第31話 ヤマタノオロチの弱点

 生贄を求め、ヤマタノオロチがリーブクラウドの集落へ下りてくることとなった。


 マヤの提案により事前に集落の人々と協力しつつを進めておく。


「想像通りだといいのだけど…何しろ伝説の生物よね?」


 そうこうしているうちに、ヤマタノオロチが集落まで下りてくる時期となった。


 ヤマタノオロチは、8つの頭と尾を持った大蛇だ。

つまり、今時の IT 機器で考えると、8つの CPU を搭載した 8way のエンタープライズ向けサーバと考えてもらうとよいだろう。


 CPUは複数あるが、インターコネクトで接続されそれぞれの知識を共有することができ、単体故障で機能停止することはなく耐障害性も非常に高い。


 胴体シャーシは共有しているが、それぞれのCPUは独立して動作することができる。


 スピーディ一行が作戦なしに挑んだ場合、単純計算で一人あたり 2つの頭に勝利する必要があり、かなりの困難が予想される。


 頭のよいヤマタノオロチのことだ。各個撃破を考えてくるだろうから、なおのこと正攻法での討伐は難しいだろう。


「こちらからわざわざ出向いたのだ。感謝したまえ。次の生贄はどこだ?」


 ヤマタノオロチとスピーディ一行の知恵比べが始まる。


――――


 周囲の異変に気付いたヤマタノオロチだが、集落を大きく破壊してしまうと今後の生贄がなくなってしまう。


 まずは周囲の状況を確認する。何故だかよくわからないが、辺り一面は温泉になっていた。

集落の人達に協力を要請して温泉を引き、ヤマタノオロチをここへ誘導したのだ。


 そう、マヤは気づいてしまったのだ。


 8つのCPUを持つヤマタノオロチが高いワークロードで活動しようとした場合、大量の熱が発生するはずだ。その冷却機構は充分なのだろうか?


 あらかじめ高温多湿の状況にしておいて、高いワークロードをかけると廃熱処理が間に合わずスローダウン、それでさえも冷却処理が間に合わないようであればサーマルシャットダウンをしてしまうのではないかと考えた。


 変温動物の大蛇にとって、高温多湿な状況で長時間稼働は厳しいと推測する。


「いったい。これは何のつもりだ!小細工程度でワシに勝てるなどとは思うなよ!」


 スピーディ一行は、高温多湿な状況の中でいわゆる一撃離脱ヒット&アウェイ戦法を繰り返し、ヤマタノオロチに高ワークロードを維持させつつ持久戦に持ち込む。


 ヒートアップして熱暴走気味になってきたところで、ヤマタノオロチはようやく自分自身の異変に気付く。


「なんだ、この異常な暑さは…手を抜くつもりはないが、本領が発揮できないぞ!」


 今どきの多くの CPU は、熱設計電力Thermal Design Powerが設定されていて、それにあわせた冷却機構を設計する。


 冷却能力が不足した場合でもいきなり熱暴走することは稀で、まずは CPU


 それでも冷却が間に合わず長時間高温状態が続く場合は、安全を優先して自動シャットダウンなどを行う機構がサーバに組み込まれていたりする。


 今回は、想定外の動作環境温度に放り込まれ高ワークロードで持久戦をしたため、ヤマタノオロチは本領を発揮できなくなってしまった。ここがチャンスだ。


「過重労働の恨み晴らします。必殺、ギロチンカッター!」


 フランソワーズの魔法により、ヤマタノオロチの首が何本か落とされる。

危機を感じたヤマタノオロチは立て直しを図るが、既に戦力がかなり削がれており次々と首が落とされていき、スピーディの勝利となった。


「やったわ。ヤマタノオロチを退治することに成功ね!」


そして、ヤマタノオロチの体内から剣が発見された。

今回の目的である「くさなぎの剣」の入手に成功した。


――――

教訓: コンピュータに高ワークロードの仕事をさせるためには充分な冷却機構が必要

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