第5話 男の娘とデートリターンズ

 再びやってきた喧騒の聖地、本日もショッピングモールは大盛況である。

 まったく、折角の土日の休みだというのにみんな挙って来なくてもいいのに、前回来た時よりも人が多いときたもんだ。みんな暇なのか?


 「なんでまたここなのさー」


 行先を知らなかった深雪はそう言って俺に批難の目を向けてくる。


 「いやさ、この前だけじゃ回りきれなかったじゃない? ほら、俺ってさゲームとかでもマップを埋めないと満足できない性格だからさ」


 「知らないよ、彼方の冒険者魂なんて。まあいいけどさ」


 前回と同じように普通に、楽しく買い物して、食事したりとデートっぽいことをして深雪をキュンキュンさせ最高のシチュエーションで告白する。さらには女装衝動を刺激し男の娘にするのだ。なんと素晴らしい作戦だろうか。現代の諸葛孔明とはきっと俺のことなのかもしれないね。


 「よーし、まずどこから行こうか! 服でも見るか、イベントなんかやってるみたいだよ? 映画もいいね。実は昨日、ルートとかも考えてあるんだよね、一日をフルに使ってすべてを堪能できる完璧なコースだぞ!」


 「なんでそんなにテンション高いの……?」


 なんか引かれてしまった。


 「でも本当に広いよね、別に一日で全部回れなくてもいいよ。ゆっくりとのんびりと回ろうよ」


 「マップからして要塞みたいだもんな。ゾンビが大量発生したら真っ先に立てこもるよ」


 「また意味わからないこと言ってる」


 俺のサバイバル術は理解してくれないようだ。


 「とりあえず行こうぜ、時間がもったいない」


 俺は深雪に手を差し出す。


 「……えっと」


 「はぐれない様にだよ」


 「むー、子供じゃないんだから大丈夫だよ」


 「俺がはぐれちゃうから」


 むちゃくちゃな理由だけど、これでいい。

 キュンキュンするには必要な事だと思う、個人的な意見だけどね。


 「もう、しょうがないな」


 そう言って俺の手を握ってくれる。

 その手は柔らかく、ゴツゴツなんかしていない。力を入れたら潰れてしまいそうなほど小さな手で、深雪が男の娘であることを実感させてくれる。


 「彼方はいいの……?」


 「え、何が?」


 「だから、僕と手をつないだりして……、変な目で見られないかな?」


 深雪は不安げな表情で俺に問いかけてくる。


 「深雪が女の子らしくすれば大丈夫じゃないかな」


 「やだよ、僕、男の子だよ……」


 「うん、じゃあ二人で笑われよう? 笑ってるやつらに手でも振ってやろうぜ」


 たぶんバレないと思うけどね、深雪超絶美少女だし。むしろそこらの男どもから嫉妬の目で見られちゃうかもな。その時は中指突き立ててやろう。ファッキン!


 「行こうか」


 「……うん」


 そうして俺たちのデートが始まった。


 フロアは男性向け区画、女性向け区画、食事の区画、その他諸々とあるのだが、俺たちはその中のキャラクターグッズなどがある女性向け区画にやってきた。


 「あ、見て見て彼方! ピーさんのぬいぐるみがあるよ、かわいい!」


 「ああ、最強にかわいいな」


 ぬいぐるみを抱きしめる姿なんて、もう超最高。愛くるしすぎて涙出てきた。


 「欲しいのか?」


 「えっと、まあ……、うん」


 「買ってやるよ」


 「いいの……?」


 そんな物ほしそうに上目づかいとかされたら、無言でお金ポンポン出しちゃうからね。


 「これぐらい構わないよ」


 「ありがと……彼方からプレゼント貰うなんて久しぶりだなぁ……」


 「誕生日とか毎年あげてるだろ」


 「誕生日はノーカンなの!」


 そんな俺ルールがあったなんて知らなかった。でも友達に誕生日以外でプレゼントなんて早々ないだろ。そもそも深雪以外の友達の誕生日とか覚えてないから、プレゼントすらした覚えがない。


