エピソード2《彼の名は、かなで》


 西暦2017年4月1日午前10時頃、ほぼ同時刻にファストフード店でタブレットを片手に情報をチェックしている人物がいた。

身長170センチ、ジーパンにジージャン、髪は青色のセミショート、両手にはアスリート仕様のグローブ、体格は若干細めでスポーツをしているとは思えない。

【パルクールの世界普及に関して】

 この青年が端末を片手で操作しながら、ネットサーフィンしている。しかし、これを指摘する客はいない。

トレーにはホットコーヒーとヤキソバパン、ハンバーガー、フライドポテトが置かれているが、ポテト以外はあまり手を付けていないようだ。

ポテトに関しては手に油が付いてしまう為、専用のハンカチを使いながら食べているのだが、周囲の客から冷たい視線が当たる事は一切ない。

彼のいる場所はARゲーム専用のネット回線開放席だからだ――。

「これだけの事があっても行う価値があるのか?」

 蒼空(あおぞら)かなで、名前は女性と間違われる事がある一方、それを逆に利用して女装でもすれば――と誰もが考える。

しかし、本人は女装に関しては何も言及するような事はない。

これに関しては興味がないというよりも『BL勢に対して敵意でも持っているかのような気配を感じる』というネット上の評価が存在していた。

「しかし、日本経済を変えるには、色々なジャンルで個別の変革が必要になってくるだろう。それは疑いようがない」

 コーヒーを飲みながら、サイトのページを画面にタッチして切り換えようとしたが、何処かで聞き覚えのある曲が流れたので、その方角を振り向くと――センターモニターでプロモーションビデオの第2弾が流れていた。

『駆け巡れ! 可能性を秘めたルートを!』

 第2弾ではコースは限られた物だけではなく自由度が高い設定が可能、使用可能なガジェットが多機能である事が大きく取り上げられている。

他にも初心者用のサポート機能、女性プレイヤーも多数参戦などのような紹介があるのだが、どれもゲームと直結するような紹介かは疑わしい。

「果たして、パルクールに日本のコンテンツ業界を変える力があるのか」

 トレーに置かれたヤキソバパンを掴んで、彼はつぶやく。

そして、一口食べた後にコーヒーを一口飲む。色々なスポーツがブームになっても、1人の選手がピックアップされるだけのケースが多い。

それが過熱してブラックファンが増えるケースも目撃されており、それがコンテンツ業界で大きな障害となっていた。

正しいファンの心がけ等を教えるサイトも存在するのだが、それが逆に他のコンテンツ同士での争いを加速させるという意見もあった。

ゲームと直結するようなアピールがされているPVであれば、物珍しさ以外で集客も期待できる。

しかし、これらのPVは映像をプロに近い人物が製作しているのだが、説明文などを入れる段階で素人と入れ替わったのでは―という箇所が存在していた。



 仮にコンテンツ業界を変える力がパルクールにあったとしても、超有名アイドルに勝てるようなコンテンツになるかは見えてこない。

蒼空の考えは一般人の感覚とかけ離れた部分もあり、それがネット上では色々と炎上のネタになる事があるだろう。

パンを食べ終わって、蒼空はコーヒーのおかわりをする為に席を立つ。

その時に店内のある窓に映っていた人物、それはパルクールの選手と思われる男性だった。

プロモで見かけたような重装甲ではないが、インナースーツの他に脚部と胸に特殊なアーマーを装着しており、更には特殊なバイザーメットで顔を隠している。

あの装備をしていれば警察に捕まる―蒼空は思うが、パルクールの選手にはライセンスが配布されている関係で警察に捕まる事はない。

ただし、警察から質問を受けた場合はライセンスを提示する事が義務化されており、その際に偽造と発覚した場合には逮捕される。

パルクールに使われるブースター等は基本的にオーバーテクノロジーとして扱われ、一歩間違えれば戦争にも流用可能。

それほどの技術がありながら、どうしてARゲームという分野にしか使用されていないのか――ネット上でも疑問が残るのだが、それを探ろうと言う人物もいなかった為、今まで放置されていたのかもしれない。



