俺がロボットに乗って活躍するぜ!

けろよん

第一章 発明家と選ばれたパイロット

第1話 怪獣の現れた世界


 平和の国、日本。

 長く戦争が起きることもなく人々はそれぞれに安心した暮らしを送っていたが、数年前から現れてそんな平穏な日常を脅かす存在があった。


「グギャアァアアオオオオウ!!」


 大きな咆哮を上げ、奴らは自分勝手に大地を踏み荒らす。それは巨大なモンスターの姿をしていた。

 そう、怪獣が出現したのだ。この現代の日本に。


 人々は最初のうちこそびっくり仰天してこの世の終わりか天変地異が来たかと怯え、恐怖に我を失う人もいたぐらいだったが、人間とは何にでも慣れるものなのだろうか。

 怪獣の出現が幾度となく繰り返されているうちに、人々は段々と落ち着いて今の状況と向かい合えるようになっていった。

 現れる災厄に対し立ち向かう決意をし、怪獣と戦うための様々な武器や技術が開発された。

 人々の叡智と努力はやがて困難を克服していった。過去もずっとそうしてきたように。

 時が経つとともに怪獣のもたらす被害はずっと小さく抑えられるようになっていった。


 現在では怪獣の出現は火事や地震や台風がごく普通の日常に起こる自然災害だと認識されているように、これもまた日常に現れる災害だと認識されるようになった。

 人々はその怪獣達を災害を撒き散らす者という意味を込めて、災獣ディザスターと呼ぶようになった。

 奴らがどこに出現するのか。研究が進んである程度は予測できるようになった。降水確率や台風の進路が予想できるように。


 出現しては国土に被害を撒き散らしていく災獣に対し、政府は国防軍を結成した。

 優秀な技術者が集められ、戦うための二足の巨大人型兵器が開発された。またそれに搭乗して戦うパイロットの育成も行われていった。

 彼らの活躍によって災獣ディザスターはもう人類を脅かす脅威ではなく、処理しないといけない自然現象、災害となった。

 人々は自然の敵を克服していった。国防軍の巨大ロボット達は現れる災獣達を次々と順調に退けていき、人々の暮らしには元の安心が戻ってきた。

 だが、今のままでは足りないと直感する者がいた。災獣はあくまでも退けられているだけで完全に根絶するには至っていないのだから。



 もう還暦を越えた年でありながら、空崎博士は天才的な頭脳を持っていると彼を知る者は評している。だが、それは変人と紙一重だとも言われている。

 天才である彼は国防軍から新兵器の開発に関わってくれとスカウトを受けていたがそれを全部断って、町の自分の工場で自分の趣味で巨大ロボットを造っていた。

 大勢で協力して作業に当たるよりも、自分の力だけで何者にも邪魔されることなく、自分の思う物を全力で造りたい。そう願う人だった。


 隼人はそんな祖父の背中をずっと見て育ってきた。そして、いつか祖父の造ったそのロボットに乗って自分が活躍するのだと信じて、彼は小学生の頃からパイロットとして戦えるよう体を鍛えてきた。

 隼人が高校を卒業してからも就職せずにトレーニングに励んできたのも、全ては祖父の開発している凄いロボットに乗るためだった。

 国防軍からスカウトが来て、みんなが凄いと絶賛するだけあって、祖父の技術力の高さは隼人も実感できることだった。



 代わり映えのしない日が続いたある時のことだった。


「ロボットが完成したぞ!」


 祖父がそう地下の秘密工場で歓喜の声を上げたのは。近くでトレーニングをしていた隼人はその手を止めて、憧れの少年の眼差しをして、いよいよ完成した地下の工場の広間に立つその巨大ロボットを見上げた。

 まるでアニメで見るような無骨だがかっこいいヒーロー型のロボットだ。地味で飾り気のない国防軍の量産ロボットとは格が違う。その凄さが突出した技術者ではない素人に過ぎない隼人の目からでも見ただけで分かった。

 まさに威風堂々、問答無用。そのロボットはまさにヒーローが乗るのにふさわしい主人公の風格があった。

 高校を卒業したニートでありながら隼人の心は少年のようにわくわくしてしまった。この日の為に鍛えてきた拳を熱く握って彼は言った。


「爺さん、ついにロボットが完成したんだな」

「ああ、ついに完成したわい。これで国防軍の奴らにわしの実力を見せつけてやれるぞ」

「じゃあ、さっそく乗り方を教えてくれよ。俺の鍛え上げてきたテクニックと実力で災獣の一匹や二匹すぐに退治してきてやるぜ!」

「あ? 何でお前を乗せねばならんのだ?」

「え? 俺が乗るんじゃないのか?」


 あまりにも意外な言葉に隼人はぽかんとしてしまう。ここにこんなにパイロットとして優れた頭脳と肉体と精神(こころ)を持ったロボットに乗るのにふさわしい優秀な人間がいるというのに、他に誰を乗せるというのだろう。隼人には祖父の考えが読めなかった。

