ナナとツンデレと秘密基地


新学年が始まったばかりの4月下旬。


俺は3-2金井ジン。バスケ部部長。

自分で言うのも何だけど。

俺はクウォーターの容姿でカッコいい方で

違う学年からもキャーキャー言われる人気者。

いつも仲間とバカやって青春真っ盛りの俺だけど、

実は静かでボーッとできる時間をこよなく愛する男でもある。

だからナナのピアノを聴ける昼休みの音楽室は俺の秘密基地。


秘密基地を見つけて3日目。


俺は今音5階の音楽室でナナが来るのを待っている。

5階は専門教室ばかりなので廊下も比較的静かだ。


ガラ。

「来た来た。ナナ!」

俺がナナを呼ぶとナナは一瞬(正確には一瞬以上)嫌そうな顔をする。

アテレコするなら「なんでまたいるのよ」だ。


「勝手に名前呼びやめてください。」

「入江さんより、ナナの方が可愛いじゃん。」

この会話は会うたび行われる。これで3回目。

そして相変わらずのツンケンな態度で俺の前を通り過ぎてピアノに向かうナナ。

ピアノの椅子に座りながら俺はナナと目があった。…いつもの不機嫌そうな表情。

「遊びに出かけたらどうですか?」

「俺はここが好きなの。俺とナナの秘密基地に認定されました。拍手!!」


テンションを上げる俺。

同時にテンションが下がっていくナナ。


入江ナナは不思議な女の子だ。

俺が笑いかけても、声をかけても、全く無反応というか動じない。

笑いかけるでもなく、愛想よく接する訳でもない。冷たくあしらうツンケン娘は揺るぎない。

「静かにしてるから。弾いてよピアノ。」

そんなツンケンなナナをかわすかのように俺は笑って話す。

が、俺を見るその顔はアテレコするなら「うぜぇ」がよく似合う。


俺、先輩。お前、後輩。

と言いたいが、このツンケンな態度が俺にはちょっとツボである。

どんなに嫌な顔をしても、出て行け。とか来るな。とか絶対いわないところがいじらしい。

そんなナナの素直になる瞬間がみたいと思ってしまう。

俺はえむっけなのだろうか(笑)。


ナナはピアノを弾く。

ピアノを弾いている時のナナは別人で

やっぱりその表情は、語彙力のない俺から言わせれば「美しい」。


入江ナナは、お家がカフェを経営している。そこで土日にナナがクラッシックを弾いて振舞っているらしい。

ナナはその練習を兼ねて毎日昼休みに音楽室でピアノを弾いている。

拒絶にも似た態度をとるナナに、俺はここまで聞き出した(ドヤ顔)

もちろん店の名前は教えてくれない。

俺は今日もドアに寄りかかりながらナナのピアノを聴いてぼーっとしている。

これこそ俺が求めている平穏。

ここは俺にとって絶好の秘密基地。


今日は昨日と同じショパンだ。

ノクターンのナンチャラ楽章(?)


音楽の知識はないが俺は、弾く曲が変わるたび俺はそれをなんの曲かナナに聞く。

ナナは毎回嫌そうに、めんどくさそうに答えてくれる。

そのいじらしさがまたツボだ。

どうせ答えてくれるなら素直になれよと言いたい(笑)


弾き終わったナナに、ドアによりかかったまま声をかける。

「ナーナ。」

「…。」

眉間にシワがよっている。

下唇のはじを結んだへの字の口角、いつもの不機嫌顔。

アテレコするならその顔はやっぱり、「うぜぇ。」という言葉がぴったりだ。

なんてやつ!(笑)

仮にも接客業の娘だろ!っと突っ込みたい。

そう思うと同時にそんなツンケン娘ナナを懐柔してみたいとも思ってしまう俺。

「ナナ何部?」

「…。」

「どこ中出身?」

「へんな職質かけるのやめてください。」

「俺バスケ部。」

「へんなアピールもいりません。」

「何でそう冷たいの?」

「先輩何か勘違いされてますけど、私先輩と仲良くなる気なんかないですよ。」

要は黙ってそこにいろと言いたいらしい。


入江ナナは結構ズカズカものをいう。

そして自分のパーソナルスペースに、俺を絶対に入れない構えだ。揺るがない。

「そか。まー俺ナナのピアノ好きだから毎回ここにきちゃうけど。」

ーーー!


おや、おやおやおや??


入江ナナの頑なな表情がちょっとハニカム。

これは。

これは、なかなか可愛い一面!!


「来なくていいです!」


入江ナナはなかなかツン娘だと思っていたが、違った。


ツン娘らしい。

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