第2話「三人の教育実習生」

 ぼくの担任の萱場かやば千種ちぐさ先生以上に、おっちょこちょいな先生が存在する――その事実はぼくにとってかなり大きな驚きだった。

「えーっと、みな、みなさま、いまいま今池いまいけと言いまする」

 という、極度に緊張した自己紹介でクラス全体の大爆笑を買ったのは、教育実習生の今池はじめ先生だ。


 今年は五月の末から一気に陽射しのいろが変わり、梅雨をスキップして一気に夏になってしまったかのようだった。

 昼の最高気温は三十度を超えている。空気はたっぷりと湿気を含んで、重くべったりと体にまとわりついてくる。もう初夏だ。

 ぼくは、夏が苦手だ。大嫌いだ。憎悪している――いや、それは決してぼくがほかの人よりも多めの脂肪分を体に蓄えているからではない、と思う。

 自宅ではエアコンの室温を十九度に設定して、フル稼働だ。けれど、学校には行かなければならない。もちろんと言うべきか、教室にエアコンはない。憂鬱だ。

 そんな六月の第一週。「先生のタマゴ」である大学生の教育実習生が、ぼくたちの学校へやって来たのだった。

 萱場先生のあとから教室に入ってきた今池先生は、身長百六十センチ弱と小柄、小太りで、銀色のフレームの度の強い眼鏡をかけて、しきりにタオルハンカチで汗を拭っている。

 すぐさまぼくの「お気に入りフォルダ」に入った。同じ「はじめ」という名であることも、さらに親近感を増した。

「わ、私は、いまいま今から十年前……いや十二年前? だったかに、この小学校を卒業しました。みな、みなさまの先輩にあたります。あ、そんなこと言われてもうれしくないですか?」

 どうもこの今池先生の言う言葉は、「先生」らしくない。

「二週間という短いあいだだけど、仲良くして下さいますです」

 今池先生は、機械仕掛けのように、カクン、とお辞儀をした。

 教室のみんなは今池先生の様子にくすくすと笑った。萱場先生も苦笑を隠すことができずにいた。けれど、ぼくは笑えなかった。

 すぐその後の一時間目、国語の時間のことだ。今池先生は、出席番号順に指名して教科書の文章を朗読させながら、一人ひとりの顔と名前を確認していた。

 ぼくの番になったとき、今池先生は出席簿を見ながら、ふと眼を見開いた。

「あ、ゴキソ君、ですね」

「は、はい……」

 ぼくの名字「御器所」を間違えずに読めるということは、明らかにぼく――ぼくの家族がどういう存在なのかを知っているということだ。

 でも、その一・五秒後だ。今池先生は、にんまりと笑顔を見せた。

「うわあ、ご、ご、御器所家の一族と会ってみたかったんですよ。この、この、この街で、御器所家といえば有名人ですよね。御器所君、ぜひ、ぜひぜひ握手してください」

 一気に教室内の温度が五、六度ほど下がったような気がした。けれど今池先生は、にんまりと満面の笑みを浮かべながら、ほんとうにぼくに歩み寄ってきて、手を差し出した。ぼくは、ただただおろおろしながらその手を握った。柔らかいけど、意外に冷たかった。

「あ……これじゃ、不公平ですね。みなさまと握手しないと……」

 そして今池先生は、教室全体をまわって、わざわざ生徒全員と握手をした。生徒みんなは、授業の時間がそのためにつぶれて喜んで笑い声を上げた。いっぽう、振り返って見ると、教室の後ろで見ていた萱場先生は、ビールの五十倍苦い液体を飲み込んだような顔をしていた。

 その日の三時間目は、体育だった。内容は「跳び箱」。しばしば「算数なんて大人になって役に立たない」と文句を言う生徒たちが、算数以上に役に立たないはずの「跳び箱」に対しては不平を述べないのが、ぼくには納得できない。

 体育の授業は、隣の三組と合同で行われる。三組の教育実習生は、滝子たきこ先生という女の先生だ――念のため「滝子」というのは名字で、下の名前は「くるみ」という。

 滝子先生は、身長は百七十センチを越える長身。体の細さと顔の小ささには、驚いてしまった。いわゆる「美人」という派手さはないけれど、まさにすらりとしたモデル体型だ。ショートカットがよく似合っている。

「怖がったら、跳べるものも跳べなくなるよ!」

 華奢な姿には似合わず、大きい声でボーイッシュな話し方。男子よりも、女子たちが眼をキラキラと輝かせてその姿を見つめている。

 滝子先生は、十二段という信じがたい高さの跳び箱を用意すると、〈前方倒立回転跳び〉という、これまた信じがたい神業を披露してくれた。

 蒸し暑い体育館が、みんなの拍手喝采で震えたのは言うまでもない。

 いっぽうの今池先生はというと、眼鏡の奥の眼を丸くして、汗をかきかき懸命に一緒に拍手していた――つい数分前、五段の跳び箱を失敗してマットの上にうつぶせにダイヴし、みんなの笑いを一身に受けていたけれど。

「今池先生は興味深いね。『生徒からの信頼を得ること』が教師としての重要な資質だとするならば、彼はいい教師になる才能をお持ちのようだ」

 すぐ隣から声が耳に飛び込んできた。先生に対して「彼」という人称代名詞はとても失礼千万だと思うけれど、そんなことを平然と言い放って、誰からも反感を得ない生徒は、不老ふろう翔太郎しょうたろうのほかにはいない。

「不老もそう思う?」

 ぼくが勢い込んで言うと、キム銀河ウナがどこからともなく近づいてきた。

「ふーん、それだけかな? だから男子はいつまでもお子様なんだよなあ」

 金銀河が両手を腰に当てて立っていた。

「え? 何の――」

「ほほう、銀河さんは何に気づいたのかな」

 不老は、ぼくの台詞を遮るだけでなく、ぼくと金銀河のあいだに割り込んだ。なんという図々しさだろうか。

「さあね、そのうちわかるんじゃない? いや、お子ちゃま男子にはいつまでも無理かもね」

 不思議な笑みを浮かべて、金銀河は離れて行った。


 そんな今池先生は、ぼくの一方的な思い入れとは裏腹に、すぐに生徒たちのあいだからはあなどられる――身も蓋もない言いかたをすると「ナメられる」ようになってしまった。

 早くも教育実習三日目の水曜日の朝――

 職員室から汗を拭き拭きやってきた今池先生に向かって、桜山さくらやま俊介しゅんすけ有松ありまつ篤志あつしは、はしゃいでいる振りをして、わざと体当たりをした。

「あーっ、すんませーん!」

 今池先生は盛大に転び、持っていたノートと出席簿とペンケースとチョーク箱を廊下にぶちまけた。かわいらしいブタのキャラクターが描かれたペンケースの中身が飛び出し、あちこちに転がった。幸い、今池先生の眼鏡は飛ばず、その鼻の上に、ちょこんと乗っかっている。

「こらっ、二人とも気をつけなさいっ!」

 今池先生の後ろにいた萱場先生が、すかさず鋭い声を上げる。

 ちょうどすぐ隣りの三組の教室に入ろうとしていた滝子先生が、短く悲鳴を上げるのが聞こえた。

 今池先生は焦って顔を真っ赤にして、ノートに取り付いた。その足がシャープペンを踏みつける。パキッ、という乾いた無残な音。

 いつもなら、こんな状況で前へ出るぼくじゃない。けれど今池先生の姿を見て、冷静ではいられない。

 今池先生と萱場先生と一緒になって、廊下にぶちまけられたペンケースの中身――四本のシャープペン、六本のボールペン、十本近いボールペンの替え芯、なぜか七個もある大小の消しゴムなどなど――を拾い集めた。

 いつの間にそばにいたのか、金銀河もまた出席簿を拾い上げて、ぱんぱんと手でほこりを払うと、今池先生に手渡した。

「いやいや……きょ、きょ、恐縮です」

 今池先生は分厚いタオルハンカチで汗を拭った。

「大丈夫、今池君……いや、今池先生」

 駆け寄ってきた滝子先生が、廊下から拾い上げた四色ボールペンをハンカチで丁寧に拭き、今池先生に差し出した。

「あ、はい、どうも」

 今池先生はペンを奪うように受け取ると、くるり、と滝子先生に背中を向けた。その眼鏡のレンズが汗で曇っている。

「有松君に桜山君、怪我してませんか? 大丈夫? 僕の体は脂肪分が多いから、よく弾むんです。ごめんなさい」

 頭を下げる今池先生にたじろいだかのように、有松と桜山は、急に真顔になり、ぺこりと頭を下げると、教室に逃げるように入っていった。

「あーあ、男という生き物にはあきれちゃう、ホントに」

 金銀河はいらいらした様子で教室に入って行った。

 その言葉からは「男という生き物」にぼくが勘定されてないような気がした。


 木曜になっても、まだ梅雨は遠かった。空は晴れ渡って、いつも以上に凶悪な日光を地面に降らしている。早くも夏バテしそうだ。

 今池先生も同様のようだった。眼鏡をかけたトイプードルのように、はあはあと口で息をしている。

 五時間目の音楽の時間に、今池先生は「個性的な」歌声を披露した。桜山をはじめとする生徒たちは爆笑しながら手を叩いていた。

「ど、どうも、盛大な拍手ありがとうございまする」

 今池先生はにっこり笑った。

 けれど、その日の午後だった。

 急に今池先生の元気がなくなっていた。どこか浮き足立っているような様子だ。

 五時間目の社会の授業では、何度も漢字を書き間違え、またまたみんなの笑いを買った。さらに、生徒に教科書を音読させておきながら、今池先生の目線は窓の外へとさまよい、読み終えたことに気づかない有り様だった。〈帰りの会〉でも、必要な連絡事項をすっかり忘れて、教室の後ろで見ていた萱場先生に助け船を出されていた。

