死神と完全変態する私

くにたりん

プロローグ

 愛しい人たちは、とっくの昔に、皆あの世へ逝ってしまった。


「長生きなんて無意味で無価値。迎えに来ないなんて、死神の職務怠慢だわ」


 罰当たりな物言いをするヒロインの名前は、早乙女百合子。

 年齢=彼氏いない歴、よわい九十歳。


 これは何も選ばない、という選択をした女のお伽噺。


 長い年月を掛け、劣等感を幾重にも重ね、よどんだおりは降り積もる雪のように彼女の心に溜まっていった。


 女のライフサイクルは、蝶の一生に例えられることがある。芋虫からさなぎへ。そして蝶に変化へんげするまでの道のりは容易たやすくない。


 芋虫はさなぎになると、これまでに受けた傷も汚れも全てを体内で溶かし分解し、劇的に自分を再構築することができる。


 体を覆っていた古い殻の中が窮屈に感じ始めると、上へ下へ、右へ左へと、もがくことになるだろうが心配することはない。


 最後には自らからをこじ開け、その小さく折り畳んでいた美しい羽を広げて、自由に空を舞う日が必ずやってくるのだから。


 この過程を完全変態という。

 百合子はいまだ、さなぎのままである。

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