エピソード14《ガーディアン》


 4月6日午前11時10分、蒼空(あおぞら)かなでがルートを検索してコースを走りだした後、一斉に飛び出したメンバーが第1チェックポイントとも言える工場に到着する。

このチェックポイントを通過し、残る3つのチェックポイントを通過してゴールへ到着すれば――と思われていたのだが、行く手をさえぎったのは予想外の人物だった。

「これで終わりなのか?」

「ナビによると、4つのチェックポイントを通過すればOKらしい」

「コース通りにいけば、10分足らずでゴール可能だ」

「楽勝だな。誰よりも早くゴールできれば―」

 次のエリアへ向かおうとした先頭メンバーの目の前に姿を見せたのは、何と出遅れてスタートしたはずの女性だった。

これは周囲も想定外と――思うしかなかったのである。

「バカな! お前は後ろのグループよりも大幅に出遅れていたはず」

「それが、この位置に来るとはどういう事だ?」

「まさか!?」

 ある1人は、コース取りに秘密があるのではないかと考えていた。

「コース取りに関しては自由と言われていたはずよ。そして、これはあくまでもスピードレースではない。サバイバルレース――」

 その後の言葉を彼女が言う事は無く、ビームサーベル型のガジェットで次々と先頭メンバーを切り捨てていく。

これは一体、どういう事なのか――と周囲で様子を見ていた人物も一斉に飛び出してきた。

ある意味でも場外乱闘と表現されるような光景なのは間違いない。

「何て事だ! ガーディアンが潜り込んでいたのか?」

「超有名アイドルファンは、何処にでもいる!」

「日本国民は超有名アイドルのファンでなければいけないのだ―」

 特撮の戦闘員の如く出てくる雑魚をも容赦なく切り捨てていくのだが、彼女の正体は全く未知数と言う状況だった。

最低でも、周辺のメンバーは誰も知らない。仮に知っている人物がいたとしても、この場にはいないだろう。

「貴様、一体何が目的だ? ガーディアンではないのか」

 完全な勇み足だったのか――と一人の男性は思った。

実はパルクール・ガーディアンが偵察目的にここへ来る事を彼らは把握しており、その情報を元にしてガーディアンを一網打尽にしようと考えていたのである。

 しかし、そのガーディアンが誰であるのかは知らされていない。

その為、超有名アイドル勢力にとっては無謀とも言える賭けだったのだ。

その結果が大失敗だったのは、火を見るよりも明らかであり――負けフラグも確定している。

「ガーディアンではあるが、本来の目的は違うな。ここへ来たのも―ある種の偶然だ」

 彼女の顔はバイザーの影響で見えないが、謎の笑みを浮かべているように感じられる発言だろう。一体、彼女の狙いは何なのか?

超有名アイドルファンが謎の人物に襲撃されている頃、別のエリアを通過していたのも超有名アイドルファンだが、襲撃されているのはAと言うグループのファンであり、サマーカーニバルのファンではない。



 一方、サマーカーニバルのファンは順調に作戦を進めていた。他の勢力と組むふりをして捨てゴマにする――それがサマーカーニバルのファンでもあった。

その為、ネット上では純粋なファンを含めて叩かれるような事になっており、その様子は魔女狩りとも例えられるほどだ。

様々なネット上のまとめサイトでは――その行為を海賊と例えるサイトもあったが、数日後には閉鎖されている光景を目撃するだろう。

「向こうの方が襲撃を受けているか。どうやら、こちらの流した偽情報に釣られた勢力がガーディアンに捕まって行く」

「まさか、こちらの手を汚すことなくライバルが減って行くとは……都合がいいな」

「この調子でライバルを減らし、その原因は他のコンテンツと言う事でなすりつけをすればサマーカーニバルが日本で唯一の神コンテンツと言う事になるだろう」

 サマーカーニバルファンと思われる勢力は、第3チェックポイントへと向かうべく近道をする。

しかし、チェックポイント到着目前でアラートが鳴り響いていた。一体、何が接近してくるのか?