 その〈帰りの会〉も終わり、礼をして、ぼくがランドセルを背負った瞬間だった。

 ひとつの人影が足早に教壇に近づいた。そして、今池先生に呼びかけた。

「今池先生、何か心配事でもおありなんですか?」

「ええっ?」

 その声を聞き、今池先生よりも先に、ぼくがびっくりして声を上げた。

 金銀河だった。教壇の前にすっくと立っている。

「何か事件でも、あったんじゃないですか?」

「事件というほどでは……いやホントに……」

「事件なら、彼が解決してくれますよ」

 言うや否や、くるりと振り返った。

「さあ不老君、出番だよ!」

 長身の不老翔太郎がゆっくりと立ち上がり、にやりと白い歯を見せた。


「ほう、すると犯人はこの学校内にいることになりますね」

 放課後の職員室の片隅で、ぼくと不老、金銀河が、文字通りに膝つき合わせていた。

「いや、その、『犯人』というほど、お、お、大袈裟なことじゃないんですよ」

 不老が教室で唐突に今池先生への「尋問」を始めたので、萱場先生が見かねて職員室へ呼んだのだ――そして、ぼくと金銀河も、なぜか当然のごとく不老とともに職員室に来てしまった。

 それにしても、不老も金銀河も職員室という場所で、どうしてリラックスして先生と話せるのだろうか。

「しかし、今日の午後の授業に支障を来す程度には、大ごとだったわけです」

 不老が身を乗り出す。今池先生は反射的に身を引き、何度も何度も顔をハンカチで拭った。どちらが年長なのか、わからない。

「とにかく、今池先生のノートの消失は間違いないんですね?」

「しょ、しょ、しょ、消失……」

 今池先生の抱える心配の種とは、今池先生のノートが消えた、ということだった。不老と金銀河が何度も訊き――いや、詰問して――ようやく渋々と今池先生は答えた。

 教育実習が始まってから今日まで、今池先生は一冊のノートに生徒の情報や授業の反省点などを細かく書き留めていたという。しかし、今日の午後になって、そのページがなくなっていることに気づいたのだ。

「確かに今日の朝はノートが――つまり、最初の二ページがあったのですね」

「昼休みが終わって、五時間目の授業に行こうと思って職員室で開いたら、そのページが消えていたんです」

 不老に向かって先生が敬語を使わなくてもいいのに、と、ぼくはもどかしくて大臀筋がむずむずした。

 不老は両手の指先だけを合わせた。何度か見たことがあるけれど、何度見ても気取っていて気にくわない。

 金銀河が今池先生の顔を覗き込んだ。

「まだ四日分、今日を含めなければ三日分の記録ですよね。今の時代、パソコンやスマホに保存してなかったんですか? 思い出して記録を書き直すこともできると思います」

 今池先生は、照れくさそうに顔を赤くして身を引いた。

「いや、それがですね……僕にとっては、ほんとうに重要なリアルタイムの記録なんです。思い出して書いてしまったら、鮮度が落ちてしまう」

 不老は「ふむ」と鼻で息を吐いた。

「そのノートは今池先生にとってはたいへんに貴重なものかもしれない。しかし、他人にとってはどうでしょう。ノートを盗む動機がない」

 不意に不老は腕組みしたまま立ち上がり、机の周りををうろうろと歩き出した。落ち着きのない男だ。

 金銀河が口を開いた。

「今池先生、勘違いではないんですか? 記録していたのはべつのノートだったとか」

 今池先生は、とても弱ったように眉毛を「ハ」の字にして汗を拭いた。

「間違いなく、このノートです。ほら、リング式ノートだから、カッターで切らなくても、ページを痕跡なく破り取ることができるでしょ」

 今池先生は、テーブルの上のノートをぽんぽんと手で叩いた。B5サイズだ。黒い金属製リングで綴じられている。意外にも(といったら失礼だけど)かわいらしい淡い水色の色の表紙は厚紙でできている。

「拝見します」

 不老が手を伸ばし、引ったくるようにノートを取り上げた。

 ぼくは慌てて立ち上がり、不老の脇からノートを覗き込んだ。金銀河もすぐさま続き、ぼくに体を密着させるようにして、ノートを覗き込んだ。今池先生と同じように、ぼくの顔からも汗が噴き出す――暑さとはべつの理由で。手のひらでぬぐって、背伸びをした。

 今池先生のノートは、何の変哲もない、ごく普通の大学ノートだった。幅7ミリのA罫。表紙にはデカデカと「Casual NoteBook」と印刷されている。コンビニでも文具店でもスーパーでも、どこでも手に入る、ありきたりのノートだ。ページに汚れや皺が少しあったけれど、確かに新品同様の白紙だ。

 金銀河が、不老に向かって言った。

「今池先生のノートの記録を手に入れたかったなら、ノートそのものを盗めばいいのに、どうしてわざわざそのページだけ破り取ったんだろう?」

「それは犯人に訊いてみないと……」

 ぼくが口を挟むと、金銀河と不老の二人から同時ににらまれてしまった。

 どうやら、この場にぼくの出番はないらしい。

 金銀河は、今池先生のほうへ顔を向けた。

「そうだ、盗まれたページの内容を読み取ることができるかもしれません」

「え? 本当に?」

 今池先生の眼が一瞬輝いた。

「今池先生は、鉛筆でノート書いてますか? それとも、ボールペンで?」

「ボ、ボールペンだけど。それが――」

「じゃあ、残っているこのページを鉛筆で薄くこすれば、盗まれたページに書いてあった文字が浮かび上がるんじゃないですか?」

 しかし、今池先生の顔はすぐれないままだった。

「えーと……やってみてもいいんだけど、二ページ分だから文字が重なってしまって、読めないんじゃないかなぁ。仮に読めたとしても――」

「記憶の鮮度が落ちる、と?」

 不老が割り込んだ。

「そう。それに、肝腎の犯人がわからない」

「犯人ね……」

 不老は、何か思案する様子で、今池先生のノートをぱらぱらとめくっている。

「金さん、アドヴァイス感謝します。でも――」

 出し抜けに不老は、くるりと今池先生のほうを向き直った。

「面白い! 実に興味深いケースですよ!」

 言うなり、不老は椅子の上に腰を下ろし、長い脚をこれ見よがしに組んだ。

 今池先生はすかさず手を伸ばして、不老からノートを取り上げ、抱き締めるように胸に引き寄せた。

 ぼくと金銀河も慌てて不老の隣に着席する。

「真相を解き明かすために、今日一日の今池先生の動き――正確には、このノートの動向をおさらいしてみる必要があります。今日の時間割はどうだったかな、御器所君?」

「え? えーと、国語が一時間目だったっかな。それで二時間目が……」

 すぐさま金銀河が口を挟む。

「おんこくさんりーしゃ、でしょ」

「へ?」

「時間割。音国算理社。覚えてないの?」

「はあ……そういえば、四時間目の理科の時間、前半は外で授業だったよね」

 ふつう、理科の授業はもちろん教室で行われるが、今習っているのは「植物のしくみ」の分野だ。光合成の働きを調べるために、運動場の片隅のクラス庭園で、さまざまな植物の葉の付きかたを観察した。照りつける日光が痛いほどだった。干からびてしまうのではないか、というくらいに汗だくになり、体育の時間でもないのに、ぐったりと疲れ切ってしまった――その直後の給食のおかげで、すぐに回復できたんだけれど。

 金銀河が今池先生に尋ねた。

「理科の授業中もノートを肌身離さず持っていらっしゃったんですよね?」

「朝礼台の上に置いていて常に眼が届いていたから、誰も盗むことなんて無理でしたよ」

 眉間に少しだけ皺を寄せた金銀河の横顔は、やっぱり綺麗だった。いや、見とれている場合ではない。

「生徒の相談かい、今池君? やあ、銀河さんじゃないか、どうかしたの?」

 不意に声をかけてきたのは、同じく教育実習の先生だった。ぼくは名前すら知らなかったけれど、金銀河はとうに見知っていて、さらに仲良くなっているようだ。いったいぜんたいどうすれば、先生と仲良くなれる?

