「国枝さんちには魔剣が刺さっている」★★★☆

 お久しぶりの方はお久しぶり、緒賀でございます。

 架空ラノベも久しく読んでないなぁと思ってましたが、前回更新はなんとエイプリルフールらしいですね。実に四ヶ月以上放置していたことになります。マジか……。

 いやまぁ、別に何もしていなかったわけではないんですよ自分も。ご存じならありがたいですが最近は5月19日から74日間「まいにちリハビリ道場」と題して毎日投稿していたので。その「まいにちリハビリ道場」と改稿してちびちび投稿し直してる「古今性癖物語」のURLを置いておくので、気が向いたらそちらもよろしくお願いします。


「まいにちリハビリ道場」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897321022

「古今性癖物語」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054908800244


 さてさて前置きはこのくらいにしておいてレビューに移るとしましょう。

 今回読んだのはプルート文庫出版、斜向隆司はすむかい たかし先生の「国枝さんちには魔剣が刺さっている」です。自宅の中庭に聖剣が刺さってる主人公と家の廊下に魔剣が刺さってる少女のラブコメなのですが、読んでいて良くも悪くも驚かされる作品でした。

 以下あらすじ。


 ――――――


 国枝さんの家には、どうやら魔剣が刺さっているらしい。自宅に聖剣のある僕にとってそれは朗報だった。お互い自宅に剣が刺さってることをきっかけに、僕たちは距離を縮めていく。しかしその穏やかな関係が平和の上に成り立っていることを、僕たちはまだ知らなかった。崩れゆく世界、変わっていく日常……聖剣の持つ使命は救済か、それとも破滅か。これは二振りの剣と、僕の初恋の物語だ。


 ――――――


 表紙イラストは、ヒロインの国枝さんが家の廊下で魔剣を抱いて座りこんだイラストですね。これまた位相仁いそう じん先生のイラストの淡い色彩が美しい。全体的に淡く色を使いつつ魔剣に強い色を置くいて強調するテクニック……あっぱれです。


 本作の舞台は恐らく現代日本。恐らく、と付け加える理由は日常の中に「聖剣」と「魔剣」というアイテムが溶け込んだ世界観であるからです。

 ストーリーは主人公である男子高校生・聖澤ひじりさわの一人称視点で語られるのですが、どうして聖剣・魔剣が存在するのかについては最後まで語られることはありません。『珍しいことは珍しいけど、存在自体は世間的に溶け込んでいる』というのが受け取れる情報で考えられる世界観ですね。一応聖剣が抜けないメカニズムについて大学の地質学者が調査しに来たとかそういう話は出てきますが、本当にそのくらい。中盤まで聖剣と魔剣が会話のネタ以上の役割を果たさぬまま物語が進行します。


“聖剣が聖剣たる理由は、その刀身に物語を宿しているからだ。やれ国の脅威であった竜を退治しただの正当後継者しか岩から引き抜けないだの、そういうが聖剣を聖剣たらしめるわけである。しかしどうだ。我が家の中庭に刺さる聖剣といえば、ミントですらその繁茂を許さないこと以外にこれといったエピソードがないではないか。”


 といった聖澤の独白からもその溶け込みっぷりが察せられますね。そのくせに世界にはありふれていないの、世界観だなぁと思いながらページを捲っておりました。


“小学生の時分まで同級生に崇め奉られる象徴的存在であった聖剣も、中学に進学した途端その羨望の眼差しを高校生と付き合い始めた中田君に奪われてしまう始末である。”


 のあたりも好き。

 恐らくですが、意図的に説明を省くことでセカイ系の雰囲気を醸し出してやろうとした結果の描写の希薄さなのだと考えられます。主題ではないので深掘りしなくて正解だとは思いますが、魔剣・聖剣が溶け込んでるのにありふれていない理由についてもう少し説明しても良かったのではと思ってしまうのも正直な気持ちです。


 そんなこんなで自宅に聖剣があること以外ぱっとしない男子高校生・聖澤ですが、高校で同じクラスになった国枝さんに一目惚れをしたことで物語が動き出します。しかも情報を集めてみれば、自宅に魔剣があるとの話。これはチャンスだ男を見せろと聖澤、国枝さんにアタックを仕掛けます。


