第13話 リースVSルフィーナ

 リースとルフィーナはお互いに一歩も動かず相手の出方を伺っている。

 しかし両者の表情は対照的であった。

 リースから発せられるプレッシャーのようなオーラがルフィーナの表情を硬くする。


 ルフィーナはジワリと流れる汗を拭う事すらままならないほど追い詰められている。

 このプレッシャーに打ち勝たないと、自分に勝ち目は無いとはっきりと分かった。

 ルフィーナはじっくりとチャンスを伺っている。


 目の前の少女と対戦に少し胸が躍る気分になっているリース。

 リースにとってランク試験などどうでも良かった。

 ただ目の前の少女に可能性を感じていた。

 この対戦が終わればギルドにスカウトしようと考えていたりもする。


 そんなことを考えていると会場の外でティアラが男子生徒に何やら話しているのが目に入った。

 その一瞬のスキをルフィーナは見逃さない。

 一気に距離を詰める。


 リースの武器は銃でルフィーナは杖だ。お互いが後衛の武器なのだが、銃を相手に距離を取るなど愚の骨頂、今までどうしてリースが銃を抜かなかったのか逆に疑問だ。


 一気に目の前に迫るルフィーナに対して、リースは冷静に右手を向けて魔法を唱えた。

「ファイアーボルト」

 右手から炎の玉がルフィーナ目掛けて飛んでいく。

 迫ってくる炎の玉をかろうじてかわす。

 そして走りながら杖を振りかざし

「プリミティフ・シランス!」

 ルフィーナも魔法を発動した。

 リースの周囲に黒いドーム状の壁が出来る。徐々にドームがリースを中心に狭まる。

 そして爆発を起こす。


「我が理をもって全てを破壊せよ!」

 ルフィーナは杖を自分の前に掲げると呪文を唱える。

「プリュ・フォール・デストリュクシオン!」

 ルフィーナが使用できる最大の魔法が発動された。

 杖よりルフィーナの体半分ぐらいある灰色の球体が現れる。

 球体はまるで磁石に引き寄せられるように粉塵に包まれているリースに向かい飛んでいった。


「ボルケーノ・サークル」

 静かで落ち着いたリースの声と共に周囲を包んでいた粉塵を一掃する赤い炎の壁が現れる。

 ルフィーナが放った球体は炎の壁と激突する。

 先ほどよりもはるかに大きな爆発と衝撃破が会場を吹き抜ける。

 爆発で再び粉塵が舞い上がる。


 やがて静けさを取り戻す会場にはリースが片足をついている姿が見て取れた。

 ルフィーナの魔法がリースに届いたという事だと周囲の見ている人間には分かった。


「凄いわね。圧力系の上位魔法なんて初めて見たわ」

 感心したようにリースはルフィーナに告げる。

 その表情には笑みすら浮かべて。


 効いていない?

 いいえ、きっとダメージはあったはず。

 魔法で出来た炎の障壁を打ち破った感覚はあった。

 行ける!

 ルフィーナは無言のままリースを睨み返す。

「じゃあ、少しだけ本気出すね」

 ゆっくりと立ち上がり、腰に手を掛けた。


 しまった!

 ルフィーナは心の中で叫び、一気にリースとの距離を詰めようと走り出す。

 リースは銃を手に取り向かってくるルフィーナに銃口を向けた。

 ルフィーナの動きが止まる。

 リースとの距離はまだ十分とは言えない。

 明らかにリースに優位な距離だった。

 ルフィーナは動きを止めたのではなく止められたのだ。

 その銃口のプレッシャーからそれ以上進むな!と言われている感じていた。


 あの銃の特性は?

 弾道系?

 それとも魔導系?


 この世界における銃は大きく分けて二種類ある。

 一つは玉と言われる鉄の塊を炸裂させて相手に向けて飛ばす弾道系、いわゆる普通の銃だ。


 そしてもう一つは玉の代わりに魔法を凝縮させたカートリッジと呼ばれる物をセットしてその魔法を発動させる、魔導系と呼ばれる銃。


 一般的に魔物と対する場合は魔導系の使用が圧倒的に多い。

 弾道系では皮膚の堅い魔物や個体ではない魔物、いわゆるミスト系や、スライム系といった種類には弾道系はまったくと言っていいほど役に立たないからだ。


 魔導系の銃にはもう一つ利点があり、魔法を発動できない加護者以外の人物にも魔法を扱えるといった点になる。

 カートリッジは市販されているので誰でも手軽に魔法体験みたいな感じで使用できる。


 逆に弾道系の利点は、圧倒的に対人戦に長けている。

 防御力の高い防具を装備している者にはあまり効果は期待できないが、それでも防具の隙間などを狙えば、動きを止めるには十分な効力を発揮する。

 それにこの世界における対人戦のほとんどが対魔法戦になる意味も大きい。

 魔法に対する障壁や防具では弾道系の銃を防ぐことは出来ない。


 そう考えると加護者であるリースは対人戦よりも圧倒的に対魔物戦のほうが多い。

 よって持っている銃は魔導系だとルフィーナは判断した。

 リースの視線、リースのトリガーに掛かる指に全神経を注ぎ込んで注意しながら、じわりじわりとリースに向けて歩みを進める。

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