「北原先生、相談受けてるのはわたしたちなんですよ。今池先生のノートが盗まれたので、わたしたちで犯人捜しを始めたんです」

「へえ、それじゃあ本物の少年探偵団なんだね。それは楽しみだな」

 北原きたはら先生という名の教育実習生は笑った。背はそれほど高くなく、おそらく金銀河と同じくらいだ。眼鏡とその奥の細い眼が、やや冷たい印象を与える。けれど、笑顔はびっくりするほどやさしい。間違いなく、男女問わず生徒からすぐに好かれるタイプだ――ぼくは、逆に少し引いてしまうけれど。

 今池先生は、ぼく以上に引いていた。さらに汗をかき、額を手の甲で拭っている。

「いや、その、犯人だの事件だの、そういうんじゃ……」

「羨ましいなぁ。僕に事件が起こっても、生徒のみんなが探偵になってくれるほどの関係性は、まだまだ築けていないよ。今池君の人間力だね」

 北原先生はしきりにうなずいている。

「四時間目、わたしたちが理科の授業をやっていたとき、ちょうど北原先生の受け持ちのクラスが体育の授業をしてましたよね」

 金銀河が問いかけた。

「そうそう。二年一組と二組のね。しかし今日は暑かったなぁ。今年一番の気温かな」

「何か気づいたことや、目撃したことはありませんか?」

「そうだな……ドッジボールがそちらへ転がって行って、取りに行くときに生徒の一人が転んだんだ。幸い、膝を少しすりむいただけだったよ」

 確かに、そんな光景を覚えているような気がする。暑さのせいで、ぼくの頭の働きはとても鈍くなっていたけれど。

「体育は確かに楽しいけれど、低学年の子たちの場合、怪我に気をつけなきゃいけないから、教える僕らサイドはとても緊張するよ。今日は暑かったから、熱中症も心配だ。いや、これは事件には無関係だね」

 さきほどから、ぼくは不老の様子に気になっていた。あの多弁すぎる不老が、今は黙ったままだ。

「明日、それとなく生徒たちにも訊いてみるよ。そうそう、話は変わるけれど、明日の夜、教育実習生だけで集まって飲もうって、滝子さんを中心に計画しているんだ。今池君も来るよね」

「え、た、た、た、滝子さん、いや滝子先生が……」

 さらに舌がもつれている。

「じゃ、また後で」

 北原先生は、また優しい笑顔を見せて、離れて行った。

 北原先生の背中を眼で追っていた金銀河は、唐突に短く「あっ」と声を出した。そして、すぐに恥ずかしそうに肩をすくめて笑った。

「何か発見したのかい、銀河さん?」

 それまで沈黙を続けてきた不老が、口を開いた。

「事件には関係ないけれど……北原先生って、滝子先生とつきあってるのかな、って」

「へええええっ?」

 裏返った頓狂な声を上げたのは、今池先生だ。

 ぼくは職員室の奥のほうを見やった。北原先生の言葉に滝子先生が吹き出して、ごくナチュラルな仕草で北原先生の肩をグーで小突いている光景が見えた。

 今池先生は、大きく大きくため息をついて、うつむいた。

「いや、残念ながら銀河さんの推測はハズレだね。むしろ残念ではなく『幸いにも』と言うべきかな。北原先生には、恋人がいる」

 不老翔太郎が妙に冷静に言った。

「ほ、ほ、ほ、ホントですか不老君!」

 やや前のめりになって、今池先生が訊ねた。

「ええ、その人と同棲しています。最近、一緒に映画を――公開されたばかりの『リヴェンジャーズ・ライジング』を観に行ってます」

「え……び、び、び、尾行でもしてたんですか……?」

 今池先生は、まるでオバケでも見たかのように、ぎょっとして身を引いた。確かに不老はある種のオバケではあるけど。

「面白いわね、不老君。どんな推理なの?」

 金銀河がにやにやしながら訊いた。

「ネクタイさ」

「ネクタイ?」

 金銀河と今池先生とぼくが、三人同時に訊き返した。

「北原先生は、ネクタイをウィンザー・ノットもしくはセミ・ウィンザー・ノットで絞めていました。さきほど北原先生は、ネクタイを緩めようとして一瞬戸惑った様子を見せた。右手でノット――つまり結び目を摑んで緩まなかったので、反対に左手で摑んで緩めた。いつもの自分の絞めかたではなかったのです。鏡像関係にある形で締められていた。つまり、真向かいに立った誰かによって絞めてもらった。出勤する前の朝にネクタイを絞めてくれるのは、一緒に暮らしている人でしょう」

「両親とか、家族かもしれないじゃない?」

 金銀河が挑むように言う。

「北原先生の話す言葉には、独特のイントネーションが混じっていた。最近まで使っていた方言だよ。ご実家は、愛知県の東部、三河地方。大学に進学してから、この街で一人暮らしを始めたのさ」

「映画を観に行ったというのは?」

 ぼくが訊いた。

「君はいつも見るだけで、観察をしないね。その両者はまったく異なるんだよ。北原先生のズボンのポケットから、携帯電話がはみ出ていたじゃないか。『リベンジャーズ・ライジング』前売りペアチケット限定入場特典のストラップが付いていた。そんなことに気づかないとは、驚きだね」

 実に不愉快である。けれど、感心しないわけにいかない。

 金銀河は、ぼくよりもずっと冷静だった。

「本題に戻しましょう。北原先生は、四時間目の授業中に今池先生のノートに近づく機会はなかった。すると、北原先生は容疑者からはずれる。なら、次の容疑者に当たってみるべきじゃない? 一時間目は音楽。音楽室に行きましょ!」

 金銀河が立ち上がった。

「ふむ、銀河さんも『容疑者』と呼ぶのか……」

 不老がつぶやくように言ったのが聞こえた。

 その言葉の真意を尋ねようとしたときだった。ぼくの携帯電話が振動した。小走りに職員室の外の廊下に出た。見ると、知らない番号が表示されている。

「もしもし……?」

「ハジメくんよね? はじめまして!」

 いきなり、聞き覚えのない低い女性の声が耳に飛び込んできた。

「は? あの? どちら様?」

「ほら、わたし。マコト」

「え? ど、ど、どちらの?」

「ショウちゃんから聞いてない? あ、そこにショウちゃんいるでしょ? ねえ、代わってくれる? 急ぎの用なの」

「ちょっと待って。ショウちゃんって……?」

 一瞬遅れて、ぼくの脳内で何かがカチッとはまった。

 振り返ると、そこに不老が立っていた。まったく表情を変えずに、ぼくに向かって手を差し伸べている。

「えーと……電話。ショウちゃんに」

 ぼくが言うと、不老は右の眉をつりあげ、ぼくから携帯電話を引ったくるように受け取った。

「もしもし、代わったよ……なるほど、急ぐんだね。了解、今すぐ行く」

 不老は、素っ気なく電話を切ってぼくに寄越すと、

「悪いが、失敬するよ」

「ちょっと待った。どうしたの? 今の人、誰? 不老の知り合い? っていうか、どうしてぼくの名前を知ってるの? っていうか、どうしてぼくの携帯の番号知ってるの?」

「質問は簡潔にしてもらいたいな。いずれにせよ、今は説明をするのに足る充分な時間がない」

 小走りに去ろうとする不老の背中に向かって、金銀河が呼びかけた。

「待ちなさい、不老君。今池先生の事件は?」

「君たちだけで大丈夫さ。いや、御器所君には無理かもしれないが、銀河さんなら解決できる」

 不老はそう言うと、くるりと背を向けて廊下を去って行ってしまった。

「いったい何なんだ不老は……」

 ぼくがつぶやくと、金銀河がぼくをじっと見下ろした。

「ねえ、誰からの電話だったの?」

「マコトっていう女の子、というか女の人だった。ずいぶん大人っぽかったけれど、何歳くらいかなぁ」

「女の子?」

 金銀河の眼がキラっと光った。

「それにしては口ぶりが妙に馴れ馴れしい」

 金銀河はつっかかるように言った。ぼくに対して怒ってくれても困る。大いに、困る。

「もう不老君なんて放っておきましょ。わたしたちで解決して、不老君の鼻を明かしてやる!」

 金銀河は口を尖らせて言うと、肩をいからせて音楽室に向かって歩き始めた。


 音楽室は北校舎の四階の西端にある。合唱部の活動日には放課後も合唱部員が練習しているはずだが、今日は歌声が聞こえてこなかった。

「喧嘩……かな?」

 今池先生がふと立ち止まって、つぶやいた。

 音楽室の扉の向こうから、今日は二人の男の人の声が切れ切れに聞こえてくる。明らかに不穏な様子だ。一人が弱々しい小声で何か言うと、もう一人がドスの効いた声で、激昂して怒鳴り返しているようだった。

「どうしても死ぬのかっ?」

 ぎょっとした。確かにぼくの耳にも声が届いた。ドスの効いた男の声だった。これは、尋常な事態ではない。冷たい塊が、背骨に沿って駆け上がった。

 金銀河が音楽室の扉に向かって駆け出した。

 慌てて追い駆けたが、スポーツ万能の金銀河の脚について行けるはずがなかった。それは、今池先生も同様だった。

「扉を開けて!」

 金銀河が扉を叩いて、磨りガラス越しに音楽室内に向かって言った。

 急に音楽室が静まりかえった。

「早く開けなさいよ、何してるの!」

 金銀河が扉を叩きながら、叫ぶように言った。反応はなかった。不意に金銀河が凍り付いた。

「飛び込んだ……落ちた?」

 ぼくと今池先生は扉に向かう途中で立ち止まった。

 金銀河が、今にも泣き出しそうな表情で立ち上がった。そして廊下をぼくたちのほうに向かって駆け出した。

 そんな金銀河の顔を見て、冷静でいられるだろうか?