【敵機接近中】

 表示は周囲に敵がいる事を警告しているのだが、それらしい影は目撃出来ない。

機械の故障と言う事でサマーカーニバルファンは先に進もうとした。接近を警戒しているのは、ほんの一握りかもしれないだろう。

「何処からだ!?」

 その後、一部ファンの目の前にいたはずの警戒チームが襲撃を受け、ガジェットが動作不能になったのだ。

これには他のメンバーも足を止めて警戒をせざるを得ない。中には、アーマーも機能しなくなり、強制離脱となったメンバーもいる。

一体、周囲で何が起こっていると言うのか? アーマーには傷が発生するエフェクトも表示されるが、それも一瞬であり――文字通りの一撃必殺だろう。

 しかも、使われた武器は実弾系のスナイパーライフルで、パルクール・サバイバルトーナメントでは使うプレイヤーが少ない。

この武器を使いこなす事自体、他のTPSやFPS、ガンシューティングで鍛えていない限りは不可能である。

格闘系武装も、それを踏まえると格闘ゲームをプレイしていれば使い勝手は変わるだろうか。

 実弾系と言っても、CGによる物であり――本物の実弾ではない。ARゲームがデスゲームを排除している事もあり、安全対策を強化した結果だろう。

そうしたシステム的仕様を知っていたとしても、先入観的な部分で実弾タイプのライフルで狙撃されると言うのは――。

『お前達が超有名アイドルの筆頭、サマーカーニバルのファンだな』

 次の瞬間に姿を見せたのは、北欧神話をモチーフにしたようなパワードスーツ、更にはパルクール・サバイバルトーナメントで使用する物とは全く違うガジェットも装備している。

