ああ、そういうことか。


週末が開けて月曜日。

1限は英語。

「始めるぞー。」

英語の三浦ソウマが入ってくる。

三浦は今日もジャージだ。

俺は土日、光景のせいで結構なおセンチだったていうのに!

あの爽やかな笑顔とジャージ姿に腹立たしさを覚える…。

このリア充5め!


無駄にジャージ着るんじゃねー!!


「えーと教科書21ページ。森ぃ。例文読んで。」

「はーい。」


俺はボーっとノートを見つめている。

考えたって答えなんか出ないとわかっていても考えてしまう。

3つの疑問だ。

•どうしてナナは俺にツンケンなのか。

•どうして三浦はナナのほっぺを触ったのか。

•どうして『CAN YOU CELEBRATE?』なのか。

『CAN YOU CELEBRATE?』

祝福してくれますかって意味だろ?

(直訳はどんちゃん騒ぎとかだけど)

三浦先生よー!


左利きの三浦はチョークで黒板に例文を書いていく。窓からの光に反射して指輪が光る。

三浦の不倫説か?

いやいや…まさか。

両想いだったならナナが泣く必要なんかないじゃねーか。

いや、泣くかもだけど…。

なんかそう言う感じじゃなかったっていうか。


ノートには渦巻き線が浮かび上がる。

ぐるぐるぐるぐる。ぐるぐるぐるぐる。

わかんねーよ…!


「おい、金井ー!理解ったかー?」

「わかんねーよッ!」

俺は思わず食い気味に言ってしまった。

「どこがわかんねーんだ?質問なら受け付けるぞ。」

ため息交じりの三浦。

やべぇ。


全く聞いてなかった俺。


「ドゥ…Do you love your wifeあなたは奥さんを愛してますか?」


教室中が笑い出す。

そりゃそうだ。

何言っちゃってんの俺。


「Yes, She is my beloved personはい 彼女は私の最愛の人です!!」

三浦が腕を広げて、

ハイテンションさながら言う。


お前も何言っちゃてんの!!

でやがったな!リア充5!


「What kind of person is she彼女はどんな方ですか?」

オーバーリアクションなノリのいい外国人になりきる俺。

教室中が笑う。

「Her name is Nene. She is so cute彼女の名前はネネ 彼女はとても可愛いです!!」

「ぶはは!ジン最高だな!」

「三浦もアホだろw」

「何のこの授業!!」

情けないがもうこれは綺麗に収めよう…。

「Thank you for a nice answer素敵な回答 ありがとうございます.」


馬鹿だろ…。

俺も、三浦も。


リア充5め!

もういい。それとなく、ナナに聞こう。


で結局ここまで考えてる俺はナナのことが好きなんだろうか…?


昼休みがやってきた。

秘密基地に向かう俺はなんだか気が重い。

あんな光景見ちまったせいか…。

ちょっと気まずさを感じる俺。


今更だけど真実知ってどうするんだろう…?

真実を知りたいと思う俺。これは単なる好奇心か?それともーーーー。


秘密基地の扉を開く。

ガラ。

ナナはいない。

ーーーなーんだ。

ちょっと気が抜けた。

と思ったら、後ろからナナが現れた。

「あ、ナナ。」

「…名前呼びやめてください。」

ナナはピアノに向かう。相変わらずの態度。

「…?」

振り返ったナナの不満たっぷりの表情と目が合う。


「それと。」


???


「この前見たいなのも迷惑です。」


この前?あ、あぁ。

2階から呼んだことを言っているらしい。

一瞬、覗いてしまったことがバレたかと胸に痛みが走った俺…。


いつも適当な会話でナナのツンケンな態度を躱す俺だけど、今日は言葉が喉に詰まってスムーズに出てこない。

そこにはきっと真実を聞き出したいと言う、打算ゆえの後ろめたさがあるからだ。

「…ナナ」

「?」

「あ、いや…!な、何弾くの?」

眉間にしわを寄せて、

ため息混じりに俺を見るナナ。

「『CAN YOU CELEBRATE?』です。」

「なんで、クラッシックじゃないの?」


ーーーあれ俺いつもどんな顔して喋ってたっけ…?


「先輩に関係ありますか?」

そりゃそうだ。


わーなんか今、俺…


ナナが弾きだす。

が、伴奏で止まった。

ーーー?