 長い脚でぼくたちの前を駆け抜ける金銀河を、慌ててぼくも追った。今池先生も、つんのめりながら一緒に走ってくる。

「ど、どんなこと言っていたの?」

 ぼくは金銀河の背中に向かって、息切れしながら訊いた。

「聞こえなかったの? 二人が喧嘩してたでしょ!」

「喧嘩してるのはわかったけど、何を言ってたか……」

「一人が『自殺する』と言って、もう一人が……もう一人が『早く飛び降りろ』って言い返していたじゃないの!」

 金銀河は、今にも泣き出しそうな声を漏らした。

「じ、じ、じ、自殺?」

 今池先生が甲高い声を上げる。

 金銀河はさらに走る速度を上げて階段を駆け下りた。その背中がどんどん遠ざかっていく。ぼくたちも、奇跡的に転ぶことなく一階に下りて外に出た。中庭で校舎を見上げる金銀河に追いついたときにはすっかり息が上がっていて、心臓は爆発寸前だった。

 金銀河が、音楽室の真下にあたる芝生の上に立ち尽くしていた。

「そんな……」

 金銀河がつぶやいた。

 倒れている人などいなかった。周りを見回しても、ぼくたち以外の生徒も先生も、誰一人いない。

 見上げると、頭上の音楽室の窓はすべて閉じられている。室内の蛍光灯も消えているようだった。

 今池先生は汗でシャツをびしょびしょにしながら、あえぎあえぎ言った。

「音楽室に戻りましょう」

 再び金銀河と今池先生は走り出した。

 酸素欠乏症で卒倒寸前になりながら、ふらつく脚でようやく音楽室まで戻った。

「扉を開けなさい!」

 金銀河がそう言って扉を引いた。今度は、音楽室の扉が難なく開いた。

 音楽室は、無人だった。耳が痛いほどの静けさだ。天井の蛍光灯も消えて、薄暗かった。誰かがさきほどまで喧嘩していた気配は、毛の先ほども感じられない。

「他の教室を――」

 最後まで言わずに、金銀河は駆け出した。

 音楽室のある北校舎四階には、音楽室のほかに、図工室と図工準備室、ランチルームが二つあった。しかしそのいずれも、人の姿はなかった。廃墟のように静まりかえっている。念のため、ぼくと今池先生が男子トイレ、金銀河が女子トイレを探したが、人の姿どころか、ハエ一匹見つけることはできなかった。

「まさか自殺なんて……していないですよね」

 不安そうな面持ちで今池先生がつぶやいた。

 その瞬間だ。かすかな物音が聞こえた。

 金銀河が振り返って鋭い声を放った。

「動くなっ!」

 ぼくと今池先生は同時に凍り付いた。ゆっくりと振り向く。

「おっと……確かに僕は遅刻した。それは謝罪する」

 銃を突きつけられたかのように両手を頭の横に挙げた不老が立っていた。

「不老君……驚かさないで。事件だよ!」

「ほう、またかい?」

 不老が無表情のまま言う。すると、新たな声が聞こえてきた。

「あら、六年四組の子たちね」

 不老の背後から階段を上がってきたのは、音楽担当の高岳たかおか先生と男性の教育実習生だった。


「不思議だわねえ。二人も人が消えてしまうなんて」

 音楽担当の高岳先生は、ピアノの前の椅子に座り、小首をかしげた。

「今池先生も御器所君も、その場に一緒にいたんですよ!」

 金銀河は相手が先生でも、物怖じせずに返答した。

 ぼくたちのクラスの音楽の授業は、担任の萱場先生とともに音楽専門の高岳先生が行っている。高岳先生は、萱場先生とほぼ同い年の女の先生だ――ただし、高岳先生は結婚していて、中学二年を頭に四人のお子さんがいるらしい。

「わたしたちは誰にも会ってないわ。藤塚ふじづか先生は誰かを見かけた?」

「いえ、生徒はほとんど帰宅して、誰もいませんでした。不老君以外は」

 テノールの声でクールに訊ねたのは、教育実習生の藤塚先生だった。

 いいのは声だけでなく、顔もだ。音楽が専門の先生なので、ぼくたちも音楽の時間に藤塚先生の授業を受けた。高岳先生とともに音楽室に現れたとき、女子生徒たちのあいだから熱い熱いため息が「あぁ……」と漏れた。

「五時間目の授業が終わったあと、音楽室には施錠しないで職員室に戻ったわ」

 高岳先生が言うと、金銀河が身を乗り出した。

「内側から扉が開かないように細工がされていたんです。一センチくらいは扉が開いたけれど、人の姿は見えませんでした」

 音楽室の扉は――どこの教室も同様だけど――外側からしか施錠できない。内側から何者かが、つっかい棒をしていたために、開かなかったのか。

「何かがたまたま引っかかっていた、ということはないの?」

 高岳先生が訊いた。

 不老はぴくりと右の眉を上げた。不意に立ち上がり、つかつかとピアノの脇の教壇に歩み寄った。そこには分厚い本が数冊載っていた。教壇を一瞥すると、今度は音楽室入り口の扉に近づき、そこでいきなり床に這いつくばった。まるで、発作的に床を舐め始めたみたいにも見える。

 ツチノコかぬらりひょんでも目撃したかのように、今池先生と藤塚先生が顔を見合わせた。音楽の高岳先生は、不老翔太郎の奇行に多少は免疫があるから平然としていたけれど。

 藤塚先生が、心配そうに不老に言った。

「大丈夫かい、不老君? 具合でも悪いの?」

「いえ。観察しているのです」

 不老は答えると、次には高岳先生の腰掛けている椅子の向こうに移動し、壁際の開かれたドアに近づいた。音楽準備室への入り口だ。

「僕の知る限り――とは言えど、この学校に転校してきてからわずか二ヶ月のみの体験に基づきますが――準備室につながるこのドアが閉じていたことは一度もありませんでした。しかし、今はご覧のとおり閉まっています」

 そう言うと、不老は顔をドアノブに近づけた。短く一人でうなずくと、またしても床にひざまずいた。そして、ぴょこん、と立ち上がると、

「高岳先生、授業の後、このドアを閉めましたか?」

「いいえ、わたしも藤塚先生も閉めてないわよ」

 不老は「ふむ」と鼻から息を吐き、準備室につながるドアを開けた。

「今池先生、授業中にはノートを準備室に置いていたんでしたね」

 急に呼びかけられた今池先生は、ぎくしゃくと姿勢を正した。

「不老、それは今、関係ないじゃ――」

 ぼくは小声で言ったが、この言葉も不老には無視された。ひどい仕打ちだ。

「ちょ、ちょ、ちょっとごめんなすって――」

 今池先生はぺこぺこと頭を下げると、いそいそと音楽準備室に駆け寄った。ぼくたちもそのあとに続いた。

 五年と二ヶ月少々この小学校に通っているけれど、音楽準備室に入るのははじめてだった。そこは四畳半ほどの縦に細長い部屋で、ほこりの臭いに満ちていた。思わずくしゃみを四連発してしまう。金銀河が、ちらりとぼくに冷ややかな視線を向けた。

 いっぽうの壁際にアップライト・ピアノと旧式の足踏みオルガンが並んで鎮座している。その奥には、いったい誰が使うのか、フォーク・ギターが二本とエレキ・ギターが一本、立ててある。

 反対側の壁際には背の高い本棚が並び、教科書や楽譜やCD、加えて古いLPレコードが、ぎっしりと天井の高さまで詰まっていた。いちばん奥には骨董品なみのレコードプレイヤーとアンプ、ラジカセが雑然と積み上げられている。

 今池先生が、おずおずとアップライト・ピアノを指さした。

「あ、あの、この上にノートを置いていたんだけれど……一時間目の授業が終わっても、誰かに触られた気配はなかった……と思いますよ」

 不老の返答は、腹立たしいほど冷静だった。

「当然です。音楽準備室には、あのドア以外から入ることは不可能。一時間目の授業中に今池先生以外にこのドアをくぐった人はいません。それは我々、クラスの全員が証人です。授業の前後であれば、高岳先生と藤塚先生にその機会があったかもしれませんが」

 今池先生の目線が、おそるおそる藤塚先生に向けられた。藤塚先生は、女子をうっとりとさせるようなテノールの声で訊ねた。

「ノートは見かけなかったよ。どんなノート? 何色だい?」

「ブルーというか水色というか……いや、そうじゃなくて……」

 今にも消え入らんばかりに、今池先生は身を縮こまらせた。

「オーケー。探しておくよ」

 藤塚先生は、クールな笑みを見せて、親指を立てた。嫌味なくこんなキザな仕草ができるなんて、うらやましい限りだ。こういう男が女子にモテるのだ。

「観察した結果わかるのは、五年二組の生徒にはしっかりとお灸を据えておく必要がある、ということです。もっとも、彼らの怠慢のおかげで可視化された点も少なくないのですが」

 突発的にわけのわからないことを言い出す不老に、ぼくは大きなため息をついてしまう。高岳先生が尋ねた。

「えーと、もっとわかるように話してくれる?」

「音楽室の清掃を担当しているのは五年二組です。しかし彼らは、先生の目を盗んで掃除をサボっています。床の上に溜まったほこりから想像するに、今週に清掃を担当する班が怠慢なようですね」

 話が飛躍しすぎて、到底ついていけない。すると金銀河が焦った様子で割り込んだ。

「不老君、呑気にそんな話をしている場合じゃないでしょ」

 しかし不老は、ぴくりと右も眉を上げるだけで表情を変えなかった。

「音楽室で争っていたという二人の人物、その姿を見た者が誰一人としていない。銀河さんが主張するのは声のみだ」

「わたしがウソをついていると言うのね」

「ウソだとは言っていないさ。だが、真実とは限らない」

「順序立てて説明しなさいよ」

 不老は右の眉を上げると、唐突にぼくたちのあいだを通り抜けて音楽準備室の外へと出て、教壇に近づいた。

「彼、もしくは彼女――仮にXとしましょう――Xは、音楽準備室から三冊の楽譜を取った。それが、教壇の上にあるこの楽譜です。そしてそれを使って扉が開かないように、レールの上に三冊並べた。ドアの幅は九十センチ強。A4サイズの縦は二九七ミリ。三冊をレールの上に並べれば扉が開かなくなるが、銀河さんが気づいたように、一センチ強だけ室内が覗ける程度の隙間ができます」

