第20話 『請負人』ジェロディ・ヴィトリオ

 下に続く階段を下りる。

 階段を降りきると再び広場が目の前に広がっていた。

 広場は先の広場と変わらない様子だった。


「ねぇ、ティアラ」

「どうされましたか?」

「少し変じゃない?」

「変といいますと?」

「ここまで、あのガーゴイル以外の魔物に出くわしていないけど……」

「確かにそうですね」

「普通、こういう遺跡って、こうもっとなんか魔物が一杯で危険ってイメージだけど……」

 リースは両手を使いジェスチャーを交えて言う。

「そうですね、たとえ、調査済みの遺跡であっても、どこからともなく魔物が住み着いているでしょうね」

「でしょ?だから変だなって思って」


 リースの言う通り、このような廃墟となった遺跡では、普通は魔物に遭遇するだろう。

 しかし、この遺跡に関しては魔物に遭遇することは無かった。

 極めて珍しいと言っても良いぐらいだ。

 おそらくここに居るほとんどがリースと同じように考えているだろう。

 しかし、この珍しい状況をティアラとカルディだけは、さも当然だと思っていた。


「おそらく、野良の魔物に遭遇することは無いと思います」

 ティアラは不思議そうに周囲を見回しているリースに告げる。

「え?どうして?」

 驚いた表情を見せるリース。

「答えは至って簡単です」

「何?」

 リースが興味津々に聞いてくる。


「カルディは分かりますよね?」

 ティアラはカルディに話を振った。

「ええ、駆逐されているからでしょう」

「私もそう考えます」

「駆逐?」

「私達の少し前に侵入した誰かが駆逐したと思います。しかも数時間ほど前だと思います」


「あ!」

 リースは入り口でのティアラの言葉を思い出した。

『つい最近に誰かが結界を張ったのだと思われます』

「そう言えば、入り口で誰かが結界を張ったって言っていたね」

「はい」

 ティアラは頷き、

「おそらくですが、この先にその侵入者が居ると思われます」

「え?」

 リースは驚き周囲を見渡す。

 誰も居る気配はない。

 遺跡はまだ先があるので、もっと奥に居るのだろうとリースは判断する。


「奥に進みますね」

 ティアラの言葉に一同は緊張した面持ちで頷く。

 さらに奥に奥にと歩みを進めたティアラ達は、再び大きな扉の前に差し掛かった。

「また?」

 リースはあきれた声で言った。

「静かに!」

 カルディが口に指を立てて言う。

 全員がカルディに視線を移す。

「中に誰か居る。しかも複数人」

 小声でカルディが言うと、

 皆が聞き耳を立てる。

 たしかに話し声らしきものが聞こえてくるが内容は全く分からない。

 声が空気中に溶け込むように消えて行った。

 リースは腰に収めた魔導銃に手を掛けて、ルフィーナは杖を持つ手に力を入れる。


 一瞬の静寂が訪れたと思うと次に大きな音が響く。

『ギィギィ』と扉が開く。

 扉の向こうからまばゆい光が周囲を照らす。

 ティアラ達は目を細めて扉の向こうに視線を送る。


 扉の向こうは少し大き目な部屋のようになっていた。

 宗教的な儀式を行う部屋なのだろう。

 そのような部屋に数人の人のシルエットが浮かぶ。

 真ん中の人物は椅子のような物に腰かけて、その左右に一人づつ人物が立っている。

 そして、手前には三人ほどの人物が立っていた。


 やがて光にも目が慣れてきて、シルエットがはっきりとしてきた。

 手前に居る三人の人物はローブを着てはっきりと顔を伺う事は出来ない。

 真ん中に座っている男は、左頬に大きな傷があり、鋭い眼光がティアラ達を捉えていた。

 それはまるで、得物を捉えた獣の眼光だった。

 両端に立っている人物はフルプレートの鎧を纏い、大きな剣を腰に携えている。

 中世の騎士そのものと言った風貌だ。


「よく、来たな。待っていたよ『雷帝』」

 真ん中の男がティアラ達に向けて発する。

 ティアラ達は警戒レベルを上げてゆっくりと部屋に足を踏みいれる。

「あなたは何者ですか?どうして私達が来ると分かったのですか?」

 ティアラは真ん中の男に問いかける。


「俺の名前はジェロディ・ヴィトリオ。雷帝を殺す為にここに来た」

 ジェロディはティアラを中心にティアラ達を見渡す。

「どういう意味でしょう?」

 ティアラの問いに

「お前が雷帝か?」

 ジェロディはティアラに視線を戻し聞く。

 ティアラは黙って頷く。


 頷くティアラを見て、右手の指を鳴らす。

 パチンという音と共に、手前のローブを着た三人が呪文を唱え始める。

 その直後、リースとルフィーナは戦闘態勢に入る。

 ローブを着た三人の周囲に魔法陣が展開された。

 ティアラはゆっくりと右手を上げると、

「ジャミング・ロック」

 無詠唱で魔法を発動させる。

 ローブを着た三人の周囲に展開された魔法陣が、パーンという音と共に消えた。

 ティアラはすぐにジェロディに視線を向けた。


「こちらの質問は答えて貰えないのですか?」

 ジェロディは笑みを浮かべティアラをじっと見つめる。

「俺は『サイクロプス』第2席『請負人』と呼ばれている。ここまで言えば分かるだろう?」

 ティアラの目が大きく見開かれる。

「そう……サイクロプスですか……」

 ティアラは右手を前に出して、剣を取り出す構えに入る。

 しかし、カルディがティアラの前に立ち、ティアラの行為を阻止した。

 そして、ジェロディを睨みつけている。


「お前は何だ?」

 ジェロディはいきなりティアラと間に割って入った少年に問い掛ける。

 カルディはその問いに答えず、ジェロディを睨みつけたまま、ティアラに告げる。

「こいつは俺が殺る」

 今まで感じたことが無いほど激しい口調で言うカルディに

「分かりました。あなたの実力見せてもらいます」

 ティアラは一歩後ろに下がった。


「周りは片付けます」

 そう言うと呪文を唱え始めた。

「大気より目覚めよ神の因子」

「サンダーボルト!」

 手前に居たローブを着た三人に雷撃が襲い掛かる。

 そして、直撃し三人は倒れた。


「素晴らしい!」

 ジェロディは仲間が倒されたと言うのに、楽しそうに手を叩きながら、ティアラを絶賛する。

「ここに来た甲斐があったと言うものだよ」

 そう言うジェロディに対して

「お前の相手は俺がする」

 カルディは叫ぶ。


「お前は何だ!」

 ジェロディは破顔し、再度、カルディに問いかける。

「俺は、神皇聖騎士団・第7位・カルディ・レイフォードだ」

 カルディの答えに、ジェロディは驚いた表情を浮かべ、そして笑みに変わった。

「そうか!お前が『聖なる悪魔』か!」

 とても楽しそうにカルディを見つめる。

 カルディは腰から一枚のカードを取り出して、身に着けていた腕輪に当てる。

 腕輪は光始めるとすぐに光が消えた。

 カルディは腕輪を外し、ジェロディを指差した。

「では、始めようか!」

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