 会計を終えて深雪にピーさんを渡すと、本当にうれしそうだ。もう欲しいものは何でも買ってあげたくなっちゃう。


 「ありがと、大切にするね。宝物にしちゃうから」


 「んな大げさな」


 さて、今回の目的のひとつとして深雪を男の娘にするために、こうして女性向け区画を巡って深雪の中に眠る女装衝動を刺激することが狙いなのだが、他のショップと言えば洋服やアクセや下着といった類の品々が並んでいる。


 しかし、いきなり「深雪のおパンツ買おうぜ!」なんて言えるわけがない。

 どうやって自然に誘導するかがこの作戦の胆なのだ。

 ここは俺の華麗な話術で自然に動かすしかない。


 「俺も結構かわいいもの好きなんだよね」


 「彼方の好きなものってプロテインと鉄アレイじゃなかった?」


 「ボディビルダーか俺は……」


 「もしかして彼方もピーさん好きなの?」


 ピーさんとは先ほど買ったぬいぐるみのことで、たれ目の憎たらしい目つき、三十路後半のサラリーマンのようにだらしない腹をしている。そのうえ好きな食べ物は練乳、糖尿病まっしぐらなプロフィールの国民的キャラクターだ。


 「あー、すきかなー」


 とりあえず合わせておこう。ガールズトークはひたすら肯定すればオッケーってどこかの頭の悪そうな雑誌に書いてあった気がする。


 「そうなんだ! 知らなかった、じゃあ映画も全部見たかな? 僕ねピーさんの逆襲が一番好きなんだ。地球に降り注ぐ隕石を自らを犠牲にして叩き壊すシーンは涙なしじゃ語れないよね!」


 マジかよ、ピーさんすげーな。


 「感動的だよね、俺も泣いたよ」


 「そっか! 彼方はなにが好き?」


 「えーと、逆襲のピーさん?」


 「ピーさんの逆襲だよ」


 深雪の声の温度が下がった気がする。にわか知識が引き金になったのだろう。


 「ほら、やっぱりピーさんは練乳を頬張るところが一番かわいいと思うぞ」


 「そうだよね! 彼方わかってる!」


 適当に話を逸らしてみたが、どうやらファンの公認を得られたようだ。


 「かわいいのもいいけどね、僕最近男らしさに目覚めてるんだよね」


 「なん……だと……?」


 そんな水と油のような組み合わせ認めないぞ! なんだ男らしさってお前にそんなものは必要ないぞ、お父さん認めないからね!


 「むう……、信じてないなぁ、証明してあげるんだから僕の男らしさを!」


 深雪の男らしさとやらを照明するために、やってきたのは男性向け区画の洋服店。


 「どうかな? 男らしいかな?」


 試着室のカーテンの奥から出てきたのは、頭にタオルを巻いた作務衣姿の深雪だった。なんかどや顔で腕を組んで仁王立ちしていらっしゃる。つけ麵屋のおやじかよ。

 うーん、脂っこい姿をしても深雪はかわいいということが再確認できた。


 「あー、うん、男臭い服だね」


 「そうかな、僕そんなに男らしいかな?」


 いや、服だからね。深雪は世界一かわいいよ。


 「せっかくだからこれ買って着ようかな?」


 「絶対にやめろ、主に俺が恥ずかしい」


 深雪が着るべきなのは、もっとフリフリでピュアピュアでキュンキュンする服であるべきだ。断じて、へいお待ち! みたいな服じゃない。


 「とにかく着替えようぜ……」

 

 「うーん、駄目だったかなぁ……。他にもふんどしとかあるけど、流石に恥ずかしいよ」


 「お前の中の男らしさ極端すぎるだろ」


 まあ、そんなところもかわいいけどね。

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