「ウチに聖剣あるんだけど……その、抜いてみない?」


 もっとマシな誘い方があるでしょうと思わずにはいられないやつでしたね。国枝さんにも笑われてしまったわけですし。結局最初のアタックは失敗に終わります。でもそこから不意のイベントで距離が縮まり、二人は互いの家にある聖剣・魔剣を見たりするわけですね。


 聖澤の家の聖剣は一軒家の庭先に刺さったものですが、国枝さんちの魔剣は玄関を入ってすぐの廊下に刺さっています。どういう建築……? 聖澤は抜けませんでした(家に初めて招いた人には毎回抜かせているとのこと。まぁでも、刺さった剣があったら抜いてみたくもなるか)。


 そして繰り出される普通のラブコメ。「普通」というのはつまらないというわけでなく、魔剣聖剣が一切登場しないという不自然な自然さのこと。「俺は今いったい何を読んでいるんだ……?」という気持ちが沸いてきます。『日常に溶け込んだ、あくまで世界の一部分』としての魔剣聖剣を描きたいこと自体は伝わってきますが、それにしてももう少し溶け込ませて描写した方がナチュラルだったんじゃないかなと感じました。


 距離を縮め、二人で花火大会に出かける約束までこじつけた聖澤。しかしその当日に急展開。なんと国枝さんが魔剣に選ばれ世界を破滅に導く魔王として覚醒してしまいます。破壊の限りを尽くす国枝さんに街は大混乱。家電量販店のテレビも世界中で発生しだした化け物のような災禍を伝えだします。

 そんな国枝さんに対抗するべく、聖澤も自宅に引き返し聖剣を引き抜こうとします。しかし聖剣はびくともしません。何度引っ張っても動かない聖剣に焦燥を覚える聖澤。どんどんと崩壊していく世界。どうすれば国枝さんを止められるのか。聖剣が無ければ自分は何一つできやしないのか。


 ――いや、大事なのは国枝さんを止めたいという気持ちではないのか。僕自身の持つ、国枝さんへの感情なのではないか。


 そこに気が付いた瞬間、聖剣は聖澤を認めます。光を放ち、その切っ先を初めて見せた聖剣。それを手に、聖澤はいざ国枝さんのところへ向かいます。道中現れた怪物を、聖剣で切り伏せていく聖澤。しかし聖剣を手にしたとはいえ、しょせん戦闘は素人。すぐにバテてしまいます。それでも、聖澤は前進を止めません。なぜなら国枝さんを止められるのは、自分しかいないのだから。


 ここで、プロローグのシーンに繋がるわけですね。壊されていく街の中、返り血を浴びた状態で聖剣を引きずり歩く聖澤。体力も尽き果て肩で息をしながら、やっとのことで国枝さんの元へ辿り着きます。そこからのラストバトルは熱かった。聖澤が全力で感情をぶつける様とか、その攻撃に少しずつ心を取り戻していく国枝さんとか。互いの家に刺さった剣で仲良くなった二人が、その互いの剣を打ち鳴らしながら感情を吐露していく感じはグッドでした。


 最終的に、聖澤の聖剣による一撃で魔剣と相討ちとなり消滅する二振りの剣。そこに残された二人は、剣という存在から解放された剥き出しの関係性へ。正気に戻った国枝さんへ、聖澤から改めての告白。そして、その返答は――。



 ……というわけで全体を通しての感想ですが、シーンごとで見ていけばかなり完成度の高かった作品だと思います。熱量があるところはあるし、ギャグ寄りに寄せるところはちゃんと笑えるものでしたしね。ただ、それらを繋げてストーリーとして見た際には荒い部分があったんじゃないかなと思います。やりたいことを無理矢理繋ぎ合わせた、というのが率直な印象。イラストの使い方は効果的だったのでそこは評価したいですね。あとは主人公である聖澤が魅力的なぶん、国枝さんのキャラクターが霞んでしまったような感じもします。

 以上のような点から、個人的評価は上記の通りです。



 久々にレビューをお送りしたわけですが、やはり書いてないと書き方を忘れてしまいますね……。どうにかまた月一本のペースに戻せたらいいなぁと思います、思うだけで何の算段もありませんが。


 とりあえず次回は我らが縦坂先生のデビュー作にして代表作、『邪ゼブラ8 ~錯綜隊よ永遠なれ~』について語る予定です。それではこの辺でさようなら。

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