予定にはみ出す9話。ちょっと進展。



思春期とは、劣等感コンプレックスと優越感コンプレックスとの葛藤であるby金井ジン


俺は今ナナとラインしている。

昨日のプール事件の後帰りに会ったナナに、なんとか教えてもらった連絡先(ドヤ顔)

ナナの隣にいたデキスギ君は不信感丸出しで俺を見ていたが。

モブは黙って見ていればいいのだ!


ジン『おはようナナ。』

なんて送ることから始まったウブな俺。

ナナ『おはようございます。』

ジン『今日は風が強いぞ。』

ナナ『そうですね』

そして色々話を振る俺。

ジン『今日は母さんが寝坊したから弁当なし!ナナは購買?』

ナナ『お弁当を食べます』

ナナは絵文字もつけない。

もちろんスタンプもつけない。

会話というよりどっちかというと…

業務連絡。

〜〜〜

で結局思い切って聞いてみる。

ジン『俺が学校で話しかけるのは迷惑?』

ナナ『迷惑というか。先輩のような華やかな人はすぐ話題になるので苦手です。先輩が苦手なわけではないです。』

…。

ジン『今日はピアノ弾くの?』

ナナ『はい。』

ジン『じゃあ行く。』

相変わらずのナナ。

相変わらず懲りずに話を振りまくる俺(笑)


俺は2限の休み時間に2階の職員室の前の廊下でナナの背中を見つけた。

声をかけようと思った。

立ち止まってなにかを見ているナナ。

視線の先。

三浦がいてほかの女子生徒と笑って喋っている。

「…。」

まぁそうなるわな。

俺は声をかけるのをやめて、教室のある反対側の方へ向かった。

ああ。なんだかなぁ。

情けないけど。

しょうがない。

俺がナナを諦められないのと同じで、ナナが三浦を好きなのだってそれは同じ。

ナナと俺。叶わない恋だとわかっていても、好きな気持ちには抗えない俺たち。

それでも、ナナがいつか振り向いてくれないかと連絡先を聞いた俺。

でもこればっかりは俺が頑張ってもどうにもならない。


「さー今日は何してあそぼっかなー!」




昼休みの秘密基地。

俺はドアに寄りかかって床に座って漫画を読んでいる。ハニワが目から発するビームでチクワに変える話(知ってる?)

クラッシックを弾くナナ。

今日は子犬のワルツらしい。

ナナは泣いていない。

クラッシックを弾く時は、楽譜を見ることがないからだろうか。


今日は最初に会った時の様な、優しい表情で弾いている。



「ナナ。」

ナナがピアノの方からこっちへ向く。

その顔は「うぜぇ」ではなくて、ちょっと挙動な猫みたいだ。

俺の大きな進歩!(ドヤ顔)

「三浦のどこが好きなの?」

ナナのタイプを聞いてみる俺。

「答えなきゃいけませんか?」

前ほど拒絶はされていないが…。

ちょっと嫌そうだ。

「気になっただけー。」

俺は手の内の、漫画に目をやりはぐらかす。

「……頭がいいところと、優しいところです。」

ボソッと言った後にすぐにピアノを弾き出すナナ。

結局答えてくれる(笑)


“頭がいい”は勝てない。い、今は!(悔しいから付け足してみる)

“優しい”ところは頑張れる!と思うが…。

「そか。」


まぁ知ったところで俺が三浦になれるわけもない。頑張れ俺!



優しい音色と穏やかな時間が流れる。

2回目の子犬のワルツ。


初めて会った時みたいな穏やかな表情でピアノを弾くナナ。

三浦のことがあってからナナはずっとあの調子なのかと思っていた。

だから最近また楽しそうにピアノを弾くナナの演奏が聴ける俺は純粋に嬉しい。



弾き終わってすぐに曲が変わった。


ーーーーーー!?


それはお洒落で、ハイスペックなキラキラ星。

俺が弾いたあのキラキラ星よりも音も多くて指使いも早いやつ。


俺は思わずナナを見た。

ナナが楽しそうに弾いている。

一瞬目が合う。

不覚にもドキッとする俺。

ピアノを弾くときと依然変わらない表情だけど…。

でもなんかいたずらっぽさも読み取れる。


俺は全ての意識が奪われる。

弾き終わりまで俺はずっと見入っていた。



「ナナそれー…。」

「モーツァルトのキラキラ星変奏曲です。」

いたずらっぽく、照れたように笑うナナ。


「モーツァルトだったんだ。作った人…。」


俺は悟った。

聴いてたんだ。

どっかで。

俺のあの小学生並みのキラキラ星を。

やべぇ。

やべえ!!

これは。

これは、これは…!!

明らかにストライクゾーンだッッ!



みたか!聴いたか!三浦!!

(いや、お前には勿体ねぇから聴いてなくていい!!)

俺に、俺だけに弾いたキラキラ星だぞ!


