人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。Ⅹ
***
お昼休みは結局母さんの作ってくれたおにぎりをいつもの場所で食べて、僕は教室に戻ってきた。
それはつまりあの弁当を食べなったという事だが、誰だってそうする。
いきなり、出てきた誰が作ったかもわからない謎の弁当をよーし美味しそうだし、食べよーとはならないだろう。
これでよかったんだ。一瞬かなり焦ったが、この弁当は家に持って帰って申し訳ないけど廃棄して、母さんに弁当箱の事を伝えてこの件は終わり。
おそらくイジメでもないだろうし、これまで通り学園生活を透明人間しながら過ごせばいい。
自分の席に着いた僕は、机に顔を伏せて眠るフリをして午後授業までの残りわずかな時間を待つ。
僕の隣では木下と冷百合がもう帰りの話をしている。
そこで木下がさらにでかい声を上げた。
「あー棘遅いよぉ~トイレ長すぎぃ。もしかして大?」
「汚い、花」
本当に下品で下世話。お前は中学生か。大体、毒ヶ杜さんから、そんなもの出ない。トイレが長いのは、身だしなみをしっかり整えているんだ。
まったく、教室で堂々と毒ヶ杜さんを困らせるな。質を下げるな。仮にも友達だろ。
伏せていた顔を少し上げて横目でちらっと右を見る。
今、教室に入ってきた毒ヶ杜さんは、やめてよぉと恥ずかしそうに口元を押さえて笑顔で自分の席に着いた。
(やはり、毒ヶ杜さんは心が広い。まさに人格者そのものだよ)
その後担任が教室に入ってきて、いよいよお待ちかねある意味僕にとっては再戦、リベンジでもある修学旅行の班決めが始まった。
***
「それではこれから修学旅行の班を決めて行きたいと思います。男女三人ずつ、合わせて六人を一班とします」
教卓の前に立った委員長がそう言って進行を始める。
死んだ魚の目に伸びきった無精髭のだらしのない担任は、横のパイプ椅子に持たれかかって眠っている。
本当に適当な人で決め事の時は、委員長に任せていつも眠っている。職務放棄もいい所だ。
「好きな人通しで三人組になって下さい!!」
騒がしい教室で委員長が声を張り上げて言った。
委員長、その決め方はダメだ。そんな決め方してしまったら僕が誰とも組めなくなって余ってしまうじゃないか。
ご存知の通り、僕は友達が少ない。重要なのはいないではなく、少ないところだ。
このクラスにも友達はいる。少なくとも僕は友達と思っているが、向こうが思っているか分からない。
早い話向こうの問題なのだが、いないのではなく少ないというのはそういう事だ。
騒がしいクラスはあっという間に仲のいい人同士で三人組になっている。
僕の隣では木下と冷百合が毒ヶ杜さんを呼んでいる。
まずい。一人になったらクラスで目立ってしまう。早く誰か僕に声をかけてくれ!
「目島氏。目島氏」
そこでナイスタイミング。表には出さないが、内心あたふたした僕に同じクラスの佐藤と鈴木が声をかけてきた。
「目島氏。もし良かったら僕等と組まないか?」
「うむ。拙者達が組めば、我々陰キャ組もパリピの犠牲になることはないで候」
オタク仲間を尊敬の念を込めて「~氏」と呼ぶのが、べたついた髪にメガネ。太っていて何故か頭にバンダナを巻いた佐藤。
話し方が特徴的なガリガリの出っ歯が鈴木。
どうやらこの二人は僕を友達と認識していてくれたみたいだ。
この状況、誘われて断る理由がない。
「もちろんよろしく頼むよ」
「流石目島氏。そういうと思ったよデュフフ」
「拙者達は同盟。兄弟の杯を交わしたマブダチに候」
そこまでした覚えはないが、まぁ友達である事は確かだ。
こうして何とかクラス内で目立つ危機を回避した僕は一息ついて肩の力を抜いた。
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