3話:目覚めの鼓動

「あんたバカァ~?この状況で『ゲームをしよう』なんて普通言わないわよ!それにそんな条件を私が呑むと思ってるの?馬鹿なの?死ぬの?まぁ私が死なせるんだけどね」


 アリシアは俺に向かって指をさして言った。反応は当然だと思う、今まで追いかけまわしていた奴がいきなりゲームをしようなんて、しかも負けたら自分が相手の物になる…何て言われたら尚更だ。

 

 しかし、アリシアの勝気な性格を考えれば俺の誘いに乗ってくるチャンスはあるはずだ。仮にゲームが嘘で俺が逃げ出そうとしても後ろは川に滝、正面は自分が逃げ道を塞いでいるから逃げられるわけがない、勝ち目のない状態の苦し紛れの言葉…って思わせればいけるはずだ――

 最初こそ文句を言っていたアリシアだが次第に顎下に手を置き何かを考えるようなポーズをとっていると、急に微笑んだ。たぶん俺が思った通りのことを思いついたのかもしれない。


 「いーわよ、その誘い乗ったわ!私が負けたらあんたの物になって何でも言うことを聞いてあげるわよ!そのかわり、あんたが負けたら金目の物を全て置いて、奴隷商人に売りつけてやるからね」


「ん?今何でも…いや、ははは…」


 なんか提案した内容よりも酷いことになっている気がするが、まぁいい。当初の世手よりも早く仲間にできるのならこれ以上嬉しいことはない。

 

「で?ゲームの内容はどうするんのよ、ジャンケンとかふざけたこと言った瞬間に消し炭にするからね!さぁ、どんなゲームで勝負させてくれるのかしら」


 キッと睨めつけてくるアリシアの威圧感に負けそうになる、ヒロインのはずなのに肉食恐竜のように恐ろしいオーラが漂っているのは気のせいではないだろう。

 咳払いを一つするとルール説明をアリシアに提案した。


「ゲームの内容を説明する。まずは勝敗からだ、俺はお前に一撃を与えればそれで勝ち。それはどんな威力であっても当たれば俺の勝ちだ。逆にお前の勝ち条件は俺を気絶させればいい、どんな手段を使っても構わない。ただし、共通の敗北としては互いを死なせてしまうような攻撃はナシだ。」


「……相手を死なせれば、ゲーム自体意味をなさないんじゃないの?」


「そうだ、ゲームの意味は無くなる。だが俺の腕輪はちょっと特殊でな、俺が相手に腕輪を譲ろうという意思が無ければ外せないし、その意思を持たずに死ねば腕輪は俺とともにバラバラに吹き飛ぶ。」


「何よそれ、そんなじゃ価値なんて何一つ無いじゃない。それならゲームなんかしないであんたをボコボコしてその珍しい服だけ剥ぎ取るわ」


「いいのか?これはめんどくさいギミックがあるが幸運の腕輪でもある、俺はこの腕輪の力で今まで多くのダンジョンに入り多くの財宝を無傷で取ってくることが出来た。そんな能力のある腕輪はいらないと?」


 もちろんハッタリだ、そもそも幸運があるのならアリシアと会わないようにすることだってできただろうし、会ったとしても逃げ切れただろう。

 『なによそれ…でも珍しそうだし…うーん』――と悩んでいたアリシアだったが、ため息を一つ、それから覚悟を決めたように顔をあげると


「……私が勝ったらまずあんたを叩き起こす、それから権利をもらうってこともルールに入れなさい。」


「いいだろう」


 アリシアは特に俺の勝利条件には口出しをしてこなかった、つまりどんな攻撃でさえ一発でも当てれば俺の勝ちだ。だが、かすったような一撃ではなく、それこそ会心の一撃並みの威力を持った攻撃を当てなければ俺の強さを認めず、ゲームが終了次第俺を殺しにかかってくるだろう。


 準備は整った、後はこの世界での俺の身体能力に賭けよう。運動神経が平均レベルの俺が超人…ゲームの主人公並になっている、いやなれると信じて。


 どんな運命のいたずらなのかは分からない、そしてこれが本当は夢なのかもしれない…だけど、もし現実ならば俺に助けを求めてきたあの白い幽霊の正体が知りたい。そして助けられるのであれば助けたい!


 だから俺は……こんな序盤で、メインヒロインキャラに死なされるわけにはいかないんだ!






ピピィ――――――――――――――――――――――――――――――――



――――――――――――――――――――――――――――――――――

(……純粋なあなたの気持ち、受信しました。この力はあなたの為に……)

――――――――――――――――――――――――――――――――――



――――――――――――――――――――――――――――――――ガガッ






―――ドクン…!





「ッッ!!」


 一瞬誰かの声が聞こえたような気がした瞬間、俺は自分の体内に何かが入り込んでくるような違和感を感じた、それは身体全身の血管や神経全てに行きわたり全身の血流に乗り体内を駆け巡っている…そんな感じだった。


 自分の手にはまっている腕輪を見る、心なしか緑の宝石がぼんやりと輝いているような…そんな俺の状態を分からないアリシアは待ちきれないようで、杖を振りかざし…――。


「じゃあ、勝敗ルールも決まったことだし…試合開始ってことでいいわよね~~!!」


 先ほどと全く同じ杖を水平に薙ぐようにすると黒い火球が現れる、それをまるでジャグリングをするかのように空中でクルクル回し始めた。そして、先手必勝とばかりに魔法を使った攻撃を開始してきた。


「威力は加減してあげるわ!行けっ!漆黒の火球ダーク・フレイム!!」



続く…



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