参考にならない書籍化体験記(この物語はフィクションです。)

古池ねじ

「木崎夫婦ものがたり 旦那さんのつくる毎日ご飯とお祝いのご馳走」の話 

第1話 書籍化できない。

 ずーっとウェブ小説を書いてるのに何も起こらない。

 ずーっとってどのぐらいかというと「小説家になろう」ができる前からウェブで書いてる。ウィキペディアによると「小説家になろう」は2004年にできたらしい。知らんかった。とにかくそれより古参なので結構な年数である。

 その間に古い知り合いはばんばん文学賞を受賞してばんばんデビューしていったし、「小説家になろう」に投稿するようになってから出来た知り合いはまじでばんばんばんばん書籍化していった。もう知り合う人知り合う人みんな書籍化するぐらいの勢い、体感としてはあそこに投稿して書籍化してない人とかいるの? ぐらいの感じである。知り合った時は「小説書き始めたばっかりなんです!」みたいな人もあっという間に人気作家だ。

 その間も私には何も起こらない。地味な小説をちまちまちまちま書いてちょっとだけ反応をもらっておしまいである。別に地味にやっていきたいと思ってるわけでもなんでもなくこっちは人気出る気も書籍化される気も偉い人に見つかる気も石油王に見つかって私のための出版社作ってもらう気もまんまんなのにである。


 なんで? 天才なのになんで?


 天才って別にただ私が頭おかしいから自称してるだけじゃなくてウェブ小説を書いている間ずーっと他人からいわれているのだ。小さい投稿サイトにいるときからずーっと「こんな人がいるなんて…本当にアマチュアなんですか?」って言われてきたし「小説家になろう」に投稿するようになって読者が(サイト全体の規模からすると相当ささやかだけど)増えたのでTwitterでエゴサーチして読了ツイとか見ると「こんな人が同じサイトにいるなんて自信なくす…」とか言われてるしそれ言ってる人だって書籍化作家だったりするんである(そしてファンに「私は〇〇先生のお話が大好きです!」と慰められている。私はどんな顔をしていいのかわからず見なかったことにする)。

 なんか自虐しても「ねじさんが自虐するならこっちはどうなるんですか!」とか言われてしまうし(普通に知らねえけど)天才って自称しても「うわ……」って引いてるのを感じるしもうどうしたらいいのかわからん。人気も出ないし書籍化もしないし石油王もこないし自虐もできないし思い上がりきることもできない。悲しい。正直これも書きながら泣いてる。


 そうやって泣きながらちまちま地味で人気のない小説を書いて、「小説家になろう」よりは私向きなんじゃ? と思って「カクヨム」にも来たけどやっぱり人気は出なかった。人気が出ないなりに数少ない読者の人たちからはちやほやされているので「なんかもうこれでいいかな……」という気分になったりもしていた。ウェブ小説って好きに書けるしね。大衆に媚びるよりも好きに書いたもので評価されたいしむしろ読者の魂を私のレベルまで引き上げたい頭がおかしいので。

 でもやっぱり書籍化したくてしたくてたまらないし「お前の小説は金になる」と他人に思われたくて思われたくてたまらない他人の金を私の小説のために使ってほしい無料で言われる「すごい」って言葉なんてもう信じられない! 金をくれよ! となってカクヨムのコンテストに応募してみた。ちょうど十万字超えて完結まであとちょっとという小説もあったし。


 応募するときに友達のHちゃん(書籍化作家。とても優しい。すごく好き。好きなの! 好き!)に

「ねじちゃんはきっと大賞か特別賞かわかんないけどとにかく書籍化すると思うからそうなったらそれ用の銀行口座を作っておくんだよ!」

 と異様に具体的なアドバイスをもらって「えへへ」ってなった。「えへへ」ってなりつつ「いやそんなこと言ってもどうせまた何も起こらないんだ……」と思っていたんだけど、コンテストではなんかすごい熱心に応援してくださる方がいらっしゃって、中間も通っていた(カクヨムのコンテストのシステムについては各々勝手に調べてね)。えへへ。


 それで滅茶苦茶期待して百万円もらったつもりになってたんだけど、やっぱり何も起こらずにコンテストは終わった。

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