第28話 真贋判定

 ペガサスを手に入れたスピーディ一行は、引き続き『ひかりのたま』を入手すべくインペリアルキャピタルの神殿を目指す。


 ちなみに、ペガサスに複数人を乗せたり、移動手段として利用することも不可能ではないが、長距離の移動手段としては適切ではない。


 ペガサスはとても繊細な生き物で過酷な使い方をして嫌な思いをさせてしまうと、いつ逃げ出してもおかしくない。原則、エミリーが戦闘時のみ利用することとした。

いわゆる『天馬騎士ペガサスナイト』と呼ばれる感じだ。


 マヤには『カミカゼ』、ガーネットには『爆炎魔法』があるため、対空攻撃という意味ではだいぶ強化された。とはいえ、乱発はできないので空中戦ではエミリーによる突撃頼みになるだろう。


 そしてしばらくして、目的地のインペリアルキャピタルの神殿へと到着した。


 過去の大賢者がここで『ひかりのたま』を生み出したと伝説のあるところだ。


――――


「よくぞここまでたどり着いた。『ひかりのたま』のことだろう。わかっておる」


 さすがに、アンダーゲート要塞の陥落や、ワイドアイランドにまで戦火が広がった話がここにも伝わっているのだろう。早速本題に入ろう。


「しかし、申し訳ないのだがもはやここに『ひかりのたま』は存在しないのじゃ」


「それはどういうことでしょう?では、どこに行けば手に入るか教えてください!」


 神官は、申し訳なさそうに回答をする。


「過去の魔族と勇者との戦いのため、すべての『ひかりのたま』は持ち去られてしまったのじゃ。もしかすると、魔王城内に残っている可能性はあるが、物理破壊されている可能性が高いのじゃ」


 魔王と対決するために欲しいものが魔王城の中だとすると、まさに鶏が先か、卵が先かといった状況だ。


 魔王が自分の弱点になるものを城内に残しておく理由もなく、過去の持ち出し分をあてにして魔王に挑むのはやめた方がよさそうだ。他の選択肢を探そう。


 さすがにこのまま引き下がることはできないため、マヤは食い下がって質問する。


「で、では新たに『ひかりのたま』を作ることはできないのでしょうか?」


 神官は回答する。


「ひかりのたまの製法は過去の大賢者によって記録が残されており、おそらく可能じゃ。しかし、ひかりのたまのしてしまっておるのじゃ」


 つまり、材料原石が手元にないからあらたに『ひかりのたま』を作ることができないようだ。さらに詳細を聞いてみよう。


「過去の大賢者によって、原石の真贋判定機はここに残されておる。これじゃ」


 材料となる原石等を置くと、組成を調査して真贋を判定することができるようだ。


 原石自体は、少し大き目な丸い石ころで、形だけで言えば川原に普通に落ちているものと区別がないらしい。


 そして、かなり昔の話だが原石を保管していた倉庫が水害にあって倉庫から流れ出たことがあるそうだ。


 大半は真贋判定機を使って判定後回収され、その後『ひかりのたま』となって過去の勇者達に与えられた。


 しかし、あまりに調査対象が多いことから全数回収できずのようだ。


「つまり、川原の石を総当たりで真贋判定ブルートフォースアタックして、原石を探せば見つかる可能性があるってことよね。とてもつらそうだけど…」


 スピーディ一行は、『ひかりのたま』を作るために必要な原石を見つけるため、川原に行ってそれっぽい石を大量に集める。

そして一つづつ真贋判定機にかけていくこととなった。


――――


 とりあえず、川原と神殿を数往復して集めた石を一つずづつ判定にかけていくが…予想どおりすべて外れだった。


 運の要素に左右されるが、と身をもって理解できた。作戦を変えるべきだろう。


 ちなみに、真贋判定機で原石の真贋の判定はどのように行われているのだろうか。マヤは落ち着いていろいろと想像を巡らす。


「実は、真贋判定機の中に『原石』が入っていて組成を比較していたりなんて?」


 真贋判定機の隙間から内部を覗いてみたが、そんな都合のよいことはなかった。

実は『原石』が一つあるならアイテム増殖技を使って一件落着と考えたのだが、甘い考えだった。


「さすがにこの中に実物はないようね。じゃあ、置いた材料をするかどうか見ている感じかしらねー」


 日本語で説明すると非常にわかりづらいが、現世で端末等にログインする際のパスフレーズチェックやウィルスチェックソフトのマルウェア判定(シグネチャー利用)の多くはこの技術を使っている。


 実際のパスフレーズやマルウェアを直接データベース化して比較するのではなく、特定のハッシュ関数を通した後のハッシュ値をデータベース化しておく。


 ハッシュ関数は単純なものから複雑なものまでいろいろ存在するが、ここで利用するものはハッシュ関数を通した後のハッシュ値の計算は短時間ででき、ハッシュ値から元の値に戻すことは非常に困難なものを選んで利用するのが一般的だ。いわゆる一方向性関数と呼ばれるハッシュ関数だ。


 また、今回の用途であれば異なる入力値でハッシュ値が簡単に衝突してしまうようなハッシュ関数も避けるべきだろう。


 正しい入力であれば、する、という動作を期待している。


「推測が正しいとすれば、ことができれば何かわかるかもといったところね。さて、どうしたものかしら?」

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