唇を噛み締めてピアノを見つめている。


ナナが一瞬だけ俺を見た気がした。


深呼吸してもう一度弾き出すナナ。





ちゃんと弾けている…と思う。

綺麗な旋律。

俺は音楽の知識なんかないけど

多分楽譜通りだと思う。


でも、なにかが違う。

なんだ?あ。

ーーーーナナの表情が、んだ…。


長いまつげの間。

反射した光でキラキラ光る宝石。

その宝石が今にも溢れそうで、ハラハラして目が離せない。


あの日泣いてたナナを思い出す。


きっとあの宝石は、三浦のものに違いない。


また胸がいたい俺


音がやむ。変なことを考えたせいで弾き終わったことに気づかなかった。


「ナナ?」

ナナは乾き気味の涙目で俺を見る。

眉間のシワ。口はへの字。

その目から、ナナのバリアを察した俺。


「花粉症?ハンカチあるよ?」

視線の含みを、はぐらかしながらハンカチを出してナナに近づく。


ふと楽譜が目に入る。

楽譜の題名の端に可愛い字のメッセージ。

『大好きな妹ナナへ

本番よろしくね♡♡♡

ネネ、ソウマより』


ソウマ?ネネ???本番????妹?????


ネネ…ネネ…どっかで聞いたな…?

『Her name is Nene .She is so cute!!』

あーーーーーー!



ガタッッ



ナナが何かに気づいて立ち上がる。

視線は教室の後ろのドアの先。

瞳孔が全開。

次第に赤く染まるナナ。

ーーーー?

俺が振り向いた時には誰もいなかった。

でもナナの顔を見ればわかる。

ナナにこんな顔させられるのはしかいないんじゃないか。


「三浦………?」



「ナナの好きな人って三浦?…で、奥さんナナのねぇちゃん?


俺は無意識に言葉に出してしまった。


ハッと気づいた時には遅かった。

ナナが勢いよく楽譜を引っ張って、脇に抱えて俺を睨む。

睨むというか、その表情には隠れた困惑が読み取れる。


目があって数秒流れた。

揺るがないナナの表情。


「だったら何ですか?」

冷たく吐かれた言葉。

「いや…そうかなって…。」

たじろぐ俺。

ナナがすごい剣幕だ。


「だからやだったんです。勝手に踏み込んできて。勝ってにやたら聞き探って…。」


「面白い情報は得られましたか?」


SNSとかで面白おかしく噂でもしますか!?」


まくしたてるナナに、なにも言い返せない。

誤解なのは確かなんだけど…。

何から弁解すればいいかわからない。


「“そーいうこと”なら、もういいですよね!?」

ナナがドアに向かった。

俺は立ったままナナの背中を見ていた。


「ぁ…!ナナ!」


ナナはドアの前で立ち止まって少し振り向いた。


「もう来ないでください。」


ピシャリと切り裂くほどの冷たく放たれた言葉。

同時にドアもピシャリと閉まって、音楽室は森閑に沈む。


俺はナナの地雷を踏んでしまった。


開けっ放しの鍵盤蓋。引きっぱなしの椅子。

立ちっぱなしの俺。


俺は寺の大きな鐘の中に立たされて、思いっきりつかれたくらいの衝撃を味わっている。

放心状態の俺。


心とは裏腹に頭はフル回転で回想を始めている…。


つまり、話をまとめると。

三浦ソウマの奥さんはナナのねぇちゃん。ナナはねぇちゃんの旦那が好きってこと。

で、ていうのはつまり結婚式かなんかだ。


そして冷静になって、ナナの立場からして見れば。

俺は勝手に踏み入ってきた、チャラ男。

噂の真実を探っていた鬱陶しい男に過ぎない。

俺にだけツンケンなのは、そういうのも含まれるわけだで。

あと保身でいうなら多分…。

他の男と仲がいいなんて三浦好きな男に知られたくないとかだろ?


「もう来ないでください。」

何度も何度も…。

頭の中でナナが言う。

その度に俺は鐘をゴンゴン突かれる。



で気づく。

俺が一番ショックだったのはあの言葉よりも


俺はナナに信用されてない存在だったこと。

ナナにとって俺は噂のネタを食い物にしている煙たい男に過ぎなかったわけだ。


そりゃそうだ、心を許されていたらツンケンな態度も取られないだろう?



3-2金井ジン。

俺は今日、入江ナナの冷たい態度を躱せずに

瀕死状態にまでダメージを食らった気分だ。


今日の部活の試合はボロボロ。

おまけにコーチに怒られて。

散々な俺。

俺のhpはすれすれで、やっとこさ生きている気がした。


つまり、そこまでダメージを受ける俺は入江ナナが好きだということ。




好きな子に嫌われてしまったこと

怒らせたことに

高校生始まって以来のビックダメージを受けている…。



























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