 そう言いながら、不老は楽譜を実際に扉のレールの上に並べた。それぞれが一・五センチは厚みがあった。

「ちょっと待ってよ。そのXという人物は、自殺を強制したほうね?」

 金銀河が訊いたが、不老の表情はまったく変わらなかった。

「いや、Xがどちらでも構わない。同じことさ。銀河さんたちが音楽室に到着する前に、Xはすぐに音楽準備室に身を隠した。そして銀河さんたちが運動場へ向かったあいだに、Xは準備室から出てドアを閉め、楽譜を教壇の上に置いて音楽室を出た」

 不老は教壇の上の本を取り上げた。

「この楽譜『みんなで唄いたい合唱曲集 混声四部編3』の裏表紙は破れている。ずいぶん以前にセロファンテープで補修されている。テープが劣化しているために、かなり剥がれているのがわかるね。この楽譜を手に取ったXの手、もしくは衣服にテープの一部が付着し、彼もしくは彼女Xが準備室へつながるドアを閉めたときに、それがドアノブに貼り付いた」

 不意に不老はぼくに向かって手を伸ばし、ぼくのシャツの胸ポケットに差されたシャープペンシルをすばやく抜き取った。

「ちょ、ちょっと……」

「何度も言うとおり、ここの音楽準備室のドアは普段、開かれている。つまり、ドアの内側がいつも音楽室側に向いている。しかしドアの外側、つまり普段は開かれて窓に押しつけられている側のドアノブに、楽譜を補修したセロファンテープの破片が付着しているのはなぜだと思う?」

 言いながら不老はつかつかと準備室のドアに歩み寄った。そして、ぼくから奪い取ったシャープペンシルの先端で、ドアノブから何かを引っかけるように取り上げた。

 ぼくたちは慌てて近づいた。一センチ四方程度の汚れたセロファンテープの切れ端が、ぼくのシャープペンシルの先端にくっついている。

「付着したテープの切断面が教壇の楽譜に貼られたテープと一致することは、詳細に調べずとも見ればわかります。ほら、ご覧のようにね」

 その場で見てたのかよ――と言葉には出さずに内心でつぶやいた。が、ぼくの気持ちを金銀河が代弁してくれた。

「ずいぶんと妄想力だけ発達させているのね。先生とか合唱部の誰かがその楽譜を持ち出したのかもしれないじゃない?」

「それはない。僕たちは小学生だろう?」

「何が言いたいのよ」

 金銀河がつっかかる。

「小学校の音楽の授業および合唱部で『混声四部合唱』を歌うことは、まずない。ほとんど『混声三部』だよ。これらの楽譜を使う可能性は低い。誰かがわざわざ音楽準備室から持ち出したのさ」

「ただ『可能性が低い』だけじゃないの」

「たったそれだけで僕が断定すると思っているのかな、銀河さんは? 長い付き合いじゃないか。僕のことをわかってるはずじゃないのかい?」

「そ、そんなに長くないよ。つ、つきあいだなんて……」

 心なしか金銀河の頬が上気しているように見えたのは、ぼくの気のせいだろうか?

「あの……」

 控え目に挙手したのは、今まで黙っていた今池先生だった。ぼくたちが振り返ると、今池先生は一気に顔を赤くして、しどろもどろになった。

「不老君の観察は、ほんとうに見事だと思います。でも……今の話は、僕のノートの件と、どのように関わるのかなあ?」

 不老がこともなげに答えた。

「まったく関わりなどありません」

「そ、そ、そうです……よねえ」

 その瞬間に、今池先生の体がふた回りほど小さくなったように見えた。

「おっと時間だ――」

 不意に不老はぼくに向けて、ばしっと人差し指を突きつけた。

「へ……?」

 ぼくが間の抜けた声を出しそうになった、その一秒半後だった。ぼくのズボンの左ポケットで、携帯電話が振動を始めた。

 慌てて携帯電話を取ろうとするよりもコンマ三秒くらい早く、不老翔太郎はその右手をぼくのポケットに突っ込んでいた。抗う暇はない。不老はぼくの携帯電話を瞬く間に抜き取った。

 不老は当然のように、ぼくの携帯電話で、相手と話し始めた。

「僕だよ……そう、まだ学校だ……オーケー、すぐに行く」

 不老は通話を終えて、またしても携帯電話をぞんざいにぼくに向かって放った。かろうじて床に落とすことなくキャッチできたのは奇跡だ。

「やっぱり、マコトさんっていう人から?」

 ぼくが訊くと、不老は軽くうなずいた。

「では僕は失敬します。野暮用がありますので」

 素っ気なく歩き去ろうとする不老の背中に金銀河が鋭い声を投げかけた。

「逃げないでよ、不老君!」

 不老はぴたりと止まると、つかつかと金銀河に歩み寄り、ぐいと顔を近づけた。

 ――ちょっと、近すぎる!

 思わず声を上げそうになった。

「逃げるとは聞き捨てならないね。明白な事実ほどあてにならないものはない、という名言もあることをお忘れなく」

「マコトさんという人って、不老君の……?」

 金銀河が、心なしか傷ついたような面持ちで声を漏らした。が、不老はまったく無反応だった。

「では失敬」

 言うなり、不老は音楽室から去って行ってしまった。

 今池先生が、申し訳なさそうに口を開いた。

「ノートは自分で探します。あの……もう職員室に戻って、授業日報を書かないといけないんで……失礼いたしまする」

「そうだね、僕も戻らないと」

 藤塚先生が同意し、二人は職員室へと戻って行った。

「ひどい、不老君……!」

 金銀河が悔しそうにつぶやいた。その姿は、まるで失恋した女の子のように見えたけれど、それはぼくの気のせいに違いない。


 翌金曜の朝、不老翔太郎は学校に来なかった。

 不老が欠席をするのははじめてのことだ。気にはなったが、ぼくには一時間目の体育の授業のほうが、もっと懸案だった。今日も器械体操――マット運動だ。

 滝子先生は、やはりうっとりと見惚れてしまうような、優雅な伸膝前転、側転の模範演技を見せてくれた。さらに華麗な後方倒立回転(つまりはバック転)を何度も連続して披露して、生徒たちの大喝采を受けた。もちろん人一倍の笑顔で、人一倍強く拍手していたのは、今池先生だ。

 その今池先生はというと、予想に違わず側転に失敗して、マットからはずれた床に顔面から突っ込んだ。クラス全員に大爆笑が破裂したけれど、ぼくは笑わなかった。

 ぼく自身も倒立前転に失敗して、みんなの見ているなか、背中からマットの上に倒れた。が、そのときに笑い声は起こらなかった。御器所組組長の長男を笑う生徒はいない。いっそ笑ってくれれば気分が楽になるのに……と、いつも苦味と痛みとともに思う。

 苦行の体育の授業がやっと終わって教室に戻ろうとすると、「御器所君」と意外な声をかけられた。

 滝子先生が、丸顔に笑みをあふれんばかりにしていた。

「ねえ御器所君、今日は不老君はお休みなのね」

「は、はあ……」

 先生と面と向かうと、どうも舌が突っ張ってしまって、うまく話せない。相手が女性としての魅力にあふれた人であれば、なおさらだ。しかし次の滝子先生の言葉は、ぼくを一気にへこませた。

「不老君って、観察眼が鋭くて、まるで少年探偵なんだって?」

「いや、それは買いかぶりすぎです……たぶん」

「昨日、音楽室で不思議なことがあったそうね。二人も人間が消失したんだって? 御器所君もその場にいたんでしょう。不老君はもうその謎を解いたのかな?」

「不老にもわからないかもしれないです」

「わたしね、こういうミステリが大好きなの。昨日、藤塚君いや先生に話を聞いて、興味を惹かれちゃった」

「藤塚先生からですか?」

 思わず訊き返した。

「藤塚先生は音楽担当だから授業のコマ数が少ないでしょう。四組の生徒がどんな子たちなのか彼も知りたがってて『不老君はどんな人?』って訊かれたの。突然どうしたのか尋ねたら、『事件』のことを話してくれたのよ」

 滝子先生が使った藤塚先生に対する人称代名詞は「彼」だった――脳味噌の皺の隙間にメモする。

「今朝、職員室でも話題になって、一応、先生方が交代で校内を見回ることになってるの。でも不謹慎だけど、とても興味深い事件じゃない? わたしの推理を聞いてくれる?」

 と滝子先生は言ったものの、ぼくの答えを待たずに続けた。

「音楽準備室のドアは閉まっていたんでしょ。だったら、あなたたちが扉を開けて音楽室に乗り込んだときに、犯人は被害者を捕まえて準備室に隠れたに違いない。人がいなくなってから準備室を出て、犯人は校舎の東側の階段から階下に逃げた。だから、西側の階段を上ってきた今池先生と藤塚君は、誰とも出会わなかったの。あ、わかってる、言わないで。二人は争っていたのに、なぜおとなしく準備室に隠れていたか、と言うんでしょう? 考えがあるの、聞きたい?」

「えーと――」

 ぼくが何も返答しないうちに、滝子先生は続けた。

「犯人は、スタンガンで気絶させて、音楽準備室に引きずり込んだ。でも、スタンガンの『あたりどころ』が悪かったのか、二、三分後に彼は眼を覚まして逃げ出してしまった。そして犯人も慌てて逃げた……という推理はどう?

