第07話 悪魔召喚

 リース達が王都に来て数週間が経った。

 ギルド『黄金の広間』で仕事こなしつつ、王都の暮らしを堪能していた。


 その日も特に変わったこともなく仕事をこなし、ギルドに報告と報酬の受け取りに向かう。

「コルディ村の話聞いたか?」

「ああ、またやられたんだってな」

 リースは大通りを歩く人の声を耳にした。


「ねぇねぇ、コルディ村で何かあったの?」

 リースは話している二人組の男に声を掛ける。

「あんたは?」

「私?私は加護者だよ」

「おー加護者なら何とかなるかも知れん」

 男は期待に満ちた目でリースを見る。


「それで結局何があったの?」

「それが、誰だか分からんが、コルディ村で作物が全て荒らされていての」

「作物が?」

「そうだ」

「誰だか分からないの?」

「分からん」

 リースは考え込む。


「何か手掛かりになるようなことはございましたか?」

 横で聞いていたティアラが男に尋ねる。

「それがの、作物の畑にの変な跡が残っておるそうだ」

「変な跡とは?」

「何かの模様のような跡がくっきりと残っているそうだ」

「模様ですか……」

 ティアラも考え込む。


「分かった。教えてくれてありがとう」

 リースはお礼を言ってティアラの腕を引っ張る。

「リースさん?」

「ねぇコルディ村に行ってみない?」

「今からですか?」

「うん」

「しかし今からだと着くのは夜になりますよ?」

「だからいいんじゃない」

 リースの言葉の意味をすぐに理解した。


「一般的に作物が荒らされるのは夜だから、その夜中に荒らしている現場を押さえる為という事ですね?」

「ご明察」

 リースはウィンクしながら言った。

「了解しました。テリウスもそれでよろしいですか?」

 テリウスを見ながらティアラが言うと、

「はい。構いません」

 テリウスは元気よく頷いた。


 リース達はコルディ村に向かう。

 コルディ村は王都から少し北の方角にある。

 街道沿いに歩くリース達。


 数時間後、コルディ村に到着する。

 既に夜も更けていた。

 村にある宿の扉を叩く。

 中から小太りの男が不機嫌そうに出てきた。

「部屋あるかしら?」

 リースの問いに

「一部屋なら空いているぞ」

 男は私たちを見まわして言った。

「それでいいわ」

 リースが答えた。

「えーちょっと待ってください」

 テリウスは焦った声を出す。

「三人でも別にいいじゃない?ティアラはどう思う?」

「はい。別に問題ないかと思います」

「じゃあ決まりね」

 そう言ってリースは宿の中に入って行った。


 部屋の中は少し広めのベッドが一つとテーブル、それ以外には何もない。

 三人では少し狭く感じられたが、寝れないことも無いとティアラは思った。

「よし、じゃあとりあえず、食事してから問題の村の作物畑を見に行きましょう」

 リースの言葉にティアラもテリウスも頷く。


 宿の食堂で食事を済ませ、リース達は作物畑を見に外に出た。

 いくつかの作物畑を見て回った。

 どれもたしかに何かの模様のような跡がくっきりと残っていた。

「これなんだと思う?」

 リースの問いにティアラはすかさず答えた。

「おそらくですが、これは、召喚儀式用ではないでしょうか?」

「召喚儀式用?」

「はい。加護者との契約で使用するものによく似ています」

「そうなの?」

 その言葉にティアラは驚いた。


「え?リースさんも召喚で契約したのではないのですか?」

「ううん。私の場合は昔色々あって死にかけた時に存在が助けてくれたの。その後すぐに契約したから」

「……という事は元々ノラの存在だったという事ですね」

「そうだね」


 ノラの存在とは、何らかの理由で具現化や召喚され、誰とも契約を結ばずに世界を放浪していると言われている。

 ノラの存在と出会う事は極めて稀で、出会っても逃げられるか殺されるかの二択だと言われていた。

 リースはそのノラの存在と契約した極めて珍しい人物という事になる。


「とにかくこれが召喚儀式用だと言うなら誰かが加護者になったってことだよね?」

「そうとも限りません」

「どうして?」

「少しおかしくありませんか?」

 ティアラはリースを見つめ言う。

「何が?」

「こんなに大量に召喚をする必要性など無いと思うんです」

「……確かに!」

 リースは殆どの作物畑に召喚の跡があることを思い出して答えた。


「あの森の手前はまだみたいです」

 テリウスが指差して言う。

「そうみたいね。リースさんどうしますか?」

「張り込みするわ」

「了解しました」

 ティアラとテリウスは同時に答えた。

 森に入り木々の陰からその時を待つ。


 やがて村の家の明かりが少しずつ消えていった。

 その時、リース達のいる方に向かってくる人影をあった。

(来たみたいよ)

 小声でリースが言う。

(はい。少し様子を見ましょう)

 ティアラも小声で答えた。

 人影が作物畑の前で止まった。

 そして手に持っていた何かを作物畑に投げる。

 リース達の近くにもそれは飛んできた。

 鳥だ。鳥の死骸を投げている。


 リースは少し不気味に感じていた。

 人影の顔は暗くてよく見えない。

 人影は何やぶつぶつと言っている。

「来たれ我が元に……その身を我の剣となり盾となり我に捧げよ!」

 最後に叫んだ声は、はっきりと聞こえた。

 作物畑に魔法陣のような光が走る。

 そして作物畑からゆっくりとそれが出てくる。


 特徴的なその姿にリース達は言葉を失う。

 ライオンのような頭と腕。

 四枚の翼。

 鋭い爪を持つ脚に、先の尖った尾。

 ティアラにはそれが何なのかすぐに分かった。

 ティアラは口を押えて震えている。

 リースはティアラの驚きぶりに、この怪物の力量が分かった。

 とても強い怪物だと。


(テリウス、能力開放お願い!)