カタタン。

風で窓が揺れた。

窓の方をナナが振り返る。


ナナの背中。

職員室の前での、あの背中と被って見えるーー。

あの視線の先に三浦がいるんだろうか…。

こんなこと思うのは男として情けない。

わかっている。

例えそれが既婚者で、ナナの叶わぬ恋の相手でも。


ーーーーなんか、苦しい。


「お、俺。次体育だった!着替えなきゃ。い、行くね。」


俺は逃げるように音楽室を出た。

階段を降りる俺。

鼓動と一緒に階段を下る速さも比例する。

やばい。

やばい…。

ナナを懐柔したいなんて思っていたくせに、

懐柔したナナに俺の方がほだされたわけだ。

ああ。

恋に堕ちるとはこう言う事か。



「金井先輩。」

「?」

振り向いたら4階の踊り場でデキスギ君が立っている。

「あーえーっと…。」

「理数科の2年吉高です。」

理数科はクラスが違うので面識がない。

「何?」

「あんまり入江さんに関わるのやめてください。毎回毎回。」

「…。」

「今も一緒だったですか?」

なぜそんなことをコイツに言われないといけないのか…。

俺とナナが音楽室にいることを知っているのか?だとしたら、こえぇな情報の周到さ。

「入江さんは真面目だから」

振り絞るみたいに言うデキスギ君。

俺が脅してるみたいじゃねぇか。

「ナナから言わるならわかるけど。君が言うことじゃなくない?」

「入江さんは言えないだけで…、思ってますよ!」

腹立たしいけど、別にいいや。

「ふーん!じゃあね。」

俺は適当にあしらって階段を降りる。

どうでもいい。

俺のライバルはお前じゃない。

俺のライバルは三浦ソウマ32歳だ!!

モブはひっこんでいろ!



帰りのHR。

ジャージの三浦が入ってくる。

もう何も触れるまい。

俺は今おセンチだからな。

今日くらいは突っ込まないぜ。

「金井ー!明日昼休み実行委員なー。」

「はーい。」

「あと、6月第1週の土曜日が文化祭になるがこれから準備とか忙しくなるからな。進路、部活もあるだろうけど計画的に協力的に取り組むこと。以上。」

「あ、それともう一つ。季節の変わり目は変質者がでる。普通のやつが変質者になることもあるから気をつけろよー」


俺は吹いた。完全変態、篠田のことにちがいない。


ちなみに文化祭は、俺たちはたこ焼き、チョコバナナを売る。

男子たちがドンキのたこ焼き器で必死に焼く。

女子はチョコバナナ担当。

販売は可愛い子たちが頑張る。と言う役回り。



ジン『ナナんとこ何やんの?文化祭』

ナナ『お化け屋敷です』

ジン『ナナ何役?』

ナナ『生徒会なので役なしです』

残念。


俺は大人しく部活へ行った。


〜〜〜〜〜


次の日。

ジン『今日昼休み秘密基地行けない』

ナナ『私もです。生徒会です』

ナナ『先輩に借りたハンカチ返すの忘れていました。すみません』

ジン『いつでもいいよ!俺も忘れてた。』



昼休み。

俺は生物室で予算の説明を聞いた後教室へ戻る途中。

「お!金井いいとこにいた。」

「あ?」

振り向いたらジャージの三浦。

「なんすか?」

「ちょっとこい。」

と言うから職員室についていく。

「これ。かえりまでに分けといてくれ。」

と言って英語のノートと、プリントを渡された。

「…。」

「あと、実行委員ありがとうな。」

「…。」

「俺にとってもここでの文化祭最後だからな。」

「…?三浦っち異動になるの確定?」

「まぁな。身内問題だからな。」

察しのいい俺。

ナナと親族になったわけだから、そりゃぁまずいわな。

「お前チャラそうに見えるけど、実は真面目だから助かってるよ。」

と肩を叩かれた。

「まーな!」

褒めてんのか…?

「三浦っち奥さん見せてよ。」

「見せねーよ。さっさといけ。昼休み終わるぞ」

「ちぇ。俺いつもやらされ損じゃん!」

と言って渋々ノートとプリントを抱えて職員室をでる。


三浦め、食えない奴め!

俺だってナナのねぇちゃん見てみたかったんじゃ。



ジン『ナナ明日秘密基地いく?』

ナナ『明日秘密基地行けません。』

ナナが『秘密基地』と言う単語をつかった事がちょっとした進展感を感じる俺。

ジン『そか。もしかして俺のキラキラ星聴いてた?』

ナナ『化学室から聴こえました。』

化学室は音楽室のすぐ下にある、生徒会役員の集会場。

ジン『まじか。』

ナナ『予鈴ギリギリに覗いた時は先輩いませんでした。』


まじか。

まじか…!

来てたんだ。

来てくれたんだ…!!


こんなことで嬉しい俺はなかなか女々しい。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る