第12話 そうだ、家を買おう

 帝都に入るための審査で死ぬ思いをすることになったマヤであったが、何とか無事帝都内に入ることができた。

しかし、このままでは帝都外で活動するクエストを受諾すると、帝都に戻るときに再び死ぬ思いをしなくてはならない。何か対策を考えないといけないだろう。


 という訳で、いきなりの話だが帝都内にと思う。

もちろん、この世界がすごく気に入ってこちらに定住を決めたとか、短時間での魔王討伐や異世界攻略を諦め生計を立て今後はスローライフを楽しもうとなどというつもりはない。


 一番の理由は、例の『アノマリ検知トラップ逆さつらら』の存在だ。


 やはり、すべての希少アイテムをアイテムボックスに入れたまま冒険を続けるのはリスクが高すぎる。アイテムボックス以外に安全に荷物が預けられる場所を確保したい。そのためには、厳重なセキュリティ機構を持った金庫を確保したい。


 貸金庫クラウドの利用もありだと思うが、第三者の持ち物で多人数で共有されている。何かのきっかけで第三者に中身が漏洩する危険性がある。さほど重要なものでなければコストや利便性をとって共用で構わないが、機密性を重視するものに関しては手元環境オンプレミスに置いておきたい。


 そしてもう一つ理由がある。アイテムボックス内がきれいになったら、いい加減。魔王討伐を単独でできるとは到底思えず、そろそろソロ活動では限界が近いだろう。


 さらに付け加えると、些細な理由だが帝都への出入り審査の簡略化もある。帝都居住者になれば帝都居住者用の窓口が使え、外部からの訪問者の窓口より圧倒的に恵まれている。最初に転生した集落に戻る予定はないので、魔導列車を活用できる帝都に住むことでかなり行動範囲が広がるだろう。


 まずは手頃な宿を確保して休息を取り、マヤは物件探しを開始する。


――――


 この世界の文化レベルは、現在の日本より数百年ほど前の印象と感じた。

だからといって例えば全ての建物が木造建築なのかというと答えはノーだ。


 帝都では、現世ほどではないが人口密度が高く居住用スペースは限られている。スペース効率利用のため、一部の建築物では古代ローマ時代にあった『ローマン・コンクリート』に類する建築資材が使われているようだ。合わせて石材や木材など、用途やコストに応じてバランスよく利用されている。


 もちろん、現世のマンションのように鉄筋が入ったコンクリート建築ではないため、もし大きな地震が起きたらコンクリート建築とはいえ倒壊する危険性がある。

それでも、木造建築よりは強度が高く火災による延焼が抑えられるなど圧倒的にリスクが低いはずだ。


 もっとも、この世界に来てから地震についての話題を聞いたことがない。

免震構造じゃないとだめとか、耐震強度が不安など言い出せばきりがないが、荷物の保管場所メインと考えればこれで十分だろう。建築物の細部にこだわるより、部屋の中に入れる金庫にこだわる方がよさそうだ。


 ちなみに、今のマヤなら帝都内でも余裕で庭付きの邸宅を買うことが可能だ。

しかし、下手に戸建てにしてしまうと、定期的に庭の手入れや掃除が必要となりとても大変になるだろう。


 使用人を雇うことで解決できることも多いが、アイテムの安全な保管が最優先と考えている。専有部は有人運用より無人にしておいてマヤしか部屋に入らない方が確実だろう。今回購入する家はコンクリート造で現世の集合住宅みたいなものを期待している。


 具体的には、共用部に関しては勝手に清掃やメンテナンスをしてくれて、専有部は所有者の好きにしてよく、かつ他の居住者から独立しているものが望ましい。


「さてと。この世界にコンクリート造のマンションなんて存在するのかしら。

まずは視察ね!」


 借金制度がないこの世界だ。住居は上級貴族や豪商であれば余裕で買えるが、普通の住人がおいそれと現金一括で購入できるものではない。そして、借金制度がない以上そもそも不動産の流動性が低い。希望物件を見つけるのは結構大変かもしれない。


「帝都で不動産を扱う商人の伝手なんてないわね。どうやって探そうかな?」


 マヤは、そもそもどうやって希望の物件を見つければよいのか悩む。帝都に居を構える予定だが、不動産の流動性が低いこの世界で斡旋してくれる人なんているのだろうか?


 とりあえず、物件探しと並行して帝都見物を兼ねて長距離移動手段の要となる魔導列車の停留所を目指す。


――――


 マヤは魔導列車の停留所へと到着する。現世にある蒸気機関車のような雰囲気で、多人数を乗せ定期的に帝都とグレートヒル間を往復している。蒸気機関車との大きな違いは、動力源が石炭を使った蒸気ではなく蓄積した魔力を使っていることだろう。

鉄道と同様に決まった陸路しか通ることはできないが、移動時間は圧倒的に短くなり移動中の安全性も高い。


「こんな大きな乗り物が魔力で動くのね。料金もまずまずのようね」


 料金は決して安価ではないものの、一般人を乗せ定期便を走らせるくらいの需要はあるようだ。魔王討伐のため西に向かうことは確定しているので、さほど遠くないタイミングで利用することになるだろう。


――――


 魔導列車の見学を終え、マヤはあらためて停留所の周辺を見渡してみる。

よく見てみると、おあつらえ向きの低層マンションっぽいコンクリート建築物があるではないか。この世界でも、交通の便がよい駅周辺に不動産需要が集中して積極的に開発が進むようだ。せっかくなので外から確認できる範囲で眺めてみよう。


 確認してみたところ、探していた集合住宅形式の築浅物件でまさに運よく『入居者募集』の掲示がでている。もちろん、賃貸住宅ではなく所有物件だ。掲示に連絡先がバッチリ書かれている。


「もうここに決定!探す手間が省けて本当によかったわ!」


 マヤの帝都における活動拠点が決定した。家があれば雑多な手続きもやりやすい。

次は内装工事の検討フェーズへ移る。金庫の設置を含め、いろいろとこだわりたい。


「やっぱり帝都はいいわねー。でも、電気やネットは帝都に来ても無理か…。残念」


 やはり、現世に戻ってネトゲ復帰を渇望するマヤであった。

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