スナイパーライフルも、おそらくは別のARゲーム用ガジェットだろう。持ち込み可能ルールになっているかどうかは、別になるが――。

「別作品で使用されるガジェットに反応して警告が出ていたのか」

 警告の意味を理解した別グループは、早速1体のパワードスーツを取り囲み――退路を塞ぐ。

しかし、パワードスーツが逃げるようなリアクションは取らない。

「貴様もパルクール・ガーディアンか?」

 緑色のガジェットを装備した男性がパワードスーツに対して尋ねる。

返答が来なければ無条件で攻撃を仕掛けようと考えていた。

『自分はガーディアンではない。スカウトされたのは事実だが――』

 そして、パワードスーツは手持ちのスナイパーライフルではなくショートレンジライフルを両肩のシールドから取り出し、降伏勧告なしで発砲、即座にガジェットを無力化した。

この行動に関しては、さすがに無警戒に近い一部ファン等も警戒態勢を取らざるを得ない。一歩間違えれば、警察連衡もありえたからである。

「何故にガーディアンしか知らないルートを知っていた?」

 本来、このルートは一部の関係者しか知らない物、地図のデータが流出したのであれば話は別だが、そのような事例は現状では確認されていない。

『それは一種の偶然にすぎない』

「偶然で、あのルートを発見出来るとは思えない。我々でも発見するのに時間がかかったのだぞ」

『そう考えるしか出来ないのか? 超有名アイドルファンもそこまでの思考しか持っていないという事か――』

「貴様もパルクール・ガーディアンや阿賀野菜月と同じという事か!?」

『それに答える訳にはいかない!』

 その後も二人のやり取りは続く。しかし、このやり取りは運営にもパルクール・ガーディアンにも察知されていた。

「これは大変な事になった。まさか、こちらの刺客をいともあっさりと」

 漆黒とも言えるようなアーマーを装着した人物、彼は何かを確認して即座に撤退する。

どうやら、あの刺客の正体は……。



 第2チェックポイント、ヘリポートを思わせるエリアを通過したのは蒼空だけであり、他に通過した人物はいない。

これに関して、運営側も異変に気付き始めていた。

「第2チェックポイントを通過した人物が現時点で1名だけなのは――」

「それだけ大量のリタイヤが出ていると考えるべきか、それとも別の理由があるのか……どちらにしても周囲の索敵を強化し、アンノウンを接近させるな!」

 オペレーターの男性が異変を報告すると、周囲を偵察していた提督が運営スタッフに対して指示を出す。

そして、第2陣がある可能性も考慮して周囲の警戒も行うように指示を出し、指令室も周囲に対して試験の中止は避けるように優先事項を伝えた。

基本的に実技を中止にするのは、自然災害の類と非常警戒が必要な時だけであり、こうした状況が他の試験参加者などに伝えられる事はない。

非常警戒に関しては超有名アイドルではなく、別の勢力に適用される物であるのだが、これが適用された例は一度もない。

「次は第3チェックポイントか」

 蒼空は異変が起きている事に気付かず、第3チェックポイントへと向かう。

ナビで第3チェックポイントを検索すると、そこは何かの倉庫らしいのだが――正しいルートが1個だけとは限らないので、別ルートが提示された可能性もある。



 第3チェックポイント、通過したのは蒼空だけかと思われたが、数人の襲撃に巻き込まれなかったメンバーも通過して行った。

これに関しては、第2チェックポイントで救済処置を取った為である。

こうしたアクシデントもパルクール・サバイバルトーナメントでは日常茶飯事。こういうアクシデントも醍醐味としている人物もいるほどだ。

しかし、超有名アイドルファン等の一部メンバーは失格扱いとし、そのまま本物のパルクール・ガーディアンへ引き渡される事となった。

「一体、何があったと言うのか?」

「失格者が出るのはパルクール・サバイバルトーナメントでは当たり前――。こうした実技で不合格者が出るのも珍しくはない」

「しかし、運営がこうした処置を取るのは珍しい事ではない。今回に限っては、何かがおかしいように思える」

 チェックポイントを通過した他の参加者は、どのような状態か気になっても足を止めて話を聞く訳にはいかない。

足を止めれば、他のプレイヤーに順位の逆転を許す結果になるからだ。

これは講習の時にも言われている事であり、レースである以上は宿命なのかもしれない。

その後、実技の結果は全員がスタートしてから15分後に出た。

完走できたのは蒼空を含めて数名、それ以外のメンバーは全員が失格となったのである。

失格になったメンバーの中には、例の女性は含まれていなかった。彼女はスタッフだったのか、それとも……。

「読みが外れたようだな――」

 スタート地点で結果を聞いていたのは如月(きさらぎ)トウヤ、ビームサーベルタイプのガジェット使いである。

しかし、一連の騒動に乱入を仕掛けたのは彼女ではない。あくまで、超有名アイドルファンの引き渡しに対応しただけである。

「それにしても、蒼空かなでと言ったか……彼の能力は一体何だというのか」

 第3チェックポイントの映像を確認していた如月は、ある異変を映像から読み取っていた。

ガジェットの力とは違った何か、あるいは第六感的な物を持っている可能性もあるだろう。

如月が蒼空に感じていたもの、それは阿賀野菜月とは全く違う何かで間違いない。



 蒼空を含めた数名は別の部屋へ呼ばれ、そこで実技の結果を聞く。

そこで、教官が語ったのは予想外の事だった。

「今回は想定外のアクシデントがあり、そこでは一部の受験者が失格と言う処分となった。こうした状況になったのは残念だが、君達は無事にゴール出来た事で合格の条件を満たしたと言っていい」

 他の受験者が失格処分の理由を尋ねようとしたが、ガーディアンからの守秘義務で話す事は出来ないという回答だった。

その一方で蒼空は何も質問せずに話を静かに聞いている。

「失格者が出た事は残念だが、実技で合格者が100%出ると言う事は滅多にない。運も実力の内とは言いたくないが……」

 その後も教官の話は続く。しかし、襲撃等に関して話す事はなかった。

質問をされなかったというのもあるようだが、理由は下手に不安をあおりたくないという事らしい。

蒼空が実技を受けている頃、秘密裏に動いている勢力が存在した。

彼らは超有名アイドルと言う日本では敵がいないと言われるコンテンツを利用し、日本支配を考えようと考えていた組織である。

信じがたい話ではあるが、阿賀野がネット上で警告していた事は全て真実だった。

そして、皮肉な事に阿賀野の話も超有名アイドル勢や炎上屋と呼ばれる勢力によって都合よく書きかえられ、超有名アイドルを神化するような物になっていたのである。

「まとめサイトか――何処から資金源を得ているのか」

 提督たちも、彼らの動きに関しては様子を見ているようだが――摘発となると後手に回っている印象が高い。

もしかすると――泳がせている可能性も否定できないだろう。



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