 ティアラは小声でテリウスを呼ぶ。

 テリウスはなにやらぶつぶつと言うとティアラの腕から腕輪を外す。

 そんなやりとりを見逃してはもらえなかった。


「そこにいるのは誰だ!」

 人影がリース達に気付いた。

 バレた!

 リースは動揺した。

 するとティアラがゆっくりと立ち上がる。


「どうして『パズズ』を召喚出来るのですか?」

 パズズ?

 リースはティアラを見ながら思った。

 その姿とは対照的に随分可愛らしい名前。

「ほう。パズズを知っているのか?」

「はい。『風と熱風の悪霊』と呼ばれた悪魔ですね」

 ティアラは人影の問いに答えた。

「見られたからには死んでもらうしかない」

 人影が手をティアラに向けた。


 パズズと呼ばれた怪物、いや悪魔は四枚の翼をバタバタを動かすとティアラ目掛けて猛スピードで突進した。

 バーン!

 激突音が鳴り響いた。

 リースはティアラを見るとパズズはティアラの前で止まっている。

 ティアラは金色の円のようなものに包まれていた。

 リースは目を疑ったが、確かに円のようなものに包まている。


「ほう。なるほど」

 人影の関心した声が聴こえる。

「雷の衣とは恐れ入った」

 ティアラを包んでいる円は『雷の衣』と呼ばれるものだという。

「まさかこんな所で『雷帝』に会えるとは思いもしなかった」

 人影の言葉にリースは固まる。


 雷帝……今、確かに雷帝と言った。

 まさか、ティアラが雷帝?

 ティアラは何も答えない。

「雷帝ティアラ・ノースだな」

 何も答えないティアラに再度人影が問う。


「あなたに教える必要性は感じません。大体あなたは一体何者ですか?」

「お前が答えないのであればこちらも答える必要性はないな」

「なるほど。分かりました。無理にでも答えてもらいましょう」

 そう言ってティアラは左手を前に出した。

 その左手が光で包まれたと思うと次に剣が手に収まっていた。


 ティアラはゆっくりと剣を引き抜く。

「美しい!これがあの、雷の聖剣『カサンドラ』か!」

 人影が興奮気味に言う。

 雷の聖剣……

 ティアラ……あなたどれだけ規格外なのよ!

 リースは心の中で何度も叫んだ。


 パズズがティアラに襲い掛かる。

 ティアラは難なくかわす。

 かわした先にパズズの尾が上から襲い掛かるがティアラはすぐに体制を立て直し、剣で尾を切り裂いた。

 無残にも宙に舞うパズズの尾がリースの目の前にポトリと落ちる。

 パズズの悲鳴が響く。


 村の明かりがぽつぽつと点いた。

 テリウスは慌てて村のほうに走った。


 パズズの表情が明らかに怒りに満ちていた。

 パズズは口を大きく開く、そして口から青白い光が放たれた。

 ティアラは避けようとするが避けきれなかった。

 後ろに転がるティアラにリースは慌てて駆け寄る。

「ティアラ!大丈夫!?」

「はい。大丈夫です。少し油断しました……」

 ティアラは片足をついて立ち上がり

「少し離れていてください。一気に片付けます」

 そう言うと剣を鞘に戻す。

 剣はティアラの手の中から消えていった。


「ほうほう。もしや五界を開くつもりか?」

 五界?

 リースは茫然とティアラを眺める。

 今日は随分、聞きなれない言葉が多い。

「異なる世界の理よ我が言霊に集え、我が敵、すなわち汝の敵なり……いざここに開け五界の門!」

 ティアラの呪文とも言える言葉に反応するようにパズズの周囲に五つの小さな光が現れた。

「我が裁きは絶対の正義!その身をもって受けなさい!」

 ティアラは右手を前に出す。

「オーディン……ランス!」

 ティアラが叫ぶとパズズの周囲にあった五つの光から槍のような光が放たれパズズに直撃する。

 パズズは断末魔を上げて倒れこんだ。

 そしてゆっくりと消えていく。


「素晴らしい!これほどの古代魔法を使えるなんて、まさに雷帝!」

 人影がティアラを絶賛している。

「次はあなたです。ご覚悟を」

「いや、ここは引かせてもらうよ。君と戦って勝てる筈などないからね」

 人影はそう言うと指を鳴らす。

 パチンという音が響くと人影の姿が消えていた。

「転移魔法……」

 ティアラは呟く。

 そしてリースに視線を移し、

「今まで黙っていて申し訳ございません」

 ティアラはリースに謝罪した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る