 午前10時10分頃、食事を終えて店を出た蒼空は先ほどの選手を探そうとしたのだが既に通り過ぎた後だった。

周囲の観客に尋ねた際には驚くべき発言が飛び出したのである。

「あの選手なら、猛スピードで北千住駅の方に向かっていたな」

「パルクールでもスピード制限があって、それを超えるとガジェットが耐えられないという事で失格になる筈だ」

「道路標識や交通ルールも厳守と言う事も言われていたな」

「仮に違法ガジェットだとしたら、ガーディアンが黙っていないだろう」

 蒼空の懸念は観客の話を聞いて確信に変わっていった。

サイトで確認したルールでも違法ガジェットの使用は禁止されており、仮に摘発されると逮捕だけでは済まないだろう。

『違法ガーディアンを発見しました。これより追跡を開始します』

 目の前を通り過ぎたのはインナースーツに各種装甲、ビームハープーンと呼ばれる特殊な兵器が搭載された肩アーマー、更にはガントレット型のガジェットも完備と言う女性だった。

パルクールには女性が参加不可と言うルールがない事を知った瞬間でもある。

そして、その人物の装備はプロモーションビデオでも見覚えがある。あの人物を追跡すれば何か分かるかもしれない。

「何とか追跡しないと――」

 あのスピードに追い付くためには、同じ装備が必要不可欠だ。

100メートルを10秒切るような選手でも、あのスピードの選手を追いかけるのは物理的にも不可能。

その蒼空が発見した物、それはレンタルスーツを扱っているアンテナショップだった。



 早速、自動ドアの前に立ち、周囲を見渡して何かを確認し始めていた。

慌てても事態は進展しないので、落ち着こうとしているのだが、どうしても落ち着かない。

「あのサイトにはガジェットの運用にはライセンスが必要な一方で、レンタルならライセンスが不要と言う事もあったはず」

 いくつかのガジェットを品定めしていく内に、自分が入り込もうと考えている世界がどのような物か考えていた。

ゲームと言うよりはスポーツ、それもF1やバイクレース等の様なモータースポーツに通じるだろうか。

「何か急いでいるようだったら、セッティング済のガジェットもあるぞ。レンタル代金は通常のカスタマイズよりも高いのが欠点だが」

 蒼空の姿を見たエプロンをした店員と思われる男性スタッフが、急に声をかけてきた。

ガジェットをすぐに用意できれば――と考えている事を彼の表情で把握したらしい。

「これが、セッティング済のセットですか?」

 ショップの店長と思われる人物が持ってきたタブレット端末を見て、蒼空は衝撃を受けていた。

急ぎでカスタマイズしたとは思えないようなスピードセッティング、防御面でも高い耐久力を示しているのが分かる。

「このセッティング自体は他の選手に依頼されていた物だが、君が急ぎでガジェットが欲しいと思っているのを表情で――」

 彼の話を全て聞くことなく、蒼空はレンタルガジェットの使用届をタブレット端末で作成し、完成したデータを店長の端末へ転送する。

「このカスタマイズでも問題ありません。今は、追跡したい人物がいますので。その為にもガジェットが必要と思っています」

 この一言を聞いた店長は、別の場所に置かれていたコンテナを開封し、そこからインナースーツを1着取り出して、それを手渡した。

「インナースーツに関しては購入する事になっている。1着1500円だが、こちらに関してはレンタル出来ない事情もあって――」

「それは分かっています。先ほど、サイトの方で確認済みなので」

 蒼空が用意周到だった事に店長も疑問を持ったが、自分が用意したセッティングのランニングガジェットをテストするには丁度いい機会だった。

