第4話 クラスが全員、男の娘!?

 朝は深雪のエンジェルコールで起床するのだが、今日は早く目が覚めてしまった。二度寝しようにも眼が冴えてしまって寝付くことが出来ない。

 

 体を起こしてみれば深雪も起きているようで制服に着替えている最中だった。

 覗きをしているようで申し訳ないので、声を掛けようとしたのだが戸惑う。

 

 深雪は制服に着替えようとしている。だがそれは昨日貰ったばかりの制服で、しかもそれは女子用の制服なのだが……

 

 「深雪……?」

 

 「へ? ああっ! 彼方、おは、おはよう!」

 

 思わず声をかけてしまい驚かしてしまう。

 

 「お前、それ着るのか?」

 

 「そんなわけないじゃない。ちょっと見てただけ!」

 

 そうか……残念だ、正直見て見たかった。深雪の女装は絶対かわいいと断言できる。

 

 「それで、体調は大丈夫か?」

 

 「うん、お陰様で。ごっつんこしてみる?」

 

 そう言って前髪をあげおでこを見せてくる。即ごっつんこだね。

 

 「よし、今日は俺が代わりに朝食を作って進ぜよう」

 

 「いや、風邪がぶり返すかもしれないし僕が作るね」

 

 「さいですか……」

 

  朝食はトーストにベーコンエッグと実にモーニングな食事である。

 

 今日は早起きなこともあって時間にも余裕がある。食後はコーヒーを嗜みながら雑談と実に充実している。たまには早起きもいいものだと思った。

 瞬く間に登校の時間が訪れ、俺と深雪は準備を始める。

 俺はさっさと制服を着て、整えるのだが、深雪は鏡を覗き込んだりして、必要以上に髪の毛を弄っている。

 

 「準備できたか?」

 

 「バッチリ、今日は待っててくれたんだ」

 

 「先に行ったらうるさいからな」

 

 「うるさくないよーだ」

 

 朝一番から拗ねていただきありがとうございます。眼福でございます。

 学校は寮から歩いで十分ぐらいの位置にある。桜は多少散れども、まだまだ見栄えがあって登校の足を浮かせてくれる。

 

 しばらく歩いていると見覚えのある背中が見える。

 

 「あっ、あれ六道先生じゃない?」

 

 深雪が指さす方向に六道がいた。背中から伝わる陽気な雰囲気が不気味だ。昨日はどちらかといえば陰険で邪悪なおちんちんだったが、なぜあんなに浮足たっているのか。

 

 「おーい、六道せんせーい!」

 

 おい、なぜ呼ぶエンジェルよ。やつは相反するデビルマンなんだぞ。

 深雪の声に気付いたのか、振り向きにやけ面を披露する六道。しかし、俺たちの顔を見た瞬間に豹変、さながら福の神から神楽般若へと様相を変える。こえーよ。

 

 「なぜ、なぜなぜなぜ! どうしてお前たち女装をしていない!」

 

 「先生、普通は女装して登校なんかしません」

 

 どんな倫理観で生きてきたんだこの人は……。

 ごく普通の一般論で反論するも、この変態教師には通用するわけもなく、未だに

「ありえない」と独り言をぶつぶつと言っている。

 急に静かになったかと思えば、六道は学校に向き直り走り去ってしまった。


  嵐のような人だ。俺たちは戸惑いながらも六道を追うように教室へ向かった。

教室の前まで来ると、いつもとは違う違和感を感じとる。

 

 「……おかしい、どうなってんだ!? ドアが壊れていないぞ!」

 

 「あー、うん。そうだね」

 

 なんだか淡白な反応の深雪さんである。しかし、このクラスのドアが壊れていないのは異常な光景なのだ。いつもなら取っ手が取れていたり、鍵が壊れていたり、そもそもドアが吹っ飛んでいるなどが正常な状態なのだ。

 

 「ついに業者のおじさんが専属になったか」

 

 「いや、普通に壊さなかっただけでしょ」

 

 そんな馬鹿な。今日は朝から不気味なことばかりだ。胸騒ぎがするぜ。

 

 「もー、さっさと教室入ろうよ」

 

 そんな俺の疑念を振り払い深雪は教室のドアを開けるのだが、入り口で立ち尽くす深雪。全身を硬直させ一向に入ろうとしない。

 

 「深雪……?」

 

 まるで反応がない。何かおぞましいものが教室を支配しているに違いない。

このクラスのことだ、全員が何をしていても俺は驚かない自信があるぞ。

 

 真実を確かめるため、俺も深雪に倣い室内の様子を伺う。


 「………………はあ?」

 

 異常な光景だった。いつもの男だらけのむさ苦しい教室は……。


 美少女でごった返していた――――――――!


 「ようやく来たか問題児ども……」

 

 六道は入ってきた俺たちに向かって微笑みかける。その顔は先ほどまでの般若顔とは違い、どこか自信に満ちた表情を湛えていた。

 

 「さて、もう一度問うぞ。どうしてお前たちは女装をしていない?」

 

 まるで、俺たちが異常者かのように六道は言う。この光景が当然であるかのように、サル山の大将は勝ち誇ったように間抜けた疑問をぶつけてきた。

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