同じことを繰り返しながら、違う結果を望むこと、それを狂気という。Ⅶ
「目島君」
「ん。何?」
ずるずると啜った湯のみをテーブルに置くと委員長は言った。
「毒ヶ杜さんって解離性人格障害じゃないかな」
……今委員長何て言っ……
棘が……解離性人格障害?
「それって、二重人格の……事だよね?」
僕は固唾を飲んで言った。
「うん。昔は多重人格障害って呼ばれていたんだけど、二重人格の事だね。で、解離性っていうのは自分にとって嫌な事を切り離して、それを思い出さないようにして精神的疲労を回避しようとする事なんだけど、解離性同一障害はその中でも一番深刻で、切り離した感情や記憶が自分以外の別人格として表に出てきちゃう事なのよ」
つまりそれは負の感情や記憶で構成されたもう一人の自分。
「棘が、その……二重人格って」
「うん。毒ヶ杜さんの場合は、目島君を中心にして、裏に潜む人格が呼び覚まされてたように見えたの」
何だか難しい話になってきたな。
「簡単に言えば、豹変してしまうトリガーが目島君って事。……そういえば、目島君はさっき毒ヶ杜さんが錯乱した時、冷静だったよね? 前にもあったの?」
流石、委員長相変わらず鋭い。
「うん。過去に何回かね。……でも何で僕がトリガーなんだ?」
腕組みをして思考する。
「それは何となく分かるよ」
目の前の委員長が声色を一段階下げる。
そう言った委員長を腕を組んだまま見て、理由を聞いた。
「簡単だよ。毒ヶ杜さんは本当に目島君の事が好きなんだと思う」
「本当に好きで好きで大好きでたまらなく愛している、その深い愛が、負の感情や記憶をどうしても、作り出してしまっているんだろうね。愛、故に思考が歪み、さらに女心がそれを加速させる」
難しい。人を愛する事は、愛される事はそんなに難しい事なのか。
経験値の少ない僕にはまだ、わからない。
「ところで前にもあったって言ってたけれど、その時はどうしたの?」
それを聞かれて僕は答えるべきか、悩む。
修学旅行でのあの事を言っていいのか?
いや、委員長なら信じられる。棘を大好きな冷百合ですら知らない棘を知ってしまっている委員長なら……
「実は……」
意を決して僕は委員長に修学旅行での廃ビルの事を話した。
「そっか。そんな事が……」
言って委員長は下に俯いた。
「やっぱり毒ヶ杜さんは二重人格だと思う。今の話を聞いて確信に変わったよ」
静かにそう言った委員長は、下を向いたまま動かない。
「委員長? 大丈夫?」
心配になって声をかける。
「ん? あ、うん。大丈夫」
我に返ったのか委員長は、深呼吸をして上を向いた。
そして……
「目島君」
真っ直ぐ僕を見て。
「ど、どうしたの?」
数秒の間を開けて。
「毒ヶ杜さんには気をつけて」
真剣な眼差しで真剣な表情をして、真剣な声色でそう言った。
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