その実験に付き合う代わりと言う訳ではないのだが、レンタル料は若干サービスする事にした。

スーツの料金は別にもらうとして、合計3000円をタブレット端末に入力して、それを蒼空へ提示する。

「合計で4500円だが、消費税は別扱い。向こうのレジで精算後、ガジェットルームまで来てもらえれば、ガジェットは用意しておく」

 しばらくすると、店長は姿を消していた。どうやら、ガジェットを用意する為に移動したらしい。

その後、蒼空は店長の指示通りにレジへ向かい、ガジェットの件をレジの男性スタッフに説明する。

スタッフの方も事情を理解したらしく、料金の精算とカードを手渡すだけで手続きは終了した。

カードの方はガジェットの方に挿入する物と言う事だが、詳しい事は店員も話さなかった為に不明である。

「あのカスタマイズでも、何の疑問を持たずに――。一体、どういう事だ?」

 男性スタッフの疑問は蒼空には聞こえていない。

ガジェットのチェックが完了するまでの間、蒼空は更衣室で着替えを始める。

全裸になる必要性はなく、下着の上からインナースーツを着込む物らしい。女性の場合は水着でも可能らしいが――。

「準備が完了した」

 店長の声が聞こえたので、ガジェットルームへ向かう。

そして、部屋の中で目撃したのは別の意味でも衝撃的な物、ランニングガジェットである。



 ランニングガジェット、パルクールで一部のプレイヤーが行っていた危険なパフォーマンス等を抑える為に開発した物であり、ランニングガジェットなしで行われるパルクールは原則としてアクロバットと判定される。

アクロバットと判定されると警察の逮捕対象と判定されるように運営側が決めている。

こうでもしなければ危険行為が減らないというのは何か間違っているのかもしれないが、一定のルールが守られてこそのパルクールであると今ならば思える。

ジャンルは違うが――特定勢力の暴走がネット上で炎上した結果として、そのジャンルをダメにするとまで言われている。

 現に一部の勢力が暴走した結果、国会で規制法案が審議されているのだが、何処までが真実なのかを知る手段はない。

しかし、こうした規制によって封じ込める策は一部で『魔女狩り』とも言われ、超有名アイドルを抱える芸能事務所の十八番とまで言われた事もあった。

芸能事務所以外も魔女狩りを実行している業界は存在するのだが、芸能事務所だけが強く言われるのは政治と金に強く関係しているという噂があるからだろう。

 他のジャンルでも言われているが『ルールを守って正しくプレイ』というのは、どのゲームやスポーツでも一緒だ。

しかし、ルールを守る人物が100%いるとは限らない。中には、ルールを破って違法アイテムやチート、不正ツール等の違法行為に手を染める人物もいる。

そうした人物が根絶できれば苦労しないが、現実は色々な問題を抱えている為、上手くはいかないのが現実だ。

パルクール・サバイバルトーナメント――ファンによる通称はパルクール・サバイバーも例外ではなく――ARゲーム全般でもチートに関しては課題の一つとして挙げられている。

違法なガジェットの横行を防ぐ為、運営が取った手段と言うのがアンテナショップによるガジェットの購入という物で、正規ショップ以外で購入する際には細心の注意をするようにともサイトでは言及されていた。



 午前10時30分、店長が何かの機械を起動させる。そして、ここに入るように指示していた。

形状はカプセルサウナを連想させるような縦に置かれた筒型の何かだが、一体何をしようと言うのだろう?