「どう、と訊かれましても……」

 ぼくは口ごもってしまう。

「不老君と連絡することがあったら、わたしの推理を伝えておいてね」

「は、はあ」

 滝子先生は笑顔でぼくの肩をぽんぽんと叩いた。思わず全身の筋肉を硬直させてしまう。今池先生なみに顔から汗が噴き出す。

 体育館を出て行く滝子先生の背中を、しばし茫然と見ていたら、背後から声が聞こえた。

「長いなぁ」

 金銀河が腕組みをしていた。

「な、何が?」

 我に返った。

「鼻の下。ずいぶん長々と伸びてるじゃない。御器所君といい、今池先生といい、滝子先生みたいな女性がタイプなのね」

「い、いや、そ、そ、そ、そんなこと――」

 激しく狼狽しながら否定したけれど、金銀河はますます冷たい視線をぼくに向けた。

「不老君から連絡はあった?」

「いや、ないけど」

「やっぱりそうね。あの女――」

「え? 誰?」

「ほら、あの『マコト』とかいう女。きっと不老君、あの女にたぶらかされて、今ごろ、どこかにしけ込んでるに決まってる」

「しけ込むって……」

「ああ、イヤらしい! 不潔! 男子ってヘンタイばっかり!」

 それは言いがかりのような気がしたけれど、ぼくが言い返す前に、金銀河はくるりと背を向けて体育館から出て行ってしまった。

 ふと振り返ると、いつも以上に哀しそうな表情の今池先生と、一瞬だけ眼が合った。


 遅れて不老が登校してくるのではないか、と小さな期待をしていたけれど、不老は姿を現さなかった。そしてまた、校内で自殺を試みる生徒も見つからなかったし、自殺を強要する生徒も現れなかった。

 何ごとも起こらない一日が、ひどく退屈に思えてしかたなかった。ひょっとすると、これは不老の影響なのだろうか――決して認めたくはないけれど。

 けれど思い起こせば、つい三ヶ月ほど前までの日常に戻っただけなのだ。不老翔太郎が引っ越してくる前の五年生までの日常に。

 帰宅して、母さんの手作りのブルーベリーのヴェリーヌを食べて――美味しかったけれど、わずか六つしか食べられなかったのは不満だ――晩ご飯はまだかな、と待っていたときに、携帯電話がメールの着信を知らせた。

 一度だけ届いたことのあるアドレスからだった――マコトという名の、金銀河の言う「あの女」。

 メールの文面は、これ以上ないほどシンプルだった。

 ――ツゴウヨケレバスグコイ ワルクテモコイ SH

 そして、地図サイトのアドレスが添付されていた。

 最後に書かれた「SH」とは「不老翔太郎」のイニシャルだろう。ヘボン式ローマ字なら「SF」じゃないか、とツッコミたくなった。

 なんと強引で傲慢で無礼なメールだろうか。まったく、人をバカにしている。

 ぼくは激しく腹を立てながら――それでもどこかうきうきした気分で自転車にまたがった。


 ぼくの家から自転車で十五分ほどで、地図に示された中華料理店〈天龍菜館てんりゅうさいかん〉に到着した。午後七時近いのにまだじゅうぶんに陽光が残っていた。蒸し暑い。Tシャツが汗でべったりと体にまとわりついてしまって、不快なことこの上ない。      

 自転車を停め、入り口から入っていいものか、と迷っていると、背後に人が近づく気配があった。

「やあ、遅かったね。待ちかねたよ」

 不老翔太郎は、片手にLOFTと大書された黄色い紙袋をさげていた。その一瞬後、ぼくは自分の眼を疑った。不老の背後に立っているのは、金銀河ではないか。

「えーと、どうして……?」

 言いかけると、金銀河は先を越した。

「わたしがいたら、何か都合が悪い?」

「僕が銀河さんを呼んだんだ。銀河さんも結末を見届ける権利がある」

「で、不老は今日、どうして学校休んだの? 先生だって心配してたんだよ。風邪引いたんじゃなさそうだし」

「言ったはずさ。野暮用だと」

「どんな野暮用?」

「それを訊くこと自体が野暮だよ。さ、みなさんがお待ちかねだ」

「みなさんって、誰?」

 言い終えないうちに、不老と金銀河は並んで〈天龍菜館〉の入り口の自動ドアをくぐり、店内に入って行った。


 パーティションで仕切られたスペースに足を踏み入れると、椅子に腰掛けた十人あまりの大人たちが、一斉にぼくたちに眼を向けた。

「ああ、金さんに御器所君も間に合ったのね」

 にっこりと笑みを見せたのは、なんと滝子先生だった。

 よく状況を飲み込めずに、周囲を見回す。滝子先生の隣には、北原先生が座っている。その向いには、藤塚先生もいる。はっと気づくと、もっともぼくたちに近い席に座っているのは、今池先生だった。

 教育実習生がずらりと並び、ぼくたちを――正確には不老翔太郎を――じっと見つめている。

 テーブルの上には、色とりどりの中華料理がまぶしいくらいに拡がっていた。ぼくの鼻孔と唾液腺が激しく刺激される。すでに宴会が始まっていたらしく、飲みかけのジョッキやグラスが林立していた。

 不老は、教育実習生たちを前に憶することなどなかった。一歩前へ踏み出した。

「さて、お集まりのみなさん」

 そう言って、不老は室内を見回した。

「すでに『事件』のあらましはご存じと思います。木曜の放課後、音楽室で自殺を図る生徒と、そそのかす生徒が言い争いをし、一人が窓から転落したと思われたが、しかるに、二人の姿は消失してしまった――それでいいね、銀河さん」

 不老は隣の金銀河のほうを向いた。

「ええ、そのとおり。わたしだけじゃなくて、今池先生もここにいる御器所君も二人の声を聞いたんだから」

 金銀河が言うと、やや酔っているのか顔を赤らめている滝子先生が軽く手を挙げた。

「わたしたち教育実習生も、事件の推理をしてみたの。けれど、どうしても答えが出なかった。降参。不老君には真相がわかったの?」

 不老はかすかに笑みを見せると、うなずいた。

「この『事件』を難しく考えてしまったのには、理由があります。そもそもこの『事件』の前提そのものが誤っていたのです」

「わたしたちはウソつきじゃないよ。声を聞いたのは間違いない。そうでしょ、御器所君」

 金銀河が急にぼくに同意を求めた。ぼくは「あわわ」と曖昧にうなずいた。

 しかし不老は、金銀河の言葉を無視するように、先を続けた。

「さきほどの前提には、二つの誤謬があります。まず一つ目、誰も自殺を試みていなかったし、自殺を幇助しようともしていなかった」

「じゃあ、音楽室のやりとりは何だったの?」

 金銀河が責め立てるように訊いた。しかし、不老は無視した。男として、断じて許されない行為である。ぼくは勝手に一人、憤った。

「二つ目の、最大の誤謬とは――」

 不老はそこで一度言葉を切り、もったいを付けるように室内を見回した。

「あのとき音楽室にいたのは二人ではなかった、ということです」

 その場にいた全員が、息を飲み込んだ。急に静まりかえり、店内のBGMのチャイニーズ・ポップスが急に耳に飛び込んできた。

 あえぐようにして、金銀河が声を漏らした。

「確かにわたしたちは、言い争って……喧嘩をしている声を聞いたのに、あれはいったい……」

「間違いありませんよ。僕も声を聞きました」

 今池先生も加勢する。

 不老は不意に右手の人差し指を上げて、二人を制した。無礼な男である。

「銀河さん、一つだけ質問がある。確かに『飛び降りる』という単語を聞いたのかい? そうではなく、正確には『飛び込む』と言っていなかったかな?」

 そう不老が言うと、金銀河は胸を突かれたかのような表情になった。

「確かに……そう言われると、そうだったかもしれない……」

「今池先生と御器所君は、はっきりとは言い争いの内容を聞いていないはずですね。では銀河さんに判定してもらいたいんだが、君が聞いた会話は、このような内容だったのではないかな?」

 不老は、にやり、と笑った。そして、足元の黄色い紙袋をまさぐり始めた。彼が取り出したのは、骨董品のようなテープレコーダーだった。間違いなく、昭和時代の遺物だろう。

 不老は再生ボタンを押した。スピーカーから、ざらざらした声が流れ始める。


 ――おっ……畜生! おめえ、死なねえって、今そう言ったばかりじゃあねえか。それが、すぐに飛び込もうとしやがって。

 ――まことに申し訳ありません。あなた様のご意見はよぉくわかりますが、あたくしも子どもではございません。五十両というお金を盗られて、おめおめと店に帰るわけには参りません。どうしても、申し訳のために身を投げて……


「不老、これは――」

 ぼくが言いかけると、不老はぴくりと右の眉を上げた。

 スピーカーからは「二人」のやりとりが続いた。そして、威勢のいい声がこう言った。


 ――どうしても死ぬのかっ! おう、いいよいいよ。もう俺は止めねえ。おめえのような、ものの道理のわからねえ野郎は、勝手に死にやがれ! さあ、早く飛び込め!


