人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。ⅩⅤ

***


「行ってきま~す」


 玄関で声を上げてしっかりと靴を履くと扉を開けて外に飛び出した。

 家の敷居を飛び越えて今日も学校に向かう。


「目島君」


 歩き出そうとしたその時近くの電信柱から名前を呼ばれた。


「えっ、委員長」


 そこにはこれから登校するであろうぴっしりと制服を着こなした委員長がおはようと言って立っていた。


「何してるの? こんな所で」


「何って目島君を待ってたんだよ。一緒に学校に行こうと思って」


 そう言った委員長はにこっと笑って僕に近づいた。


「僕と?」


 何の連絡なしに待っていた委員長のサプライズに頭が混乱する。

 そんな僕を見て委員長は言った。


「当然じゃない。私はすーぱー委員長なんだから、おしおきだって真面目にしちゃうんだから」


 言って舌をぺろっと出した委員長を見て、ドキッとした。


「目島君、顔赤くない? 風邪?」


 気づかなくていいのに、本当によく気づく人だよ。委員長は。


「な、なんでもないよ」


そう言って誤魔化して僕は歩き出す。


「風邪なら薬あげようか~?」


 言って委員長は僕の後に続いた。


***


「到着! 今日もしっかり十分前登校っと」


 委員長はそう言って自分の下駄箱に靴を閉まった。


 僕はといえば下駄箱の中に入っていたものを見て硬直する。


「目島君、どうしたの?」


 固まる僕が不思議に見えたのか、委員長が声をかける。


「な、何でもないよ」


 すぐにそう言って僕は下駄箱の中のそれを急いで自分のカバンにシュートした。


「そう? ……そういえば今日は金曜日だよね」


「ん? そ、そうだね」


「その~目島君って明日暇だったりするのかな?」


「明日? 暇だけど……何で?」


 鈍感な僕は目の前にいるのが同世代の女子と分かっていながら何で? とか言ってしまう。


「ほら、来週修学旅行じゃない? だから、そう! 一緒に準備の為に出かけないかな~っていうお誘いなのだけど、一応」


 委員長に皆まで言わせてようやく理解する。


「あ、あーえと、その……」


 急にあたふたとテンぱる。……だってこれつまり、デートのお誘いって事でしょう!?


「嫌……だった?」


 委員長の顔が少ししゅんとする。

 それを見て僕は慌てて、


「嫌じゃないよ! 行こう明日。デート!!」


 テンぱっていたから仕方ない事だが、デートと思い切り言ってしまって何か、アホだ。


「デート!? ……あっ、そうか。これって、その~デートになるのか。普通に女の子と遊びに行く感覚で話してたよ」


 委員長の顔は徐々に赤くなっていき、顔から湯気が漏れ出す。


 そこで授業五分前の予鈴が鳴響き、僕達は我に帰る。


「あっ、予鈴。急ぐよ目島君! 間に合わなかったら十分前登校の意味がないよ」


「うん」


 僕と委員長は足早に教室に向かった。

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