「ガジェットシステム起動!」

 店長が機械のスイッチを押すと、蒼空のインナースーツにアーマーのような物が装着されていく。

両腕、両足、腰、胸部、ヘッドの順で装備されるのだが、蒼空本人が驚く様子はない。

装着されたアーマーのデザインは汎用的な物で、特に目立つような特徴はなかった。それだけ平均的な性能と言う事なのかもしれないが。

水晶を思わせるような結晶の塊が何を意味するのか気になる所だが、まずはスーツに慣れるべきと考える。

「これが、ランニングガジェット―」

 蒼空が装着されたアーマーを鏡で見て驚くのだが、ランニングガジェットは装着された物ではなく、別に店長が用意をしていた物だった。

店長の隣に置かれている青色のコンテナ、それを開くと中に入っていたのは戦闘機を思わせるようなバックパックユニットである。

これが正真正銘のランニングガジェットだというのだろうか? ランニングガジェットと言えば、ネット上ではロボットの様な物と言う認識のはず――。

「本来であれば、これはレンタルではなく特注ガジェットだ。しかし、起動テストは数度しか行っていないという代物。それでよければ特別価格で提供しよう」

 店長が自慢げに用意したガジェット、それは本来であれば別の用件で準備していた物で、市場には流通もしていないワンオフ物である。

他のレンタルガジェットよりも高性能な物を求めていた蒼空にとっては願ったりかなったり――とも言えるかもしれない。

その一方で何かの見返りを店長が求めているのではないか、と言う考えも彼の脳裏に思い浮かぶ。

「特別価格とは?」

「先ほど支払ったインナースーツ代とアーマーのレンタル料だけで構わない、と言う事だ。このガジェットに関しては、レンタル料には含めていない」

 特別価格と聞いて蒼空は疑問に思った。

下手をすれば定価よりも高値になるオチも避けられないだろう。ワンオフ系と言う物が1万円クラスである事は、別ジャンルでも把握しているのだが――。

改めて聞くとレンタル料だけで構わないというのだが――それでも信用出来るか分からない。

「あからさま過ぎる。何か含みを残しているようにも思えるが」

「そこまで警戒しているとは」

 蒼空が特別価格の理由を聞くので、店長が何とかごまかそうと考えていた。

無料と言うのも詐欺と勘違いされるので特別価格と言ったら、まさかの反応をされたので店長は困惑している。

「仕方がありません。他のお客もいないので、この事は我々とあなたの間だけの話……他言無用と言う方向でお願いします」

 彼の熱意に負ける形で他言無用と言う条件を付けて、事情を話す事にした。

他のお客が来ていたら、自分にもサービスして欲しいと詰め寄られる可能性があるので、あまり話したくはなかったらしい。

「このガジェットは、元々が運営の防衛組織であるパルクール・ガーディアンが使用するのを想定して調整していた物。パルクール初心者で扱えるような代物ではないのは明らかだろうが」

「成程。これが、噂のパルクール・ガーディアンが使用している物と同等の……ならば、行けるか」

「ガーディアンは相当訓練された実力者ぞろい――それを数時間で扱えるとは思えないが」

「他のARガジェット等で見慣れた装備であれば、問題はない」

 店長が全てを説明する前に蒼空はブースターユニットを装着、専用のカタパルトを思わせる出口から出て行ってしまった。



 数分後、気が付くと蒼空の姿は目視では見えなくなっていた。それ程のスピードがあった訳ではないが――。

「話は最後まで聞くべきとは思うのだが」

 そのまま出て行った蒼空を呼び戻す事を店長はしなかった。

とりあえず、ガジェットのデータさえ手に入れば問題はないのである。

その後、別のお客の対応をする為に店の方へと戻るのだが――。

「そう言えば、ライセンス認証がまだだったな……って!?」

 彼が異変に気付いた頃、蒼空は既に数百メートル以上は進んだと思われる。

その異変を再確認する為、彼はサバイバルトーナメントのデータベースへIDの照合を行う。

【該当IDなし】

 店長は画面を見て疑問に思った。

該当IDなしは自動車で言う無免許運転に該当し――両者にペナルティは避けられないからだ。

しかし、本当に無免許であれば、ガジェットのレンタルをする段階で不可能である表示が出るはず。

「何か、IDを撃ち間違えたのか?」

 なりすましに代表される偽IDの可能性も否定できない為、別ARゲームの公式サイトを開き、そこで再びID称号を行う。

【該当あり】

 これによって偽造IDではない事が証明された。

この数字でどうしてパルクール・サバイバルトーナメントに認識出来たのだろうか?