 不老はテープレコーダーを停止させた。

 誰も、一言も口を開こうとしなかった。

「昭和の名人と呼ばれた、五代目、龍雲亭りゅううんてい才蔵さいぞうの昭和三十六年の『文七ぶんしち元結もっとい』録音です。図書館で借りることができました。もっとも、銀河さんが聞いたのは、他の噺家の口演だった可能性がありますが」

 落語「文七元結」とは、こんな噺だ。博奕で借金を作った主人公、左官の長兵衛ちょうべえは、娘が身売りして作ろうとした五十両を、女郎屋の女将おかみから借りることができる。しかしその帰り道、五十両を掏摸スリに盗られ、橋から川に投身自殺しようとする文七に出くわし、自分が借りたばかりの大事な五十両を与えようとするが……

「音楽室には、スピーカー、アンプともに新しい装置が入っています。それを使って聞いてみたくなるのは、自然な感覚でしょう」

「証拠はあるの?」

 金銀河が尋ねる。

「もちろん。音楽準備室のアンプにはうっすらとほこりが積もっていた。しかし、一部にごく最近にぬぐい取られたような痕跡があった。ちょうど、アンプの下部右側、外部入力端子の辺りにね。さらに、接続ケーブルを入れた箱の上には、ステレオミニプラグ・RCAケーブルが放置されていた。携帯音楽プレイヤー、もしくは音源の入った携帯電話をアンプに繋ぐために使用したのでしょう。

 その後、銀河さんたちが現れると、彼または彼女は、準備室に身を潜めた。一人だったのですから、その後に音楽室から誰にも姿を見られずに去ることは、さして困難ではなかったはずです」

「でも……」

 口を開きかけたのは、滝子先生だった。

「落語を聴くことは、決して悪いことでも何でもないでしょう? なぜその人は隠れたりしたのかな」

「他者にとっては些末なことであっても、それは当人の存在意義を揺るがし得るのです。外的に規定された『自分』とは大きく乖離した、自分自身の『演じない自分』の姿を図らずも他者によって目撃されたときに発露する感情は『羞恥』でしょう。つまり、彼もしくは彼女は――恥ずかしかったのです」

 不老はそう言うと、言葉を切って周囲を見回した。

 教育実習生の先生たちは、大きくうなずいていた。感嘆の吐息も漏れた。

 と、そのとき、不老はパーティションの向こうへ声をかけた。すぐに若い女性店員が現れた。不老はその店員の耳元に顔を近づけて――近すぎるほどに――何かを囁いた。その女性店員の顔は、明らかに赤らんでいた。

「不老、どうしたの?」

 ぼくは小声で訊いたけれど、不老には完全に無視された。

 女性店員は店員が厨房のほうへ姿を消すと、すぐに大きめの封筒のようなものを持って戻って来た。不老はにっこりと微笑んで受け取った。

 ふと気づくと、隣の金銀河が険しい視線を女性店員に向けている。昏いエネルギーが凝縮した視線で、射貫くように見つめていた。女子は怖い。

 不老は平然として言った。

「さて、僕たちのクラスの担当をしてくださっている今池先生に、贈り物があります」

「えっ?」

 と短く金銀河が声を漏らした。ぼくも同様だ。そんな話は聞いていない。

 今池先生は、吹き出し始めた汗を懸命に手のひらで拭いながら、首を振った。

「き、気持ちは、ありがたく受け取りまする……でも、受け取れないですよ……」

 遠慮する今池先生に、不老は、なかば押しつけるように封筒を手渡した。

 シャツの袖をハンカチ代わりに汗を拭き、今池先生は封筒の封を開けた。そして、ひと目覗き込むと、眉間に皺を寄せた。

 今池先生が封筒から取り出したのは、水色の表紙のノートだった。

「どうぞ、開いてください」

 今池先生は、怪訝そうに水色のボール紙でできた表紙を開いた。

「ふええっ!」

 不意に、今池先生は短く悲鳴を上げ、椅子が倒れんばかりにのけぞった。

 確かに、ぼくの眼にもそれは見えた。今池先生のノートには、いつの間にか丁寧で小さな文字がびっしりと書かれていた。

 金銀河が身を乗り出す。

「不老君、これって……」

 不老はにやりと微笑んだ。

「驚かせてすみません。でも、ここにいる御器所君が知っているように、僕はドラマティックな演出をせずにいられない性分なのです」

「へ?」

 不老にそんな性分なんてあったっけ――と、喉元までこみ上げたけれど、飲み下した。

「どうして、こ、こ、こんな、手品のようなことを……」

 今池先生は、あえぎあえぎ言った。周りを囲む教育実習生の先生たちは、何が起こったのかわからずに、好奇の眼を不老に向けている。

 金銀河は、不老の肩をぐいと摑んだ。

「説明しなさいよ、何を仕組んだの?」

 金銀河に物理的に触られた不老がこのうえなくうらやましい――と思ってしまったことは、当然だけど口に出さずにおいた。

「実は、三十分ほど前に今池先生がトイレに中座されたときに、僕がノートを鞄から抜き取って、厨房で預かってもらっていたのです」

「厨房で?」

 ぼくは口を挟んだ。

「そう、冷凍庫のなかに」

「ノートを冷やしてどうするの?」

 ぼくが小声で言うと、不老はわざとらしく眼をぐるりと回した。

「今池先生のノートは破り取られたのではなく、文字が消えていたのですよ、一時的に」

「えーと、意味がわからないんだけど」

「今池先生のこのノートのページが消えた木曜日は、たいへんに暑かった。すでに午前十時十五分には三十度を超え、午後二時三十分に最高気温、三十四・九度を記録しています。地方気象台のサイトに掲載されています」

 不老はそう言って、携帯電話をかざした――が、それはぼくの携帯電話ではないか!

「ちょ……いつの間に!」

「御器所君、君は油断も隙もありすぎるね」

 不老は、いつものように、ぼくに携帯電話を放って寄越した。かろうじて、落とさずにキャッチする。

「今池先生、この『事件』が起きた水曜日の四時間目、六年四組の理科の授業中、ノートをどこに置いていたのか覚えていらっしゃいますよね?」

「え? ええと……どこだっけなあ」

 今池先生が口ごもると、声を上げたのは北原先生だった。

「ほら、朝礼台の上に置いていたんじゃないのかい? 僕たちが体育の授業をしていたときのことだろう?」

 今池先生よりも先に、不老がうなずいた。

「そうです。気象台の記録によると、四時間目の最中である正午には三十三・八度の気温を記録しています。朝礼台はアルミ製です。アルミニウムの熱伝導率は237。太陽の輻射熱によって短時間に容易に熱くなります」

 金銀河が、はっと息を漏らした。

「もしかして、『消せるボールペン』のことを言ってるの?」

 不老は金銀河のほうを向き、にっこりと笑った。

「さすが銀河さんだ。いわゆる『消せるボールペン』とは、摂氏約六十度を越えると透明化するインクを使用したゲルインク・ボールペンのことです。つまり、授業中に太陽に熱せられた朝礼台によって、ノートの文字が消えてしまったのですよ。そして消せるボールペンのインクは、マイナス十度以下に冷却することによって、その色は戻ります」

「太陽のせいだったのね。カミュみたい」

 独り言のように、滝子先生が言った。ぼくには意味がよくわからなかったけれど、不老もやっぱりわかった様子はなかった。

 今池先生が、ためらいつつ口を開いた。

「でも、確か、ノートを書くときに使ったのは、ジラフの〈グッドストリーム〉だったはずなんだ。いや、ジラフ社の〈スラーラ〉かもしれないけど。どっちも消せるボールペンじゃないですよ。確かにパイロン社の消せるボールペン〈フリッケセル〉の黒と青も持ってます。でも、それは使ってないはずなんだけどなぁ」

 ボールペンの会社名と名前を続けざまに連呼できる今池先生は、どうやらかなりの文房具マニアのようだ。今池先生は、テーブルの下から鞄を引っ張り出し、ブタのキャラクターの絵が描かれたペンケースを取り出し、黒い軸のボールペンを不老にかざした。

「これですよ、ノートを書いたのは。消せる〈フリッケセル〉じゃないです」

「ペン軸こそ〈グッドストリーム〉であっても、そのリフィル――替え芯は消せるボールペンのものだったのです。今池先生、ノートを書く直前に、ボールペンの芯を新しいものに替えたのではないですか? その際に、消せるボールペンの芯を入れてしまったのですよ」

 すると今池先生は、はっと息を飲んだ。

「た、た、た、確かに……芯を替えましたよ替えました!」

 今池先生は、そのボールペンで、ノートの一ページにぐるぐると円を描いた。続いて、その絵を「消せるボールペン」のお尻に付いているゴムでこすった。

 確かに、不老の言うとおりに、インクは消えた。

 一斉に全員から吐息が漏れた。

「はあ……間違えて〈フリッケセル〉の芯を入れちゃったんですね。〈グッドストリーム〉と〈フリッケセル〉のリフィルは形も色も違うケースに入れていたんだけれど……そんなバカなミスで、不老君や金さんや、他のみなさんにさんざん迷惑をかけてしまって、ほんとにほんとに申し訳ありませぬです……」

 顔を真っ赤にして、汗をタオルハンカチで拭い拭い、今池先生は言った。

「いいえ、今池先生はミスを犯していません」

 不老はよく通る声で言った。

「誰かが今池先生のボールペンの芯をすり替えたの?」

 金銀河が身を乗り出した。

「ペンケースは、文字通りに肌身離さず持ち歩いていますよ。だから、誰かが細工することなんて無理だと思うけど……」

 今池先生が言うと、不老は顔の前に人差し指を立てた。ほんとうに礼儀を知らない男である。

「ノートが消えた――太陽光線の熱によって文字が消えた前日、水曜日の朝に、第三者がボールペンのリフィルを入れ替える機会があったはずです。覚えていらっしゃいませんか?」

