理想と現実のあいだ(深夜テンション)
相対する二つの要素を並べるとき、どうしても『冷静と情熱のあいだ』という言葉が頭をかすめる。言わずと知れた、辻仁成と江國香織による恋愛小説の表題だ。
二人が交互に月刊誌に掲載する連載形式は何やら目新しくて惹かれたけれど、恋愛小説に興味が湧かなかった当時の俺は掲載誌はもとより、単行本となった江國パートの『Rosso(ロッソ)』も、辻パートの『Blu(ブリュ)』も、どちらも手にとることはなかった。そして映画化されて話題をさらった時も、もちろん映画館へ足を運ぶことはなかった。
あれからもう二十年という時が経ってしまったようだが、いまだに表題だけが俺をとらえて離さない。
俺が一番小説を読んだ時期はおそらく、『情熱と冷静の間』が刊行された前後の十年間だったと思う。元よりシャーロック・ホームズに端を発するミステリー好きではあったのだけれど、村上龍の短編集『トパーズ』との出会いをきっかけに純文学方面に舵を切ったことを覚えている。
小説を書きたいと思ったのも、同時期だったと記憶している。ネットにいくつかの駄文を投稿したけれど、あれはまだ小説と呼べるようなものではなかったと思う。
書きたいと思えど実際には書かず、日々の忙しさを言い訳に、「書こうと思えばいつでも書ける」と
そんな訳で小説書きとしての俺は、五年程度のキャリアしか無かったりする。しかも五年間キャリアを積み続けてきたのかと問われれば決してそうでもなく、振り返ってみれば書かない時期も多かった。
それでも五年も経てば思うところもあるもので、小難しい小説を書こうとしていた俺も、最近では『平易である』ことに重きを置くようになってきた。ストーリー運びはもちろんのこと、文体に関しても読みやすく在ることを旨としている。
ありきたりの物語で良い。
ありきたりの文体で良い。
天地がひっくり返るような展開がなくとも、溜息がこぼれてしまうような美文でなくとも……それでいてなお、俺の小説だと判る小説を書きたい。そう考えてはいるのだけれど、これがまた容易ではない。
そりゃそうだ、個性を消ししながら個性を出そうとしているのだから。そう、ブレーキを踏み込みながら、アクセルを踏もうとしているようなものなのだから。
平易であろうとする理由は割愛しようか。
どう説明したところで打算的に響いてしまうので、どうも印象がよろしくない(笑)
今回のカクヨムコンでは、なるべく多くの方の小説を拝読するようにした。主に拙作を読んでくれた方の小説を見て回った。拙作を読んでくれたお返しの意味もあるのだけれど、それ以上に自分の小説に興味をもってくれた方がどんな小説を書いているのだろうかと興味が膨らんだ。
いろんな書き手と出会い、いろんな小説と出会った。
そして『野生のプロ作家』と呼びたくなるような書き手とも出会った。やはり居るところには居るものである。
野生のプロ作家たちの小説は、得てして癖が強い。尖っている。だから刺さる。心に。
平静を装ってはいるが、刺されまくった俺の心は血まみれだ。
刺さった小説の多くは『これを書きたい! だから書く!』という、強い想いが感じられた。俺のやり方とは逆だ。だからこそ刺さったのだろう。
今の俺の書き方は、往々にして逆算する。『こういう形が求められている。だから書く』とでも言った感じだろうか。
打算的に響いただろうか?
しかし、求められているものを、求められている形で生み出す力は、商業的な成功を望むのであれば必要な力だ。そう、俺は職業作家になりたいのだから。その入口に立ちたいと足掻いているのだから。
さて、ここでようやく表題の『理想と現実のあいだ』である。
求められるものを平易な形で生み出すスタイルにシフトしてきた俺も、やっぱり書きたいものを書きたいように書き散らしたい衝動に駆られることだってある。そうやって書いているであろう人達を目の当たりにしてしまえば尚更だ。
しかし、まぁ、どうなんだろうね……。
どっちが良いとも言えないし、どっちも必要なんだろうし、もしかするとどっちだって良いのかもしれないよね。
小説を書き始めてまだ五年。俺のスタイルだってまだ固まっちゃいないんだし、きっと理想と現実の間でブレまくっていれば良いんだとは思う。
力まずともそのうち定まってくるだろうし、身を置く環境によっても変わって行くのだろうし……とまぁ、結論めいたことを言いつつ、何の結論も出てないってあたりで終わっておこうか。うだうだと書いていたら、もう二千文字だし。
みんな、目指すステージにのぼれるよう、お互い頑張っていきましょう。
大丈夫。いける、いける。……知らんけど☆
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