疑問は浮上するが、今はお客が来ているので店番が優先である。後から運営の連絡が来るかもしれないが。



 同時刻、蒼空がランニングガジェットを使用して何処かへ向かう様子を見ていた人物がいた。

その姿は遠目から見るとセールスマンなのは間違いない。しかし、彼が密かに売っている物には問題があった。

「例の奴を発見した。どうやら、あの時の連中を追っている可能性がある―」

 その人物は小声で電話をしている為、周囲から見ると怪しいのが即分かりなのだが、それでも彼を指摘できないのには理由があった。

『なるほど。ガーディアンの新型という可能性もあるか。一応、報告はしておこう』

「そんな悠長な事では駄目だ。すぐに上層部へ掛けあって欲しい。そうでなければ、手遅れになる」

『一体、どう手遅れになるのだ?』

「貴様……我々を潰す為に偽物を掴ませたのか?」

『だとしても、我々がライバルの芸能事務所を潰そうと言う証拠は何処にある?』

 背広の人物は電話の相手に対して強い悪意を抱いていた。

このままでは、自分の事務所に所属しているアイドルにも危害が及ぶ。そこで、彼は一発逆転のチャンスを思いつく。

「証拠はないが、別の物ならばある」

『別のだと!? まさか、それは――』

 電話の相手も彼の発言を聞いて動揺をしている。

どうやら、ビンゴだったらしい。そして、彼は更に話を続ける。

「それは、アカシック――何っ!?」

 何かの単語を言おうとした彼は、何者かによって狙撃されたのである。

狙撃と言っても実弾ではなく、スタン効果を持ったCG製の疑似弾丸――ARゲームで使用される弾丸が後に確認された。

周囲のギャラリーも発砲音を聞いたわけではなく、急に倒れた人物を見て悲鳴を上げる女性もいる。



 午前10時32分、ショッピングモールの駐車場付近では狙撃用のARガジェット及びARアーマーが目撃された。

しかし、それを確認できたのは狙撃中だけで、その後は姿がない。どうやら、ステルス迷彩の様なシステムを使って姿を隠したというのが有力らしい。

「本当に回りくどいような方法を使う。これがパルクール・ガーディアンのやり方か」

 パルクール・ガーディアンがある物の存在を突き止める為にバイヤーを利用、違法ガジェットを使用した選手と合わせて一網打尽にしようというのがガーディアンの考えていた事だが、このスナイパーはガーディアンとは無関係で違法バイヤーを狙撃した。

弾丸の方は一発必中であり、その後にスナイパーライフルを変形させ、ガンケースに収納する。

「しかし、連中がアカシックレコードを狙っているとは思えない。おそらく、資料やフレーバーテキスト程度の存在として軽視している可能性もあるが」

 スナイパーの言う連中とは違法バイヤー達の事である。

彼らは違法なARガジェットを仕入れ、欲しいという選手やコレクター等に売るだけの存在であり、多くの情報を掴んでいるとは考えにくいからだ。



 しばらくして、電機店のテレビ等では臨時ニュースが報道されていた。

今回の動きに関しては早すぎる可能性もあるが、別の取材でカメラが現地入りしていたとすれば――このスピード報道も偶然ではないと言えるかもしれない。

『臨時ニュースをお伝えします。本日午前10時30分頃、足立区内にて○○芸能事務所のマネージャーが狙撃される事件が起きました―』

 しばらくして、テレビのワイドショー番組でも臨時ニュースが流れ、今回の事件は更に注目される事になった。

このニュースを確認したスナイパーは今回の作戦が失敗したと確信する。

「仕方がない。別の作戦を考える」

 次の瞬間、ステルス迷彩で隠されていたARアーマーが姿を見せる。

それはミリタリーチックなロボットを連想させるのだが、瞬時で姿を消した。まるで瞬間移動したかのように――。

その後、黒のコートに若干巨乳と言う黒髪の女性が入れ替わりで姿を見せる。

ロボットの方はARガジェット等と考えると、CG演出で消えた等と言う解釈も可能であるのだが――。

「どちらにしても、ガーディアン側が違法バイヤーを放置しているような姿勢を見せるのは、他のARゲーム勢にとっても不利になる。バトル要素のない音楽ゲーム、チート要素が最も規制されているカードゲーム系は問題がない一方で―」

 彼女はARゲームにおける違法バイヤーの存在を懸念していた。

それを彼女の依頼主に報告した結果として、今回の違法バイヤーのハンティングと言う任務を受けている。

しかし、今回のニュース報道によって警備等が厳重になるのは間違いない。

それに加えて、芸能事務所側が今回の動きを察して別の宣伝活動へシフトするかもしれないだろう。

「パルクール・サバイバーはどのような方向へ向かっていくのか。そして、運営は何を狙っているのだろう」

 レーヴァテイン、それが彼女の右手に装着されたARガジェットに書かれている名称である。

彼女の言うパルクール・サバイバーは運営側の言うパルクール・サバイバルトーナメントと同義語だが、あくまでもファン呼称と言う事で公式で略称を使用した事は確認されていない。



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