第7話 First Load You


 世界樹から難なく飛び降りたEGGもといピジョン。

 彼女はキャットに詰め寄り、己の指名を語りキャットの役割を改めて教え、そして糾弾を始めた。

「私の役割は生物の生成! それには動物だけじゃなくて植物も含まれているわ! だからこの木も本来なら私の区分! あなたは無機物で下地を創って世界を安定させるまでが役割だったのに! 横面は白のまま! 土と草だけで鉱石の類は無い!こんな中途半端なものは世界とは呼べないわ!」

 一気にまくしたてるピジョン、キッとキャットを見つめ、いやほとんど睨むような状態だ。

 だがキャットは意に介さない。

「私はこれでいいと思ったの、あなたはなぜそんなにも、役割にこだわるの?」

 この疑問に、さしものピジョンも勢いをそがれてしまう。

 それどころか驚愕を隠せないでいた。

「アンタ……アタシ達はそのために生み出されたんだから当然でしょ!?今おかしいのはアンタのほうよ! アンタこそどうして世界創造を途中で止めているのよ!」

 どうやらピジョンは役割に忠実な天使らしい。

 自ら与えられた役割に疑問など持たない、持ってはいけないと考えている。

「……わからないわ、私が言われたのは『話し相手を創るといい』って後は自由にしていいって、最初は、世界を創らなきゃって思ってたけど、自由にしていいのなら木漏れ日の下、毛玉と話して過ごすだけで、それだけでって思ったの」

 それだけで満足した、だからもう世界は創らない。

 他の神話の神々が見たら何と言うだろう。

 無欲と呼ぶか、怠惰と呼ぶか、傲慢となじるか、理解しかねるのか。

 はたまたそれは結局、人類からの評価でしかないのか。

 だがピジョンの答えは決まっている。

「だったら! アンタはそうしていればいいわ! この小さい木の下で、そのへんちくりんを撫でて過ごしていればいいわ! だけどアタシは使命を全うする! だからキャット、最後に役割を果たしなさい」

 自分が役割を果たす、お前は座っていろと言った、そのすぐ後にまた役割を果たせとは、矛盾にもほどがある。

 いや、その『役割』とやらを最後にもうなにもしなくてもいいということか、どうやら言語機能をうまく使えてないらしいが、まあそれはキャットも同じ事だ。

「なにをすればいいの?」

 キャットは特に拒否する気もないらしい。

 まあ、特に断る理由もない。

 毛玉も同様に判断し口を挟まない。

「あの木に『果実』をみのらせるのよ、ちゃんと『種子』も付けてね、それをもとにアタシは植物を生成していくわ、生物の方はアタシは遺伝子情報を持っているから大丈夫、いやホントなら植物だって同じことだけど、すでに木があるのならそれを利用したほうが効率的だわ、私の割くリソースが少なくすむもの」

 どこまでも役割にこだわり、効率までも気にする。

 どこまでもキャットとは違う、BOXが生み出した天使。

 彼女の求めにキャットは応じる。

 どうやら毛玉と違い、彼女の言葉はキャットのリミッターに直接作用するように出来ているらしい。

 一種の命令権のようなものか、神と天使、その立場はもはや逆転していた。

 キャットは木に近づき、手で触れて、目を瞑る。

 すると枝から一つの果実が、その過程を省略して出現する。

 完全な球体、色は今までこの世界になかった『赤色』だった。

 ピジョンはそれを、背を伸ばし取ろうとして届かなかったので飛び上がって無理やりもぎ取る。

「じゃあ、あたしはいくわ」

「ここで創るんじゃないんですか?」

 黙っていた毛玉が口を開く(口は無いが)正直に言えば、どこかに行ってもらった方がいい気もする。

 しかし毛玉は、同時にこうも考えていた。

(自分だけでは『話し相手』という役割にも限界が来る)

 それゆえにピジョンの存在は、ある意味、毛玉にとっても拒絶するよりは歓迎するような存在ではあったのかもしれない。

 だがピジョンはにべもなく言う。

「アンタ達と関わって、アタシまでバグったらどうすんのよ、果実さえ手に入ればもう用はないわ、私は世界の果ての方から徐々にやっていくことにする、安定するまでね、じゃそれまで会うこともないでしょ、じゃあね!」

 そういって、ピジョンはなんと翼を生やしたではないか!

 飛び上がり、滑空し、キャットと毛玉から離れていくピジョン。

 キャットは茫然とその様を眺めた後、こう言った。

「毛玉、私も飛んでみたいわ」

「……それは」

 出来るだろうが、しない方がいい、毛玉はそんな気がした。

 だけどあえてこう言うことにする。

「また今度にしましょう、今は少し疲れました」

「そうなのね、じゃあ少し休みましょう」

 世界樹の下に戻る二人、しかし、新たに現れた住人。

 その出現が、これだけの関わりで終わるはずもなかったのだが、今の二人はそんなことを知る由もない。

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