメカ少女ボディの美少女フェイスは常にキープスマイリングさ!!



      ***

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