 不老が言うと、今池先生は首をかしげた。

 声を上げたのは、金銀河だった。

「桜山君と有松君ね! あの二人が今池先生にぶつかって、先生の持ち物が廊下に散らばったっけ。あのときなのね!」

 不老はぴくりと右の眉を上げ、唇の端に笑みを浮かべた。

 水曜日の朝――確かにぼくもその場にいたはずだ。記憶を探る。

 ぼくの脳内に、電撃のようなものが走った。ぼくは、おそるおそる口を開いた。

「今池先生のペンを入れ替えた人間って、もしかして、ひょっとしたら――」

 全員の視線が一斉にぼくに向けられる。

 不老は、呆れた様子で天井を仰いで笑い出した。

「やっと気がついたのかい、御器所君! 僕はずっと待っていたんだよ、今池先生が職員室で『事件』を僕たちに話してくれたときから、ずっと! このノート消失事件の犯人は——

「もしかして——」

「そのとおり、君だよ、御器所君!」

 不老はそう言い、ぼくに向かって人差し指を突きつけた。

 ――なんてこった。

 またこのシチュエーションなのか。頭を抱えた――あくまでも脳内で、だけど。

「さすが、名推理ね!」

 滝子先生が立ち上がり、手を叩き始めた。続いて、ほかの教育実習生たちも拍手を始めた。

 不老はもう一度、今度は芝居がかった仕草で深々と礼をした。

 ――ああ、恥ずかしい。

 いたたまれない。こういうシチュエーションは苦手だ。体中がむずむずと痒くなる。

「あーあ、これでまた不老君が天狗になっちゃう」

 ぼくのすぐ隣で金銀河が小声で言った。けれども、その言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうに見えた。


 ぼくは未練がましく背後の〈天龍菜館〉の扉を見やった。

 餃子、唐揚げ、油淋鶏ユーリンチー、麻婆豆腐、青椒肉絲チンジャオロース、タマゴとトマトの炒め物、エビマヨにエビチリ……テーブルに並んだ料理のカラフルな映像が、脳裏にちらちらと浮かぶ。一口たりとも食べられなかったのは、痛恨の極みだ。

 すかさず、ぐおるるる、と腹が鳴る。

 すぐかたわらで、金銀河が「くくくっ」と含み笑いをした。やっぱり聞かれてしまったか。

 金銀河はすぐに不老に顔を向けた。

「今日は完全に不老君の一人舞台だったけれど、ちょっとカッコつけすぎね。最初から『ノート消失事件』の真相をわかっていた、なんて言い過ぎじゃない」

「僕はウソなんかつかない。むしろ君たちが気づかなかったことに驚愕を禁じ得ないね。今池先生のノートは表紙に印刷されているとおり、全四十枚綴り、八十ページ。あのとき職員室で数えてみたら、一枚とも欠けることなく四十枚揃っていた。ページは破り取られていなかった。今池先生の自作自演とは考えられない。僕らに相談する必要がないからね。ならば、文字が消えたと推理するのは当然じゃないのかい?」

 悔しいけれど、事実だ。

「今池先生はノートに何を書いたのかしら? 盗まれたと誤解して、あんなに焦っていたところを見ると、きっと内密にしておきたいことだったんでしょうね」

「恋文だよ」

「え?」

 ぼくは声を上げた。

「不老君、覗いたの? ひどい!」

 金銀河が責めた。

「否応なく、一瞬だけ眼に入ったんだ。不可抗力さ」

「で、誰へのラヴレターだったの?」

 ぼくが訊くと、不老と金銀河が同時に笑みを漏らした。

「へ? 何かおかしい?」

「いや、おかしくはない。それが、御器所君さ」

 褒められた……わけではないと思う。さらにぼくは尋ねた。

「それにもうひとつ、わからないんだけど。音楽室から人が消えた……いや、消えなかった事件、誰が音楽室で落語を聴いてたのか、不老にはわかってるんだろう?」

「君はつくづく無粋だねえ。さっき言ったじゃないか、本人は恥ずかしがっているんだよ」

「でも……」

「藤塚先生でしょ」

 不意に金銀河が口を挟んだ。

「え? ほんとう? どうして?」

 金銀河は肩をすくめた。

「証拠はないけれど、ほかに考えられる人がいないもの」

 すると、不老はおおげさにため息をついた。

「五年二組のおかげさ」

「へ?」

 やっぱり間の抜けた声を出してしまった。

「彼らが音楽室の掃除を怠ったために、床にはほこりが積もった。音楽室の扉に細工をした藤塚先生のズボンの膝に、そのほこりが付着していていたじゃないか」

 ぐうの音も出ない、とは、こういうことだ。

「今回もまたわたしたちの完敗ってことね。ところで――」

 そう言うと金銀河は、不老に挑むような視線を向けた。

「女の人とのデートにうつつを抜かしていなかったら、すぐに解決したんじゃないの?」

「女の人? デートだって?」

 不老が両方の眉を上げた。

「マコトさん、といったっけ? 年上の女性はさぞ色気があって魅力的なんでしょうね」

「ああ、『あの人』のことか!」

「あの人? ずいぶんと特別な存在なのね」

 金銀河の目付きが変わった――女子は怖い。

「確かに特別だ。余人を持って代えがたい希有な存在だね」

 金銀河が一気に真顔になった。

「逢い引きのために学校を休んでどこかにしけ込むなんて、不潔」

 言葉から伸びている無数の棘が、すぐ隣のぼくにまで刺さりそうだ。

「とにかく僕には今、どうしてもやらなければならないことがある。そう、まさに今」

 そう言って、不老は、ぱちん、と指を鳴らした。

 一瞬後だった。ぼくのポケットのなかで、携帯電話が振動し始めた。

 ぼくが取り出すよりも前に、不老がぼくのズボンのポケットに手を突っ込んで、携帯電話を摑み、勝手に話し始めた。

「僕だよ……わかった。今行く」

 不老が携帯電話を放ろうとした瞬間に、ぼくは手を伸ばして引ったくった。

「やっぱり、あの人?」

 ぼくが訊くと、不老はうなずいた。

「ああ。幸い明日から週末だ。月曜には学校に顔を出せるはずだよ。では失敬」

 不老はくるりと背を向け、早足で雑踏のなかに歩き始めた。

「ちょっと待って!」

 金銀河が呼びかけた。が、不老は振り返らなかった。そのまま姿は見えなくなった。

 悔しみを顔ににじませた金銀河が、不意にぼくのほうに向き直った。

「電話貸して」

「は?」

 ぼくは金銀河に携帯電話を渡した。

 金銀河は通話履歴の画面を開いた――見知らぬ番号。リダイヤルした。

 相手が出るや否や、金銀河は言った。

「不老君をこれ以上困らせないで下さい」

 スピーカー・モードにした携帯電話から、返事があった。

「あなた、銀河ちゃんね。はじめまして。噂はショウちゃんから、かねがね聞いてるわ」

「噂? 不老君、どんなことを言ってたんですか?」

 不意を衝かれたように、金銀河が訊いた。

「あら、ショウちゃんったら、シャイ・ボーイね。彼はいつも言ってるわよ。『彼女は並みの生徒とは格が違う』ってね」

「え? そ、そんなこと……」

 金銀河は、大きなアメでも飲み込んだような表情になった。その両頬が赤らんで見えるのは、〈天龍菜館〉の看板の明かりのせいだろうか?

「マコトさんにとって、不老君はどんな存在なんですか?」

 金銀河は、少し挑むような口調で尋ねた。すると、電話の向こうからは、喉の奥をならすような笑い声が聞こえてきた。

「そうね、彼はわたしにとって世界でもっとも大事な人の一人。それは間違いないわね。あ、でも誤解しないで。ショウちゃんと男女として交際しているわけではないわ。銀河ちゃん、あなたは心配しなくていいわ」

「べ、べつに心配なんてしてません!」

 金銀河が怒った口調で言った。隣のぼくは、思わず身を縮める。

「ねえ、ハジメくんに代わってくれるかしら?」

「あ、あの……聞いてます」

 ぼくは慌てて答えた。

「いつもショウちゃんが迷惑かけてるわね。わたしから謝るわ。ごめんね。彼はハジメくんのこと、信頼してるからこそ、甘えてるのよ」

「は、はあ……」

 嬉しくもあり、迷惑でもあるけど。

 ぼくは訊いた。

「お会いできますか?」

「そうね、近いうちに。でも、ショウちゃんが嫌がるかもしれない。そんなショウちゃんも可愛いんだけどね」

「可愛い?」

 金銀河がぎろりと電話をにらんだ。

「少しのあいだ、ショウちゃんを借りるわ。バーイ! また今度ね!」

 チュッ、というキスの音を残して、電話は切れた。

「不思議な人だね」

 つぶやいて顔を上げると、金銀河は、憮然とした表情で腕組みをしていた。

「なにこの女! 馴れ馴れしい! 自分がいちばん不老君のことをわかってるようなことを言っちゃって、図々しいったらありゃしない!」

「べつにムキになって対抗しなくても……」

「ムキになんかなってない! 腹が立ったら、おなかがすいちゃった。もう帰ろう!」

 そう言って、金銀河はつかつかと歩き始めた。

「あの、さっきの話に戻るけど……今池先生の書いたラヴレターって、誰に宛てたものだったの?」

 ぼくは金銀河に呼びかけた。金銀河はちらっとぼくを振り返った。

「恋をしなきゃわかんないかもね」

「へ……?」

 長い脚で、すたすたと歩き去って行く。

 女子はほんとうに怖い。そして、複雑すぎる。長身の金銀河の背中を追いかけながら、ぼくは考えていた。

 きっと不老翔太郎にも女子の謎は解けないはずだ。


「三人の教育実習生」完

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