 隼人は驚きながら、思いつく可能性を考えながら訊ねた。


「まさか爺さんが乗るのか?」


 そんな孫の素朴な疑問に、博士は首を横に振って答えた。


「馬鹿を言うな。そんなわけなかろう。わしはもう年じゃし、自分が乗ったら活躍が外から見れんじゃないか。優れたパイロットを見つけねばなるまい」

「それならここにいるだろう?」


 隼人は自分こそがふさわしいと歯を爽やかに煌めかせ、鍛えた腕で自分の胸元に親指を立てて見せるが、その自己アピールに博士は対して興味無さそうだった。彼は完成したロボットを見上げた。


「それはロボットのコンピューターが選ぶことじゃ。わしは最高のロボットを造った。後は最高のロボットが最高の乗り手を選ぶ」


 そう言って、博士はリモコンのスイッチを押した。

 コンピューターが演算を開始する。そこには全世界の人間のデータが集まっているようだった。モニター画面に様々な人間の写真とデータが表示され、次々と目まぐるしい速さで切り替わっていく。


「さすがは爺さんだ。やる事に抜かりが無いな」


 隼人は感心しながら、次々と切り替わっていくモニター画面の表示を見つめ続けた。

 選ばれるのはプロの軍人か優秀なスポーツ選手だろうか。世界のトップアスリート達が相手だとしたらさすがに分が悪いと隼人は思ったが、それでも自分が選ばれる可能性を信じて結論が出るのを待った。


「どんな凄い男が相手でも俺は負けないぜ……」

「おっ」


 祖父が短く声を漏らす。

 コンピューターの計算が終わったようだ。モニター画面が一人の写真とデータを映し出して止まった。

 隼人は祖父と一緒にじっとその画面を見た。

 この人物がロボットが自分の乗り手に最も適していると判断した最高の人間なのだろうか。

 隼人には信じられない思いだった。だってそうだろう。


 そこに表示されていたのはプロの軍人でも優秀なスポーツ選手でも何でも無い、戦いともロボットとも無縁そうな平和そうな人物だったのだから。

 隼人は拳を震わせて苦そうに言った。


「おい、爺さん。本当にこいつがロボットのパイロットにふさわしいのか……?」

「そうだとも。この者こそがロボットが自ら選んだ最高のパイロットなのじゃ!」


 祖父は堂々と宣言する。自分の作った最高のロボットのコンピューターが出した結論に何の疑問も持っていないようだった。

 さすがは変人。思考が常人と違う。隼人は今頃になって人々が言う祖父の人間性を実感してしまうが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。

 長い時間をロボットのパイロットになるためのトレーニングに費やしてきたのだ。学校を卒業しても就職せずに頑張ってきたのはこんな受け入れがたい結論を受け入れるためではない。

 こんなトレーニングもしたことが無さそうな平和で呑気そうな奴にパイロットの座を渡すためでは断じてないのだ。

 隼人は唾を飛ばして祖父に詰め寄った。


「正気なのか爺。だって、こいつって……こいつってよう……」


 彼はモニター画面を指さして叫んだ。


「ただのガキじゃねえかあああ!!」


 隼人が叫んだ通り、そこに映されていたのはただの子供だった。それも熱血でスポーツが得意そうな少年ですらなく、呑気そうにサンドイッチを頬張っている普通の小学生の女の子だった。

 祖父はどこまでも冷静でマイペースだった。自分の最高のロボットが出した結論に何の疑問も持っていなかった。


「スパイメカがちょうど食事の時を撮ったようだな。ブレも無くよく撮れとるわい。だが、気づかれているな。さすがはパイロット適正のある少女じゃ」


 祖父がどうでもいいことをコメントする。博士にとっては自分のメカの働きの方が興味があるのだろう。選ばれたパイロットがこんな少女ということよりも。

 隼人は信じられない思いだったが、祖父の態度はしっかりして落ち着いていた。

 博士はもうすっかり終わった気楽な足取りで傍にあったチェアに座ってコーヒーを啜った。


「結論は出た。後は彼女を連れてくるだけじゃな。それは隼人、お前に任せよう」

「爺さんが迎えに行かないのか?」

「わしは今まで働いておったのじゃぞ。お前はずっと遊んでおっただろう」

「遊んでねえよ!!」


 パイロットになるためのトレーニングに励んできたのを遊びと言われるのは心外だった。だが、祖父には何を言っても無駄だ。そう悟る。

 こうなったら現実を見せるしかない。隼人はいつまでもウジウジとはせずに前を向いて決めた。


「いいぜ、俺がこのガキを連れてきてやる。そして、爺さんとロボットに教えてやるぜ! こいつをパイロットに選んだ計算は間違いだったとな!」


 指を突きつけて宣言する。

 祖父はどこ吹く風だった。ロボットは答えはしない。

 隼人は指を下ろして踵を返す。その瞳は強い意思に燃えていた。

 この少女がパイロットとして無能だと分かれば、この結果は間違いだと博士とロボットも認めざるを得ないだろう。

 自らの過ちを悔やんで態度を改めてあやまるなら、その時にしてもらえばいい。

 ならば早くこいつを連れてきて、証明してやるのが得策だ。

 隼人はそう決意して、鼻息を荒くして足音を立てながら工場を後にした。

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